第106話 クラーケン戦
キョースケとラウラは港で三人とクラーケンの戦いの余波が、港に被害が来ないように守ることになった。
アイリとナディアは浮かび、マリーは海に降り立つ。
「本当にいいなぁ、それ……今度王宮の池で練習しよう」
「すぐには出来ないでしょうけど、才能があれば一週間ぐらいで出来るわ。ここまで波が激しい海だったら、一ヶ月は練習しないとだけどね」
「絶対にやってやるわ!」
「私はアイリとお揃いで浮かべるあんたの方が羨ましいわよ」
「隣の芝生は、青い」
そんな会話をしながら、クラーケンの足があるところまで近づいていく。
「マリーが一番危ないと思うけど、大丈夫?」
ナディアの言う通り、空中に浮かんでいる二人よりも海に立っているアイリが一番クラーケンに近く、攻撃を受けやすいところにいる。
波の影響も受けやすいので、態勢も取りづらい。
それをもちろんわかっているマリーは、獰猛に笑う。
「臨むところよ」
「へー、いいね。そういうの好きだよ。私も海に立てれば絶対にそっちにいったのになぁ」
「マリー、気をつけて」
「え、ええ! ありがとうアイリ!」
「あれ、二人ってそういう関係なの?」
「? そういう関係って?」
「んー、違うのかな?」
「そ、そんな、私とアイリが、そんな危ない関係だなんて……!」
「あっ、うん、把握した。アイリはそのままでいいと思うよ」
「……よくわからないけど」
一番危ないところにいるのに、顔を赤くして照れているマリー。
そして――突如それは来た。
「っ!」
マリーはそれに気づいて、すぐに引き締まった顔をして海面を蹴って跳ぶ。
海面を水魔法で動かして勢いをつけて跳んだので、海面から五メートル以上は跳べた。
しかし、足りない。
水面から出て来た足――クラーケンの足は長く、そして多い。
マリーだけではなく、その上に飛んでいるアイリとナディアにも襲いかかってくる。
足だけでも自分よりも大きい巨体。
力も強大で、直撃したら致命傷は免れない。
「邪魔」
「デカイだけだね」
しかし空に浮かんでいる二人は、冷静に風魔法で足をぶった切った。
軽々と切られた足は宙を舞って、海へと沈んでいく。
「少し焦ったけど、私に傷をつけるには弱いわね」
海面に無事着地したマリーも、水魔法の応用、氷魔法で足を凍らせていた。
「しかしこいつデカイわね。足伝いに身体まで凍らせようとしたけど、身体全体の二割も凍らせられなかったわ」
「伝説の怪物だもん、さすがにこれだけじゃやられないね。足もあと何十本もあるみたいだし」
「……上等」
アイリが最後にそう言った瞬間、三人の四方八方から何本も海面から出て来た。
「さーて、ここからが本番だね!」
「めんどくさいから逃すんじゃないわよ!」
「何本でも切ってあげる」
そして三人とクラーケンの戦いは、始まった。
数十秒、襲いかかってくる足を切って、凍らせていたが、ようやく気づく。
「ねえこいつ、足再生してるみたいだよ!」
「やっぱり。どれだけ切ってもずっと減らないと思ってた」
海に浮かんでいる足はもう何十本にも及ぶ。
しかし襲いかかってくる足は、減る様子が全くない。
切られた足を海に戻し、そして再生しているようだ。
「多分海の中にある魔力を使って再生してるみたい。だから毎回切られた足を戻さないといけないんだ」
「めんどい……」
まだまだ二人の魔力はあるが、ずっとこの調子でやられるとさすがに尽きてくる。
先程みたいに海を割るような魔法を放てば、海面近くにクラーケンがいるので殺せるかもしれないが、多少の溜めが必要になる。
なので間髪なく攻撃してくる足をどうにかしないと、満足に攻撃もできない。
「私が凍らせた足とかも治ってるみたいね……」
こちらも足が海に戻ると氷が溶けているようだ。
クラーケンの厄介なところは巨大さなどもあるが、一番はこの異常な再生力だろう。
そしてクラーケンの攻撃手段は、足だけではない。
「っ! マリー横に跳んで!」
いち早くそれに気づいたナディアが、直撃しそうなマリーにそう叫ぶ。
一瞬反応が遅れたが、マリーは言われた通りに横に跳ぶ。
次の瞬間、マリーがいたところに大きな水柱が上がる。
その水柱は黒く、クラーケンが吐いた墨が混ざっていた。
威力も人の身体を軽く吹っ飛ばすほどで、しかもその墨は神経毒で触れたら鯨でもまともに動けなくなる。
「……礼を言うわ、あれは危険ね」
「どの攻撃もまともに食らったら死ぬね。ずるいなー、こっちは何回攻撃しても再生させられるのに」
「……どうする?」
このままではこちらの魔力が尽きてしまう。
何か手を打たないと負ける。
「私が隙を作るから、アイリとナディアでさっきの一撃を撃って」
マリーが襲いかかって来る足を凍らせ、避けながらそう伝える。
「むっ、王様なのに呼び捨てされた」
「今そんなのどうでもいいでしょ!?」
「マリー、五秒お願い」
「わかったわ、アイリ。そのくらい余裕よ」
アイリに頼まれ、やる気を出したマリー。
足を避け、しゃがんで海面に手を浸ける。
「凍りなさい――『凍結』!」
その瞬間、海面に氷が広がった。
海面から上に出ていた足も全て凍り、動かなくなる。
マリーを中心に半径三十メートルは海面が凍っていた。
氷の厚さは三メートルにも及ぶ。
クラーケンが下から残っている足を何度もぶつけているが、なかなか壊れない。
「はぁ、はぁ……これやると、さすがに疲れるわ」
しゃがんで肩で息をしているマリー。
クラーケンがようやく氷を壊し、動けないでいるマリーに攻撃を仕掛ける。
避けようと身体を動かそうとしたが、なぜか自分の身体が浮かんだ。
「えっ……?」
そのままマリーは空中にいる、彼女を浮かべた人物に向かっていく。
「ありがとうマリー、お陰で準備できた」
「っ! アイリ……!」
アイリの隣まで来て、そのままの勢いで抱きつくことになる。
「時間稼ぎ十分! さすがね、私を呼び捨てするだけの力はあるわ!」
そしてアイリとナディアは溜まった魔力を解放した。