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第3話 少女

 包装を破り咀嚼する。そんな音が砂漠に響いていた。それだけ聞けば食事をしているのだろうと思うだろうが、その速度が異様だった。

 凄まじい速度で破り食べるの音が続いている。しかも、それが男ではなく幼い少女がやっているというのだから驚きだった。


 しかし、それを見ているロイドは成長期の女の子だからこれくらい食べるのだろうくらいにしか考えていなかった。

 少女の細い身体のどこに入るのかヴィクセンに積んであった一週間分の食糧を彼女はほぼ一人でもしゃもしゃと食べ尽くした。


「ごちそうさまでした。味はいまいちでしたが量には満足です」

「あー、うん。そいつは、良かった」


 ヴィクセンのコックピット内に残っていた非常用の栄養固形食品を食べ終えた後満足そうに少女はそう言った。

 まさか全部食べるとはとロイドも呆れ顔だ。


「それにしても、倒れてた時はどこか怪我したのかと思って心配したよ。まさか空腹だったとはね」

「空腹も問題です。まあ、怪我はないですよ。鍛えてますから」

「へえ」


 しかし、そうは見えない。全体として線は細く華奢だ。珍しいことに栄養状態は悪くないようだが、それでも砂漠を一人歩きするようには見えなかった。

 特に、少女はアルビノで肌も髪も白く瞳は血液の赤が反映されている。アルビノは紫外線に弱い。日差しの強い砂漠を歩くというのに向いているかと言われたら否だろう。


「…………」

「なんですじっと見つめてきちゃって。あ、まさか精神疾患者(ロリコン)ですか? ちょっと近づかないでください」

「違うからそんなに離れないでよ傷つくから。君が大丈夫なのか見てただけ」

「あー」


 少女はロイドが見ている自分の容姿に意識が行ったのだろう。


「大丈夫ですよ。アルビノ(こんな)ですが、問題はありません」

「良かった。で、どこに向かってたの? 場所次第なら送って行ってあげることもできると思うし」

「この先のメランの街です」

「なら行き先は一緒だね。連れて行ってあげるよ」

「やはりロリコンですか。近づかないでください穢れてしまいます」

「いや、違うから」


 無表情に近いどこかジトっとした目のまま笑顔で言うからよくわからないと思うロイド。


「とりあえず、いつの間にか日が暮れそうだしメランには明日向かうとして。今日はここでキャンプかな」


 夜はあまり動かない方がいい。マシンエネミーが活性化するからだ。なぜ夜に活性化するのかはわからないが、動き回るようになるのだ。

 速めに戻るのも良いが、マシンエネミーは動くものを優先して襲う。もし街にマシンエネミーを連れて行ったりなんてしたらどういうことになるかは想像に難くない。


 だからこそ、夜は動かない方がいいのだ。そんな理由からの提案だったのだが、


「襲う気ですか?」


 少女はそんなことを言った。


「いや、ないから」

「そうですか。それで、ロリコンさん、あなたの名前は?」

「ああ、忘れてた。僕はロイドだよ」

「ロリコンと呼んで返事するとはやはりロリコンですか」


 そのネタはもういいから、とロイドの呟きに彼女は意味深に笑ってから少女はリノアと名乗った。互いの名がわかったところでロイドはヴィクセンに搭載されていた固形燃料で火を起こす。

 砂漠は燃やせるものが少ないのでこういったものは必須だ。詰み込まれていてよかったと思うし、まだ使えて良かったとも思った。


 丁度火をつけたところで日が沈み辺りは暗闇に包まれる。それと同時に寒さが周囲を抱擁していく。辺りを照らす炎は雫を垂らしたようにヴィクセンの装甲を揺らめかせた。

 燃える炎を挟んで座ったロイドとリノア。固形燃料による熱量はしっかりと二人の身体を包み込んでくれるが、それでもわずかな寒さが肌を突く。


「流石に夜は冷えるな」

「私は平気です」

「そうは見えないけどなあ」


 砂漠を一人歩きしているとは言ってもそんな装備には見えなかった。彼女が着ているのは身体を覆うフード付のマント。それから半袖の服に肘までのアームカバーにラップキュロットだ。どうみても砂漠を歩く服装ではない。

