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2年3組・オブ・ザ・デッド  作者: 東山神兵
7/11

#07 ごめんなさい。 -Arena of Terror-

 あ、えと。

 こんばんわ。私立Y高校、二年三組、クラス委員の上寺と申します。

 本日はこちらの放送に目を留めていただき、ありがとうございます。

 これからお話させていただく内容は、すべて私たち二年三組の主観に基づくものであり、ニュースやネットなどで流布している情報とは異なる部分もあります。本来であれば公式な手段で堂々と釈明できればそれが一番なんですが、現時点では私たちの意図とは異なるメッセージの切り取られ方をされたり、あるいは規制をかけられるなど、思いをそのまま届けられる状況にあるとはいえません。出来る限りそのままの言葉をお伝えしたく、このような形でゲリラ的なストリーミング配信をさせていただくことにしました。

 もちろん、私たちの言葉が必ずしも正しいものとは限りません。私たちの軽率な行動で実際に怪我をされた方がいるのは事実ですし、被害者様のご親族、ご友人、他、大勢の皆様に多大なご心配をおかけしました。それらのことについては、自分たちの責任を認め、心よりお詫び申し上げる次第です。


 大変、申し訳ございませんでした。


 本件に関するご意見、ご感想などは直接書き込んでいただくか、または画面下のメアドまでお送り下さい。いただいたご意見は、クラス全体で共有させていただきます。

 それでは、事件の経緯から説明させていただきます。

 事件は、○月×日、午後三時四十分頃、東校舎三階、南階段でおきました。私たち二年三組の遠藤理緒と口論になった二年一組生徒のAさんとBさんは、遠藤の不適切な行動によりその場からあわてて走り出し、階段で転倒、踊り場まで滑落しました。これにより、Aさんは全治三週間の骨折、Bさんはねん挫と打撲を、それぞれ負われました。

 なお、本件に関して一部で噂されている、Aさんのゾンビウィルス感染は、まったくの事実無根です。Aさんはすでに家庭治療中で、普通に生活をおくっております。

 それでは、本事件に関して、遠藤の方より簡単な説明を加えさせていただきます。


 あー、遠藤です。このたびは、ホント、すみませんでしたー。

 いやね、そりゃ確かにこっちもやりすぎましたよ。赤い絵の具含んだ口で、Aさんの腕にかみつくフリしたわけですからね。いやもう、パニくるパニくる。半狂乱で逃げだしましたわ。正直、やってやったぜ、ざまァぐらい思っちゃったんですが、まさかそのまま階段転げ落ちるとは思わなくて。しかも骨折とかね、なんつーかこっちの方が驚いちゃって……はいはい、申しわけございませんでしたー。

 あ、凄い弾幕。あはは、ネット民、キレてやんの。別にいいじゃん、こっちだって被害者なんだし……え、何、こらっ。


 し、失礼しました。

 お聞きの通り、遠藤が噛みついたのはあくまでも威嚇であり、血のりも含めてAさんをゾンビにしようという意図はまったくありませんでした。勿論、悪ふざけが過ぎたという点についてはおおいに反省すべきであり……あ、ちょっと、古池さん!


 つかねー、理緒も悪いけど、相手も相当悪いと思うよー。

 あ、古池留々です。理緒の友達ねー。どもども。

 ん、で。私、見てたんだけどさー。AさんとBさん? しょっちゅうからんでくるんだよね。別に、気持ち悪いとか、さっさと死ねとか言われんのは慣れてるけどさー。学校やめろとか、ちょっとカチンと来るよね。なに、あの署名。水増しバレバレー。


 割り込まないでって。えと、ごめんなさい。ちゃんと経緯を話しますと、最初はAさんの方からクラスに乗り込んできまして……。


 ログ残ってるよー。あいつら、こっそり動画アップするつもりでいたんだよねー。


 うちら見世物にするつもりだったんだよな。別にいいよ。見たけりゃ見せてやるよ。ホレ、片脚無ェぞ。おらおら、どーよ。


 ちょっと、遠藤さん! 古池さんも腕はずさないで!


