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※このあと0時、幕間の投稿を予定しております。
また、幕間回については物語に直接関係のある内容となっております。
02
「――今日はそっちにしたんだ?」
「そりゃあ、ほら。お互い様だ」
とある昼下がり、いつかと同じ喫茶店にて。
俺が取って待っていた席は、そのとあるいつかと同じ場所だ。
奥に広い長方形の店内の、一番奥にあるソファ席である。
「お待たせ?」
「いや、そうでもなかったよ」
客足は、雨の降るあの日とも同じほど疎らである。数人の客は、そのほとんどが一人であって、店内にある音は俺たちの会話と店内放送の緩いリズムの音楽と、それからたまに食器が擦れるのが聞こえてくるくらいだ。
しかし、それでも閑散とした印象はない。音が無い代わりに、店内にはコーヒーの香りが満ちていた。
適度な空調で巻き上げられた香ばしい香りが、音の代わりに俺たちの脳内を満たす。
相変わらずの曇天であっても、
整えられた温度の下で得る低気圧というのは、存外に心地いい。
「それ、結構おいしかったよ」
言いながらキティが席に座る。
言葉とともに彼女が、パッドでふさがった両手の代わりに視線で指したのは、俺の手元の、前にキティが食べていたのと同じ内容のケーキセットだ。
つまり、ビターそうな見た目のチョコケーキと、ホットコーヒーのセットである。
「そっちの味は、俺はほとんど覚えてねーけどな」
同じようにして俺が視線で差すのは、やはり、いつか俺が頼んだのと同じ、チーズムースのタルトとアイスコーヒーのセットであった。また、見ればご丁寧にもアイスコーヒーの氷の量まで再現してあるらしい。
キティは、俺の向かいにケーキとコーヒーを並べながら、
「いや、グラスが汗をかかないって言うのは、割とアリだと思ってね?」
などと嘯いた。
「しかし、こんな急な展開になるとは思わなかった」
「俺も、来てくれるとは思わなかったよ」
「なんだよ、暇つぶし(おやつ)まで用意してわざとらしいんじゃないの?」
これはおなかが空いていたのである。決してあんたのためなんかじゃないんだからね。
「おっと、なんかすごいキモいことが顔に書いてある気がする」
「確信してないならわざわざ言わなくってもいいんだぜー?」
とはいえまさしく正解であった。はたしてこれはキティの勘が鋭すぎるのか或いは局所的に今だけ俺の顔が唐突にキモかったのか果たしてどっちなのか。
……俺は決してキモくなどないので前者である。絶対そう。
「まあ、とりあえずこれ貰いつつね」
――話をしようよ。
と、彼女はチーズムースを割って口に運ぶ。
「気になってたんだよねー、コレ」
「こないだは、下手したら一口くれって言いそうな感じだったよな?」
「そうだっけ? ああ、そういえば、結局君が残したのも、そのまま下げちゃったんだよな」
「……いや、マジで言ってんの?」
君みたいなぱっと見ハイソな女の子が人のお残し食べたらだめだと思います。
「あの時の借りは、……まあ、これで相殺ってことでね?」
「うん? ああ」
キティが言っているのは、過日の呼び出しでの一幕のことだろう。
あの時曰く、急な呼び出しの駄賃として、彼女は店の支払いを持つつもりであったのだという。
「……、……」
確かに、期せずしてあの日と似たようなシチュエーションになってしまったかもしれない。
そういえば彼女とこうして話すのも、なんだか久しぶりな気がする。と、ふと俺は思った。
「それで言ったら、あのモーニングセットで返してもらったつもりだったけどな」
「ああ、あれね」
おいしかったねえ、なんてキティは明後日の方に呟く。
そんな様子に、俺は会話を小休止してケーキをフォークで割く。
連絡を入れてから彼女を待つまでの時間は、そう長くは感じなかったが、
