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第117話 ギルドでの惨状



「……んっ」


 男は、目を覚ました。


 起きてすぐに感じるのは、身体中の痛み。

 仕事で失敗した翌日になるような痛みだが、いつも以上に痛みは強かった。


「っ! あなた……!」

「おとうさん!!」


 動かない身体の横から、二人の声が聞こえてきた。

 泣き出しそうな声、だが喜びが混ざっているような声。


 まだ意識が完全に覚醒はしていないが、その二人の声はわかった。


「……ティアナ、リアナ……」

「よかった……! 目が覚めて……!」

「おとうさん、おとうさん……!」


 ベッドに寝転がっている自分の顔を、泣きそうな顔で覗き込んでくる嫁のティアナ。

 娘のリアナは泣いているのか、腰辺りに顔を押し付けている。


 その男、オルヴォは何があったのかまだ思い出せない。


 とりあえず痛くて辛いが、重くなった上体を踏ん張って起こす。


「あなた、無理をしないで……!」

「だい、じょうぶだ……!」


 なんとか上体を起こし、座っていまだに自分のことを抱きしめてくるリアナの頭を優しく撫でる。


 身体の痛みからまだ思い出せないが、自身が酷い怪我を負ったということがわかる。


「何があったんだ……?」


 ベッドの横に座っているティアナにそう問いかけると、躊躇いながらも教えてくれる。


「私も、詳しくは知らないけど……冒険者ギルドに怪しい男が入ってきて、その人を止めようとしたあなたが、酷い怪我を負ったって……」

「怪しい、男……」

「黒髪の男で、細身で、黒い服を着ていたみたい」

「っ!!」


 オルヴォは男の特徴を言われて、全てを思い出す。

 その拍子に跳ねた身体が痛みを増すが、それを気にしてられない。


「くっ……他の奴らは、どうなった……!?」


 並の強さではなかった。

 その時にギルドにいた冒険者全員が戦闘に参加したはずだが、一番ランクが高いオルヴォがこんな状態だ。


「……ほとんどの方が重傷を負って、何人かの冒険者が、お亡くなりになったみたい」

「っ! そうか……」

「だから、最後までその人に立ち向かったのが、あなただって聞いて……! 二日も、目を覚まさないあなたを見て……私……!!」

「……すまなかった。心配をかけた、ティアナ、リアナ」

「ひっく……おとうさん、おとうさん……よかったよぉ……!」


 耐えきれずに涙を流したティアナ、それにリアナを、痛みを堪えながらオルヴォは抱きしめた。



 しばらくしてティアナは落ち着き、リアナは安心したようにオルヴォを抱きしめながら寝てしまった。


「ごめんなさい、あなた、取り乱しちゃって」

「いや、こっちこそ心配かけて悪かった。そういえば、ここは病院か?」

「ええ、ギルドで怪我をした人達は、全員この病院に」


 その時、オルヴォ達がいる部屋のドアがノックされ、誰かが入ってくる。


 入っていた人物を見て、オルヴォが声を上げる。


「ギルド長……!」


 ギルドの長をしている、カリナ・クルーム。

 キョースケの契約者であるシエルの、実の姉である。


 カリナは足の骨が折れているのか松葉杖で、頭や腕に包帯も巻いていた。


「オルヴォさん、目が覚めたんですね! 本当に良かったです……!」

「ああ、なんとか。ギルド長も無事で何よりだ」

「あなたのお陰です。あの男、ユリウスからオルヴォさんが最後まで守ってくれたので、私も死なずに済みました。オルヴォさん、ありがとうございます」


 カリナはそう言って頭を下げる。


「よしてくれ、当たり前のことをしただけだ」

「ですが、そのせいであなたが……」

「死んでもねえし、後遺症が残るような怪我もしてる感じはない。これからも現役でやってくよ、妻と娘に心配かけないようにな」

「……本当に、ありがとうございました」


 そしてカリナがずっと立ったままだと辛そうなので、ティアナが椅子を用意する。


 それにお礼を言って、カリナは椅子に座って話し始める。


「オルヴォさんは今回の件、もう全て思い出していますか?」

「いや、実際さっきのギルド長が言っていた、俺が最後まで立っていたっていうのですら覚えてない」

「そうですか……詳細をお話ししても大丈夫ですか?」

「ああ、頼む」


 オルヴォがそう頷くと、カリナはあの時のことを思い出しながら話す。



 ユリウスという黒い男がカリナを襲おうとし、それをオルヴォが止めた。

 そしてすぐにその場にいた冒険者の全員が戦闘体勢に入り、そのままユリウス対冒険者という形になった。


 しかしその後、カリナの目ではほとんど追えないほどのユリウスの速度に、冒険者達は対応できずに次々と殺されていった。

 首や頭を掴まれ、握り潰される。


 それに対応出来たのはオルヴォを含めて極少数。

 生き残った人間はその極少数と、途中でその惨状に耐えられずにギルドの外に逃げ出した冒険者達。


 極少数の対応出来た冒険者達も、最後には殴られ、蹴り飛ばされて気絶する者がほとんど。

 ユリウスに掴まれた者は即死、殴られた者達は気絶という状況だった。


 その中でギリギリで気絶せずに耐えていたのがオルヴォ。


 だが最終的に気絶してしまい、オルヴォは頭を掴まれる。

 その状態でユリウスは、カリナに赤い鳥、つまりキョースケの居場所を聞いた。


 カリナは腰が抜けた状態で地面に座り込んでいたが、そこでキョースケが王都に行ったと教えた。

 妹のシエルが危険に晒されると理解していたが、目の前の命を捨てることは出来なかった。


 そしてそれを聞いたユリウスは、オルヴォから手を離してギルドを出て行った。



「すいません、私がもっと早くあの男に情報を渡していれば、こんなことには……!」


 カリナは泣きそうな声でそう言った。


「……いや、あの男が問答無用で攻撃してきたんだ。最初にあんな怪しい男に妹の居場所を吐くことなんて出来ねえし、むしろ俺はギルド長に命を助けてもらってる立場だ。責めることなんて出来ねえよ」


 オルヴォはあの日を起きたことのほとんどを思い出した。


「王都にいる妹、シエルにはあの男のことは伝えたのか?」

「ええ、もちろん。だけど手紙だから、届くのが遅いかもしれない」


 しかもカリナも丸一日目を覚まさなかったので、さらに手紙を出すのが遅れている。

 もしかしたら手遅れの可能性がある。


「まだ間に合うかはわからんが、俺が戦ってて厄介だと感じたところがある。それも伝えておいた方がいい」

「っ! わかりました、なんでしょうか?」

「憶測だが、あいつは……」



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