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さあ、江戸小紋のお話しです。

着物好きさん。想像してください!

達也さんが運転する車の後部座席に、智也君と並んで座っているの。私は運転席の後ろの席を勧められて恐縮してしまったわ。


お店に着くまで車の中では、着物の話をしていたの。というのも、実は達也さんの実家である智也君の家は由緒正しい呉服屋さんなのよ。それを知った時に思いっ切り達也さんの足を踏んだのは悪くないと思うのよ。だって、あんなことが無ければ、もっと早くに着物談義に花を咲かせることが出来たのよ。


今だって私の着物のことで話は盛り上がっていたの。この江戸小紋について聞かれたからなのね。


祖母が自分の着物を染め直しと仕立て直しをしてくれたと言ったら、その注文を智也君のうちで受けたと、智也君が言ったのよ。そこから、この江戸小紋はいつのものかとか、元の色はどうだったとか、帯締めと帯揚げの色が渋いとか言われて・・・。


元の色は確か紅梅色だったと思うと言ったら、淡紅藤色によく染まったなと達也さんが言ったの。確かに元の色より淡い感じに見えるけど、そこはこの着物が仕立てられてから年数が経っていたから、染め直すのにそれほど大変ではなかったらしいと、智也君が答えていたわ。

まあ、あまりに無茶な染め色の依頼があると、一度色を落とすことから始めるとか聞いたことがあるわね。今回はそこまでの手間ではなかったようだったのね。それでも江戸小紋は細かい柄なので出来れば染め直す所を見たみたいと思ったと素直に言えば、今度工房を訪ねてみようかと誘われたのでした。


そこから今度は江戸小紋の柄の話になったの。江戸小紋は江戸時代に諸大名が着用した裃の模様付けが発祥だとかで、私のこの「鮫」模様は紀州徳川氏の模様だったそうなの。他に「行儀」「角通し」と合わせて「三役」と呼ばれる格式のある物で、一つ紋をつければ色無地と同じ格になるそうなの。略礼装着になるわけね。

他にも「松葉」「御召し十」「万筋」「菊菱」「大小あられ」「胡麻柄」という大名の裃の模様が発祥のものがあり、「定め小紋」「留め柄」と言われているそうなの。


さすがに呉服屋の方です。達也さんが詳しく知っているのには驚きました。そう言ったら、達也さんは大学時代に江戸時代のことを調べて、身分によって服装の種類や使える柄や模様を決められていたと知り、いろいろ調べたそうです。その結果、大名の模様にいきついたと照れながら話してくれたのでした。


他にも、江戸の庶民は大名の小紋を真似するようになり、生活用品など身近にある物を細かい模様にしておしゃれを楽しんでいたそうなの。宝尽くしのおめでたい柄や、野菜や玩具、動物や天候に関係したものなど、柄は様々だったそうね。こういった庶民の遊び心から発祥した柄のことを「いわれ小紋」と言うそうなのね。


本当に着物のことは、知れば知るほど奥が深くて興味が尽きません。


そうして楽しく話をしていたら、食事をするお店に着いたのでした。そこは料亭だったの。格式の高そうな佇まいに腰が引けます。入口で立ち止まってしまったら、智也君に声を掛けられたの。


「清香ちゃん。どうかしたの」

「あの・・・」


気後れしたとは言えずに口ごもってしまったら、智也君がそばに戻ってきてくれました。


「大丈夫だよ。ただの食事処だから」


お道化たように言う智也君に、思わずクスリと笑ってしまったわ。そんな私に智也君が左手を差し出してくれたの。


「行こう、清香ちゃん」

「はい」


私がそっとその手に右手を重ねたら、ギュッと握りしめてくれたのね。玄関に入ると達也さんと絵菜ちゃんが上がったところで待っていてくれたのよ。お店の仲居さんが私達を微笑ましそうに見ていたので恥ずかしくなったのでした。


きっと仲居さんから見たら、私は智也君の妹に見えていることでしょう。私は同年代の中でも背が低いです。この間やっと150センチになったのよ。だから、高校生になったのに子供向けのアンサンブルが似合ってしまったのでしょう。


お部屋に案内されて、その部屋の窓から中庭が見えたの。池の向こうにお茶室も見えたわ。池の中ほどに石の橋が架かっているし、石灯篭も見えて日本庭園の趣につい溜め息が零れたの。


「気に入ってくれた様ね、清香ちゃん」


隣に座った絵菜ちゃんが声を掛けてきたの。座ってから庭に視線がいっていた私は、正面を見て智也君と達也さんに見つめられていたことに気がついたのね。顔がまた赤くなったと思います。


私の悪い癖です。気になるものがあると周りのことを忘れて見入ってしまうのです。


「えーと、はい。素敵なお庭だと思いまして・・・」

「気に入ったのなら、食事の後に散策しようか。あの茶室もそうだけど、5月にはここで野点が行われるんだよ。あそこに番傘を広げたような東屋があるだろう。その向こうが小山になっていてそこが野点の会場になるんだよ」


そう達也さんが教えてくれたの。思わず腰を浮かしかけたら、仲居さんがお料理を持って入って来たので、慌てて座り直しました。

仲居さんがお料理を置いて部屋から下がりました。


「清香ちゃん、まずはお食事にしましょう。庭に行くのは後でね」

「はい」


絵菜ちゃんの言葉に小さく返事をしました。


「じゃあ、食べようか。いただきます」

「「「いただきます」」」


達也さんの言葉の後に続けて唱和したの。そして箸を持ち先付を頂くことにしたのね。



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