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好き、嫌い、好き

作者: 安浦

私って結構可愛い。


物心ついたときにはすでに可愛いと言われ育ってきた私。


気が付けば、可愛いって思われることが当たり前だと思って生きていた。


勘違い野郎なんかじゃなくて、普通にみんな私を可愛いって思っていて、男子なんて、私がわざわざ告白してあげてるんだから絶対断られないものだと信じて疑わなかった。


だから…告白は私にとって勇気振り絞るなんてそんな大それたもんじゃない。


彼氏彼女になったと確信するための儀式の一つにしかすぎないはずなのに。


と!!この告白するまではそう思っていたんだ。



「対馬と付き合えたらなって思って…」


得意技の上目遣い。

大きな瞳をパチパチさせて恥じらう雰囲気を醸し出す。


対馬聖也も簡単でしょ?ちょっとやんちゃグループにいるからって、普通の男子と一緒でしょ?


「…どうかな?」


ほら、対馬。

早く返事してよ。


そう心の声が出そうなほど気まずい空気が流れていた。


「対馬?」


私は長い髪を掻きあげながら、対馬の顔を覗き込んだ。


すると対馬は…。


「ちょっ!マジ本当勘弁だから!てか、ウケる…」


は…!?


対馬はお腹を抱えて必死に笑いを堪えていた。


私はそんな態度に一瞬唖然としたけれど、すぐに怒りがこの上ないほど混みあがってきて、ぶりっこキャラはいつ崩壊されてもおかしくない状態になっていた。


「対馬…?何それ…」


「あー本当腹いてぇ。マジ笑えるわ」


ムカつく。ムカつく。ムカつくってんだよーー!!!


私の頭の中でムカつくという言葉がエンドレスで流れていた。


「いや。ないでしょ?ないない!江藤はない」


「ちょっと対馬!黙って聞いてれば…あんたすごく失礼じゃない?!」


私はもうそのままの江藤愛菜が出てきて、対馬に抗議をしていた。


だけど、対馬は笑って言ったんだ。


「江藤みたいに自分のこと可愛いって思ってるような女、大嫌いなの」


「は…!?」


「それにさぁ…」


それにってまだあるのかよ…私はすでに大きなダメージを受けたが、まだ続きがあることに、震える足をしっかりと支えることに必死だった。


「江藤の性格の悪さって顔からにじみ出てるし」


せ…性格悪いだと!?


これまで面と向かって悪口言われたことが今までにあっただろうか?


「江藤のこと可愛いっていうやつ、相当見る目ないなって思ってたけど、まぁ…」


「な、何よ?」


まだダメージを受けるのかと私はとっさに目を閉じてしまった。


「お前は見る目あると思うよ?」


その後、私はしばらく立ち尽くしていたように思うが、あまりのショックに立ち直れずにいた。


最後に対馬が去って行ったときの笑顔が頭から離れなかった。


その告白をしたのが、高校二年生の時。


それから一年たった今でも、あの時の対馬の顔はくっきりと褪せることなく、私の頭にこびりついていたままだ。




高校3年生になって、気持ち悪いことに対馬と同じクラスになっていた。


絶対に喋るものかと堅く誓っていたものの、席替えで隣の席になってからは簡単に誓いを裏切ることになっていた。




「江藤、教科書忘れたから見せて」


私の気持ちなんて、対馬は何も分かっちゃいないんだ。


私は無言で、対馬を睨み付けながら雑に教科書を置いた。


対馬はそんな私を見て、少しだけ面白がっているように見えて、私は更に苛つくばかりだ。


「はい、32ページだって」


そう言いながら、頬杖をついてページをめくる対馬を私はただ眺めていた。


左耳には4つもピアスの穴があいていて、光に反射して眩しかった。


私は、こんなやんちゃグループにいる対馬なんかになぜ告白しようと思ったのだろう。


付き合いたいと思っていなければ告白なんかするわけない。


あの頃の私は、単純に対馬が好きだった…?


