【友葉学園】公園管理人の土地神様
主人公は立波 都華咲(偽名)、土地神系管理人です(笑)
友葉学園から少しばかり離れた場所にある湖公園。
そこには、古来からの伝承に竜が住むという噂があった。
その竜は遥か昔、友葉の地を作っていた際に天災が起こったが、それを神通力にて村を守ったと言われている……。
(……暇だのう)
そして、それが妾である。
一応本業は土地神であるが、最近は湖公園の管理人と言いながら、一般的な人間に扮しながら毎日をグータラと暮らしておる。
「……しかし、時というものはめまぐるしく移り行くものじゃ」
そう言いながら妾は管理小屋で公園前にあるスーパーで購入したま○りせんべいを貪りながらTVを見ていた。
ちなみに全て働いた金で買ったものだから勘違いするでない。
「最近は平和すぎてつまらん……とかいうと不謹慎かもしれぬけど、そろそろ何か刺激が欲しいの……」
そんなことをボヤいていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「……何用じゃ?」
妾が戸を開けると、そこには若い娘がおった。ちなみに、妾の姿は本来の性別である人間の女の姿をしておる……ちなみに若いぞ? それに美人で胸もそこそこ大きめにした。自己満足じゃ。
「え? ……あ、はい。その湖に落し物をしてしまいまして……」
「……なるほど。とりあえずこの紛失届に記入してくれ」
そう言いながら妾は冷蔵庫に100均で購入した磁石で停めた紙から1枚抜き取った。
「机と書く物は小屋の中の物を使うが良い」
「あ、ありがとうございます」
…………
……
「書けました」
「……なになに」
ほう結婚指輪とな。どうでもいいものなら諦めてもらうつもりだったが……これは仕方ないか。
「理解した。 また後日連絡する」
*****
その夜、誰もいなくなった時間に妾は湖に来た。
「……さて、仕事するかの」
妾はそう言うと深呼吸をして姿を変える。……というかこちらが本当の姿である。
「……この姿になる回数も減ったのう」
一応妾は本来竜神である。それは昔から変わらぬ。
しかし、この湖はこの時期は非常に水温が低い。その上かなり深いため人間の姿で入るなど自殺に等しい。
そこで妾は湖に入るときは本来の竜の姿に戻る。
……一応言うが姿はグロくないぞ。
むしろ、鮮やかかつ艶やかじゃ、昔の人間にもそう言われたから間違いないぞ!
妾は水の中に入ると底まで潜った。
*****
「これでよいか?」
「あ、ありがとうございますっ!! なんと感謝すればいいやら……」
「構わん構わん人の不幸から物をもらうなど胸糞悪い」
妾は人払いをすると、再びテレビの電源をつけた。
「……しかし、あんなものを落とすとはな」
そう呟きながら、まとめ買いしたインスタントコーヒーを飲みながら息をゆっくりと吐いた、その瞬間。
コンコンと再びドアノックが聞こえてきた。全くダブルノックはトイレじゃろうに。
仕方なく扉を開けると、そこには一人の男がおった。
「あっ、あのっ! 」
そう言葉を詰まらせながらも手に持った紙だけが渡されてきた。
「……なんじゃこれは」
「履歴書です!」
「いや、それは分かるのじゃが、なんでこんなものを渡してきたのだ?」
「バイトさせてください!」
……何を言っておるのだ、この小童は。
「……お主、公園の管理のアルバイトなど聴いたことあるのか?」
「無いです」
「……」
……。
「あ、で、でも、なんでもしますから! 掃除に土地権利書の整理まで!」
「……そもそもどうしてここを選ぶ。この辺りならマックやらセブイレなどもあるであろうに」
「接客は苦手なんです!」
……少々面倒じゃのう。
……そうじゃ。
「お主、名は?」
「は、はい。高町 浩史といいます!」
「そうか……では高町よ。入社試験じゃ」
「は、はい! なんでもします!」
*****
妾が下した入社試験。
それは「公園を3周走る」と言うものだった。
「しかし、この公園は一周走るとすれば5km……中には坂道や林道もあるため人間の足には、ちとしんどいじゃろう」
想像通り高町は一周してきたところで、もうすでにヘトヘトになっていた。
「ヒィ……ヒィ……」
「ほれ、足を止めるな」
「は、はぁっ!」
もはや返事になってない声をあげながら高町は再び走って行った。
…………
……
「……はぁ……はぁ……」
「……まさか本当に3周やり遂げるとはな。立てるか?」
「……だ、大丈夫です……」
「妾にはそう見えぬ。とりあえず小屋で休め」
……しかし、ここまですると言うことは本気なのだろうな。
「高町よ」
「……はい?」
「構わん。明日の放課後から来てくれ。履歴書だとお主はまだ中学なのだろう。そもそもなら法に反するが理由があってのことだろう。大目に見てやるが、学生の本分は学業。きちんと励め」
