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2年3組・オブ・ザ・デッド  作者: 東山神兵
8/11

#08 まがりかど・1。 -Larks' Tongues in Aspic, Part One-

挿絵(By みてみん)


 最初に言っておきます。


 新聞とかでは犠牲者は出なかったなんて書かれてますけど、私たち、六人死にました。


 大良さん、

 上洲さん、

 江藤さん、

 谷さん、

 佐村さん、

 東辺さん。


 彼女たちは、もう帰ってきません。もう死んでるから数に入らないっていうんなら、どうぞご自由にって感じですけど、どうあれ私たちは、大切なクラスメートを六人失いました。


 私たちを嫌ってる人たちがいるのは知ってます。知ってはいたけど、感情的な問題です、仕方ないってあきらめていました。軽い嫌がらせや、悪口は、気にしなければいいだけの話です。わざわざ逆撫でする必要もないし、放っておけばそのうち飽きるだろうって、ほとんどの子はそんな風に考えてました。


 確かに、一部の子がくってかかったりはしてましたが、日常にいくらでもある、小さな小競り合いの延長程度のものでした。しょせん女子です。すべてを把握しているわけじゃありませんが、他愛のない言い争いレベルに終始していたように思います。致命的なトラブルはおきていなかったはずです。


 学校内感染未遂? あんなの、おふざけですよ。和解だってしてます。

 死体置場襲撃事件? そんなの、本当にあったと信じてるんですか!? それこそ警察にでもきいてください。あまりにナンセンスすぎて、私たちも笑いのネタにしてたぐらいです。都市伝説もいいところ。馬鹿馬鹿しい。もし犯人たちがそれを信じているんだとしたら、あまりに滑稽にすぎますよ。


 いずれにせよ、私たちの法から火種を仕掛けたつもりはありません。それでも燻っていたのだとすれば、それはもう、個人的感情としかいいようが無いです。到底理解できません。


 だって、ある意味殺人ですよ。人が六人、この世から消えたんですよ。


 ネットで取り上げられてる通り、犯人を手引きしたのはうちの生徒です。人伝えに、屋上に呼ばれたんです。話したいことがあるから、クラスの友だち連れて来て欲しいって。


 そのときは、特に何の疑いも持っていませんでした。非日常に慣れすぎたのかもしれません。せいぜいが、集団インタビューか何かの協力要請だろう、そんな程度の認識でした。言われたとおり、友だちに声かけて。馬鹿ですね。ちょっとは用心しろって感じですよね。

 結局、部活やらなんやかやで、屋上に向かったのは私たち七人ほどだったんですが、最初は向こうも少し驚いてました。私たちの人数が予想外に多かったみたいです。礼子ちゃんもいたし。存外、ゾンビが怖かったのかもしれません。


 それでも、驚きのレベルでいえば私たちの方がはるかに上です。だって、呼ばれてわざわざ出向いてみれば、女子高の屋上にマスクやらヘルメットをした男の人が、五人、ですよ。五人もの見知らぬ男が、手に手にパイプやらハンマーやらを持って、待ち構えていたんですよ。


 言葉も出ませんでした。っていうか、理解できませんでした。テレビのドッキリ企画かもなんて、トンチンカンな考えすら一瞬、頭をよぎりました。


 ヤバいって、最初に叫んだのは谷さん。言われても、しばらくは何をどうしたらいいのかわかりません。逃げようとすら思いません。だって、あまりに唐突で、あまりに異常すぎて。


 背後で扉が閉まりました。多分、手引きをした生徒だと思います。鍵がかかる音がハッキリと聞こえて、ようやく真剣にヤバさを実感しました。


 あ、私たち、壊される。

 シンプルな結論に、死んで初めて明快な恐怖を覚えました。


 男たちがわけのわからない雑言を叫びながら、にじり寄ってきました。構えた獲物を見るまでもなく、男たちの殺意は明白です。私たちは逃げられません。礼子ちゃんがいたってのもありますが、それ以前に、私たちは戦い方を知らないんです。ゾンビだからって、すぐに歯を剥いて襲いかかれるわけじゃあないんです。


 あっという間に取り囲まれました。私たちは怯えながら、小さく固まって座り込みました。


 ゾンビのくせに、恐ろしいほど無力でした。


 聞きたいですか? けっこう酷い話になりますよ。


 バットで腹を打たれ、スコップで足を叩き折られ、ハンマーで頭を潰され。七人全員、酷い目にあいましたよ。

 聞きたいですか? そんなこと?


 あげく、全員、屋上から突き落とされました。その時点で、三人が頭を潰され、もう完全に死んでいたと思います。私も顔を左半分ぐしゃぐしゃにされ、鉄パイプをおなかに刺され、最後に思いっきりハンマーを打ち据えられたあと、最後に屋上から放り投げられました。意識が朦朧としてたので、何が起きたのか理解できなかったみたいです。足から地面に激突したらしいんですが、単に酷い衝撃が体を突き抜けたことしか覚えていません。


 白濁する視界の先に、東辺さんと礼子ちゃんが横たわっていました。


 一つ、不思議だと思いました。

 私たち、最後は笑っていたんです。


 男たちが猛り、叫び、恐怖に震えていたのに、私たちは笑ったんです。みんな、笑って、この世からいなくなったんです。


 本当はそれでいいって思ってたのかもしれません。もう、それはそれで受け入れようって、最初からあきらめていたのかもしれません。


 私も、そんな気持ちがどこかにありました。死者は死者の本懐を遂げよう。それですべてこともなし。一瞬ですが、それで納得しました。


 でも、私だけ、消えそこないました。

 半分壊れた頭の外で、まだ悪夢は続いていました。


 だから、決心しました。

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