「あー…ムカつく…」


私はボソッと呟いた。


「何だよ。俺?」


「…何でもない」


対馬には何一つ自分の気持ちを悟られたくなかった。


「じゃあじっと見てんなよ」


「は!?見てないし」


対馬は嫌い。大嫌い。


あんな告白は人生の汚点なんだ。


なのに、あの頃からずっと変わらずに対馬を目で追って、気にしてる自分が一番ウザったくてしょうがない。




「愛菜ー。帰ろうよ」


放課後、私は友達の美沙と帰宅するところだった。


「美沙今日もバイト?」


「うん。そうだよー。あ、バイト先で愛菜と撮ったプリクラ見せたら愛菜のこと紹介してほしいって言われたんだけど。どうする?」


「あー…」


ほら。

私はやっぱり可愛いの。


可愛いんだから、いい加減対馬ごときに振り回されてる場合じゃない。


「うん!いいよ」


私はぶりっこ笑顔で引き受けた。


「じゃあ言っとくね」


「よろしくー…あ!携帯机の中入れっぱなしだ!」


私は忘れ物に気付き、教室に戻ることにした。


「美沙、先帰ってて」


私はそう言って、教室に小走りで向かった。


人も少なく、私のパタパタとした足音がやけに響いて聞こえていた。


教室に着くと、対馬率いるやんちゃグループ三人が対馬の机周辺にいた。


私の椅子も、残念ながら使用されていて、そんな些細なことでさえ対馬絡みなら腹が立ってくるのはなぜだろうか。


「あ、江藤。忘れ物?」


対馬の他にもいるものだから咄嗟に私は笑顔を作った。


「携帯忘れちゃって」


私は急いで携帯を机から探し出す。


「江藤さんって彼氏いるの?」


対馬率いるやんちゃグループその1、森は突然そんなことを言い始めた。


「え!?い、いないよ」


対馬の前でそんな話をしたくないのに、森はペラペラと喋っていた。


チラッと対馬を見ると鼻で笑って、人を小馬鹿にしているように見えて、やっぱり…ムカつく!!


「好きな人くらいいるで…」

「いない!そんなんいないから!」


私は森の言葉を上から被せるように強く否定をした。


今でも対馬を好きだと思われたら、あまりに自分が可哀想すぎる。


私の強気な口調に森は若干驚いていたかもしれない。


「えー。嘘でしょ?可愛いのに勿体無い」


ほら。

対馬も聞いたでしょ?

私、可愛いって。


だけど対馬は笑って言ったんだ。


「可愛さの無駄遣い。だよな?」

「は!?ちょっと…!」


私は、対馬の他にも人がいることにはっとして、無理矢理笑顔を作った。


「…私、帰るね。また明日…」


この場から逃げたくて仕方がなかった。


本当、対馬なんて嫌いだ。

何で私は…。

対馬に嫌われてるんだろう…?




翌朝、私はモヤモヤした気持ちのまま学校に向かう。


それでも隣を向けば対馬がいる。


私は何だか疲れて、机に顔を伏せていた。


昨日の夜はよく眠れなかったせいか、突然睡魔が襲ってきて、うとうとしていた。


あぁ。何だか心地よい気分だ。


夢見心地のまま少しずつ目を開けると、目の前には対馬がいた。


「つ…!しま…!!」


私は驚いて、椅子をガタッと思い切り後ろに引いた。


その音と私の声とで一瞬教室がしんと静まり返った。


「江藤どうしたの?具合でも悪いのかよ」


「え!?な、何で…」


「江藤が寝てるなんて珍しいと思って。保健室行くか?」


対馬が私を心配そうに見ている。


何だろう。

何で嬉しい気持ちになるの。


「ほら。行くぞ」


対馬に促されるまま、私は教室を出て、対馬の少し後ろを歩く。


対馬と2人で歩いてるなんて信じられない。


窓ガラスに写る自分の姿を見てひいてしまいそうなくらい浮ついた表情の私。


ダメだダメダメ。

見込みないやつにまた再アタック出来るほど打たれ強くなんかない。


「対馬、私大丈夫だよ。1人で保健室行けるから」


強気な自分と弱気な自分が行ったり来たりしていて本当に疲れる…。


「ね?」


「…江藤さぁ…」


そう言って、対馬は少しずつ私に近付いてきた。


「な…何…」


対馬は私の髪の毛を触った。


「ゴミついてるけど。はい、取った」


対馬は…バカなの?


