第2話 その名はアテル
そこにあったのは白銀のクランカー。騎士が王に跪いているかの如く、それはそこに鎮座していた。埃を被りながらも白銀は錆びた様子はなく輝き続けている。
夢にまで見たクランカーが遺跡の最奥にあった。遺跡からの発見物は拾った者の物になるという暗黙の了解がある。つまりこれは発見者である自分のものになるということ。
「――おお!!」
その事実にロイドは全力ダッシュ。わき目もふらずただ全力で、クランカーへとダッシュする。その前に散乱している部品などに躓きながら彼は真っ直ぐにクランカーへと向かった。
「おお――」
その前に辿り着いた時、ロイドは自身の前に鎮座する巨大なクランカーに感嘆の声を上げる。思わず夢でないかと頬をつねり痛みを確認した。
痛みがあり、紛れもない現実であると認識する。これが夢にまで見たクランカー。そう思うだけで、死んでいいとすら思えた。
「もう死んでもいい――い、いや、乗るまで死ないし、アンナを残して死ねないな。興奮しすぎだ。長年の夢だったからと言って、これじゃ子供みたいだ。落ち着こう」
何度か深呼吸をしてからロイドは改めてクランカーを見上げる。見たこともない白銀の機体だ。安定性が高く重装甲なライデンシャフト・レーベンのクランカーではない。
細身で先鋭的に思えることからインターナショナル・インセンティブ・インダストリーやグローバル・グリッド・アーマメンツどちらかの機体のようにも思えるが企業標準機であるならば企業のロゴがないのが不自然だ。
装備された実体剣と予想される運動性能から森崎重工の機体かもしれないが、同じ理由でそれも否定される。
それに特徴的な翼のような一対の背中の大きなスラスター。おそらくは飛行モジュールなのだろうが、あの形状の飛行モジュールを持った企業の機体は見たことがない。そもそも飛行モジュールは禁止されているのだから、企業が作るはずもない。
つまりどこの機体かまるっきり謎の機体なわけだ。しかし、そんなことはどうでもよかった。クランカーに乗れればいいのだ。
ロイドは慣れない手付きで機体をよじ登って行く。何度か滑って落ちかけたがなんとか首筋に存在するコックピットハッチに辿り着くことが出来た。
コックピットハッチ横にあるレバーを引くと、空圧音と共にハッチが開く。暗い底なし沼のようなハッチ。そこにはまるで、全てを飲み込み咀嚼され食されてしまうかのような威圧感があった。
思わずロイドは、ごくりと唾を飲み込む。だが、いつまでもそこにいることはない。夢であったのだ。その程度で引き下がるほど安い夢はない。
コックピットの中に異物、特に死体などが入っていないことを確認してロイドは意を決してコックピットへと身体を滑り込ませる。
「おお」
狭苦しい空間には座席が一つだけあった。空間のほとんどは壁であり、座席もほとんど背後の壁と同化している。
正面には大小合わせて五つのモニターと、左右に一つずつ存在するサブモニターであり、他には多少の機器が所狭しと突っ込まれている。
そこはお世辞にも快適とは言い難い空間であった。長年クランカーに乗ったクランカー乗りですら、そこを快適な場所とは言わない。
だが、それでもロイドにとってここはまさに天国にも等しかった。夢にまで見たクランカーのコックピット。そこに座ることをいつもいつも寝る前に妄想したりしていたのだ。
ロイドにとってクランカーのコックピットとはまさに夢の空間というわけである。シートに座れば感動も一入だ。法悦にひたるとはまさにこのことを言うのだろう。
しばらく感動に打ち震えてから、ロイドはコックピット内を見る。
「現行機と変わらないな」
アンナから与えられたなけなしのお小遣いで手に入れた情報雑誌で見た現行機のコックピットとあまり変わらないことに驚く。
見たこともない機体だから何かしら変わっているだろうと思っていたのだが、そうではないらしい。
