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テレフォンショッキングな話


 ある日の昼――。


 体調を崩した俺は、学校を休まざるを得ず、居間のソファーで身を投げ出すように横になっていた。

 熱が高いせいか全身に力が入らない。

 頭がぼぅっとする。

 何をするにも体が重く、気だるい。

 額に当てた熱冷ましの湿布がひんやりとしていて気持ちよかった。


 台所にいた母さんが二人分の昼食の準備をしながら声をかけてくる。

「体調はどう? 今朝と比べて少しは良くになった感じする?」


 力入らない声で弱々しく俺は答えを返す。

 全然。


「午後から主治医の榎木先生が診てくれるらしいから」


 いい。病院行かない。このまま寝とく。


「ダメよ。もう診察予約しちゃったから」


 無理。


「何言ってるの。若者なんだから大志を抱きなさい」


 大志を抱く余裕が俺には無い。


「冗談を返せる元気があるなら病院に行けるわね」


 鬼。


「はいはい、鬼ババアで結構です。もうすぐお昼ご飯できるから、それを食べたら大人しく一緒に病院に行きましょうね」


 行かないっつってんだろ。


「テレビつけてあげようか?」


 あーうん。


 テレビの電源がついて、昼の番組が始まる。

 ちょうど昼のお馴染み番組が始まっていた。

 黒のサングラスをかけた司会者がテレビ一面にアップで映っており、にこやかな笑顔を浮かべて居る。今日のゲストは──ん?

 俺は違和感を覚えてテレビに釘付けになった。


 ち、ちょっと待て。いやまさか、そんなはずは……。


 現実を確かめるように目をこすった後、二、三度瞬きをしてもう一度テレビを見る。


「どうしたの?」

 母さんが二つのコップを手に俺のところへ来る。


 俺は動揺交じりに声を震わせ、首を横に振った。

 い、いや、なんでもない……。なぁ、母さん。


「ん?」


 今、て、テレビついているよな?


 テーブルにコップを置き、母さんが俺の傍に座り込んでくる。

 心配の表情をいっぱいに顔に浮かべて俺を見つめて、俺の額にそっと手を当てた。

 ため息を吐いて。

 手を離し、母さんが俺の傍から立ち上がる。独り言とともに、

「大変。熱が高いせいで──榎木先生に電話を」


 がしりと。

 俺は母さんの手を掴んで引き止めた。


 ごめん。嘘。マジで、今のは冗談だから。


「それならいいけど……」

 多少心配を顔に滲ませながらも、母さんは昼食の準備に台所へと戻っていった。


 ……。

 しばらくして、俺はゆっくりとソファーから身を起こす。

 疲労に満ちた重いため息を吐いて。

 そしてテレビの向こうの人物に対して内心で語りかける。


 今度は何の用だよ、おっちゃん。


 テレビ一面にアップで映ったまま時を止めている黒いサングラスをした司会者は、にこやかに表情を浮かべて言ってくる。


『こんにちはー』


 ……。


『今日のオリロアンは晴れだそうですね』


 ……。


『晴れだそうですね』


 ……。


『晴れだそうで──』


 あーそーですか。


『ありがとうございます。じゃぁ今日も元気に、設定無視で物語を強行していきたいと思います。本日のゲストはこの方です』


 今度は誰呼んだんだよ。


『……』


 ……。あれ? 来ないぞ。


『――と、いうわけでありましてね』


 来ないのかよッ!


『ゲストの分まで俺がここで、一人でしゃべり通したいと思います。

 えー、そうですね。まぁ──どうですか? 最近調子。もうすぐオリロアンでも戦いが始まるわけですが、ね? 俺の言うことを無視して調子に乗ってガンガンと勝手にクトゥルク使って自滅していくわけですが、何か良い事ありましたか?』


 俺は鼻で笑った。

 本気で設定無視して話を強行する気だな、おっちゃん。


『まー昔はね、若気の至りで俺もそんなこともありましたよ。師匠はうぜーし口うるさいで。しつこかったですよー、何をするでも。心配性っていうか、昔っから。「うるせーよ」なんて言ってみたかったもんなんですが、口答えしようもんなら昔は拳が飛んできましたからね。がつーん、って。まぁその反動じゃないですけど俺も色んな女に手を出して遊んでしまったわけですよ。──記憶吹っ飛んでるなら覚えてないでしょ? 俺がお前の女に手を出したこととか』


 ……。


『怒った? あ、いやでもちょっとは怒ってるでしょ? いやぁまーね、別に悪気があったわけじゃないからね。あれ。

 それより、記憶が吹っ飛んでいるとか前世の記憶がどうとか、こっちの世界の人たちがみんなお前に色々と言ってきているけど、実際のところ本当に信じてんの? 信じてない部分とかもあるでしょ? うーん……。けっこう設定上とかも微妙なところあるからね、あれ。どこまで本当かもう分かんないでしょ? その辺どうよ? 本気にしてんの? 話が進んでみないと冗談ともとれないわけだし、俺も知らないからね、この先どうなるか。教えたらいけないらしいんだよ。ルールっつーか。……うーん。このルールとかも誰が作ったんだろうね。そこんとこも含めて気になるでしょ?』


……。


『あーもちろん設定無視で話してるよ。ほんとほんと。会場のお客さんに聞いてボタン押してもらってもいいし。――訊いてみる? もし一人だけだったら番組特製【SRB結末一言ステッカー】あげるから』


 ……。


『うーん。でもさ、こんだけ第三弾まで話進んでおいて未だに俺とお前なんか名前明かされてないってのもねー。なんかもう投げられてる気がするよねー。この先もないよ、ほんと。――あれ? そういやもう一人明かされてない奴居たっけ? そいつも含めてこの先ずっと明かされることがないらしいからねぇ。もう面倒なんじゃない? タイミング的にもいっぱいっぱいだし、最後までカッチンに構成組んでるらしいから。実際そうらしいよ。物語に関係ありそうなフリしてるけど、本当のとこ全然関係ないからね。作者が楽したいだけだから、あれ。おかしいってもんじゃないよ』


 ……。


『いや、もちろん設定無視で話してるよ。ほんとほんと。番外編って本編に全く関係してないから。

 ――あ、では一旦CMです』


 ……。


『はい、CMが終わりましたー。では明日のゲストに電話してみましょうかね。……うーん。なんか体調悪いみたいだし、電話出てくれるかな?』

 言って。どこから取り出したか、おっちゃんが電話の受話器を耳に当てた。

 呼び出し音がテレビから聞こえてくる。

 同時、俺の家の玄関に置かれていた固定電話が鳴り出した。


 ……。

 ため息を吐いて。

 俺は重い体を引き摺るようにして電話のところまで歩いていった。


「どうしたの?」

 心配に問いかけてくる母さんを無視して、俺は玄関によろよろと歩いてたどり着き、そして固定電話の受話器を手にして耳に当てた。


 頭の中でおっちゃんが言ってくる。

『明日のゲストと電話が繋がってます。もしもーし? K君ですかー?』


 ……。


『明日はこっちの世界に来てくれるかなー?』


 ……。


『来てくれるかなー?』


 なぁおっちゃん。


『……なんだ?』


 俺以外に話し相手居ないのか?


『……』

 しばらく間を置いた後。

『お前しか居ないんだ。言わせんな、涙が出てくる』

 涙声でそう言って、おっちゃんは鼻をすすった。



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