第109話 元王族?
アイリさんの家でメイドをしているヘレナさん。
身長が低く、子供に見える容姿だが、立派な大人で百年以上生きている人だ。
そんなヘレナさんが、まさか……フォセカ王国の、王族だった!?
「ちょ、ちょっと待って。貴方達の言うヘレナさんと、私たちが知っているヘレナさんが同じなのか、確かめましょう」
「そうですね、マリー様。あの方の筆跡を間違えるはずは、ないとは思いますが……」
「そんな特徴的なの? 字は綺麗だとは思うけど、私にはわからないわ」
僕は字が読めないからわからないけど、ヘレナさんが綺麗な字を書きそうだなぁ、というのはなんとなく感じる。
「特徴的というよりは、私たちはヘレナ様の字を幾度となく見てきましたから」
「どういうこと?」
「王宮にある書物の半分ほどは、彼女が書いたものです」
「えっ、それ、何冊あるのよ」
「五千冊はあります」
「はぁ!?」
ご、五千冊!?
それをヘレナさんはたった一人で、全部書いたの!?
「えっ、そんな冊数書けるものなの?」
「いえ、普通は無理です。ヘレナ様は字を書くのが早く……というよりも、魔法で同時に何本かの筆を動かし、同時に何冊か書いていました」
「い、意味がわからないわ……」
うん、本当に意味がわからない。
書いたことないからわからないけど、本って何冊も同時に書けるものじゃないでしょ。
「ヘレナお婆ちゃんの本、すっごいわかりやすいんだよね。私が女王になれたのも、あの本のお陰だしね」
「王になるための知識や、戦い方、訓練の仕方などが事細かに書いてあるのです。あれは非常に参考になると思います」
「へー、私たちもそれ見してくれない?」
「国家の書物なので、申し訳ありませんが出来ません。それに戦闘の訓練の本でも数百冊に及びますので、数日で読み切れるものではないかと」
「そ、それは凄いわね……」
戦闘の本で、そんだけあるんだ……!
凄い興味あるけど、国家機密とかなのかな。
黒雲病の完治薬よりも国家機密だったら、どうしようもないけど。
「五千冊以上ある本を、全て読んだことある人はほとんどいません。先代も、先先代の王も読んでませんでした。ですが……」
「私はぜーんぶ読んだわ!」
とても誇らしそうに、胸を張ってそう言ったナディア女王。
「ナディア、嘘はいけないわよ」
「うん、嘘はダメ」
「嘘じゃないわよ! マリーもアイリも、私のこと舐めすぎじゃない!?」
子供に諭すように言った二人の言葉に、ナディア女王は憤慨して言った。
「嘘ではなく、陛下は本当に全て読破し、それを参考にして女王の座に就いたのです」
「ほら、嘘言ってない! 私は凄いんだから! 謝って!」
「へー、ますますその本に興味が出てきたけど」
「謝ってよ!」
「ナディア、ごめんね」
「えっ、あっ、うん……い、いいよ」
あんだけ言っておいて、アイリさんが本当に謝ったら戸惑うんだ。
とりあえずこのまま港にいても意味がないので、馬車にの戻ってフォセカ王国に帰ることになった。
豪華な車両に乗り、今度はラウラさんが御者をやるようだ。
「やった、これで中で仕事しなくても……!」
「陛下、国に着く前にここまで終わっていなかったら、港の修理代を陛下のお小遣いから出します」
「……頑張ります」
車両の中にラウラさんがいないものの、ナディア女王は書類仕事をしなくてはならなかった。
馬車が動き出して、ナディア女王はとても嫌そうにしながらも書類仕事をしている。
僕はいつも通り、座っているアイリさんの腕の中だ。
シエルの肩よりも、ここにいる時間の方が長い気がする。
「ねぇナディア、王宮の書庫にある本読ませてよ」
「さっきラウラがダメって言ってたから、ダメ」
「へー、女王様は下の者の言うことに従うのね。それなら仕方ないわ、下の者の言うことは絶対だものね」
「むっ、そんなことないわよ! わかったわ、全部読んでっていいわよ!」
「陛下、アホすぎます。落ち着いてください」
簡単に挑発に乗ってしまう女王を諫めるラウラさん。
だけど確かに戦いの本とかは気になる。
多分、僕は読めないけど。
「というか聞いてなかったけど、ヘレナお婆ちゃんとあんた達はどういう関係なの?」
「私の家の、メイド」
「えっ!? ヘレナお婆ちゃんが、メイド!?」
「女王になるはずだったヘレナ様が、メイドを……!?」
二人とも目を見開いて驚く。
やっぱりただのメイドじゃなかったよね。
前にマリーさんがS級冒険者のアイリさんに勝ってたし、指導もしてたと聞いた。
一国の女王になるはずだった人と聞いて、逆に納得できた。
「なんでヘレナお婆ちゃんがメイドなんてやってるの!?」
「そんな凄い人だって知ったら、なんでアイリの家でメイドをしているのか気になるわ」
「……なんか、流れで」
「どういう流れなの、それ」