 まあ、私らはいいわな。

 だけど、紀子をいじるのは許せない。なにが上半身お化けだ。フザけんな。


 わかるけど。それはわかるけど、だからといって。


 だってあいつら、紀子が歩けないのをいいことに、車椅子から引きずり降ろしてさ、床を這わせて笑ってるんだぜ。紀子、いい奴だからさ、おどけてみせたりもするけどさ。言うにこと欠いて不快害虫だぜ。なんだよそれ。ゾンビなめんな。


 確かに、AさんBさんの行動にも行き過ぎたところはあると思う。

 だけどね、私、事故のあと二人のところに行ったの。そしたらね、Bさん……うーん。これ、言っていいものなのかな。


 何だよ、煮え切らないな。


 一応、公の場なんで。

 詳しくはいえないけど、やむを得ない事情があったみたいなのね。それをかばって、Aさんが……うん、色々あるんだよね、みんな。


 なんだよ、それ。聞いてないぞ。


 つまり、いじめがあったってことっしょ。「三組の面白映像とってきたら仲間にいれてやんよ」、みたいな。


 んだ、それ! 最低だな、一組。


 そんな短絡的な問題でもなくて。

 えとですね、実際、うちの学校、余所から凄い鼻白まれてるところがあって……私たちの存在が主な原因なんですが……ネットとか、裏掲示板とかで、かなり酷い書かれ方をしてるのはご存知だと思います。確かにゾンビを集団で生活させているなんて前代未聞だし、その危険性については様々な指摘があるわけですが……。


 失礼な話だなー。

 ゾンビと同じ学校通ってるから、一組の子たちも辛い思いしてるってこと? だからBさんいじめて、うちらをコケにして憂さ晴らしとか?


 馬鹿じゃねェの。


 被害者意識の負の連鎖だよねー。やだやだ。


 それでもね、一応ね、向こうの言い分もわからないでもないし、少しつっこんで話を聞いてみたわけです……Bさんね、すごい真面目な子で。ちゃんと安全性を考えた上で、私たちのことを別の場所に移してほしいって、そう学校側に嘆願してるの。その方が私たちにとってもいいんじゃないかって、色々考えてはくれてた。


 余計なお世話じゃん。


 でもさ、学校側も含めて、校内全体で私たちのことは腫れ物扱いっていうか……答えの出せない部分は黙認してやり過ごそうって風潮でしょう? なまじ哀れみを受ける存在っていうか、被害者でもあるわけで、学校もちょっと対応間違えればすぐ差別とか言われかねない。実際、一組の人たちも、表立った嫌がらせはしてこないよね。私たち、少なくとも学校の中では、結構安全というか、安心を保証されてるんだよね。


 うー。


 そんな中で、唯一堂々と私たちの危険性を訴えるBさんは、むしろ希少な存在。言ってしまえば、空気を読まない存在だったみたい。


 それで、いじめられた?


 じゃあなに、一組はどちらかと言えば、私たちの味方だって言うの?

 マジかよ……。


 正直、そこまではわかりません。

 Aさんは口が堅い人で、何を言われてたかは教えてくれませんでした。一組の人たちも話してくれなかったし……実際、「三組の面白映像とってきたら仲間にいれてやんよ」なのか、「そこまで言うなら三組が危険だって証明してみろ」なのか……。

 いずれにせよ、Bさんは、一組では微妙に浮いた存在でした。さっき古池さんが水増しと言った署名、あれも相当に苦労して集めたみたいで。多少の水増しがあったとしても、情状酌量の余地はあるんじゃないかなあ、ぐらいには思います。


 うーん。


 でも、だとしても。

 紀子に対する態度はやっぱ許せない。弱いものいじめじゃん。言いたかないけどさ、障害者を笑いものにしてるような、そんな感じじゃん。


 それもね、必死のBさんのために、親友のAさんが多少過激な行動に出た可能性はあるよね。


 あー、正直、障害者の例えは適切じゃないかなー。うちら、障害っつても、ゾンビだし、あんま気にしても仕方無いやーみたいに思ってるところあるよね。感覚が麻痺してるだけかもしれないけど。

 逆に、ちょっと障害者の方に失礼?


 少しナーバスな問題ですよね。


 あ、ちょうど紀子からメール。えーと、読み上げるね。

 「私は気にしてないよー。っていうか、下半身なくても、ゾンビだからいっちょまえに動けるよーってアピールしてほしかったんじゃない? Aさん、動画とる前、笑顔でお願いって言ってたし」……だって。


 うーん、紀子、優しいからなあ…。


 でもさ、不快害虫って…! 不快ってさ!


 言葉のあや……みたいなものかもしれないし、実際、不快に思う人は不快だと思います。


 いやあ、実をいうと私、理緒の足、不快なんだわ。


 義手外しながら言うな! そっちのがよっぽど不快だわ!



 ちょっと、言葉に気をつけてって!

 ……うん、でも、そうなんだよね。結局は個人の嗜好っていうか、人それぞれなんだよね。

 ましてやゾンビ。好き嫌いがあって当然というか……ホラ、ネットのリアクションも賛否真っ二つ。酷いこと言う人もいるけど、応援してくれる人も同じぐらいいて……正直、ちょっぴり感動してます。


 そんなん……そんなん、安すぎんだろうが!


