第7話 邂逅
街から少しばかり離れた岩陰でロイドたちはトレーラーを降りる。
「それじゃーね。今度会ったらお金次第でどこにでも運んであげるわ」
そう言って投げキッスと共にクレアは去って行った。そのまま街に入るのだろう。ロイドの目には壁の中へとゲートをくぐって入って行くトレーラーが見えていた。
「最悪な女でした」
トレーラーが見えなくなってからリノアが吐き捨てるように言う。
「まあまあ、無事だったんだから良いじゃない」
「よくありません。死んでたらどうするんですか」
「死んでないから良いではござらんかリノア殿~。そんなことより拙者腹が減ったでござる。ロイド殿~、なにか食べに行こうでござるよ~」
「そうは言われてもあんまり期待できないよ。ここらへん、あまりいい食材ないから。それに、ここでは足探すくらいだよ。ただでさえ、こいつ目立つんだからさ」
そう言って背後に停めているヴィクセンを叩く。白銀のクランカーなんてものは酷く目立つ。それが見たこともない型となれば更に目立つ。
ただでさえ追われているのだから、目立たないようにしなければならない。そのためには移動手段とカモフラージュが必要だ。右腕の修理もあるので、ついでに追加装甲を上からかぶせたりして既存の機体に近づけようとロイドは思っていた。
「だから、まずは修理屋。すぐに修理してもらってついでに改修もやってもらっちゃおう」
「でも、お父さん。お金は?」
クランカーの修理屋で手伝いとして働いていたアンナはクランカーの修理が非常に金がかかることだとしっている。その上、改修まで行うとすればその出費はかなりのものになるだろうことは想像に難くない。アンナはその具体的な額を知っている。
着の身着のまま出てきてクレジットなんて持っていない。だからどうするのかとアンナはロイドに聞いた。
「大丈夫だよ。盗賊さんたちの所でちょっともらってきたから」
そう言って彼が見せるのは札束の山。この惑星で使われるシステムにより発行されたクレジット貨、
「それ使えないでしょお父さん。ここと、ここ、少しズレてるし。偽物だよ」
の偽造ものである。いったいいつの間にとってきたのやら端から見ていたリノアは呆れたように溜め息を吐いた。
「いや、これでいいんだよ。だって、壁の中じゃ使うわけじゃないからね」
「え?」
「ほら、見てみ」
岩陰から顔を出したその先に広がっているのは壁に群がるように立ち並ぶ建物群だった。壁の向こうに見える理路整然とした高層ビルディングの清潔そうな街並みとは異なる汚れて埃っぽく猥雑な街並みが広がっていた。
街に住めない者たちが形成した街だ。スラムとも言う。街に住むにはバグズのような裏に力を持った組織のボスが支配しているようなメランと言う例外を除けばシステムによって発行されたIDが必要だ。
本来であれば誕生時にシステムに登録されると同時に支給されるIDであるが、人類が統治する都市でさ弾められた都市法違反など何らかの理由によってそれを失ったり、そういう人種の子供で元から持っていない者たちが少なからずいる。
そんな者たちが生きる為に街に縋りついた結果都市外周にあのようなスラムが出来たのだ。クレジットは壁の内側でしか使えない。そういうわけで、外で使える通貨が作られた。偽造クレジットはそのうちの一つというわけだ。
正確に言えば、元々は都市内で使おうとしたものだが、システムを欺けるはずがなく簡単にバレてしまったもののなれの果て。使い勝手の良い紙幣であるから外では割合人気の貨幣だ。
その他、袋の中には偽造クレジットだけでなく別種の通貨もある。紙束ではなく螺子だとかそういうもの、あるいはクランカーから引っぺがした装甲板なんてものもあった。それらすべてが外で使える貨幣だ。
「おお、結構でござるなぁ。ロイドどの~お小遣いちょうだーいでござる~」
「はいはい、並んで並んで」
「ああ、お父さんからのお小遣い! いつもわたしがあげてたのに。こんな日が来るなんて。わたし生きててよかった!」
