第1話 終わり
新作です、よろしくお願いします。
僕は、死ぬのか。
「〇〇さん! 〇〇さん! 聞こえますか! 聞こえていたら手を握ってください!」
結構デカイ病院の廊下、僕はそこでストレッチャーという車輪付きのベッドで運ばれている。
周りには白い服を着た人がいっぱい居て、僕が寝ているストレッチャーを急いで運んでいる最中。
耳元で叫んでる人は、僕の手の平に指を置いている。それを握ろうとするが、全く力が入らない。
僕は生まれた時から何か病気に罹っていた。
名前は知らない。小さい頃、両親に一度だけ名前を聞いたけど、病名が長くて覚えられなかった。
なんか心臓に重い病気を抱えているってことだけ知った。
それより、そのことを伝えた時の両親の辛そうな顔が目に入って、もう聞かないようにしようと思ったことを覚えている。
今まで生きてきた十六年間、ほとんどを病院のベッドの上で過ごした。
時々、病院の外の庭を母さんや父さんに車椅子を押してもらって散歩をしたくらいで、ずっと病院の中。
保育園、幼稚園、小学校、中学校にも行けなかった。
頭は悪くなかった。病院では何もすることはなかったから、勉強か本を読むかしかしなかった。できなかった。
小学校や中学校には行けなかったけど、学力は学校に通ってる人と大差ないだろう。
病院での生活は、死にたくなるほど苦しいとは思わなかった。
確かに薬とかは不味いし、注射とかは痛くて怖いけど、治ると信じてきた。
母さんと父さんも毎日のように来てくれて、いろんな話をして楽しかった。
看護師の人や他に入院している人も仲良くしてくれた。
いつか治って、母さんと父さんと色んな所に行きたい、退院していった人達ともう一度会いたいと思ってた。
実際、最近は心臓移植という方法が実現できるかもしれないと、お医者さんから言われていた。
それが成功してリハビリを繰り返ししていけば、もしかしたら退院できるまで回復するかもしれないとも。
その話を聞いた時、母さんと父さんは泣いて喜んでいた。僕も、もしかしたら外に出られると思うと、心が躍った。
しかし――今僕は、体調が急変して、集中治療室に運ばれている。
「〇〇! 〇〇!! 死なないで! お願いだから! 頑張って!!」
「〇〇! 一緒に海に行くんだろ! 山に行くんだろ!!」
ストレッチャーの横についてきて声をかける母さんと父さんが見える。
母さん、そんな泣かないで。
父さん、顔が怖いよ。
僕は二人の、笑った顔の方が好きだよ。
父さんと母さんの方に目線を向けていると、二人の後ろに窓が見えた。
そして、綺麗な青空が見える。雲が見える。
何回も思った。
病室の窓から外を眺めて、空を見て、そして自由に飛び回る――鳥を見て。
あの鳥になれたら、僕はどこまでも行けるんだろうか。
僕は外で遊び回る人を見て羨ましかったが、一番は鳥になりたかった。
病室の窓からは病院の庭と、空しか見えない。
とても綺麗な青空。
そんな空を、自由に飛び回る鳥。
何度、鳥になりたいと憧れたか。
ああ、やばいな……。
僕は意識が薄れていくのを感じる。
母さんと父さんの姿が霞んで見えてくる。
体調が急変した時には痛かった身体が、今はなんだか心地良い。
ふわふわした気分で、今にも深い眠りにつけそうだ。
このまま眠ったら、それは死ぬほど気持ちいんだろうな。
僕は、その心地良い眠気に逆らえずに目を瞑り――。
そして――。