#11 それで、ね。 -Epitaph-
上寺睦実:ありがとうございます! 色々あったけど、なんとか無事に卒業できました!!
遠藤理緒:卒業できたっていうか、卒業させられたっていうか。
上寺:まぁ、実質追い出されたようなもんですけどね。
古池留々:いいじゃん、単位とか出席日数とか本当は色々ヤバかったし。妥協点としてはアリなんじゃない?
佐村美衣:三年を飛び級扱いでしょ? まぁ字面だけ見ればカッコいい気がしないでもない。
古池:そうそう! だってフツーに考えたら退学モンじゃん、あたしたち。それを学校のお墨付きで卒業させてくれるなんて、むしろラッキーって感じ。
遠藤:留々は特にね。
古池:なんだよー! そっちだって派手にやらかしたじゃん。
遠藤:誰のせいだよ! 私の脚返せ!
古池:じゃあそっちの腕と交換しろー。
上寺:またすぐ……最後ぐらい仲良くしようよ。
古池:いやいや、仲良いよー。もう、一緒に死にたいくらい。
遠藤:ウザっ。
古池:んだよー、連れないなあ。
佐村:二人の喧嘩も見納めと思うと、寂しい気がするね。留々ちゃん、北海道行っちゃうんでしょ?
古池:そう、富良野に行くの! 魅惑の大地に抱かれて、キツネさんたちにお迎えしてもらうのだ。
遠藤:クマに喰われろ。トドに喰われろ。ワシに喰われろ。
佐村:理緒ちゃん……。
上寺:いいよね、北海道。涼しそうで。私、夏場乗り切る自信ないからなぁ…。
遠藤:なんだよ、一番無事そうじゃん。上寺は長生き筆頭だと思うけどな。
上寺:どうかなー。中身は相当ガタきてるよ。最近防臭剤も効き目今イチだし……なんか確実にダメんなってる。佐村さん、大学の研究室行くんでしょ? 何か成果があることを期待したいんだけど。
佐村:いやいや、私、どちらかというと被験者扱いだから。意外と早くに切り刻まれるかもね。
遠藤:マジ?
佐村:マジ。それでも大学入れて、結果残して、謝礼も出るってんだから、親孝行としてはそれなりの選択かなーと。
古池:はー、さすが秀才。社会の役にたっっちゃうんだ。
遠藤:留々は自然に帰るだけだしな。
古池:エコっていってよエコ!
上寺:遠藤さんは? 進路希望出したでしょ?
遠藤:ああ、あれ? とりあえず進路欄に〝土葬〟って書いといた。
古池:うおーい!
遠藤:しゃあないじゃん。就職は出来そうにもないし、進学なんてもっての他。
古池:ニートだニート!
遠藤:お前もだろ! まぁ、周囲に迷惑かけたくないしな。旅にでも出て、どこかでのたれ死にでもするさ。
佐村:その足で?
遠藤:いやほら私、元々、脚、悪かったじゃん。障害者手帳がまだ生きてるんで、それなりに動くアテはあるし。まぁダメとなったら、その場でくたばるのも悪かない。
古池:寂しいこと言うなよー。だったら北海道おいでよ。うち、泊めたげるから。
遠藤:ヤだよ。クリオネに喰われたくない。
古池:喰われないよ!
上寺:はは、いいね。旅、私もしようかな。
佐村:睦実ちゃんは? 実家手伝うんだっけ?
上寺:いやあ、自営業だから。ただでさえ風評被害あるのに、店先に出たら色々ヤバいこと言われそう。
佐村:客商売はバイトでも一悶着あったからねえ…。
古池:うち、くる?
上寺:ありがと。でもコロボックルに喰べられたくないから。
古池:喰べないよ! つか、いないよ!!
佐村:ゾンビがいるんだから意外と何でもアリな可能性も…。
古池:そこ、くいつかないでよ!