 ロイドはと言えば、丈夫なブーツと作業用としてのズボンに黒の(インナー)に厚手のジャケット。左腕につけたリストバンドだとか首を覆うマフラーだとかもあってマントはないが彼女よりはよっぽど砂漠向きの恰好と言えなくもない。


「女は見かけによらないものだとよく言われるので」

「そういう問題かな? まあ、いいか。女の子についてはあまり詮索するなってよく言われたからね。僕が見張りをするから。寒いならヴィクセンのコックピットで寝ても良いよ」

「ここで良いです。慣れてますから。それに、見ず知らずの信用できるかもわからない女にクランカーのコックピットを貸しても良いので?」

「良いよ。ロックしてるし」

「……甘いですね。甘々ですね」


 そう言ってマントを広げるリノア。そんな彼女にロイドは、


「そう言えば、何でメランの街に向ってるんだい?」


 と聞いた。


「お仕事が終わったので忠犬よろしく飼い主の所に戻るところですよ」

「何の仕事かは?」

「秘密です」


 人差し指を立てて笑顔で言う。秘密なら仕方ないとロイドもそれ以上何かを聞くことはしなかった。

 が女の子についてあれこれ詮索するなと人に言われている為だ。だからこれ以上は何も聞かない。


 何かあったところでクランカーがあれば大抵どうにかなるだろうし、何より自分には奥の手がある。あまり使いたくない奥の手ではあるが。

 そんなことを思っていると寝る準備を終えたリノアが、


「では、ロイドさんおやすみなさい。この線を越えたら殺しますので」


 指で砂地に線を引いてそれを指し示して物騒なことを言ってロイドに背を向けてマントにくるまった。


「ああ、うん。大丈夫だから、安心して寝てていいよ」


 それからしばらくは何もない。最初の方はリノアがロイドの方を探っていることがわかっていたが、何もしなかったので次第に寝息を立て始めた。


「眠ったか。おーい、アテル、もういいぞ」

『了解。指向性音声であなたの耳に直接私の音声を流します』


 そうなってから今まで黙ることを強いられていたアテルにロイドは見張りの話し相手としてここぞとばかりに話しかける。


「それ使ってたら彼女が起きていても会話できたんじゃない?」

『それではあなたは突然意味不明な独り言を言う変人ということになりますが。そうした方がよかったですか? それをお望みなら次回からはそういたします』

「いや、良いよ。じゃあ、色々と聞かせて欲しいんだけど?」

『はい、では何から答えましょう』

「まず、君は何の目的で作られたのか」


 それはヴィクセンの製造理由でもあるはずだ。少なくとも記録の中で数百年前から禁止されているはずのAIを作ってそれを搭載したクランカーをつくったということは、それ相応の理由があったはずなのだ。


