#05 わたしをみて。 -Happy With What You Have To Be Happy With-
きっかけは……何だっけ?
由衣ちゃんじゃなかった?
確か、マックかなんかのバイトで…。
ああ、うん…。
聞いてくださいよ!
この子、差別受けたんです! サベツ!
天下のマックで、ねえ!
あ、いや、マックじゃなくて…駅前のミスターバーガー…。
ゾンビってだけで、突然クビ言い渡されたんですよ! 酷いっしょ?
そりゃあ、このコちょっとトロいとこあるけどさ。
ゾンビなんだもん、しゃーないじゃん。
ハンバーガーに指入れて出すぐらい、笑って見逃せってーの。
入れてない! 入れてないからっ!
人に指、食わせないって。
あたし、妹が来たときだけど、
自分の目玉のっけて“てりたまバーガー”ですってやったことあるよ。
やるなよっ。
さすがに引くよっ。
まぁ冗談はともかく、イメージが悪いとか、衛生面に難アリとか、
適当なイチャモンつけられてクビになったんです、この子。
正直、アタマきた。あたし、怒鳴り込みに行こうかって思ったモン。
まぁ、仕方ないよ…。
私がゾンビじゃなかったら、やっぱ気持ち悪いって思うかだもん。
だとしてもさー。
で、よくよく調べてみたら、みんなけっこうバイトで差別受けてたんですよ。
クビになったり、ホール外されたり。
食品関係は特にねー。
コンビニもダメ。客からクレームが来たって。
私、家庭教師やってたんですけど、
生徒のお母さんから、半年分握らされてやめましたー。
半年っ! すげえ! 紹介してっ!
いやいや。
そんなこんなが続いて、みんな考えちゃったんですよ。
この先、就職するにせよ、進学するにせよ、
私たちを受け入れてくれる場所はあるのかなって…。
マジ落ち込んだよね。検体とか死体役者とか。
原発作業員いいんじゃね? とか言ってたっけ。
ヤケんなって、アイドルデビューとか話してたんですよ。
史上初ゾンビアイドル、ZMB48。
足りない分は体をスライスして、四十八人、埋め合わせようとかね。
ホラ、私たちの体ってわりと自由がきくっていうか…
その気になれば整形美人も比較的楽に出来るっていうか…。
まぁ流石にね、全員でアイドルデビューはやめたんですが。
一人、本気になっちゃったのが。
はーい、沙羅でーす!
いつの間にかブログ立ち上げて、ネットアイドルからスタートして。
ものめずらしさもあって、フォロアーが一気に増えちゃってね。
これはイケるって。
なんか盛り上がっちゃったよね。
みんなで沙羅をパーフェクトアイドルにしようって。
顔はあんまりいじらなかったけど、体は手を入れたねー。
胸をもって、お腹削って。
傷跡もスタイリッシュにまとめようと。
ゴス方面も迷ったんですけど、
とりあえずソフトコアパンクな方向がよかろうってことで、
思い切り大改造しちゃいました。
ただの悪ノリに見えるかもしれませんけど、
けっこうマジメにイケイケだったんですよ。
ゾンビ人生に光が見えた!とか言って、この5人は割りとみんな本気で頑張ってた。
だから二次予選まで行ったときは、真剣に嬉しかったんです。
コンテストに出たのは沙羅なんですけど、全員で舞台に立ってる気持ちでした。
5人だけじゃなく、2年3組全員の希望って感じでね。
まぁ……結局整形がバレて、失格だったワケですが…。
ネットのフォロアーどもがねー…手のひら返しっていうか、
結局興味本位だけの差別野郎がけっこう混ざってて。
まぁ見事に揚足取られました。
それでも、沙羅を応援してくれてる人もたくさんいるんだよ。
プロダクションさんから名刺も何枚かもらったし。
ほとんどAVだったじゃん。
さすがにヘコみましたわ。
ゾンビと人間、相容れないなーって。
まぁ、それでも、ちょっとだけ希望は見えたんですけどね。
ちょっとだけ、ね。