第111話 完治薬を持って
その後、王宮に転移できる道具で飛んで、一瞬でフォセカ王国の王宮の中に入った。
こんな簡単に中に入ってしまっていいのかわからないが、ナディア女王もラウラさんも許したのだからいいのだろう。
なんていったって、友達だしね……僕は違うけど。
王宮の中はやっぱりとても豪華で、僕が今まで見てきた建物の中でも一番煌びやかだった。
アイリさんの屋敷も綺麗だけど、やはり王宮の方が装飾とかが凄い。
「アイリ、マリー、こっちよ。こっちに……」
「陛下、どこに行こうとしているのですか?」
「えっ? 完治薬がある研究室に……」
「それは絶対に駄目です。いくらなんでも、我が国の機密事項などを直接見せるわけにはいきません」
「えー、あそこ楽しいじゃん。友達に見せるぐらいいいじゃん」
「駄目です。陛下のお小遣い、一年間お預けにしますよ」
「もちろん見せるわけないじゃん!」
ということで、研究室というのは見せてはもらえないようだ。
僕はよくわからないからいいけど、マリーさんは残念がっていた。
「すごい興味あったけど、仕方ないわね。じゃあ書庫に行かせて」
「それも本当は駄目なのですが……後でご案内します」
「私のお勧めを色々見してあげるわ! ふふっ、本を貸すって、なんか友達っぽい!」
「それが国の書物でなければ良かったのですが……」
ナディア女王に振り回され続けるラウラさんは、疲れたようにため息をついた。
大変そうだなぁ……頑張ってください。
とりあえず完治薬、それにそのレシピを貰うために、王宮の中の部屋に通された。
ラウラさんが取りに行ってくれて、僕たちは部屋で紅茶を飲みながら待つ。
「美味しいでしょ!? 私が淹れたの!」
「……普通」
「えっ、嘘!? 最高級の茶葉よ!」
「ナディア、あんた紅茶淹れたことある?」
「初めてだけど? 紅茶なんて誰が淹れても一緒でしょ?」
「茶葉が可哀想ね……下手くそすぎ」
僕も飲んだけど、格別に美味しくはなかった。
前に同じ茶葉で淹れてもらった紅茶を飲んだけど、味が全然違う。
ナディア女王は信じられないのか、自分の分を飲んだ。
「ほんとだ、ラウラが淹れるやつと全然違う……!」
「適当に作りすぎなのよ」
「だってそんなの教わってないし!」
マリーさんとナディア女王がそんな会話をしている中、僕とアイリさんは静かに紅茶を飲む。
まあ不味いわけじゃないし、普通に飲める。
最高級の茶葉でこの味は少しもったいない気もするけど。
そうこうしていると、ラウラさんが戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらが、完治薬でございます」
箱の中から一つ、フラスコの様な形をしたものを出す。
透明なので、中が見えるけど……。
「何もないじゃない。どういうことよ?」
フラスコの中には、何もないように見える。
「いえ、あります。よくご覧ください」
ラウラさんが持っているフラスコを、軽く揺らす。
すると光の反射が変わって、中に入ってるものがようやく見えた。
水のような液体が入っているけど、その透明度が尋常じゃない。
よく注視しないと本当にわからないぐらいだ。
「ようやく見えたわ。見えにくい薬ね」
「透明感がすごい」
目を細めて見ていたアイリさんとマリーさんも、ギリギリ見えたようだ。
「これが黒雲病の完治薬です。調合のレシピはこちらです」
マリーさんがレシピを受け取りそれを読む。
「ふーん、そんな採取が難しい材料はないみたいね」
「はい、ですが調合がとても難しいです。少しでもミスれば、完治薬になり得ません。肉眼ではほぼ見えないぐらい透明にならなければ失敗なのです」
「専門じゃないけど、確かに難しそうね」
僕は文字が読めないからわからないけど、イラスト付きで文字がいっぱい書いてある。
ずっと見ていると頭が痛くなりそうだ……。
「箱には完治薬が三十本ほど入っております。これだけでそちらの国の患者を全員助けるのは不可能ですが、量産のための研究をするには十分な量かと思います」
「ええ、そうね。私も最低でもそのくらい貰ってきてくれ、って言われてたわ」
やはり貰ってすぐに完治薬を患者に使う、というのはしないようだ。
研究して、量産ができたら患者に使って行くのだろう。
だけどエリオ君は、それじゃ絶対に間に合わない。
「キョ、キョー」
「ん、キョースケ、わかってる」
僕が鳴き声を上げると、アイリさんが頭を撫でてくる。
「ラウラ、キョースケのためにもう一本頂戴。それをキョースケの脚に結びつけるから」
「ええ、わかっています。箱に入ってる三十本の他に、もう一本あります」
ラウラさんは懐から完治薬を出した。
「ん、ありがとう。キョースケ、脚出して」
僕が右足を出すと、そこにラウラさんが薬をくくりつけてくれた。
飛んでも溢れないように栓をして、落ちないようにしっかりと結ぶ。
「これでいいでしょうか?」
「キョー」
ありがとう、と意味を込めて僕は鳴いた。
「キョースケは、もう帰る?」
アイリさんの言葉に、僕は頷いた。
エリオ君は一ヶ月寿命があるのでまだ大丈夫だと思うけど、すぐにでも治してあげたい。
「キョー」
「そっか……助けたい人がいるんだもんね」
アイリさんはもう一度僕の頭を撫でて、微笑を浮かべる。
「いってらっしゃい。また王都でね。ヘレナによろしく」
「キョー!」
僕は浮かび上がり、部屋の窓に向かって飛ぶ。
エリオ君が待つ王都へ。
待ってて、エリオ君。
今、完治薬を持っていくからね。
君を、絶対に死なせない。