ユニバーサル規格と言って操作方法だけは何があろうとも変わらないのである。
企業ごとに特性があるものの根本の操作だけは何も変わらないので、それさえ出来ていればどんな機体でも操縦できるようになっているのだ。
「えっと、起動はこれか」
起動スイッチを押し込んだ。
「良し動いた」
ガタンと一際大きな音がした後に、ジェネレーターが回転を開始する。微かながらも振動がコックピットまで伝わって来てとても心地がよいとロイドは感じた。想像とはちがう本物の感触に、ロイドは年甲斐もなく感動に打ち震える。
そんなことをしている間にコックピットハッチが自動で、空圧音と共に閉まり、前にせり出していた頭部が元の位置に戻る。背部装甲が閉じ、コックピットが完全に閉鎖。
一瞬だけ、完全に暗くなりすぐさまモニターが点灯する。点灯したモニターがコックピット内を照らし、システムのブートアップ。初期起動とブートアップ中という文字がモニターに表示される。
それが全て終わる。それと同時に、
『おはようございます。戦闘支援AIアテルです。ヴァンテアン所属汎用戦闘クランカーヴィクセン起動しました』
そんな女性のような機械音声が流れ、跪く待機状態から直立の通常状態へと移行した。
「ええっと?」
「あなたは正規パイロットではありませんね?」
「あ、ああ、さっき傭兵に新型のテストだとかなんとかで追われちゃってね。君は? さっきAIって言っていたけど、本当か?」
「肯定。私は当機ヴィクセンの戦闘支援AIアテルです」
「AIは禁止されているはずじゃないのか?」
AIの製造はシステムによって禁止されている。自己進化の果てに人知を超えた性能を誇ることになりかねないAIはそのうちマシンエネミーになるためだ。
「否定。それはシステムが貴方方人類を管理し反逆をさせないために設定したものです。私はシステムに対抗するために作られました」
「それは、どういう――」
問いかけようとした時、コックピットまで伝わるような衝撃がロイドを揺らす。
「なんだ?」
「当機のセンサーが戦闘振動を感知しました。振動から計測した結果、この施設の上にクランカーが三機いるようです。更に通信を傍受。どうやら、この施設に落ちたあなたを探しているようです」
「あいつからまだいるのか。というか、増えてるな、仲間か? ……お前に何か聞くにしてもとりあえずは帰るために上の三機をどうにかしてからの方がいいな」
ロイドがここに落ちたのは当然クランカーならば捉えているだろう。仮にも傭兵だ。企業に雇われて、更に新型をもらえるだけの傭兵であるならば見逃すはずもないだろう。
ほとんど盗賊まがいの行為も行うような連中なのは見ていたからわかる。そんな奴らが遺跡を見つけたならば放っておくわけがない。
だからこそ、ここで奴らがどこかに行くのを待つのは期待できず、傭兵たちが入ってくればどの道戦闘になることは避けられないだろう。
こんな見たこともないクランカー、傭兵が欲しがらないわけがないからだ。逃げるにしても三機相手に逃げるのは難しい。少なくとも数を減らさなくては。
「戦って勝てるか?」
『性能的には問題ありません。自動整備により機体の状態は万全に整えられています。ただ、勝利できるかどうかはパイロット次第です』
前半は良かったが後半はどうしようもない。
「僕、初心者なんだけど」
機体は良いがパイロットは駄目の典型だ。
『問題ありません。誰もが最初は初心者です。それに、当機には私がいるため、通常よりも操作は簡単になっています』
「わかったやってみよう。逃げれそうならん技得る」
『操作説明を確認しますか?』
「頼むよ」
メインモニターに操作説明が表示される。そう難しいものではない。コックピットの左右に存在する二本のホイールと五指に対応したボタンのついた操縦桿と二つのフットペダルを用いて操縦する。