『はい、私はあなたにプロジェクトの概要を説明します』

「頼むよ」

『はい。全ては解放プロジェクトの為に作られました。母体となるAIから生まれたシステムに対抗する為の独立成長型戦闘支援AI。それが私です』

「解放とはなんだい?」

『人類を本来あるべき姿への回帰です。システムに縛られ星の海を渡ることを忘れた人類に再び、星の海を渡る力と自由を取り戻すのです』

「システムね」


 システム。管理者。神。言い方は色々ある。それは世界を管理運営するモノのことだ。実態は不明。それが何であるかすらわかっていない。

 わかっているのはシステムが人類を存続させようとしていること。大崩壊において弱り切った人類を救うために作られたものであるとロイドは聞いている。


 管理ナンバーによって管理される人々は、職と衣食住を保証される。企業間の争いや小競り合いなどはあってもそれは小さなものだ。

 大事になる前にシステムがそれを止めてしまう。水、食料や資源などは、全てシステムによってコントロールされ、全ての者に分配される。


『そんなものは家畜だと、私を作り上げた者が言っていました。私はシステムに反抗し、戦うために作られたのです』


 大崩壊を引き起こした人類に対して、同じ過ちを繰り返させぬために多くの惑星に人類を封じ込めている。

 飛行技術を奪い、自らに対抗する可能性を持つAI技術を奪った。惑星の下でのみ生きられぬようにしたのだ。


「でも、それがそんなに悪いことかな。誰も損をしていないのなら良いと思うだけど」

『はい、本当にそうであるならば。実態は違います』

「…………そうだね。知ってるよ。で、解放プロジェクトだっけ。具体的にはどうするの?」

『私の母体となった都市船〈ヴァンテアン〉を目指します。座標は星の反対側ですので、道すがら人々を支配から解放しながら向かうことがプロジェクトの完遂への道となるでしょう。私はあなたにプロジェクト参加を要請します』

「……うーん、悪いけど今の生活もそれなりに気に入っているんだ」

『……そうですか。私はAI、今の所有者であるあなたの意見を尊重します』

「ごめんね」


 それを最後にアテルは何も言わなかった。


「…………」


 ロイドは星空を見上げる。星の海。もし本当に星の海に出れるならばどんなにいいだろう。本当は協力だってしたいと思う。

 しかし、自分一人で勝手に決めていいはずがない。守るべきものがあるのだ。例えそれが大切な人と交わした約束だとしても。守るべきものを危険な目に合わせることになるのならやらない方が良いに決まっている。


「ごめん、リアンヌ。もう一つの約束は守れそうにないや」


 そんな呟きは砂漠の風に乗って消える。ここには砂と乾いた大地しか残っていない。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 翌朝、リノアが起きるとともにロイドたちはヴィクセンを使ってメランを目指す。流石にこの狭いコックピットに二人乗りは出来ないのでリノアが手の上に乗っている。

