眠れない話
──とある夏休み、某日。
俺は自室のベッドの上で、寝苦しい夜を過ごしていた。
冷房は……無い。
扇風機はさっき壊れたばかりだ。
窓を開けても風は吹かず、逆に昼間蓄えられていたであろうアスファルトの熱が蒸し返すように部屋を暖めてくる。
あークソ、なんでこんなに暑いんだよ。
ごろごろと寝相を変えて転がる。
明日の午前中はいよいよ夏期講習最終日だ。
しかもよりにもよって講習最終日が数学教師――荒俣の授業だ。奴の授業で寝たら、午後は奉仕作業をやらされる。
もう寝よう。
寝てしまえば暑さなんて忘れるはずだ。
……。
いざ寝ようと思えば思うほど、余計なことが次々と頭に浮かんでくる。
そういや最近おっちゃんが恐ろしいくらいに何も言ってこないな。
いや、待てよ。
今までが今までだ。きっと俺が油断した隙を突いていきなりあっちの世界に引っ張り込もうとするに違いない。
おっちゃんが仕掛けてくるとすれば考えられるのが──そう、荒俣がテスト解説をするあの瞬間だ。
あの瞬間に強烈な眠気に襲われる。
その隙を突かれておっちゃんに話しかけられたりしたら最悪だ。
何だか嫌な予感がしてきた。
尚のこと、今夜を寝不足にするわけにはいかない。
俺は枕に顔を埋め、無理やりにでも眠りにつこうとした。
そうだ。こういう時こそ定番のあれをやろう。
羊を数えながら眠るんだ。
よし、さっそく数えていこう。
羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹、羊が五匹、羊が六匹、羊が七匹、羊が八匹、羊が九匹、羊が十匹、羊が
『羊を数えているところ悪いな。そのことで一つ気になったんだが、牛は一頭二頭と数えるのに対し、なぜ羊を一匹二匹で数えるのか疑問に思ったことはないか?』
こうして俺は、さらに眠れなくなった。