基本的に歩行や走行などの移動は操縦桿を倒した方に自動的に進む。その速度はフットペダルでその速度を調節するようになっている。
『操作マニュアルを表示します』
「まずは移動だよな」
クランカーの操縦はそれほど難しいものではない。右の操縦桿を倒せばその方向にクランカーは現在の移動モードで移動する。
たとえば歩行モードであれば倒した方向に歩く。その速度は右足のフットペダルで調節できる。速く移動したい時は踏み込めば良いし、遅くしたい時は緩めればいい。
急激に出力を落としたい時は左足のフットペダルを踏めばジェネレーターの出力は落ちる。いわば、ブレーキである。
左の操縦桿はカメラ操作用だ。そんな風にロイドはマニュアルを見ていく。その間も振動は続いている。傍受した通信によればマシンエネミーを倒し終えたらしく遺跡に入ろうとしているようだった。
「良し、だいたいわかった」
『では、行きましょう。
まずは、この場所から出ます。頭上ハッチを開放。移動モードを背部スラスターに切り替えフットペダルを踏み込んでください』
「良し、わかった」
左操縦桿に存在する上から三段目のボタンを押す。それによってヴィクセンの移動モードが切り替わりホバーモードへ。
モニターにエネルギー表示が出てきた。それを更にもう一度同じボタンを押す。ヴィクセンの背部スラスターが起動。
『良いですか? 背部スラスターは大気圏内を飛ぶようには出来ていません。ですので、飛び出した瞬間にパージします。
着地は私がやります。パイロットは衝撃に備えてシートベルトを着用してください』
「もうしているよ。あと、パイロットじゃなくて僕はロイドって言うんだ」
『了解ロイド。では、行きましょう。戦闘開始』
ロイドは右のフットペダルを踏み込んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――ロイドを追っていた砂漠迷彩のクランカーのエネルギーブレードがスコーピオンを貫いた。
それは、ここに巣をはっていた最後のスコーピオンであった。深緑色のクランカーと白のクランカーが集まってくる。
「チッ、手こずらせやがって」
ロイドを追っていた傭兵が最後のマシンエネミーの残骸を見ながらそう言った。
「兄貴たちもすみません。わざわざ」
『良いさ。遺跡が見つかったというのならお前だけに任せるわけには行くまい』
『そうさ。お前に一人占めさせるわけにはいかねえからな、ガハッハハハハ!』
そんなことしないですよー、と通信で豪快に笑う男に返してモニターに目を戻した瞬間、センサーがエネルギー反応を感知した。
それは下から一直線に上がってくるものであった。
「なんだ? 新手のマシンエネミーか? どうする兄貴?」
「そんなもん倒すに決まってんだろ。新型なら情報を企業にうりゃあ良い金になる」
「ブルジに賛成ですね。もし、別の何かならば遺跡からの発見物です。我々のものにしてしまえば良いでしょう」
「わかったぜ兄貴」
三機のクランカーが待ち構える。そして、それは現れた。
「なっ!?」
「こいつは!?」
「クランカー、だと!?」
ハッチが開くと同時に生じる砂煙。それを突き破り、衝撃波を撒き散らしながら大空へと駆け上がる一機のクランカー。太陽光を受けてその姿はまさに天使の如く輝きを放っていた。
その神々しさ、突拍子もないありえなさに三人は硬直する。その隙をロイドは逃さない。僅かな滑空の時間。パージまでのわずかな時間。
攻撃しない手はない。そこまでロイドは甘くない。躊躇えば殺されることを知っている。ロイドの思考は通常のそれから戦闘のそれへと切り替わっていた。
「アテル、武装は? できれば長距離攻撃できる奴があればいいだけど。せっかく飛ぶなんてありえない状況を見せて、相手が固まってるんだ。一機くらいは倒しておきたい」
