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第122話 魔人とは



「まさか貴方は……魔人(マビト)なのですか?」


 ユリウスはその言葉を聞き、口角を上げた。


「あははっ、それを知ってるんだ!」


 とても愉快そうに、高らかに声を上げて笑うユリウス。


「ヘレナさん、マビトってなんですか?」


 ヘレナの隣で油断なくユリウスを見つめながら、シエルは問いかける。


 シエルは初めて聞く言葉で、何かわからない。

 しかしそれは、ヘレナが声を少し震わせて喋るほどのものだということがわかった。


「魔人とは……魔の人、という意味で、遥か昔にこの世界の半分以上を暴力で占めた種族です」

「っ! そんな種族がいたなんて、聞いたことない……!」


 この世界にいる種族は、人族、精霊族、獣人族の三つのみ。

 シエルやアリシアは人族で、エルフのヘレナは精霊族である。


「隠された歴史、ということです。その昔、魔人を滅ぼすために他の三種族が手を組んだと聞いております」

「そんなことが、あったなんて……!」

「魔人はとても強かったですが数は少なく、三種族が数で押してなんとか勝てたと聞きます」


 人族と精霊族と獣人族の三種族が組んだとき、魔人族の十倍以上の数であったとヘレナは調べたことがある。

 さすがにその数の差を覆せるほど、魔人族は強くなかった。


「魔人の厄介なところは、膨大な魔力。精霊族の二倍はあると言われているようです。そして、凄まじい生命力。それは、首をたとえ切り離されても死なない」

「えっ!? じゃあ、あの人は……!?」


 シエルは目の前ですでに首が繋がって、立ち上がっているユリウスを見る。


「ヘレナって言ったかな? 君、いい推理だね。だけど残念、僕は魔人ではないよ」

「……では、なぜ首を切ったはずなのに生きているのですか?」

「もしかしたら、切ってなかったんじゃない?」

「幻術ではありませんでした。確かに私が、殺すために首を切りました」

「あはっ、やっぱり誤魔化せないかぁ……言うなって言われてたんだけど、仕方ないよね」


 ユリウスは狂気じみた目で、言葉を続けた。


「僕はまず、魔人ではないよ。普通の人族だ。まあ僕みたいのを、普通って言っていいのかわからないけどさ」

「……では、なぜ首を切っても死なないのですか?」

「それは……魔神の血を貰ってるからだよ」

「っ! まさか、伝説は本当に……!?」


 魔神という言葉を聞いて、目を見開くヘレナ。

 魔人なのかユリウスに問いかけるときよりも動揺しているのが、目に見えてわかる。


「ヘレナさん、マジンってなんですか?」

「あはっ、僕が教えるよ。魔神ってのは魔人の中でも神の強さを持っている、と噂されていた者の通称だよ」

「……ってことは、魔人の中でも最強の人ってこと?」

「その通り。ただの魔人ではなく、魔神。種族の名が一人だけ異なるほど、異次元の強さを持った者の名だ」



 ヘレナはその者が記載されている本を読んだことがある。


 とても昔の文献なので、すでにボロボロで書かれている言語も解読がとても難しかった。

 だが難しいからこそ、ヘレナは解読し読みたくなった。


 しかしヘレナは、それを後々後悔することになる。


 数百人が一斉に魔法を魔神に放っても、片手間にそれを払いのけ、一撃で数百人を葬り去ることが出来るほどの力。


 魔神という者の強さを理解してしまった。

 そしてそれを、あの者に話してしまった。


 ――マウリシオ・グラッチェ。

 ヘレナが当時、行動を共にしていた男。


 なぜか力に対して執着を持っていたマウリシオは、魔神をヘレナ以上に調べた。


 そして――。


「魔神は、死んでいないのです」

「えっ……?」


 ヘレナの言葉に、シエルが驚きの声を上げる。


「遥か昔の話って、さっき……」

「はい、そうです。私が読んだ文献では、およそ二千年も前の出来事です」

「じゃあ、もう死んでるんじゃ……!」

「いえ、魔神は生きています。正確にいえば、封印されています」

「封印……?」


 二千年前のことだが、その魔神は最強すぎた。

 どんな手を使っても、殺せないほどに。


 そして魔人族以外の全種族が力を合わせ、魔神を封印したのだ。


 封印するときに犠牲にした命の数は、十万以上。

 それだけの命の数を犠牲にし、ようやく封印することが出来た。


 その封印は完璧で、魔神の力を持ってしても中からではこじ開けることは不可能であった。


「それなのになぜ……! 貴方は、魔神の血を持っているのですか!?」


 ヘレナは大声で睨みながらそう言うが、ユリウスはニヤニヤしながら答える。


「それはもちろん、魔神の封印が少しずつ解けていっているからさ」

「っ! まさか、そんなことが……!」


 遥か昔に封印するだけでそれだけの犠牲を出した、魔神。


 今世でそんな魔神が解放されたら、どれだけの命が、血が流れるか。

 想像を絶するだろう。


「すごいよね。普通だったら首を切られて死ぬのに、魔神の血を少しだけ血液の中に混ぜただけで、死ななくなるんだから」


 笑いながら近づいてくるユリウス。


 近づいてくるにつれて、毒の水が地面を伝ってシエルとヘレナの元まで迫ってくる。


「さぁ、また戦おうよ。どうやっても殺せない僕と、どうやって戦うのかな?」




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