遠藤:上寺ならさ、美人だし、意外とメディア受けいいんじゃないか? 沙羅じゃないけど、アイドルとかでもけっこうイケそうだぜ。
上寺:いやいや、さすがに勘弁でしょ。あんな事件あって、一部じゃすっかり顔割れてるわけだし。
古池:あれ? 無かったことになってんじゃないの?
佐村:表向き。ネット探れば、あること無いこと含めてなんぼでも出てくる。
上寺:実名つきでね。
遠藤:笑えないよな。隠されるのもアレだけど、知りもしないでいい加減なコト書かれてんの見ると、本当ムカつく。いつか喰うぞ、てめえらって。
佐村:あおってどうすんの。あ、ここオフレコで。
遠藤:いいよそのまんまで。隠すな隠すな。
古池:せっかく今までも何度も取材とか入ってんのにねー。けっこう削除されたり、修正されたり、扱いヒドいの。『メディアトップ』だっけ? アレなんかだと、あたし、家のペットに噛み付いたことになってるんだよ!
佐村:アレ? 違うの?
古池:ほらァ!! ふざけて尻尾を甘噛みしただけだっつーの!
遠藤:当たらずとも遠からずじゃんかよ。
古池:違うよ! 行間読んでよ!
上寺:やっぱり人のフィルター通すと正確に伝わりにくいよね。それでなくとも、ゾンビの気持ちなんてなかなかわかってもらえないわけだし……うん、やっぱりやろうかな。
佐村:何を?
上寺:ちょっと、もの書いてみようかと思う。
古池:おおーっ。
佐村:いいね。小説? エッセイ?
上寺:まだ具体的には。でも、みんなのこと、誰かがちゃんとした形で記録に残すのって、大事かなって……あ、でも期待しないでよ! 私、日記もろくに書いたこと無いんだから!
佐村:生の声っぽくていいじゃん。賛成!
遠藤:ネットなら、検閲も入らないしな。
上寺:多分だけど、私たちの他にもゾンビっていると思うの。それこそえらい人に隠されて、声もあげられない人たちがたくさん。私たち、たまたまクラス全員がゾンビになっちゃたから、こうやって表に出してもらえてるだけなのかもしれないし……それって、なんか寂しいよね。
佐村:全国のゾンビの力になれるかもしれないってこと?
上寺:そこまで大層なことはできないと思う。でも、私たち、二十三人だからちゃんとゾンビやっていけたんだよね。仲間がいるから、ゾンビでも大丈夫だったんだよね。
遠藤:そりゃ、まあ。
古池:ねぇ。
上寺:だったら、他のゾンビさんにも私たちのこと知ってほしい。仲間がいれば、胸張ってゾンビやっていけるんだって、そういうことを知ってほしいの。
佐村:睦実ちゃん…。
上寺:ダメかな? 理想論すぎる?
佐村:いやいや、睦実ちゃんらしいなあって。うん、いいと思うよ。
古池:私も協力していい? ネットなら富良野からでも大丈夫だし!
遠藤:あんた、作文超ド下手じゃん。メールとか誤変換無い方が珍しい。
古池:だったら理緒に送るから直してよ!
遠藤:なんで私が……まぁいいけど。
古池:ツンデレかよ! へへへ、でもよろしくー。
佐村:みんなの家族に頼んで、日記とかあれば見せてもらうのもいいんじゃない? 可能ならメールとか、写真とか……確か耶楚っちゃん、けっこう書き溜めてるって聞いたことある。
上寺:ほんと? 助かる! 私、メールほとんどやらないんで、けっこう細かい日付とかわかんないし。
古池:そりゃダメだよ。これからバンバンメールするんだから。
上寺:そっか。がんばる。
遠藤:こいつの誤変換、本気でヤバいぞ。絵文字かと思ったら素で入力ミスだったなんてこと日常茶飯事だぞ。
上寺:それも、がんばる。
古池:私もがんばる。
佐村:先は長そうだ。
遠藤:私もさ、適当にふらふらするつもりだったけど、地方のゾンビとか探すのも悪くないかもね。現地情報とか、存外役に立てるかもしんないし。
上寺:ありがとう。でも、脚、無理しないで。
遠藤:無理したいんだからいいんじゃね? 目標があるなら、その方が絶対楽しい。
佐村:やる気でてきたね。なんか面白くなってきた。
古池:いいねー。みんなで睦実ちゃんのゾンビ録をヒットさせて、目指すは全国、いや、世界ゾンビコミュの誕生だ!