皿の上のチョコレートケーキは、ちょっと小突けば倒れそうな量になっていた。
「……」
倒さないように丁寧に割って口に運ぶ。その口当たりは、ビターそうな見た目とは違いキャラメルの風味が濃い。その強い味はコーヒーの苦みを誘う甘美さであって、ちびちび食べるくらいで丁度良かった。
「あっちに集まるのもアリかと思ったんだけどな、なんとなくこっちにしたよ」
「まあ、純喫茶は高いからね」
そういえばあの朝は結局、コーヒーの項以外はまともにメニューを見ていなかったような気がする。……あまり多く出させてしまったのなら、借りを返すにしても割に合わないかもしれないが。
「いやー、アレはもう気にしなくていいよ?」
その言葉はまさしく後腐れのないニュアンスであって、しかし、
「――ああでも、ちなみにあそこのコーヒー、一杯いくらだと思う?」
などとキティは、思いついたように付け足した。
「……」
言われて俺は、軽く思考して、
「二五〇〇円?」
「馬鹿なんじゃないの……?」
それはあまりにもにべもない返答であった。
「いや、高いコーヒーなんて飲んだことないんだよ。俺が払いたくない値段を言ってみたんだけど……」
「仮に正解だったらあの日の朝食はお冷だけだったね……」
でも、払いたくない値段って言うのは面白い話題だ、と彼女は続ける。
「二五〇〇円はアホのセリフとしてさ?」
「アホのセリフって言い方は手心なさすぎない?」
「アホとしてさ?」
「……」
ごめんなさい。
「払うのを躊躇するラインを攻めていけば、割に良い線いくかもしれないよ」
「はあ?」
そういえば考えたこともなかった。いや「コーヒーに払えない値段ってどのくらいかなー」とか考える機会もそうそうなかろうが、しかし、
「ふうむ……。」
しかし、割とコーヒー派な俺としては、少し興味深い話かもしれない。
果たして俺は、コーヒーにいくら掛けられるだろうか。
「あー、そうだなあ……」
「お、割と長考するんだ?」
「ああ。なんかこう、体調によって変動しそう」
「なにそれ」
「時価だね時価」
「……それがファイナルアンサーだったらぶっ飛ばすんだよ?」
ぶっ飛ばすんだよってか……
「ほら、気分が良ければ財布のヒモも緩むだろ? 俺が一番ご機嫌だったら、一五〇〇円くらいは出すかもしれないなあ」
「一番ご機嫌な時に言ってくれたらお昼ご飯とかパシられてあげようかな」
「チップ弾むとは言ってねえな……」
「実はこないだ、一五〇〇円の焼きそばパン見つけたんだ!」
「なにそれどんな紅ショウガ使ってんだよ……」
「紅ショウガは普通の奴だってさ!」
「じゃあどんなコッペパン使ってるんだよぉ……ッ!」
「いや、高級焼きそばパンってのが口から出まかせなのは認めるけどさ。どうして先に焼きそばの話になんないかな?」
閑話休題。時価の詳細について、俺はもう一度考える。
「逆に、めちゃくちゃ気が乗らないときとかは、二百円でも出し渋るかもしれないなあ」
「……いやそれ、普通にコーヒーの気分じゃないんじゃないの?」
「………………そうだわ」
喫茶店のコーヒーの気分じゃないだけで、二百円で他のものなら普通に買うかもしれない。
「っていうかさ? なんでもない日に買うとしたらって話だよ、普通に」
「普通に……?」
それこそあまりイメージが湧かない。というかお高い店で出すコーヒーとか、店の雰囲気に引っ張られて表記の値段で納得しそうな自分がいる。
いやしかし、それならば普段の俺が入れるギリギリの高級店のメニュー表をイメージばいいのか。
「そしたらそうだな、千円は出さないな」
「ふむふむ?」
「あー、じゃあ、……六百円くらい?」
「うわー正解」
じとっとした視線を向ける彼女に、俺は首をかしげる。
「いや、値段ね。正解だよ、あそこのコーヒー六百円だったよ」