私を見て、きっと対馬にバレてしまう。


「…え?江藤?…マジで?」


今、私の顔はヤバい。

絶対に見ないでほしいのに。


見ればすぐに気付かれる。私の気持ちは顔に書いてあるようなものじゃない。


「だから、大丈夫だって言ったじゃん!」


私の精一杯の強がり。

ただその場から走って逃げるしか出来なかった。




その日一日は、何だか調子を狂わされてばかりだった。

放課後になっても対馬を見ることも上手に出来ないまま。


対馬如きに苦戦してる場合じゃないのに。


「愛菜ー。帰ろうよー」


今日も美沙がやって来る。


「紹介の話!伝えといたよ!日にちは愛菜の都合に合わせるって」

「…紹介?…あぁ。紹介ね…」


私はそんな口約束はすっかり忘れていて、今はそれどころではなかった。


「でね…あ、ごめんなさい」


美沙は話に夢中で、カバンが対馬の肩にあたってしまった。


対馬と目が合う。


「美沙、帰ろう?」


何だか気まずい。


じっと対馬を見てみても、対馬はちっとも私を見てなんかいない。


少しでもいいから…私のこと見てみろ。

対馬のばか…。


「何だよ?」


「…え…?」


私の心の声が届いたのか、対馬が私に言った。


「何?」


今の私は、頭で考えるより、心が動く。


だから…勝手に体が動くの。


「対馬来て」


私は対馬の腕をガッチリと掴んで言った。


「ごめん美沙。先帰ってていいよ」


私は美沙にそう伝え、半ば強引に対馬の腕を引っ張って連れ出した。


バカなのは私の方かもしれない。


緊張して手や足が震える。

少しでも隙をみせたらきっと対馬はまた私を笑うに決まっている。


だから、ちゃんとしなきゃ。



私は誰もいない空き教室に対馬を連れ込んだ。


そんな全力で走ったわけでもないのに息切れがする。

苦しくて、たまらない。


対馬を見ると、いつだって苦しかったんだ。


「お前、見かけによらず積極的だな」


もしかしたら対馬は私を嘲笑っているのかもしれない。


だけど…。


「…対馬が私を嫌いでも、私は対馬が好き…!」


私は、しっかりと対馬の顔を見て言わなきゃ意味がない。


「一回ふられてるし、無理なのもわかってる…だけど…やっぱり私!」

「うん。やっぱ江藤見る目あると思う」


対馬は私の言葉を遮って小さく笑って言った。


「俺、自分のこと可愛いって勘違いしてるような女、嫌い。だけど…」


私に望みなんてあるのだろうか?


「こうやって、自分の気持ち言ってくれるような人は好きだよ」


初めて告白したときは、心は木っ端みじんになってふられた。


「江藤さぁ、お前顔は可愛いんだから勿体ねぇんだよ」


対馬なんかって思い続けて、目で追って、もっと好きになって、自分のドM具合にひいたりなんてして。


「初めからそう言ってくれてればよかったんだよ」


対馬の手が私に優しく触れる。抱き寄せてくれる。

対馬の目が私を受け入れてくれている。


ちょうどわたしのおでこのあたりに対馬のピアスがあって、ゴツゴツしていて変な感じだ。


「あ、ちゃんと紹介断れよ?」

「何で知って…!」


そして、私と対馬はキスをする。


あぁ。やっと対馬が私を見てくれた。


簡単だと思った相手は、実は手強かった。


好きになりすぎて、なかなか離れられなくて。


そんな対馬には私はきっと、ずっと適わないのかもしれない。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

今までで一番長い短編になりました。


一度ふられて、また告白するのは勇気ある行動かと思います!!

これからも恋愛短編を書きたいなぁと思っているので、感想などありましたらどうか教えてください!!


ありがとうございました!

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