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第101話 やはりアホ


「私のキョースケを……奪う?」


 抑揚が全くない声なのに、なぜこんなに怒っているとわからせることができるのだろうか。

 あとアイリさん、何度も言うようですが、僕はあなたのじゃありませんよ。


 アイリさんは僕を抱きしめたまま、ソファから立ち上がる。

 そしてナディア女王と向かい合う。


 アイリさんの方が身長は大きいので、腕に抱えている僕が丁度ナディア女王と目線が合うぐらいだ。


「こんな小さいのに、なんで私より強いのこれ? よくわからないなぁ」

「これじゃない、キョースケ」

「名前あるんだ。魔物なのに人間っぽい名前ね」


 元が人間だからね、いや、誰にも言ったことないけど。


「キョースケは、私の」


 だからアイリさんのじゃないって。


 というか大丈夫かな、アイリさんは僕のことになるとすごい過激になるけど……。

 いきなり一国の女王様と喧嘩なんて、シャレにならないぞ。


「あ、そうなんだ。じゃあいいや」


 ……意外とすぐに諦めてくれた。


「だけど抱っこしたら気持ち良さそう! 抱かせて!」

「……ジャンケンで勝ったら」


 めっちゃ躊躇した上で、アイリさんはそう提案する。


「ふっ、この私にジャンケンを挑むとは! 絶対に勝つ! じゃあいくよ!」


 ナディア女王が掛け声をして、両者同時に出した。

 結果、アイリさんの勝ち。


「あっ……さ、三回勝負! 誰が一回勝負って言ったの!? 三回勝った方が勝ち!」


 アイリさんはそれに驚きながらも、掛け声に合わせて咄嗟に出した。

 しかし三回勝負でも、アイリさんが勝った。


「えっ、あうぅ……五回! 五回にしよう! そっちの方がキリがいいから!」


 アイリさんは冷めた目で、呆れたように付き合ってあげた。

 結果、またナディア女王は一回も勝てずにアイリさんの圧勝。


「……まだやる?」

「うえぇぇ……! ライラァ、この人が私女王なのにいじめてくる……!」

「すいませんアイリ様。女王はアホなのです」

「うん、理解した」


 ライラさんは自分の腰に抱きついている女王を無視しながら、アイリさんに謝っていた。



 その後、アイリさんも見かねたのか、女王に僕を渡すことに。

 なんか最近、本当に僕は人形みたいな扱いを受けている気がする。


 しかし、やはり僕は人形ではなく、生き物なのだ。


「気持ちいい! なにこれ! 羽がいい感じ! 抱き枕にしたい! やっぱりちょうだい!」

「だめ」


 今僕は、ナディア女王にめちゃくちゃにされている。


 この人、撫でるのとか、抱きしめるのが壊滅的に下手だ……!

 総じて力が強いし、撫で方も羽を逆立てるように撫でてくるからごわごわして気持ち悪い。


「ふふふ、いつまでも撫でていたいなぁ!」


 僕は今すぐにでも抜け出したいけど!


 というかもうダメだ、本当にこの撫で方が受け付けられない!

 あとナディア女王の顔を見ると、「ぐへへ……」みたいな笑い方をしていて、そろそろヨダレが垂れてきそう!


 自分の身体を炎に変え、ナディア女王の身体から抜け出した。


「えっ、あっ……!」


 抜け出して、とりあえずアイリさんの肩の上に着地。

 アイリさんは少し驚きながらも、嬉しそうに「ふふっ」と笑った。


「今、炎になった? いや、というよりもなんで抜け出したの!? まだ撫で足りないよ!」


 炎になったことよりも、抜け出されたことの方が気になるのか。


「キョ、キョー!」

「……撫で方が気に喰わないって」

「えっ、言葉わかるの? というか変な鳴き声!」


 言葉は通じてないと思うけど、アイリさんは意味がわかったようだ。

 僕が「キョ」と頷くと、アイリさんは当たってたことが嬉しかったのか「よし」と小さく呟いた。


 あと変な鳴き声って失礼な、言われ慣れてるけど。



「そろそろ本題に入っていいかしら?」


 今まで黙っていたマリーさんが、そこで会話に入ってきた。

 ソファに座っていたようで、隣には側使のラウラさんもいる。


「さっきまでラウラと話してたけど、そこの女王は本当にクラーケン退治についてくるのかしら?」

「もちろん、そのために来たんだもの」

「はぁ、で、ラウラはどうするの?」

「私もついていきますよ、側使なので」

「えっ!? ラウラもついてくるの!?」


 目を見開いてそう叫んだナディア女王。

 来て欲しくないみたいだけど、どうしてだろうか。


「お忍びになるとは言え、誰一人も護衛無しで陛下を旅に行かせるわけにはいきません」

「だけど私が一番強いんだから、護衛いらないんじゃ……」

「それに」


 座っていたはずのラウラさんが、一気にナディア女王の顔に接近した。

 鼻と鼻がくっつきそうなほど近いが、特に色っぽい何かはない。

 むしろ怖い。


「ナディア陛下に仕事をサボられるわけにはいきませんので」

「な、なんのことかな……? 私ほら、クラーケン退治っていう仕事に行くんだから……」

「馬車で行っても数時間かかる港です。その間に書類仕事をやってもらいます」

「えぇ!? そんなぁ!? 書類仕事をやらされるんだったら、クラーケン退治に行く意味ないじゃ……!」


 ナディア女王は最後まで言い切る前に、「しまった!」と顔に書いてある表情をした。


「ほぅ……今、なんておっしゃいました?」

「い、いや、なにも……」

「まさか書類仕事をしたくないから、クラーケン退治に行こうとした、というわけじゃありませんよね?」

「ち、違うよ! そんなわけないじゃん! ラウラの早とちりだよ!」

「それは良かったです。では馬車に書類仕事を持っていきますので、少々お待ちください」

「あっ、その、ちょっと待っ、せめて少なく……!」


 ナディア女王の声も虚しく、ラウラさんは応接室を出て行った。

 おそらく書類仕事に必要なものを取りに行ったのだろう。

 多分、いや、絶対に少なくしないだろうなぁ……。


 ナディア女王は床に膝をつき、頭を垂れる。


「うぅ……こんなはずじゃなかったのに……!」

「自業自得よ」


 マリーさんが落ち込んでいる女王に、そう言い放った。


 少し可哀想だけど、僕も同感です。



最近5日の倍数更新を忘れてしまってすいません。

次回は30日にしっかりと投稿したいと思います。

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