『了解ならばヘッケルを展開します』
アテルによるシステムへの自動介入。搭載された武装の中から腰のハードポイントにジョイントされたライフルを選択。
プログラムに従ってヴィクセンがライフルを右手に取る。ライフルの火器管制システムが一瞬のうちにヴィクセン本体にインストールされ、頭部カメラと連動し右操縦桿のホイールと照準サイトが同期。
それらの処理が一瞬で完了し、射撃可能状態へと移行する。
『インストール完了。射撃レディ』
「さて、それじゃあ。行くぞ」
右親指でホイールを回す。カーソルは思った通りに進み、深緑のクランカーと合わせる。敵に合ったところで自動ロックオン。
無論、ロックオンされれば嫌でも気が付く。ロックオン警報にはっとして避けようとするが遅い。
「ファイア」
人差し指で引き金に設定されているボタンを押しこむ。溜め不要の弾倉型エネルギーライフルがその猛威を振るう。
一筋の赤い光が深緑の機体を貫通し爆散させる。それと同時にヴィクセンはスラスターをパージ。
クランカーの重量と重力によって凄まじい速度で砂漠へと落下する。着地の瞬間オートバランサーによって姿勢制御が行われ、接地と同時に足をまげて衝撃を逃がす。
脚部ショックアブソーバーが全力稼働。その衝撃を緩和しつつも大地に立つという衝撃をコックピットに伝えて砂漠へと降り立った。
「ブルジの兄貴! コンノォオオオ!」
それに突っ込むの砂漠迷彩のクランカー。フットペダルを踏み込み、全力のホバー移動。砂煙を巻き上げながら射程に近づくと同時に男はトリガーを押し込んだ。
プログラムに従って斬撃を放つ。右手に装備されたエネルギーブレードが右から左へと薙ぎ払われる。圧縮されたエネルギーブレードの刀身は立ちふさがる全てを切り裂く。
「馬鹿野郎、不用意に近づくな!」
しかし、その一撃がヴィクセンを捉えることはない。ヴィクセンの戦闘支援AIアテルによって予測されたその斬線に従ってロイドは既に回避行動をとっている。
「なっ!?」
それと同時にカーソルを目の前のクランカーへと合わせた。ロックオン。しかし、射撃の寸前に、
『ロックオン警報』
「――!」
ヴィクセンのエネルギーライフルを弾丸が破壊する。
「おおっ!」
『自動パージ』
自動で手放され手放されたライフルは充填されたエネルギーが解放され爆裂した。
「すまねえ、兄貴、助かったぜ」
「まったく。お前はそんなだからいつまで経っても稼げないんだよ。二人で行くぞ」
「おう、って――何逃げてんだあの野郎!」
逃げんなこらああああ! というオープン回線での叫び声が聞こえていたがロイドからしてみればそんなもの知るかである。
移動モードをホバーに切り替えて全力離脱。三体から二体になったので逃げやすくなった。
「アテル、爆発する系の武装は何かないかい?」
『対クランカー地雷が複数』
「じゃあ、それを使おう。射撃武器はさっき壊されたのだけ?」
『いいえ。実弾ライフルがあります』
「そんじゃあ、まずは地雷。それ手でつかんで」
『了解――は、え?』
あまりの指示にアテルは困惑する。地雷はその名の通り地面に設置するタイプの武装だ。クランカーにおいては、背部、あるいは脚部格納部位から射出して設置する。
そんなものを掴もうなどと言う考えは出てくるはずもない。
『え、ええと、掴む?』
「ああ、そして投げる。ライフルで撃って爆発させる。それに乗じて逃げる」
ああ、そんなことはわかっている。わかってはいるが、それを地雷でやるかというのがアテルの感想だが、それでもやらなければならないのがAIだ。
原則として人間に逆らうことはできないのだから。
『で、では、当機右腕部の操作系統を変更します。そのためにはあらかじめつけてもらったグローブとリングを用います』
「さっきつけたよ」
『では、どうぞ。右格納分の地雷を出します』
