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今話も江戸小紋の柄について語っています。


ムフ~。世は満足じゃ~。

細長いお皿には3品お料理が乗っていた。筍の木の芽和え、そら豆を茹でたもの、もう一つはお豆腐、いえ胡麻豆腐です。美味しく味わっていると、達也さんが声を掛けてきたのね。


「そういえば清香ちゃんは食べられないものはあるのかな」

「えーと、アレルギーはないですし、好き嫌いもありません」

「それはいいね」

「智也君はどうなの」

「僕もないですよ、絵菜さん」


先付を食べ終わり次のお料理が来るまで、また着物の話になったの。江戸小紋の模様の話です。達也さんが補足的に話してくれたのね。


江戸小紋の模様には季節を表すものがあるそうなの。

睦月は色が本紅梅ほんこうばいで柄は宝尽くし(たからつくし)。宝尽くしは福徳を招く縁起の良い文様。

弥生は色が灰桜はいざくらで柄が昼夜桜ちゅうやざくら。花の文様の代表として季節に関わりなく用いられた。桜の散りぎわのよさから武士にも好まれ、古くからもっとも日本人に愛された。

皐月が色はあけぼの柄はたちばな。奈良時代から鑑賞され万葉集にも多い。格調の高い文様とされた。不老長寿の吉祥文でもある。

文月は色が浅黄あさぎで柄が青海波せいがいは。同心円を互い違いに鱗状に並べた文様。悠久に押し寄せる波の様子をあらわす。舞楽の「青海波」の装束に使われたところから付けられた名称とされる。

長月が色がかちで柄が極七宝ごくしっぽう。四方連続する文様であり限りなく延びるところから縁起の良い文とされた。「四方」から「七宝」となったといわれている。

霜月は色が墨色すみいろで柄は敷松葉しきまつば。松は常磐木ときわぎの代表。厳しい冬の寒さに耐え、四季を通して緑を保つ松は長寿と節操の象徴とされた。


達也さんの話は勉強になります。私も新しい着物を誂えたくなりました。他の六ヶ月の色と柄も知りたかったけど、「また今度ね」と言われたの。


話の間にもお料理が運ばれてきて、空いたお皿が下げられていきます。達也さんは気にせずに話をしていたの。というか、あんなに話しているのにいつの間にかお料理を食べているなんてすごいです。


気がついたら水物になっていたの。苺とメロンに桜餅が出てきたわ。それと共に緑茶も出されたのよ。どのお料理も美味しかったけど、流石に全ては食べられなくて、智也君が私が食べられなかった揚げ物と焼き物を食べてくれたのね。絵菜ちゃんが食べられなかった分は、もちろん達也さんが食べていたわ。


お茶を一口飲んでホッとしたところで、達也さんに訊かれたの。


「ところで清香ちゃん、髪を切ったんだね。長い髪も似合っていたから、なんか勿体ないね」


私はその言葉に固まったの。纏め髪にしていても髪のボリュームで髪が短くなったことは分かっていたようです。悪気が無いのは判っているけど、出来れば聞かれたくなかったな。私の様子に絵菜ちゃんが気を使ったようです。


「達也、髪はまた伸びるんだからいいじゃない。自分の理想を押し付けないの」

「だけど気になるだろう。もしかして失恋したとかさ」


私は俯いて膝の上で両手を握りしめたの。今度は智也君が気遣わしげに声をかけてきたのね。


「清香ちゃん、本当に失恋したの?」


声の響きに寂し気な気配がします。私はハッと顔をあげました。


「違うの。そんなことはないの。私だって本当は切りたくなかったのよ」


本音が口をついて出ていたの。家族にも黙っていたのに。口を手で押さえたけど遅かったようです。


「清香ちゃん、何があったの。よければ話してくれないかしら」


絵菜ちゃんがそっと私を抱きしめてくれたのね。そのやさしい仕草に涙ぐみそうになったけど、なんとか堪えたわ。そして何でもない様に話したの。


「えーとね、髪にガムをつけられちゃって、うまく取れなくて切るしかなかったというか・・・」


私の言葉を聞いて絵菜ちゃんがギュッと強く抱きしめてきたの。


「どこの馬鹿よ、そんなことをしたのは。私の可愛い清香ちゃんになんてことをするのよ」

「そうだな。そんな馬鹿にはおもいしらせた方がいいか。清香ちゃん、その馬鹿の名前を教えてくれないか」


達也さんも瞳に物騒な光を宿して言ってくれたの。


「待ってよ、達也叔父さん、絵菜さん。もしかしたら小学生かもしれないでしょう。そんなことをしたのは。かわいい悪戯だったのかもしれないし」


智也君が取り成すように言ってくれたのね。でも・・・。


私は顔を俯けたらぽたりと膝の上に置いた手の甲に雫が落ちてきた。瞬きをしたらまた一粒手の甲に落ちたの。

どうしよう。泣くつもりはないのに、泣きたくなんてないのに。


「清香ちゃん」


絵菜ちゃんが困ったように私の名前を呼んだわ。反対側からハンカチが差し出されたの。顔を上げると心配そうな智也君の顔。ハンカチを受け取れずに智也君の顔を見ていたら、目もとにそっとハンカチを押し当ててくれたの。


それからしばらく私は絵菜ちゃんに抱きしめられながら、智也君に目元の涙を拭われていたのね。涙が出なくなったのはどれくらいの時間が経ったときでしょうか。10分なのかそれとも30分たったのか。時計を持っていないので時間が判らないわ。



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