お小遣いを受け取ってはしゃぐサムライと涙ぐむ少女。
「…………」
それを心底呆れた顔で見ているリノア。
「ん? どうしたのリノアにもあげるよ?」
そう言っていくらかの紙幣を差し出した。リノアはそれを引っ手繰る様にして取って行った。
「……さて、それじゃあ僕は、修理屋に行ってくるよ。ヤマモトとリノアは、修理屋呼んでくるまで――」
「それじゃ、行ってくるでござるー」
ヤマモトは既に突撃して行っていた。
「早っ。……じゃあ、リノア、しばらくここ頼める? そのあとは僕が見張りするから遊びに行っていいよ」
「はあ、仕方ありません。その代り、早く戻ってきてくださいね」
「了解。アンナも良い子にして待っててね」
「うん、リノアさんとおしゃべりしながら待ってる」
ロイドは貨幣が入っている袋を背負ってスラムへと向かう。砂と埃っぽい、雑多な通りのようなものに入る。通りと言っても、建物を作っていてその隙間に道のようなものが出来上がったと言った風情だ。
左右はまるで挟まれるかのように斜めやら凄まじい角度に傾いた店がたちならんでいる。錆びや埃の臭いが鼻につく。
どこを見ても繁盛しているようには見えない上に、すれ違う奴らはどいつもこいつも目をギラギラとさせている。嫌な視線だ。
子供のように小柄なロイドを見て、丁度良い鴨だと思っているのだろう。
(相変わらず、外ってのは危険だなぁ。本当、アンナを連れて来たくないなぁ)
「――ん?」
と、そんなことを考えていると、進行方向を遮られる。屈強な男が三人ほど明らかにゴロツキとわかる連中だ。筋骨隆々で己が肉体の身を武器としていますよとでも言わんばかりであるが、これ見よがしに高周波ナイフやエネルギー充填弾倉式拳銃を見せつけてきている。
どうやら見慣れない顔のロイドを鴨ろうという腹らしい。にやにやと下卑た笑みを浮かべて、避けようとすればそちらに移動して断固として通さないようだ。
慣れているのかその動きに淀みはなくごく自然に相手の動きを先読みして絶妙な位置にその大きな体を置いていく。それが三人。普通ならば、そこで声をあげるのだろうがロイドとしてはそれすらも面倒くさかった。
ただこのまま無視し続けても助けは来ない。スラムに警邏などという治安維持機構は存在しない。ここには方がなく、全てが自己責任の下に自由がある。ここで物を言うのは、力。だから目の前のごろつき共は通せんぼしつつ武器をひけらかして来ている。
あちらから物を言わないのは、そっちから言って来たと言って逃げるのを防ぐ為。簡単に言ってしまえばお前から話しかけてきたんだから逃げるなよ、と言うために黙ってにやにやとしながら進行方向を塞いでいるのだ。
左右の店の連中も、通りを歩く連中もまたあいつらかと、見慣れたものだという表情。果てには、ロイドとゴロツキで、どうなるかの賭けが行われている。
一番人気は、ゴロツキが少年を倒すというもの。どこから金属の台座が持って来られてそこに賭け金が乗せられている。
もちろん誰もかけてないのは、少年がゴロツキを倒すというもの。まあ、そうだろう。見た目にして大人と子供だ。
片や筋骨隆々の三人組、片やほそっこい子供のような外見のロイド。片や武装している。片や武装していないように見える。
これだけでも勝敗は決まっているようなものなのだから。ロイドは肩を落としつつ嘆息して、
「はあ、あまり騒ぎは起こしたくないんだよね。で、何? 鬱陶しいんだけど?」
「へへへ、決まってんだろ?」
真ん中に立っているリーダー格らしき男が答える。下卑た笑い。更に、臀部に駆け巡る舐めるような視線。
あまり感じたくない類の危険を感じつつ、
「欲しいのはなに、金? それとも、僕かな?」
「話がはええじゃねえの」
「はあ、そういう手合いとはあまり関わり合いになりたくないんだよね。子供の教育に悪いし。……はあ、仕方ない。どうせ面倒になるならっと」
ロイドは背負っていた袋を近くで賭け金を置いている台座に投げる。中から出る金、金、金! 賭け参加者の顔色が変わった。