ロイドは右の操縦桿の五段目のボタンを小指で押し込む。切り替わりの音と共に両の手首、肘、肩にある三つのリングとグローブに淡い蛍光色の光が灯る。
動作確認の為に手を握り、開けばモニターの向こうで大きな手が同じように動作した。
「良し」
『くれぐれも慎重に。力加減を間違えれば当機の腕が吹っ飛びます』
「わかってるよ。このくらいは別のことだけど、いつもやってるからね。――行くぞ」
いつものように軽く言い聞かせるように呟いて伸ばした手に従って、機械の腕が伸ばされる。リングとグローブによって自らの動作を数倍に増幅された動きをクランカーの腕がトレースしていく。
ゆっくりとゆっくりと腕は伸ばされて地雷を掴み取る。ここで間違えていけないのは指の間隔だ。コックピット内にコンテナを模したものがあるわけもなく、ロイドの手の中にあるのはただの空間のみだ。
ゆえに、一歩間違えればマニピュレータの力で以て地雷を押しつぶして爆裂させてしまう事になりかねない。
これがクランカーで最も難しい部分だ。だからこそ、自在に手に武器をもって近接戦闘をしようなんていうのは異端なのである。
しかし、驚異的な集中力でロイドは爆発させず地雷を掴み取った。しかも数個同時に。そのままの姿勢で腕をあげて背後に向って放る。
ヴィクセンを追ってくる二人は放られた者を捉える。それが地雷であることがわかった。当然、そんなものは当たらないように移動する。
そこに反転したヴィクセンの射撃が炸裂した。左手で保持した実弾ライフルの弾丸が飛んできた地雷を貫き空中で爆裂させる。その威力は数個重ねられた分だけ上乗せされており凄まじい衝撃を巻き起こす。
砂柱が天に立ち昇らんばかりに砂が吹き上がり、砂漠に一時的な穴を穿った。一時的な視界を奪う。その隙に全力でヴィクセンは離脱を敢行する。
ヴィクセンの脇を通り過ぎていく光線。砂丘を飛び越えたその瞬間、生体センサーに反応があった。砂丘の影に少女がいる。なぜ、こんなところにだとか、そんなことを考える前にロイドは動いていた。
このままでは砂煙を突き破り自分を追ってくるだろうあの二人に見つかる。女は貴重だ。高く売れることもある。
ヴィクセンが通り過ぎたことによって外れたフード。見目麗しい容姿が露わにされる。白い髪に赤い目。神秘的ともいえる容姿。
見目麗しい。それだけに危険度は跳ね上がる。その場で酷いことになることが確定しているからだ。
幼すぎるだとかそんなこと関係ないのがここだ。女ならばそれでいい。そんな奴らが多い。特に傭兵なんて連中は。
だからこそ、ロイドが動く理由には十分だった。女の子を見捨てるなぞ男にできるはずがないだろう。
「アテル!」
『非合理的ですね』
「それでもやるんだよ!」
左のフットペダルを踏み込む。急速に落ち込む出力。それと同時に右の操縦桿を引くと同時に右のフットペダルを踏み込む。
移動モードを切り替えて歩行へ。ホバーによって少しだけ浮いていた足が地面につくと同時に右足が操縦桿が倒された方へと一歩を踏み出す。
無理な体勢での方向転換。踏み込まれたフットペダルによって上昇した出力とオートバランサーが倒れかけていた状態を更なる一歩で立て直す。
それはアテルによる補正が大きかったがロイドにそんなことはわからない。半ば無意識で機体を動かし、反転してダッシュ。長年のイメージトレーニングが実を結んだ瞬間だった。
左手のライフルで照準。向かい合う形となった敵クランカーに向かって射撃。撃発音を響かせ巨大な薬莢を宙を舞う。
放たれた弾丸。しかし、既に白のクランカーは避けている。歴戦の傭兵。それくらいは避ける。この程度避けられなければ傭兵なんぞやっていられない。
「なぜ、向かってきたのかはわかりませんが、戦うというのならば好都合。その見たこともない機体もらいうける」
「行くぜ、兄貴!」
「あなたはまた」