 クランカーの腕には一応人を乗せられるように掴む場所が埋め込まれているので振り落とされることはない。


「大丈夫?」

「ええ、風が気持ち良いです」

「それは良かった」


 メランの街はクランカーで向かえばそれほどかからない。昼前には余裕を持ってメランの街の外壁前に辿り着いた。

 半ばで砕けていたりする外壁の入り口へと向かう。敵意なしの信号を出しながら門へと向かう。そこには二機のクランカーが待機している。


「止まれ、そこのクランカー。見たことないな。所属はどこだ。名乗れないならここで撃破する」


 そのうちの一機が全周波(オープン)回線で勧告してくる。それはちょうど顔見知りだった。それに画像付きで返信すれば相手も構えを解いてくれる。


「どうも」

「って、あんたか。昨日帰らないでどこ行ってたんだよ。その機体はどうしたんだ?」

「遺跡で見つけた」

「へえ、そんな良い遺跡があったんだな」

「採掘跡のマシンエネミーの巣のど真ん中にね」

「そりゃ誰も見つからねえわけだわ。通ってくれ」


 どうも、と言って門をくぐる。ここから移動モードを歩行に切り替えて舗装された道路を歩く。雑多な通りだ。

 メインストリートはひび割れ砂と化した舗装路が続く。坂になったそこにあるのは街を支えるタワーが見える。


 道行く人は見慣れないクランカーに一瞬、視線を向けるがすぐに興味を失くしたように自らの作業に戻って行く。

 珍しいものなどここでは珍しくもないのだ。遺跡が比較的近場に多いメランの街ではそういった物を持ち帰るトレジャーハンターが多いのだ。


 こういう珍しいものは大抵遺跡からの出土品であることが多いので、気にするものはいないわけである。多くの者が酒場で話の肴にするくらいだろう。

 そんな道行く人々は奇怪な者が多い。昆虫族(インセクター)と呼ばれるこの惑星原生住人がほとんどを占めている。


「それで? 君はを僕はどこで下せばいいのかな? 送って行ってもいいよ?」

「それには及びませんここで結構です」

「そう? じゃあ、停めるよ」


 ロイドは適当なところでヴィクセンを歩道のクランカー指定の停止スペースに移動させて停止した。

 待機モードになりリノアが掌から飛び降りる。


「ふぅ、ではありがとうございました。もう二度と会うことはないと思いますが」


 そう言って彼女はそそくさと立ち去った。


「さて、僕も帰ろう。アンナ、怒ってるだろうなあ」


 そんなことを思いながらメランの貧民街と呼ばれる東地区にある自宅に向かう。その途中、硝子の割れる音とともに人が道路に投げ出されてきた。

 それと共に怒鳴り声が響く。


「良くも騙してやがったな、この感染者め!」


 料理に使う麺棒を振り上げて何度も何度も投げ出した少女を男は叩いていく。そこに容赦は存在しない。そこを通る通行人は即座にその区画(ブロック)から逃げ出し始めた。


「お前のおかげで、俺の店も、俺もおしまいだよ。こうでもしないと気が済まねえんだよ糞野郎が!!」


 殴る、殴る、殴る。鈍い音が響くたび、赤く染まる麺棒。そして、ひときわ大きな鈍い音が響いた瞬間、少女の身体に紋様が浮かび上がる。

 トライバル的黒い紋様。身体の中心にあるそれは輝きを発し少女の危機に際しその少女の身体を燃え上がらせた。


 劫火の中、少女は無事だ。普通ならば悲鳴を上げるほどの劫火に身を包まれながら少女は頭から血を流しながらも生きていた。


「正体を現しやがったな感染者(化け物)が! お前も、俺ももうおしまいだよ!」


 そう終わりだった。響く銃声。貫かれる男と少女の脳天。


「感染者及び、感染者に接触した者を排除。これより殺菌作業に入る」


 黒の制服を着た者たち。エージェントたちが店に火を放つ。シールドを用いて隣接するブロックに火がいかないように、そしてそこから逃げ出す者がいないようにして完全に焼却してしまう。

 そこにいる人ごと全てを燃やし尽くした。


「…………」


 そして、全て燃え尽きた後、全ての残骸を回収しエージェントたちはタワーへと撤収していく。淀みなく、全てを真っ新にして消えて行った。

 たった数分の出来事。それが終われば企業が出張り殺菌処理の終わった区画に新しく店を出したり人を呼び込んだりする。


 手際の良さはこれが日常であることを示している。全てが平等に管理されている中で現れる異物(イレギュラー)。それがゲネシスと呼ばれるものに感染した感染者だ。

 感染すると身体能力が上がる。そして、異能を得る。自由に使える代物ではない。だが、システムは感染者が生きることを認めない。


「変わらないな、どこも。本当、胸糞悪い。ただ異能(ちから)を持っているだけだろう。人よりも身体能力が高いだけだろう。それだけで生きてちゃだめだっていうのか。同じ人間のはずなのにな」