「胴元? 全部、自分に賭けるよ」
その声に野次馬が集まってきて沸き立つ。野次馬たちは、口々に三人組にのしてやれだの、坊ちゃん頑張れだの野次を飛ばす。
いつの間にか、よくわからないうちに賭け試合の様相を呈してきたが、長引かせる気も楽しませる気もない。ゆえに、ロイドは即行で終わらせる。
一瞬で、三人を地面に分投げ、顎を軽く殴って脳を揺らす。それで終了。一瞬の早業に沸き立つ暇もない。だが、結果を認識して、嘆きの声が連鎖し、勝った連中は割れんばかりの歓声を上げる。結果としてロイドの持っていた袋は倍以上に膨れた。
数少ない買った連中は、また頼むぜ? と言ってロイドの肩を叩いて上機嫌で酒場へと入って行っていた。どうせ、すぐなくなるだろう。
「いや~、流石でござるな~。拙者も稼がせてもらったでござる~」
その中にはヤマモトもいた。
「お前なぁ」
「やっぱり持つべき者は利用できる親友でござるなぁ。この調子で次も頼むでござるよぉ~」
そう言ってまた遊びに行った。女と酒を飲んで遊べる店だ。ちなみに、はしごしているらしく三件目だとか。金がなくなったらそこらのチンピラに勝負吹っ掛けて感染者特有の身体能力の高さを活かして稼いでいたらしい。
ロイドといては色々と言いたいことがあったのだが、言おうとしたときには既にいない。
「やれやれ」
そう言いながらロイドは賭けの胴元についでとばかりに聞いておいた修理屋への前へとやって来た。ごみ山に半ば埋まるようにガレージそのままの店を構えている修理屋。近づけば錆や埃、油の臭いが外にいても漂ってくる。
しかし、仕事をしているような音は聞こえてこない。スラムでは重宝される修理屋だが、ここはあまり繁盛しているようには見えない。だが、
「うん、良いね」
修理屋の入り口であるガレージの扉が音もなくするりと開くのを見てロイドはそう言った。どこもかしこも扉があればそこには錆びついていて古臭い為の軋みが常に伴う。
だが、この修理屋の入り口は音もなく開いた。良く手入れされている証拠だ。これでわかることは、ここの主人がしっかりと仕事をするということ。こういう細かいこともしっかりとする者だということだ。総じてそういう者らは腕もいい。どうやら良い修理屋のようだ。
「すみません」
そう言って中に足を踏み入れる。そこを表す言葉は二言だった。まず乱雑。そして、整然。本来、これら二つが並び立つことはありえないことで、明らかに矛盾しているがロイドが感じたのはその二言だった。
工具類が乱雑に散乱しているようみ見えるし、部品なども放りっぱなしに見える。だが、おそらくはここの主にとってはそれでいいのだろう。整然とこれで片付いているのだ。
用が在れば来いとでも言うように開けられた道を通って奥へと進む。そこには、偏屈そうな昆虫族の老人が金属の箱を組み合わせた椅子に座っていた。
「内容は」
その老人は無駄な話などする気はないとばかりにここまで来たのならば客なのだろう、さっさと仕事の内容を話せとばかりにただ一言そう言った。こういう職人気質なところも評価は高い。
「スラムの外の岩陰に一機、クランカーが止めてある。それが普通の機体に見えるように装甲で覆ってほしいんだ。あとは、右腕が潰れているからそれの修理を」
「その半分をいれて戻っていろ、あとで直せる奴を向かわせる」
そう言って隣の箱を指さす。覗いてみればそこには貨幣が無造作に詰め込まれている。そこに入れろというのだろう。
袋の中の半分と少しだけ多めに入れて、ロイドは頼みますとだけ言って修理屋をあとにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ヴィクセンを停めた場所に戻り、リノアとアンナと見張りを交代してからしばらくして、一台の作業用トレーラーがやって来た。
そこから降りてきたのは作業服のツナギの上半身部分を腰に巻いてゴーグルをつけた少女だ。昆虫族特有のすらりとした多節構造の四本腕が、ノースリーブの黒いインナーによって惜し気もなくさらされている。
