表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/160

第119話 仕事終わりに



「今日は仕事早く終わったっすね」


 アリシアはまだ日が沈んでないのを見てそう言った。

 まだ夕方にもなってないぐらいの時間だ。


「そうだね。今日の依頼はそこまで難しくなかったかも」

「いやいや、シエルちゃん。あれも一応A級の依頼っすよ。シエルちゃんが強くなってきたから、難しく感じてないだけっす」

「あれ、そうかな?」

「まあ多少、普通のA級の依頼よりは簡単だったかもしれないっす」

「ほら」


 二人は商店街を抜けて、屋敷の帰路に着く。


「だけどA級の依頼なんで、やっぱりシエルちゃんが強くなってるんすよ」

「それは嬉しいかも。今日はキョースケの助けもなかったしね」

「……まだ根に持ってるんすか」

「ふふっ、やだなぁアリシア。根に持ってないよ。ただまだ怒ってるだけ」

「それを根に持つって言うんすよ」


 実際、今日の依頼は本当に少しだけいつもより簡単だったが、こんな早く終わるほどではない。


 早く終わった理由は、シエルがいつも以上に活躍したからだ。

 活躍出来たのは、キョースケへの不満が溜まっていて、それを発散したくていつも以上に力を入れていたからだろう。


 普通なら肩の力を抜いた方がいいのだが、今回の相手は図体がデカい魔物だったので、力一杯魔法を放てば勝てる相手だった。

 ヘレナとの特訓で魔法の威力も上がっていて、いつも以上に魔力を込めたシエルの相手ではなかった。


「喧嘩ぐらいはしていいっすけど、相棒を解散するみたいなことにはならないようにするっすよ」

「それは、うん、もちろん解散するつもりはないよ」

「まあ喧嘩するほど仲が良いっていうし、ちょっとぐらいならいいんじゃないっすか」

「喧嘩っていうか、一方的に私が言い詰めるだけだと思うけど」

「そうっすね、今回はキョースケが何も言わずに勝手に行ったってのが悪いっすから」


 そんなことを話しながら屋敷へと向かっていると、周りの更地に誰かが立っているのが見える。


「あれ、ヘレナちゃんっすかね?」

「いや、服が黒いから、違うと思うけど……」


 まだ遠くで見えないので、近寄っていく。

 ――キョースケがいれば、その位置で気づいていただろう。


 しかし二人は近寄って気づき、目を見開く。



 ――黒い男が、うずくまっているヘレナの近くに立って見下ろしていた。



「ん? 誰? この子のお友達かな?」


 黒い男が二人の方を見て、軽く笑ってそう言った。


 うずくまっているヘレナは、とても顔色が悪い。

 息も荒くしていて、今にも倒れそうだ。


 確実にその男に、何かされたに違いなかった。 


「――ヘレナちゃん!!」


 そう言ってすぐにその場から駆け出したのは、アリシアだった。

 ヘレナを助けようと、すぐに身体強化の魔法をして速く駆ける。


 強くなったと言ってもまだB級冒険者になったばかりのシエルには、この状況をすぐに把握して動くほどの判断力が備わっていなかった。


 アリシアの状況判断と、行動力。

 それが、仇となってしまった。


「来ないで、ください――!!」


 切羽詰まった声で、ヘレナがそう叫んだ。

 アリシアもシエルも、ヘレナのそんな声を初めて聞いた。


 しかしアリシアはその忠告を聞かず、そのまま黒い男に突っ込む。


「っ!? ぐっ……!!」


 だがアリシアは、その男から数メートル離れたところでいきなり前のめりに倒れた。


「アリシア!!」


 それを見てシエルも前に駆け出そうとしたが、


「シエル様! そこから、こちらに来ないでください……! 毒です……!」

「っ!? ど、毒……!?」


 ヘレナが苦しそうに言葉を紡ぎ、シエルにそう忠告する。


 シエルは前に踏み出すのをやめ、冷静になって周りの状況を観察する。

 ヘレナから習った魔力の流れなどを感じて、アリシアがいきなり倒れた理由を見つけた。


「これ、地面が……!」


 アリシアやヘレナのいる場所の地面が、水っぽく湿っている。

 普通の更地で、そんなに地面が水を吸ってるところを見たことがない。


 つまりそれは、あの黒い男がやったことだ。


「あー、勝手に入ってくるから喰らっちゃった? ごめんね」


 黒い男が倒れたアリシアを見下ろして言う。


「だけどそのまま倒れてると、さらに毒の水を吸っちゃうよ? 最悪死ぬから、早く立ち上がった方がいいよ。まあ出来ないと思うけど」

「シエル様、アリシア様を……!」

「っ! はいっ!」


 ヘレナの意思を汲み取り、シエルはすぐさま魔法を発動させる。


 すると、アリシアの身体が浮かんだ。

 ゆっくりと、シエルの方に浮かびながら動き始めた。


「おお、すごいね。だけど、やらせると思う?」


 全く動けずに浮かんでいるだけのアリシアにトドメを刺そうと、黒い男は一歩踏み出す。


「あれ?」


 しかし黒い男は、転んでしまった。

 見ると一歩踏み出した足が、切断されていた。


「やらせると……思いますか?」


 息も絶え絶えになりながら、ヘレナがなんとか立ち上がり言った。


「いたた……この毒、僕にも効くからあまり使いたくなかったんだよ」


 傷口から、そして地面に接している部分から黒い男、ユリウスの身体に毒が入っていく。

 しかしユリウスはそれを片っ端から回復魔法で治していく。


 切断された足も、くっつけて元通りだ。


 その間に倒れたアリシアは、シエルの元まで運ばれていた。


「アリシア、大丈夫?」

「ぐっ……ふがいないっす……!」


 シエルの足元にゆっくりとアリシアを下ろす。

 アリシアは毒でやられて、ほとんど動けない。


 とても強い毒のようで、少ししか毒を喰らっていないアリシアが動けない状態だ。


「シエル様、アリシア様を病院に、お願いします」

「だけど、ヘレナさんは……!」

「私は、大丈夫です。この男と、決着をつけないといけないので」

「へー、その身体でまだ僕に勝つつもりかな?」


 長いこと毒に身体を冒されているヘレナ。

 解毒魔法を多少使っているが、それでも間に合っていない。


「ここまでされては、もう手加減など出来ません……申し訳ありませんが、貴方には、死んでもらいます」

「あはっ、こっちこそ。そろそろ死んでもらうよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