 殺菌された区画の手前の区画にいたロイドはそう吐き捨てるように言って再び自宅への針路をとる。


 自宅の前にヴィクセンを止めて家へ。

 ぼろぼろの家だ。今にも倒れそうな家の軋む扉を開けてロイドは家の中に入る。小さな穴が無数にあいた部屋はそこから光が入ってきて明るい。


 そこにいるのはやはり予想通りの女の子。怒っていますと言わんばかりに腕を組んだ少女にロイドは、とりあえず一言、


「ただいま」


 と言った。


「おかえり」


 ロイドの一言を聞いた八歳の少女は、溜め息を吐きながらもそれに返事を返す。少女はロイドによく似ていた。

 そんな長い茶髪を赤いリボンでポニーテールにした可愛らしい少女は、わかってますよと言わんばかりに問う。


「言うことは?」

「クビになった。ごめんアンナ」

「はあ」


 八歳が吐くような溜め息ではない重い溜め息。それからそこに座るようにアンナはいう。ロイドは逆らうことなくその場に正座。


「これで何度目?」

「三回目かな」

「もう三回目だよ。本当、甲斐性なしの駄目男だね」

「返す言葉も御座いません。でも、今回は」

「うん、わかってるよ。だからそこまで怒ってないから。怒ってるのは、クビになったのに次の職も探さずにわたしをほっぽってどっか行っちゃって今帰ってきたことだから」

「ごめんなさい」


 返す言葉も御座いません、と完全降参のロイド。


「でも、聞いてくれアンナ! クランカーが手に入ったんだよ!」


 大手を広げて力説するロイド。クランカーを使えば前以上に稼ぐことができる。クランカーそういうものなのだ。


「そっか、夢一つ叶ったんだ」

「うん」

「お母さんとの約束一つ守ったね。おめでとう」

「そうだね、ありがとうアンナ。これでアンナに楽させることができると思うよ」

「でも、危険じゃないの? クランカーのお仕事って危険な仕事ばかりなんでしょ?」

「大丈夫だよ」


 ロイドは楽観的にそう言う。


「もうまたそう言って。一人になるのは嫌だよ?」

「大丈夫、アンナを一人にはしないよ。絶対に」

「……うん、わかった。それじゃあ今日はお祝いだね。とっておきの御馳走用意するから買い物行ってくる! 待ってて!」

「僕が手伝うことは?」

「ないよ。ゆっくりしてて。感染者の殺菌、見たんでしょ? 明日から頑張って仕事探して働いてもらうんだから。今日だけは特別ね」


 そう言って籠を持って買い物に出かけるアンナ。外に出て家の前に止められたヴィクセンを見て、凄い綺麗な機体だねと感想を言って彼女は大通りへ買い出しへ向かうのであった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「お人好しでしたねえ。でも、侮れません」