上寺:ヤバ、責任重大。でも、まあ、みんな……ありがとう。正直、自身はないんだけど、やる気だけはモリモリ出てきました。うん、残された時間、凄い意義出てきた感じ……あ……あれ……。
佐村:睦実ちゃん……?
上寺:あ、ごめん、ごめんね。……あはは、やることが見つかって、なんかホッとしちゃったのかな……なんか、ちょっと、涙出てきた。おかしいね、死んでも、泣くなんてね。
佐村:……ん。
遠藤:ま、卒業に涙はつきモンだ。
上寺:泣くつもりなかったのに……笑って、笑ってお別れするつもりだったのに……あはは、ダメだ。泣いちゃうよ。ごめんね。でも、私、凄い嬉しいんだよ。泣くぐらい寂しいのに、心の中は凄い嬉しいんだよ。それこそ、死んで初めてぐらいに……。
古池:……。
上寺:だって、だって、みんなと一緒だったから……今ここに残ったみんなも、いなくなっちゃったみんなも……一緒に死んで、それでもずっと一緒だったから……。
佐村:……うん。
上寺:今ね、ここでね、“未来”を話せることが…………凄い……凄い、嬉しいんだよ。
古池:……。
遠藤:……だな。
佐村:……そうだよ。当たり前だよ。私も……ヤバいね。睦実ちゃん泣くなら、私も泣くね。
遠藤:死んでも、前を向いていられるんだから。嬉しくて悲しい。いいんじゃねーか。
古池:あはは、理緒まで涙ぐんでら。
遠藤:うるせーよこの冷血漢……って、留々もボロ泣きじゃねーか。
古池:泣いてるんじゃないよ。腐れ汁が目からこぼれてるんだよ。
佐村:はは、ずいぶんキレイな腐れ汁だ。
上寺:うん、そうだね。いいね。それじゃ……みんなで……一緒に泣いちゃおっか。
*****
全員:(号泣)
*****
古池:ふーい、スッキリ。
遠藤:泣くかなー。雰囲気だけでここまで泣くかなー、自分……。
古池:理緒の泣き顔、バッチリいただきましたー。
遠藤:てめ、こら、留々! いつのまに写真……くぉらあ!!
古池:さっそく睦実ちゃんに送っとくねー。
上寺:あはは、いただきまーす。
遠藤:うぉぉぉぉぉお。
佐村:いいじゃないの。むしろ泣けるって、幸せなんじゃない? 嬉しくて泣けるなんて、うん、私たちは幸せ。すごい幸せ。こうしてさ、生きてた証を、死んでも残せるなんて……。
上寺:そうだね。生きてる人には絶対かなえられない、私たちだけの、幸せだ。
古池:ハッピーゾンビライフ。いいねー。
上寺:うん……ありがとね。ありがとう、みんな。
佐村:こちらこそ!
古池:ホント、みんなね。二年三組のみんな、ね。大好きだよ。ありがと!
遠藤:……ん。だな。
上寺:よし! やるぞ! ゾンビにしかできないこと、やるぞー! ハッピーライフゾンビ、がんばろー!
全員:おー!
上寺:うん。こりゃあ、みんな、しばらく死ねないね。
遠藤古池佐村:死んでるって!
*****
(本文検閲済)