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この話もほぼ「大好きな人に会う日は・・・」と同じです。


少し書き足しがあります。

使った道具を片付けて部屋を出た。居間を覗くと祖母と母がテレビを見ていた。私に気がついた祖母が声を掛けてきたの。


「自分一人で着れたようだね。どれ、見せて見なさい」


そう言われたので、祖母のそばに行った。母も私に視線を向けてきた。私はゆっくりとくるりと回転した。


「まあ、これなら外を歩いても着崩れせんじゃろ」

「そうね。いいと思うわ」

「本当に!」


よく着物を着る二人からの及第点の言葉に、声をあげてしまった。顔もニコニコの笑顔になっていることだろう。


「それにしても、清香が着物を着るなんて珍しいじゃない」

「それは、自分用の着物をもらえたからよ」


母の言葉に笑顔のまま答えた。


うちの祖母と母は茶道と華道を嗜んでいる。嗜んでいるというよりも、それなりの地位にいるらしい。いるらしいというのは、私はそれについて知らされていないからなの。子供が産まれたら必ずやらせなければならないような家に、生まれたわけじゃないのも大きいのかな。

なので私は、茶道と華道は嗜む程度しかやっていない。それよりも、小さい頃から着物に魅せられているの。金糸銀糸が使われているものから、螺鈿入りや、織りによる文様。他にも絞りや染め付けなど、和物に関するものなら何でも興味がある。だから手ぬぐいや、または暖簾に見入ることもあり、たまに一緒に出掛けた友人に呆れられる事態になったりしていたわね。


私の着物好きの切っ掛けはお雛様だったと思うわ。多分3歳くらいの時かな。お雛様を飾った後、私は着物を着せられたの。子供らしい赤い着物。七五三の時に誂えた着物だった。被布ひふは着せられなかったけど、お雛様とお揃いになったみたいでとても嬉しかったのを覚えているわね。


この着物はもともとは祖母が持っていたものなの。私に譲るにあたって色の染め直しと仕立て直しをしてくれたのよ。他にも二枚、私用に仕立て直してくれたけど、三枚の中でこれが一番のお気に入りなの。


「ところで、家を出るまでにまだ時間はあるのかしら」

「えーと、うん。まだ、30分はあるかな」

「じゃあ、台所に行きなさい。せっかくの着物にその髪はないわ。お母さんがやってあげるわよ」

「本当に。ありがとう」


台所に行って椅子に座ったら肩にビニール風呂敷を元にした肩掛けをかけられた。髪を解かれてブラッシングされる。それから櫛を使って髪を纏められた。やはり母は手慣れている。


「ねえ、お母さん。もう少し髪は長い方がいいかな」

「今のままでもいいと思うけど。どうかしたの」

「もう少し長い方がまとめやすいかと思って」

「そうねえ。確かに少し短いかしら?あと3センチあると後れ毛もなく纏められるわね」

「ええ~。えーと、うまく纏まらないの?」

「大丈夫よ。お母さんに任せなさい」


その言葉のとおり後ろ髪を母が触っているのがわかる。きっと椿油などを使って後れ毛にならない様にしてくれているのだろう。


本当は私の髪はもう少し長かったの。もう少しで腰に届くくらいの長さがあったわね。切りたかったわけじゃない。あれは仕方がなかったことだとわかっているけど、髪を切る原因を作った人のことが少し恨めしい。


「これで大丈夫よ」

「里美さん、この簪はどうかのう」


母がそう言った時に祖母が台所に顔を出した。


「あら、お義母さん。清香には落ち着きすぎではないかしら」

「だけどね、その着物なら合うと思うのだけどねえ」


祖母が持ってきた簪は幅広の塗りの簪。絵柄は藤の花かしら。珍しいなぁ~。

母が受け取って髪に挿してくれた。


「あら~、いいじゃない」

「そうじゃろ、そうじゃろ」


祖母と母が喜んでいる。私は立ち上がって鏡の所に行こうとしたら、母に止められた。


「まだ、だめよ。せっかくだからお化粧もしましょう」

「えっ。まだ私には早いよ」

「何が早いのよ。今どきの高校生はお化粧なんて当たり前なんでしょ。それにせっかくだからね」


そう言って母にお化粧をされた。軽くファンデーションを塗られ、頬紅もつけられ口紅も筆で唇にのせられた。

祖母が持ってきた手鏡を渡された。覗いてみたらいつもより大人びた顔の私がいた。


「本当はおしろいを塗りたかったのだけどねえ」

「おしろいだとやり過ぎじゃろ」

「そうですよねえ~。でも、今日の清香はいつもより3割増しに可愛いわ。嫌だ、心配になってきちゃったわ。私も一緒に行こうかしら」

「大丈夫よ、お母さん。私、モテたことないから」

「・・・でも、今日の清香は可愛いから」

「里美さん、あんたもそろそろ子離れせんといかんかのう」

「お義母さん・・・」

「心配いらんじゃろ。なあ、清香」

「うん。絵菜ちゃんの所に行くだけだから」

「ところでコートは着ていかないの」

「う~ん、暖かいからいらないかな」

「ダメよ。着ていきなさい。昼間は暖かくても夕方には冷えてくるわよ。持ってきてあげるから」


そう言って母は上着を取りにいってくれたわ。戻ってきた母は、道行コートと道中着を持ってきたわ。道行コートは臙脂えんじ色で道中着は鼠茶ねずちゃ色だった。私は道行コートを着ていくことにしたの。


「遊んできていいからの」


祖母の言葉に送られて私は家を出てバス停へと向かったのでした。



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