「あー……」
そういえばそういう話をしていたのだった。
「高く見積もった後に正解出しちゃうとかさ、たこ焼きの国へのリスペクト足りてないんじゃない?」
「いや、リスペクトってよりたこ焼きは庶民の味だろ……」
とか言いつつこの辺で食べると普通に高いのだが。
「じゃあカニの国へのリスペクト足りてないね」
「めっちゃ足りてるよ親戚から送られてきたら一家総出で小躍りかますっての」
「じゃあ許すわ」
「どの立場のセリフなんだよ?」
しょーもねえ、と俺は言う。
そして、緩やかな沈黙が訪れる。
「――そういえばさ、お前」
コーヒーを片手に、彼女は視線を俺に向ける。
「……俺が煙草吸ってんの知ってたのな」
「あー……」
明後日の調子で、キティが返す。
「まあね、煙草って結構匂いでわかるよ?」
学校で遠慮してたのは正解だね、と続ける。
「……じゃあさ、嫌じゃなかったら一服させてくれ」
別にいいよ、とキティは軽く返す。その視線は俺の後方、仕切られた先の喫煙席の方をとらえていたようだった。
「いや、まだしばらく先でいいんだけどさ」
「?」
「悪い天気じゃないし、ちょっと外に行こうぜ」
いい天気、と言い切るには、流石に少しばかり雲が厚い。
しかしこんな主張の弱い日和だからこそ、例えば、ただただゆっくり喋ったりなんかにはちょうどいいのだ。
「 」
「 」
それから、幾つかのやり取りを交わして、
やがてキティが、皿の上の最後の一口分をフォークに乗せた。
店を出てから俺が提案した場所は、とある近くの広場であった。といっても以前アメフラシとの一騒ぎがあった例の公園ではなくて、ここはまた別の場所だ。
そこまでには坂を下るような道を五分ほど歩く。そうして着くのが、この街の空白地点。
幾つかの屋根付きのベンチと鋪装された地面以外には、ずっと向こうの敷地際まで、本当に何もない、まさしく『広場』といった景観のスペースであった。
「確かに、悪くない天気だね」
走っても一息には渡り切れないほど広いその広場の、一番向こうを眺めるようにしてキティが言う。
ここには本当に何もなくて、広く深い視界は、遮られることなく空まで届く。
――悪くない天気。とは、殆ど思い付きで言った誘い文句だったのだが、
まだら模様の曇天は、案外見ていても飽きが来ないかもしれない。
「……、……」
とはいえ、空を眺めて暇を潰すためにここに来たわけではない。
俺は、手近な休憩スペースにキティを誘う。それにあたって見繕ったのは、屋根付きの、テーブルと向かい掛けベンチが用意された一角だ。
俺はそこに荷物と腰を下ろし、
キティは俺の向かいに座った。
「……」
「用事があるなら、聞くよ?」
先に切り出したのはキティである。
外に出る口実には、なんとなく指先が伸びなくて、俺はテーブルの上で指を組む。
「――お前、帰るんだって?」
「…………。耳が早いね」
キティの方は、俺の言葉にふわりと仰け反るように上体をそらせる。
それから、後ろ手をベンチに立てて、体重を支えるような格好を取った。
「……実は、まあ、そうなんだ」
怪物退治の借りを返すのは、しばらく先になるかもしれないね、と。
その言葉はどこか婉曲なもので、俺は核心を一手に突くのが躊躇われる。
――果たして、
「行かないでほしい」とは、友人にかける言葉であるのか。
行ってほしくないという感情をただただ晒すのは、友人である仲で許される暴言であろうか。
俺はそれを、彼女のたった一言で見失った。
「……」
否、
端から分かってはいなかったのだろう。
もともと彼女を呼び出したのは、ただの衝動によるきっかけばかりだ。
彼女に言うべきことは分かっていて、しかしそれを彼女に言うべきであるかどうかが分からないとすれば、
……つまりそれは、彼女に言うべきことが分かっていないのと同じことだ。