その腕は職人のそれだ。少女らしいすべすべとした質感は多少はあれど、ところどころが油で黒ずんでいるし、日焼けや火傷の跡も多い。
指は節くれだっている上に、一本小指が欠けている。それ以外にも傷跡が多くまさに職人の手といったところ。年若いようだが、経験は積んでいそうな彼女はヴィクセンを見て感嘆の声を上げた。
「おっぉー! こんなクランカーボク初めてみた。すっごいなぁ。どこのだろ? 純正オーダーメイドってわけじゃなさそうだなぁ。どこにも癖なんてないし。これ、もしかしてエネルギーコーティング済み? うわぁ、これロステクだよ。遺跡でしか見つからないような技術が使われてるなんて、うぅ、これいじれるんだぁ。ボク生きてて良かったぁ。
っとっと、いけないいけない。これじゃ、またお爺ちゃんに怒られちゃう。
えっと、ええっと、えっと、あ、ああああ、ああの、ええと、は、ハハ、ハ、ハインツ修理店ででで、す。ご、ごい、ごひ、ごひゅ、はあ、はあ、はあ、ご、ごごごご、ご依頼のと、ととと、おり、き、来ました~」
何やらトリップしかけていたが、我に返った彼女は、前髪に隠した複眼じみた両の目を盛大に泳がせて、ひたすら土盛りながらロイドに向けてからぺこりと頭を下げる。
先ほどまで饒舌に喋っていたのだが、ロイドを視界にとらえて話そうとした途端、目が泳ぎ出してどもりだした。緊張しているのかがちがちだ。どうやら人見知りであるらしい。
「えっと、君が直すの?」
そんなことはどうでもいいので、とりあえずロイドはそう問う。
「は、ははは、はい! は、ハインツ修理店のて、て店長、のみミリィで、で、す」
「え? 君が店長?」
あのお爺さんが店長かと思っていたのだが、違ったのか。
「え、えっと、そ、その、あ、あの、ぼ、ボク、こ、こ、こんな、だ、だから、う、受付のひ、人、です」
「…………」
それにしては、偉くそれっぽい人だったな、とロイドは先ほどあった爺さんを思い返す。
「あ、あの、わ、わかい、の、のえっと、だ、駄目?」
「いいや、君に不満があるわけじゃないと。綺麗な職人の腕をしてるからね。頼むよ」
「え、ああ、ああ、あああり、ありが、ありがと、う、ご、ござい、ます。そ、それ、とこ、これ」
どもりながら、緊張で手を震わせながら、彼女は腰の工具ホルダーにひっかけていた袋をおずおずとロイドに渡す。
中身は、修理屋で少し多めに入れた分の金だった。
「これは……」
「お、おおい、ぶ、ぶん」
「別に良かったのに」
「だ、ダメ。しょ、職人の腕、き、きちんとて、適正価格、あ、ある。ボ、ボクたちのう、腕は安くないけど、た、高くもな、ないか、ら」
「さすがは職人というべきかな。わかったよ。じゃあ、さっそく初めてもらってもいいかな?」
「は、はい、す、すぐに、や、やる。ま、待って、て」
そう言って彼女はヴィクセンへと向かう。そこにいたのは先ほどまでロイドを前にしておどおどとしている少女はいなかった。そこにいたのは職人だった。
まずは、右腕の修理から。内部システムをミリィが確認して、既存のパーツとの親和性を確かめて、整合性の合う、元の運動性能に合致してシステム的に違和感のないパーツを厳選していく。
「えっと、ライデンシャフト・レーベンあたりが質実剛健で良いだけど、ちょっとバランスが悪くなる。えっと? 潰れるてるってことは、それだけ丈夫な方が良い、けど……I3とGGAは強度的に無理になっちゃう。流線型とか良さげで、バランスも良いのに。
だったら、やっぱり森崎重工かな。運動パラメーター見てから確定だけど。えっと、設定されているパラメーターはっと? えっと……ここが1で、こっちが2? こっちは0だからええっと、もしかして、これ近接寄りの遠近両用の設定? ……凄い」
そう言いながら作業工程が決まったのか、作業用トレーラーを操作してクレーンを出して、積んであった腕パーツをヴィクセンの右腕の位置へと持っていく。