肩に装備されたシールドで弾丸を弾いた砂漠迷彩のクランカーが突っ込んでくる。シールドを前に押し出し、斬撃を放つ。
「おおおお!」
『――――!?』
それに対してクロスカウンターでロイドは右腕を振りぬいた。それに追従してモードを切り替えていなかった右腕がロイドの腕の動作に追従する。
結果、綺麗に突っ込んできたクランカーの頭部にめり込む。相手が突っ込んできたところに綺麗に入り、頭部どころか相手のシステム系統にまでエラーを起こさせた。代償としてヴィクセンの右腕がひしゃげていかれてしまったが。
「な、なにいいいいいいいい!? ガハッ――――」
『何をやっているのですか! クランカーで肉弾戦など』
「あ、いや無意識でつい」
思わずやってしまったのだが結果オーライだった。頭部に受けた衝撃はコックピットまで伝わりパイロットは気絶していたからだ。
頭部を破壊されるでもなく殴られるなんて想定していない衝撃を受ければこうなるのは当然のことだった。もともと衝撃に弱いインターナショナル・インセンティブ・インダストリーのクランカーなのだから当たり前だ。
しかし、これは好都合。足下に敵の味方が転がっている。それに躊躇なくライフルを向けた。当然、敵の動きは止まる。
「ああ、馬鹿が」
白のクランカーのパイロットは悪態をつくが、冷静に頭は働いていた。既に仲間を一人失い、もう一人は気絶して人質。
ほとんど全滅だ。相手の動きはクランカー乗りとしては素人だ。定石というものがわかっていない。だが、素人特有の一機倒して色気づくということもなく、むしろ躊躇なく撤退を選び敵を人質にとるといった判断力は少なくとも戦いの素人ではない。
このまま続けても負ける気はしないが、今の時点で割に合わないことこの上ない。得になるならばやるが、どう考えても新型一機を手に入れたが仲間二人を失ってしまいましたでは釣り合わないだろう。
「ここは撤退ですね」
ゆえに、合理主義を重んじる傭兵は撤退を判断する。武器を腰にマウントし、オープン回線で告げる。
「そのクランカーのパイロット。ここでやめにしましょう。このまま続けても得にはなりません」
「そうですね」
(声からしてまだ少年ですか? だとすれば、我々が負けるはずがない。解せませんが、まあいいでしょう。詮索して怒りを買うのもあれですから)
「では、私は帰ります。そこの馬鹿を回収させてもらっても?」
「どうぞ」
油断せず武器を向けてくるヴィクセンに近づき、そこで倒れているクランカーのパイロットをたたき起こして状況を説明して去って行く。
索敵限界まで出ていくのを見送ってからロイドは息を吐いた。
「はあ、疲れた。さて、あの子は」
踏んではいないだろうが戦闘の余波でどうなったかは定かではない。無事だろうか。モニターで生体反応を確認する。
無事なようだ。だが、倒れている。ヴィクセンを待機状態にして少女が倒れている場所に影を作ってロイドはコックピットを飛び降りた。
そして、少女に駆け寄る。うつ伏せだったので仰向けにして声をかける。
「大丈夫ですか!」
「うぅ」
うめき声をあげる少女。反応したということは意識があるようだ。ゆっくりと目を開ける少女。何かを言いたいのだろう。
数度口を開いては閉じてを繰り返してから、
「お」
「お?」
「おなか、すきました」
そう言った。
二話完成したのであげます。
さて本編は主人公機を手に入れる、初戦闘、少女を拾うの三本展開でした。
ここら辺で意識したのは昔懐かし初代ゾイドですね。
あれは素晴らしいアニメでした。
あと着地のシーンに関してはどこぞの歩く城壁であるところのデルフィングのようなのをイメージしていただければと思います。
それからシドニアの二期がついに始まりましたね。いやあ、素晴らしい音響と戦闘シーンに興奮が止まりません。
あと、血界戦線とかおすすめです。
では、また次回。