俺は、出来ることなら、
「彼女に言うべき言葉」を使って、「彼女に言うべきこと」を言いたい。
「……………………………………。」
だから、そう。
――その最初の一言は、情けないくらいにヘタレてるのでちょうどよかった。
「……でもさ? すぐに帰ってくるんだろ?」
「あー、いやあ。そういうわけにもいかないかもしれないなあ。……そういえばタツキ、私が帰る理由って聞いてた?」
「……ああ、聞いてたよ」
「……………………。」
彼女の沈黙は、すぐに覆い隠された。
「そっか。……情けない話だけどね、そういうわけでしばらくは、この国には近寄れないかもしれないなあって」
保険を張るなら、遠ざけるってのが一番確実だから。と彼女は続ける。
「まあでも、忘れないでいるよ。借りのことは」
「キティは」
――俺の、
止まる言葉に、キティが視線を振る。
ただ、まだ切実な言葉を渡すには早い気がして、
結局俺は、軽薄な言葉を取り繕う。
「何だ。そういうオチでも、別にいーやって感じ?」
「あー、はは」
ほんの少しだけ、彼女の顔に苦虫を噛み潰したような表情が滲んたのを、俺は確かに見た。
「……しゃーないかなーって」
「……、……」
そういえば、と俺は気付く。
彼女の不快げな表情を、俺は今まで見たことがなかった。ジョークの類いで眉根を寄せることは幾度となくあっても、明確に居心地悪げであったのはこれが初めてだった。
喧嘩するほど仲がいいなんて言葉を、それにつられて思い出して、
しかし俺は、仲のいい相手との喧嘩など、――想像だってしたくもない。
「……、……」
それゆえに俺が踏み込めず、彼女の外堀を埋めるような言葉選びをしているのであれば、
それはたぶん、間違ったやり方などではない。
「気に食わないなら、フケちまえよ」
「そうはいかないよ。一応私大物扱いだぜ?」
「羨ましいな」
「やめろよ照れちゃう」
そして彼女は、
「――今回は、まあ勘弁して頂戴よ」
と言った。
「……」
「マジの件でさ、これって。……ホント、ごめん」
――何ならこれも、借りにしてくれていいよ。
そんな言葉を続けて、彼女は俺の言葉を促した。
恐らくは、……今日はお開きにしよう。なんて言葉を。
「俺は」
「……」
その一言から始まる言葉を、俺は飲み込む。俺にとってその言葉は、言いたくない言葉であった。
「……どのくらい、かかるんだよ」
「……、……」
キティは返事に迷って、そして短く、……しばらくだよ。と答えた。
「……」
「……」
沈黙が続く。
それは、不快感を催す沈黙であった。
俺もキティも、言葉の無い時間を苦にする人間ではなかった。或いはお互いに、沈黙で場を持たせる術には長けていたゆえに。
「……、……」
それは、ただ相手に、言葉ではなく態度で、今自分は喋らない方が楽しいのだと示すだけの行為だ。それだけで沈黙は別の、もっと穏やかな何かに取り変わる。
それが出来ずに沈黙が痛いのは、つまるところ自分が「そう」と思えていないためだろう。俺たちは間違いなく言葉を探していて、しかし見繕った言葉を薄っぺらい見栄が覆い潰す。
……自分は、沈黙など恐れていない。そんな無意味な感情が、言葉をせき止めるのだ。
そしてそれに気付いた時には、さらに別の見栄が湧き出てくる。ただの虚栄で沈黙を許容する自分が恥ずかしく思えてきて、そして、
「今日は、もういいだろ?」
――先に音を上げたのはキティであった。
俺は、
「……」
言葉に迷う。
きっとキティは、今まで俺といた時間に平穏を感じていて、ゆえに「そうではない時間」に違和感を覚える。それが苛立ちになる。
そんな感情は、俺にだって覚えがある。そういう時はより心にゆとりがある方が譲るべきなのだろう。彼女は、きっと俺が思っている以上に追い詰められていて、或いは目論見通りに俺と別れた後で、もっと上手く出来たはずだ、などと、この時間を後悔してくれるのかもしれない。
