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どうでもいい異世界グルメ・ツアーな話


『はい、というわけで。

今回俺たちがやってきましたのは、ここ──リディアの王都【オリロアン】でございます。いやぁ~今回のグルメも楽しみですね』


 おっちゃんの問いかけに、俺は不機嫌な顔で適当に答える。


 はいはいそうですね。何の真似事か知りませんが、今度こそちゃんと三時間で元の世界に帰してくれるんでしょうかね。そこにすごく期待しています。


『笑え』


 笑えるか。ってかなんなんだよ、いきなり呼び出して。


『悪いが、本編のように状況説明している暇はない』


 本編でもロクにしてねぇだろ、説明なんて。


『はい。――というわけで、台本無しのぶっつけアドリブでお送りしております、このグルメ番組。今回も味覚の変な異世界人Kとともに、みなさまを知られざる【オリロアン】のグルメ・ツアーにご案内したいと思います。

 えー、今回はですね。素敵なゲストをお招きしております。この方です、どうぞ』


 隻眼の少女が後方からとてとてと歩いてやってくる。

「……フィーリアです。味覚は誰にも負けるつもりはありません。特にK、あなたには」


 意味わかんねぇーよ! ってか、なんでいきなり宣戦布告――


『フィーリアは過去にKと対戦して色々と負けがこんでいましたからね』


「あの節はどうも」


 知らねぇーよッ!


『というわけで。ぜひ、Kではなくフィーリアに勝ってもらいたいとおっちゃんは心から思っています』


 どっちに肩入れしてんだよ! ってか俺とフィーリアってどういう関係なんだよ! 説明しろよ!


 フィーリアがぽつりと答える。

「……グルメですから」


 なんのグルメだよ! 意味わかんねーよ!


『さて、ゲスト同士が意気投合しましたところで、ね。めんどくさい筋書きは適当に放り捨てておきまして、本編とは全く関係ない設定で盛り上がっていきたいと思っております』


 設定無視とかいい加減過ぎるだろ!


『では、さっそく一軒目のお店に入ってみましょう。こんにちはー』


「お前、客ゴグェ?」


 ――って竜人じゃねぇかよ! 支払いヤバイって、おっちゃん!


 俺を横に押し退け、おっちゃんが真顔で取材交渉に入る。

『ガーダ、グ、チッ、ディエゴ。バグデラ、ダラドーラ』


 竜人が怒りあらわに地団駄を踏む。

「デラゴーワ、デラゴーワ! チチチチッ!」


 怒らせるなよ! ってか、よく考えたら王都に行く前にフェードアウトした人物じゃないか! いいかげんその会話も通訳しろよ!


 フィーリアがぽつりと言う。

「……グルメ、ですから」


 グルメっていったいなんなんだよ!


『さて今回、どんな料理が出てくるんでしょうか。やはりオリロアンといえばアレしかないでしょう。

ではさっそく、例のものをお願いします』


 無言で、竜人が謎の黒い干物のようなスティックを三本用意してくる。


 それを受け取り、おっちゃんがその内の一本をすぐに口にくわえて、

『おぉきたきた。やはりオリロアン名物と言えばこれでしょう、【トカゲの尻尾】。いやぁ懐かしいものが出てきましたね』


 俺の頬がひきつる。

 え? と、とか……げ?


 すかさずフィーリアがおっちゃんから一本を受け取り、つまみのようにして口に含む。

「本当に懐かしいものがでてきましたね。私もよく乳母からおやつ感覚で与えられていました」


『このコリコリッとした食感と渋くすっぱい酸味がなかなかクセになるというか』


「やめられない味ですね。コラーゲンが含まれていますので女性にも大人気なんです」


 ……。

 干物を口にしたおっちゃんとフィーリアの目が俺に集中する。


 なんだよ、この疎外感! 食うよ! 食って感想言えばいいんだろ!


 震える手で俺はおっちゃんから黒い干物のスティックを一本受け取った。


 フィーリアがぽつりと言う。

「……上手くボケなさいって、その干物は言っているわ」


 ボケるってなんだよ! ってか干物の気持ちがわかるのかよ!


『食ってみろ。美味いぞ~』


 えー、いやだって、えー。トカゲの尻尾なんだろ?

 俺は苦々しい顔で黒い干物のスティックを観察した。

 見た目通りというか、その干物は明らかにトカゲの尻尾が乾燥したものだった。


『いいから食ってみろ。騙されたと思って』


 えー。いやでも、えー。これマジで食うのか? なんかほんと騙されている気がするんだけど


 おいしそうに食べる二人を見て、俺はごくりと生唾を飲んだ。

 もしかしたら想像と違って意外とおいしいのかもしれない。

 そう思いながらも疑いの目で、俺は干物スティックの匂いを嗅いだ。

 無臭。

 恐る恐るそれを口へと運ぶ。

 嫌がる歯を無理やりに締めて、干物スティックの先をほんの少しだけ噛み千切る。

 きっとおいしい。きっとおいしい。

 そう切に願いながら。


 おっちゃんが鼻で笑ってコメントを付け加えてくる。

『たまにクソまずいやつもあるけどな』


 おろげー。

 口の中に広がる食を放棄させるようなデストロイな味に、俺はたまらず吐き出した。


 み、水……。


 竜人が俺に木の実の器に入った水を差し出してくる。

「これ飲メ」


 受け取って。俺はその水を急いで喉に流し込んだ。

 ――そして。

 気を失うほどの味覚のダブル攻撃に、俺はその場にあっけなく昏倒した。



 気を取り直して、おっちゃんが笑顔でぽんと手を叩く。

『はい。と、いうわけでございまして。今回のグルメ・ツアーはオリロアンの郷土菓子【ロアロア】をご紹介しました。視聴者プレゼントはCMの後に発表いたしまーす』


「懐かしい味でしたね」


『いやぁ~ほんと懐かしい味でしたね。あの時の恨みが、こう、なんか心の奥底から沸々とこみ上げてくる感じがします。その辺どうですか? フィーリア』


「えぇ、そうですね」


『では次回も素敵なグルメ・ツアーでお会いしましょう。また来週』


「……さようなら」



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