そこでクレーンを止めて、工具ホルダーからいくつかの工具を取り出して腕に持って、巨大なボルトやナットをきゅるきゅると回していく。体重を使って回しては、別のボルトへ移動して回すのを繰り返す。徐々に徐々に固定する。
その作業速度は常人の倍以上だ。二本の腕でボルトやナットを回していくのに並行してもう二本の腕が淀みなく動いて、配線をつなぎ合わせ所定の位置に納めてクランカーの骨とも呼べる部位を繋げていく。
ものの数時間で見事にヴィクセンの右腕は復活を遂げる。そのあとは、コックピットに入り込んでシステム周りを繋げて終了だ。
「よし、こんな感じかな。えっと、次はー、追加装甲だっけ。勿体ない。せっかく綺麗な機体なのに」
「目立って仕方ないからね」
「うぁ、あ、え、えっと、えっと、あ、あの、目立っても、良い、の、では?」
「いやいや、色々と困るんだよ」
「そ、そう、です、か。わか、わかり、ました。取りつけま、す」
そう言って、今度はトレーラーから赤色の装甲版を取り出してきては、ヴィクセンに合わせていく。会わないところはその場で切断し繋ぎ合わせて組み合わせていく。
みるみるうちに白銀のヴィクセンはどこにでもいるような赤のクランカーに早変わり。その作業速度は本当に職人なのだと実感させられるものだ。
「ほいっと、しゅーりょー。ふいぃぃ、久しぶりにいい仕事したぁ~」
「うん、いい出来だね。わからないけど」
「あ、え、えっと、そ、そのわ、わからないのにいい出来だなんてい、いわない、で。で、でも、これ、い、いい出来。ぼ、ボクが保証し、ます。えっと、えっと、の、乗って確かめて……」
「うん、わかったよ」
そう言ってロイドはヴィクセンに乗り込む。
「どうだいアテル?」
『勝手な改修に憤りを感じていますが、おおむね良好です。腕の良いマイスターがいたのですね。現在、運動パラメーターの再設定と最適化を行っています。――終わりました。これで、問題なく動くはずです。追加装甲によって機動力が低下しているのでお気を付けを』
「あ、本当だ、重い。慣れるまで時間かかりそうだなぁ」
クランカーに乗り始めて数日で良くやっている方である。寧ろ異常なくらい上達が早い。ロイドが持つ莫大な経験のおかげだろう。
「どう~?」
「良い感じだよ」
「それは良かった。そんじゃ、ボクはこれで――」
そう言ってミリィが帰ろうとしたその時、
『ロックオン警報!』
反射的にロイドは右のフットペダルを踏み込んだ。その瞬間、光線が通り過ぎて行き、岩陰を貫通しスラムへと直撃した。
「なんだ!?」
『敵です』
「敵?」
『システムからの刺客です。あのコードに見覚えがあります。逃走を提案。現在の機体スペック、パイロットの熟練度を鑑みても勝てる相手ではありません』
「そうは、行かないみたいだよ」
目の前に鋼の機体が現れる。重量級。どの企業のクランカーでもない。漆黒に十番目を示すナンバリングがなされた赤い瞳輝く鋼鉄の人型。
大型エネルギーライフルをその手に、天から舞い降りた。
「飛んでる相手に逃げるってのは難しいよねぇ」
どのみち、アンナたちを残して逃げられるわけもない。通信回線に応答はなく。返答の代わりに撃ってくる。アテルの予測に従って回避。
「やるしかないか」
さっきの一撃でアンナたちも何かあったことには気が付いているだろうし、
「とりあえず、やるだけやって逃げよう」
目標は相手の背中にある大きな三角錐の飛行モジュール。あれさえ破壊できればなんとかなるだろう。
「アテル、サポートよろしく」
『了解。目標は飛行モジュールの破壊と逃走。戦闘開始』
戦いが始まる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
放たれる高圧縮されたエネルギー弾を左右に機体を揺らすことで躱す。アテルが予測する数百以上の弾道予測から外れるようにヴィクセンを動かしていく。