しかし、それでは遅い。
ここで言葉を返さなければ、少なくとも俺は確実に後悔する。
「じゃあさ、最後になってもいいよ」
「……、……」
きっと俺の言葉を、彼女は不愉快に受け取っただろう。
俺自身、それはなんとか見繕った言葉であって、その言い回しと言い方にはどことなく腐ったものがあった。
言葉を、もっと選ぶべきであったけれど。
――まあいいか、そう俺は思うことにする。
「先に借りの方を返していけよ」
「…………」
いっそ、もっと腐ってくれたっていい。
素直に言葉を感情にするくらいなら、そんなダサい真似をするくらいなら。
俺はもっと別の、納得できるやり方で素直な感情を伝えたい。
「なにさ、言ってみてよ」
キティはまた、苛立ちを覆い隠した。それはきっと、俺への負い目がそうさせていた。
自分の世界の事情で苦労をかけて、挙句にこんな帰結にしまったのだから仕方ない。――たぶん、そんなところだ。
「デカい借りだと思ってるんだろ? ちょっとくらいわがまま言ってみてもいいよな?」
「……」
キティは、
「なんだよ。貞操でも貰って欲しいとか?」
ついに言葉を取り繕い損ねる。
その顔には居心地の悪さと苛立ちと、そしてほんの少しの失望を滲ませていて、
だから俺は思う。俺は彼女のことを、
きっと、
――ただの友達だと思っていて、
そして、こんな表情を浮かべてくれたからこそ、彼女だってきっとそうなのであった。
「……、……」
その通りだ。
俺とキティは、ただの友達であった。
例えば、共に苦難を乗り越えるのではなく、相手の苦労をもう一方が躊躇なく笑い飛ばすみたいな。
相手が暇つぶしに誘ってきたとしたら、興が乗った時ぐらいには付き合ってやるみたいな。
ただただ時間を食い潰すために、帰り道を共にしているみたいな。
そういう関係が、よかったんだ。
「……」
それは意地と見栄の張り合いだ。互いに一線を明確に引いて、それに触れあわない距離で言葉を交わす。それが良かったのだ。特別じゃない相手だからこそ出来ることだってたくさんある。特別じゃない相手だからこそ、何かを捧げないということが出来る。そういう距離感だからこそ俺たちは、ただ共に過ごすだけでいることが出来た。
だから、俺には、
――一緒にいてほしい。という言葉が言えなかった。
そしてその代わりに、
俺に言える言葉が、今、一つだけ生まれた。
「そんなつもりじゃないって。でも、借りを溜めといてよかった」
「……、……。」
それは、軽口に他ならなかった。
その言葉はどこまでも軽く、俺たちの周囲を渦巻くじめついた空気感には、どこまでも似つかわしくない。
「……、……」
彼女の表情を見る。俺にはその、彼女の表情の裏にある感情が、今度こそ本当に読み取れなかった。
――しかしこういう時、人は大抵、何も考えていないのだ。
きっと彼女は、俺が次に何を言い出すのか、その欠片さえ思いついていない。
けれど、感じるのではなく、ただ考えれば、言葉の続きはあまりにも明瞭だったはずだ。
或いは、素直には言えなくっても、
しかしどう考えたって、俺がこう考えているのは明白であるゆえに。
「なあキティ、お前がよくてもさ、
――このままじゃ、俺が気に食わないんだよ」
それから。
俺は、彼女に簡単な相談をした。
彼女は、それに簡単な補足をする。
「なるほどね、了解。だけど――」
幾つかの穴がある。それは埋めていかないと。彼女はそう付け加えて、
そして、
「そのうえでさ、今の話に返事をさせてくれ。タツキ」
彼女は、
――敢えて言葉を区切って。
「――いいじゃん、やろう」
……ナメた相手に仕返しがしたいってのは、そうだね、至極健全だ、と。
彼女はその目をいたずらっぽく輝かせて、そう言った。