 でも、こうやってネットで場を設けさせてもらってるのは、釈明や事実の追及が目的じゃなく、私たちのことをわかってほしいって、そういう理由だもの。これだけの人が、こうやって意見を交わしてくれてるんだよ? 十分、やった甲斐はあるっていうか……。


 うおおっ?


 なんだよ、藪から棒に。


 またメールきたんだけど、なんとAさんとBさんが連名で降臨!


 マジ? 本人!?


 なんて書いてあるの?

 ひょっとして、怒ってる!?


 待ってね、えーと……長いから要約するよ。とりあえず撮影のお詫びと、怪我は自分たちの責任だってのと……おお、いやいや、そんな。


 なんだよ、一人で納得してんじゃないよ。いいから続き!


 読むよ。

 「私は皆さんと同じ学校に通うことは、依然、断固反対です。ですが、こうやって生放送で取り上げてくれたことには深く感謝しますし、公正であろうとする上寺さん、うまく間を取り持ってくれる古池さん、それに、ひたすら率直な遠藤さん。みなさんのお気持ちは、本当に嬉しく思います。繰り返しますが、私たちは同じ学校に通うことには反対です。反対ですが……」


 ……。


 ですが…?


 「皆さんと、友達になることは出来ると思います」

 だって。


 ……。


 ……。


 あ、ごめんなさい。

 ちょっと、何を言ったらいいのかわかんなくなって……。

 だけど、なんか、嬉しい……です。


 なんだよ。

 ズルいよ。ズルいだろうがよ、そういうの、さあ……!


 理緒……。


 そりゃ私は馬鹿かもしんないけどさ、一応真剣にさ……ああ、もうズルいなあ!

 わかったよ。そういうことなら、わかったよ!


 ……え?


 AさんもBさんも、悪気があったとかそういうんじゃないんだろ?

 言葉は悪かったかもしれないけど、うちらを真面目に考えてくれたって。真面目だからぶつかってきたって。それを変に真に受けて。私、馬鹿だからさ。ついカーッとなって、脅してやろうって思っちゃってさ。


 んー、まあ……そうも、なるかな。


 よし! この場を借りて正式に謝罪します。

 軽率でした! 本当にすいませんでした!

 相容れないところもあるかもしれないけれど、歩み寄れるところはあるかもしれないって、そう本気で思いました! Aさん、Bさん、ごめん! 今度ガチで謝りにいきます!


 遠藤さん…土下座って…!


 あはは、理緒らしいや。

 そだね。憶測でもの言っちゃってごめんなさい。私も土下座ります。


 古池さん……。


 申し訳ございませんでしたぁ!!


 ……そうですね。

 私も。こんな煽るような放送を提案して、皆さまにはご迷惑おかけしました。心よりお詫び申し上げます。

 ですが、結果的に、次のステップに進むためのきっかけぐらいにはなれたんじゃないでしょうか。

 私たちを取り巻く環境は依然厳しく、この先も安心して過ごせる居場所なんてないのかもしれません。ですが、こうやって少しでも歩み寄ることが出来れば、人間とゾンビとの間に、新しい形での絆を作りだすことは可能なんじゃないかって、そう思います。

 まずはAさんとBさん、それに二年一組のみなさんと、とことん話し合ってみます。話し合って、少しでも良い未来に近づけたら……私たちに未来はないかもしれませんが、それでも、またもしゾンビが生まれたときの礎になれたら、Y高生徒として、二年三組生徒として、誇りをもって朽ちることが出来ると思います。

 できれば、みなさんにもそれを知っていただき、次につなげていっていただければ、これに勝る喜びはありません。その時は、是非、よろしくお願いします。

 以上、2年3組クラス代表、上寺睦実でした!


 なんかきれいにまとめたな。さすがっつーか、若干ズルいっつーか……。


 おお、見て見て。応援弾幕が一斉に。


 はははー、チョロいな、お前ら。


 またそうやって憎まれ口を!


 あ、またメール。えーと、件名:頑張ってください、だって。ぽちっと。


 え。


 あれ?


 なに、画面、おかし……ちょ……


 PC動か……よ。どうなっ……の? カメラ繋がっ…る?


 なに、こ……ノイズ……動か…………だよ、悪…………ねぇよ!


 ……てよ……こ……して、さ……の……ルにウィル…………


 ……………誰………………めて………………しt……○△×@……


 ………w4lg0; ………w-bfmv………wgwp,;bdbmh7aajbjo,hhe;h…………………ね………死………死ね……………


 ……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死

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