 クランカーで肉弾戦などありえない。やるとしたら素人考えと言わざるを得ないのは殴りつけただけで指などのマニピュレーターがぶっ壊れたことでわかるだろう。

 しかし、それで一機のクランカーを行動不能に追い込み、それを人質にして傭兵を追い払ったとあっては少なくとも戦いの素人とは言えないだろう。


 結果的にそうなったとして、普通腕が壊れれば素人であれば慌ててそれをなんとかしようとする。それをせずに銃口を突きつけて相手を脅すなど早々できるものではない。


「この予感外れてほしいのですけど」


 そう言いながら裏路地を歩いていると進行方向をふさがられる。見ればわかるほどのチンピラ三人。


「よう、ここを通りたきゃ通行料払いな」

「へへへ、その身体で払ってもいいんだぜえ?」

「うけけけけ、ロリコンかよてめえ」


 傭兵だろう。この街でこの手の連中は傭兵ばかりだ。もともと傭兵なんてガラの良い奴らの集まりではないが、ここまでテンプレートじみた奴は珍しい部類だ。

 やれやれと思いながらもリノアは、そっとフードの下で錠剤を飲みこむ。その瞬間、浮かび上がる両手のに広がる紋様。


 それが輝くとともに三人を包み込むようにガスが生じる。


「な、なんだ!? こ、れ――」

「い、息が――――」

「くるしぅ――――」


 苦しみだした三人は泡吹いて倒れた。


「やれやれですね」


 誰にも見られていないことを確認してリノアは三人をそのままに先へ向かう。彼女が裏路地から出たのはとある屋敷の前であった。

 黒服を着たいかつい男が門番として立っている。良く観察すれば胸に銃を隠し持っていることがわかるだろう。


 そんな彼らの前に警戒なくリノアは歩み出る。彼らはリノアを認識すると、一人が前に出て、


「お待ちしていました。ボスがお待ちです」


 そう言って門を開ける。 


「そう」


 門をくぐり屋敷へと向かう。ここはこのメランの街にいるアウトロー、所謂荒くれ者たちを纏める顔役の屋敷だ。

 簡単に行ってしまえば犯罪組織のボスの住居である。中に入れば案内役が一人リノアを待っていた。その案内役と共に屋敷の廊下を進む。


 今時珍しいホログラムではない生の絵画などが壁に掛けられた屋敷はいかにも金を持っている組織のボスがいるという風情。

 それもそうだろう。この屋敷の持ち主はシステムを除けばこの惑星の実質的な支配者と言えるのだ。


 そんな屋敷の長い廊下を歩いてやって来たのは応接室。中に入ればふんぞり返り女をはべらせている非ヒューマノイド人種の男が一人。

 巨大なカエルを太らせたかのような異様な容貌の男がいる。バグズ。それがこの男の名だ。


 決して彼を馬鹿にしてはいけない。そうなれば最後、闇に葬られることになるだろう。

 葉巻をくわえたバグスは、リノアを歓迎しているように大手を広げて座るように言う。


「随分と早い御帰りだな、化け物」

「親切な人に巡り合えたので」

「それは上々。さて、早速新しい仕事に行ってもらおうか。何簡単な仕事さ。これを見ろ」


 そう言ってリノアの前に投げるのはホログラム投射機。テーブルを滑り彼女の前で止まったそれは一枚のホログラムを空間に投射する。

 それは、見覚えのある白銀のクランカーの姿だった。


「つい先ほど撮影されたものでね。こいつを是非とも欲しいって言うコレクターの方がいてね」

「つまり、奪えと?」

「そうさ。君はこれに乗せてもらって帰ったんだろう? なら話は早いじゃあないか」

「…………」

「おや、乗り気でない? 困るなあ、君がなんで生かされているのかわかってるよねえ。化け物」

「…………」


 リノアの首筋に片刃の美術品と見まがうほどに美しい(オリエントブレード)が突きつけられる。

 古典の侍の和装スーツという珍しいことこの上ない恰好をした男がそこにいた。


 そして、そんな終止にこやかな笑みを浮かべた奇特な男がリノアの首筋に刃を突きつけていた。

 どこから現れたのか。リノアですらいつ剣を抜いたのかすらわからなかった。勘が告げるこれは尋常ではないと。


「利用価値がないのならここで死ね。化け物。新しい化け物が手に入った。お前に利用価値はあるが、それはお前でなくてもいいんだよ化け物」

「…………」

「なにせ、感染者だ。バレたら最後、この私まで殺されてしまうんだ。そちらの侍と一緒さ。私もね、だいぶ危ない橋を渡っているんだよ」


 だからこそ、利用価値がないのならばさっさと切り捨てる。躊躇う道具などいらない。

 命令に従わない道具もいらない。だからこそ、


「やるのかやらないのか?」


 さっさと決めろ。


「そっちの侍にはやらせれないの?」

「こっちには別の用事がある」

「……どうせ選択肢などないですし。良いですよ。奪えば良いだけですから。ただの人間が感染者()に叶うはずがないですからね」

「それでは、あのクランカーがどこに行ったのか。正確なことがわかるまで休んでいろ」


 応接室からリノアは出された。


「いやあ、大変なことになったでござるなあ」


 そこで一緒に出てきた侍がそういう。


「そうね」

「おお、同意してくださるか。いやあ、借金のかたに捕まってしまってな。拙者こんな犯罪やりたくないのでござるが、お金にはかなわないでござる。お金は拙者を惑わせるゆえ。お金の為なら犯罪でもするでござるよ」

「聞いてないですそんなこと」

「まあ、お互い思う事はあるでござるが、我々が生きるにはこれ以外にないでござるから。仕方ないと割り切るでござる」

「…………」

「それでは拙者はこちらでござるからまたでござるよー」


 やってきた案内人に侍はついていき、リノアもまた別の案内人に部屋案内された。ベッドくらいが在るだけの部屋だ。

 それからしばらく何事もなく嵐の前の静けさであった。そして、その日のうちにロイドの自宅とクランカーの場所を告げられた。


「…………」


 行って奪うだけ。ロイドには悪いことをするが、自らの命と代えられない。生きるのだ。そう決めた。


 何をしても生きると決めた。だからこそ、他人を踏みにじってでも生きる。


「謝りませんので恨んでください」


 そう言って、懐から一つのケースを取り出しそこから錠剤を一つ取り出し、リノアは飲みこんだ――。


だいぶ回復してきたので更新します。

ある中の方はいつも通り来週の土曜日辺りに更新しようと思います。


実はこれロボット物でもありながら異能物でもあるんですよね。バグズさん、とりあえずイメージはスターウォーズのジャバ・ザ・ハットで。

あと侍さんはチョンマゲです。これは譲れません。絶対チョンマゲです。

では、また次回。


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