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第115話 逃亡、そして



「……あれ、避けられた?」


 空を切った右手を握ったり開いたりして、避けられたことを不思議に思うユリウス。


「確実に掴んだと思ったんだけどなぁ」


 ユリウスは離れたところにいるヘレナを、笑いながら睨む。

 一歩か二歩ほど踏み込まないと触れないぐらい離れていて、先程のように不意をつくことは出来ない。


「ねえ、さっきのなんで避けられたの?」

「……秘密です」


 ヘレナは油断なく、ユリウスの一挙一動を見逃すまいと警戒している。


 今の頭を掴む攻撃。

 おそらく掴まれたら、そのまま頭を握り潰されていた。


 それを予感して、ヘレナは瞬時に風魔法を発動し、自分の身体を移動させた。


 ユリウスの目からだと歩いてもないのに、いきなり二メートルほど移動したように見えただろう。


「ああ、だけどなんか、腕が逸らされた気がする。君がやったんだね」

「……」


 ほんの少し、悟られない程度に風魔法で逸らしたが、まさか気づかれるとは。

 ユリウスと名乗る男は、五感が鋭いようだ。


「今の躱されるとなると……面倒だなぁ……」


 ユリウスはため息をつきながら、ダルそうに首を左右に動かす。


「私も暇ではないので、面倒なら殺すのをやめていただきたいのですが」

「あははっ、それもアリかもね。僕も暇じゃないんだけどさ、趣味に少しだけ時間を割くのもアリだと思うんだよね」

「趣味?」

「興味ある?」

「いえ、全く」


 ヘレナが即答したにもかかわらず、ユリウスは話し続けた。


「人を殺すことかな」

「……嫌な趣味ですね」

「あはっ、よく言われる。誰に言ってもこの反応だから、つまんないなぁ」


 そう言いながらも愉悦そうに、目を見開きながら笑うユリウス。


「厳密に言えば、生命を殺すことが楽しいよね。人間じゃなくても、魔物とか家畜とか、虫とかでもいい」

「……では人間じゃなく、魔物でも殺してればいいのでは?」

「いや、違うね。人間を殺すのが一番楽しい。だって、表情も、言葉も、全部理解出来るんだから」


 ユリウスが一歩、ヘレナに向かって踏み出す。

 同時にヘレナは一歩、後ろに下がる。


「人間を殺すときの表情が良いよね、興奮する。言葉も人それぞれ。叫びながら死んでいく奴もいれば、最期の吐息を漏らすように死んでいく奴もいる。こんなに楽しいことはないよ」

「……わかりましたよ、貴方のイカれ具合は」

「あはは、なら良かった。じゃあさ……」


 一歩でヘレナまで詰め寄り、ユリウスはまたも手を伸ばす。


「君の死に際の表情と、声を聞かせてよ」

「お断りします」


 またもユリウスの手は空を切り、ヘレナは数歩離れた場所にいる。

 そして今度はその場には止まらず、背を向けて逃げるように走っていく。


「逃がさないよ。君の声を聞くまでは」

「それだけ聞くと、愛の告白みたいですね」


 そんな軽口を叩きながら、ヘレナは最大限に警戒しながら街中を走る。


 まだ昼前なので、街中は人が多くはない。

 しかし全くいないわけではない。


 何人かの人とすれ違い、ヘレナとユリウスが尋常じゃない速度で追いかけっこをしているのを、目を見開いて見送っている。


 そういう人達に、ユリウスが危害を加えないかをヘレナは心配している。


 あれだけの嗜虐的な趣味がある者だ。

 いつ街で歩いている人を襲ってもおかしくない。


 今は自分のことを殺そうと躍起になっているので、他の人に目を配る余裕もないようだ。


 だが……。


「きゃっ……!」


 街角を曲がったところで、ユリウスと女性がすれ違い様に腕がぶつかった。

 女性はその勢いで転んでしまったようだ。


 ユリウスは全く怪我などないが……イラついたように、顔が歪んでいた。


「邪魔なんだけど、踏み潰すよ?」


 足を上げ、座り込んでいる女性の顔面を蹴飛ばすようにして――。


「……あはっ、やっぱり凄いなぁ」


 蹴り抜いた足の先には女性は居らず、少し離れたところにヘレナがその女性を抱えていた。


「大丈夫ですか?」

「えっ、は、はい……!」

「それであればここから逃げてください、走って」


 なにがなんだかわかっていない女性は、ヘレナの元から離れて涙ながらに逃げていく。


 もうその女性から興味を失ったらしいユリウスは、またヘレナに攻撃を仕掛ける。


「今のも凄い速かったね。危うく見逃すところだったよ」

「お褒めに預かり恐縮です」


 ヘレナはまた避けながら、街から離れるように移動する。



 十分ほど、その追いかけっこは続いた。


 背を向けて逃げていたヘレナだったが、突如立ち止まりユリウスの方を向く。


「あれ、もう鬼ごっこは終わり? 案外楽しくなってきたところだったんだけど」

「私は一瞬も楽しくなかったです。ですが、それも終わりです」


 街から離れてヘレナが向かっていたところは、アイリの屋敷の近く。


 アイリの屋敷の周りは、前に魔法を放って更地にしてしまった。

 なのでここには誰もいないし、暴れても周りに被害はいかない。


「なぜ私が暗殺対象になっているのか、など、聞きたいことはありますが、一旦置いておきましょう」


 ユリウスのことを真っ直ぐと睨みながら、ヘレナは言った。


「あははっ、殺される準備が出来た?」

「まさか、そんな訳がないじゃないですか」

「そうだよね、じゃあ戦おうか」


 ニヤケながらユリウスは言ったが、ヘレナはイラついたように言い放つ。


「戦いではありません、お仕置きです。その後、貴方から尋問して聞き出します。覚悟はよろしいですね?」

「あはっ、楽しそうなお仕置きだね」



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