機体を左右に揺らし、躱すと同時にロール。機体を回転させると共に背部ハードポイントに固定されていたライフルを抜き放つ。照準を全てアテルに任せてロイドは引き金だけを引く。
自分でホイールを回して合わせるよりもより正確に照準を合わせて放たれる弾丸。システムが自動で反動を処理し、真っ直ぐに多少のばらつきはあれどほとんど正確に敵機体へと飛翔する。
しかし、その全てを相手は弾いて見せた。ロイドが生身にて行った弾丸弾きを敵はクランカーでやってのけたのだ。
「うわぁ、それは、やばいね」
『敵は私と同等の処理能力を持っています。これくらいは当然でしょう』
「そんなのに初心者が勝てるの?」
『不可能です』
ですよねー、とロイドは思いながらスラムの状況をサブモニターに表示して確認する。ミリィは、目をキラキラさせて叫びまくっているが、それをスルーして探すのはアンナだ。
リノアと一緒であるため無事だ。今、こちらに向かってきているようで、ヤマモトとも合流してスラムから脱出しようとしていた。
スラムの住人も蜘蛛の子を散らすように逃げていく。もともと、生き場のない連中の集まりだ。ここに対する未練などなく、すぐに逃げていく。
『よそ見しないで下さい!』
「――っ!?」
余所見の隙に、相手は接近してきていた。重量級のタックル。肩に装備したシールドを前にして真っ直ぐに突っ込んでくる。
止める為に射撃するも全て弾かれてしまう。当然、重量差がある為回避を選択。砂煙を巻き上げながら間一髪、回避する。
スピードの突いていた敵は真っ直ぐにスラムへと突っ込んだ。スラムを形成していた建物群が崩れる。奇跡的なバランスで保たれていた全てがバラバラに砕け散り、崩れていく。
「アンナ!」
『前を!』
「くそ――!」
アンナたちの安否を確認する暇はない。ロックオン警報。誘導ミサイル群が発射され真っ直ぐヴィクセンに向かって来ていた。
『迎撃を!』
「わかってる!」
言われるまま、アテルが狙った先からロイドはトリガーを引いていく。足を止めず動き回り、追従してくるミサイルを撃ち落としていくが、全てを打ち落とすことはできない。
「ぐおおお!」
『機体損傷警備。追加装甲に救われました。以前のヴィクセンならば、数割は吹っ飛んでいたことでしょう』
「追加装甲様様」
直撃したミサイルは胴体部の追加装甲のいくらかを吹っ飛ばすだけにとどまるが、次にそこに喰らえば大穴を開けて爆散させてくれること必然だろう。
だが、安心して良いのか、ミサイルは弾切れらしい。脚部、腕部に取り付けられていたミサイルポッドを破棄している。
そして、その肩に長大な砲身が現れた。
『大型電磁弾体加速装置。防御!』
「うおおおお!?」
そして、その一撃が放たれた――。
どうもみなさんお久しぶりです。どうにかこうにか書く上げましたので、更新です。
中々に忙しい毎日を送っています。減退していた執筆意欲も徐々に戻ってきました。
それでも次回をいつになるかは言えないのでごゆるりとお待ちください。
さて、そういうわけで七話です。
一話完結とか言っておきながら次回へ続くです。一話完結って難しいね。うん。
まあ、気にせず行きましょう。気にするだけ無駄です。
なにせ、このワイルドギークに関しては、そういうものです。
ある中だとそうも行かないのですが、こちらは気楽に書いてるだけですし。
あと、キカプロコン三次落ちました。いや、残念。色々と悔しいですが、また次があります。
それからシドニアの騎士。11話やばい。なに、あれ、おかしい(褒め言葉)。アクション、カメラアングル、音響。何をとっても素晴らしいの一言しかないです。
ワイルドギークの早く宇宙編を書きたくなった。地上でのロボット同士の戦いもまあ、書いていて楽しいですがシドニア見ると宇宙戦を書きたくなりますね。ヴィクセンの本領は宇宙言ってからの高速戦闘ですし。
というかクランカーってもともとは。
はい、まあ、ネタバレになりそうなことはこれくらいにしておいて、シドニア、良いですよ。みなさん見てみましょう。
では、また次回。