そう言うと高町はとたんに目に涙を浮かべ始めた。
「ま、まて! お、お前そんなに入れてよかったのか!?」
「……いえ、ここまで走って何もなかったらどうしようかと思ったら不安で……」
……今度からは優しくしてやることにしよう。
*****
翌日。
「よく来たな」
「はい! なんでもしますよ!」
「……んじゃあ肩を揉め」
「はい!」
……疑わずか。
これは立派な社畜になりそうじゃのう。
「……うまいな」
「はい、ばあちゃんの肩、よく揉んでましたから」
「ほう、親孝行じゃのう」
これは良いマッサージ師を得たな。
「……あのそういえば管理人さんのお名前聴いてませんでした」
「あー、そうじゃのう……んー……立波 都華咲……かの」
もちろん偽名である。これは昔、公園に来ていた小童の名前じゃ。
「立波さんですね」
「まあ好きに呼べば良い。あと肩揉みはもうよい」
「は、はい」
そういうと高町はこちらを期待の眼差しで見つめてきた。
参ったのぉ……することないのだが。
「……そういえば高町よ。お主、木工大工免許持っておったな」
「……まあ、実家が宮大工なので」
「ほう。ならばチェンソーなどは?」
妾が問うと高町は首を横に振った。
「いえノコギリしか」
「ならちょうど良い。伝授してやろう」
暇つぶしにもなるであろう。
…………
……
妾は一旦外に出ると湖の周りへ向かった。
「とりあえず持ってみよ」
「……そこそこ重いですね」
「振り回されんように気をつけろよ。そこの紐をぐっと引っ張れば起動する、引いてみよ」
「これですね……えい!」
ドゥルルルルルルルル
「おおお……」
「あとはマスクかなんかして木片に気をつけながら気に当てると簡単に切れる。事故には気をつけろよ。リアルジェイソンなど見たく無いわい」
「は、はい……」
*****
妾はその後湖の周りの木の伐採を頼むと変身して湖に潜った。
「たしか……まだ落し物があったはず……これかの(しかし、チェンソーなどバイトにさせることではないのかもしれんな……)」
妾は皮の財布を拾うと水面に上がろうとした……その瞬間、突然頭に強い振動がかかってきた。
「なななななななにごと!?」
急いで頭を確認すると、そこには近くのホームセンターの名前が書かれたチェンソーだった。
ザバー
「高町ーっ!!? お主妾を殺すつもりか!? 殺して妾から公園を乗っ取るつもりだったのだな!?」
「す、すいませんすいません! 落としたのは普通のチェンソーです、すいません!!」
高町はパニックになって訳わからないことを喋っていた。
「……まあよい。素人に危険なことをさせる妾が悪かった」
次からはノコギリで良いだろう。
「あと……えっと……その……誰ですか」
「は?」
そこで妾は気がついた。
今、高町の目の前に居るのは湖面に立つ6mもの大きさの水竜なのである。
よく見ると高町は腰が抜けて足がブルブルと震えている。冬と言うのに冷や汗もひどい。
「……あー」
「……な、なんなんですか?」
「……まあ説明する」
*****
驚くことに事態の飲み込みについては高町は異常に早かった。
「なるほど土地神様なんですね……だから古風な喋り方なんですね」
「ふむ、古風かどうかは知りませんが普通の話し方もできますよ」
「やめてください……」
ふむ。
「しかしこれを信じるのか。お主、本当に将来生活が大変になりそうじゃのう」
「いえ、でも立波さんの言うことは本当だと思いますから」
「……まあよい……おーそうじゃ。せっかくだしこの質問をしてみようかの」
「……?」
妾は小屋でチェンソーを片付けながら呟いた。
「……高町よ。お主、旨そうじゃのう。小童の肉は柔らかくて骨までいけると聞く」
「……構わないですよ。……食事がなくなったらですけど、非常食にしても」
「ぬぬっ!?」
まあ冗談だとバレたのじゃろう。
「ぼくは立波さんのこと好きですから」
「……」
ボフッと音を立てて顔が熱くなるのを感じる。
「……お、お主……そういうことは軽んじて言わない方がよい……終いに勘違いを起こさせてしまうぞ?」
「え? ……あぁっ!? す、すいません! 違います違います、あ、いや、違うって言っても好きですけど、その好きは恋愛的な意味ではなくて……むぐっ!?」
妾は高町の焦る口に指を当てた。
「……まあ、構わん……」
「え、それはどういう……」
「秘密じゃ!」
*****
一週間後、友葉学園にて新たな生徒が転入した。
そのクラスは古風な話し方をする女子生徒といつも慌てている男子生徒の所為で少しばかり騒がしくなったそうな。
思ったよりも短かったですな。
登場人物は高町 浩史。バイト系男子ですね。