結局こんな終わり方!
視線を向けて、後悔。
見るのではなかった。
そう思う心を奥のほうへ押しやりながら、私はヒヤリとし続ける背筋に悪寒を感じ、身を震わせる。
「――なるほどな、ふむ。面白い。こうしてこう、か」
「そう! そしてさらにこうしてしまえば……」
「ほほう、素晴らしい。これは是非とも覚えなければ」
……試験は何処へやら。
私は、いつの間にか体術講座へと成り代わっているその風景を見つめながら、絶望的な感覚に陥った。なにが絶望って、いらん知識を魔王様に与えるあのマッチョ先生様に絶望ですよ。
だって明らかにその与えられた知識は私や宰相様に来るではないですか! ほらもう見てくださいよ、あの魔王様のはち切れんばかりの笑顔……うわあああ、人の笑顔に引いたのはこれが初めてです。宰相様なんか戦いに集中出来ずに適当に戦ったりなんかしちゃって、遊ばれていると感じた先生様がかなりマジギレされてらっしゃいますし。
ああ、無力な自分にほとほと愛想尽かされます。とにかく魔王様、試験を始めてください!!
「おおお! なるほど! こんな使い方が……!?」
「うわあああああもうくだらないことしてないで試験初めてくださいよぉぉぉぉおおおお!!」
「むっ……忘れていた。ふん、なんだ、我が妹はもう終わったのか。もちろん合格だな?」
「ええ、ええ、合格しましたとも。だから今までのことを即刻忘れて試験だけを考えてくださいませ!!」
「……ふうむ、それはちょっと……そうだ、ふはははは! 試験は一旦中断だ、こちらへおいで我が妹よ」
「全力で拒否させてくださあああああああい!!」
その場で土下座をしながら、私は高らかに言った。
生徒様達や先生様達が引いたような目で私を見ようとも、私は折れるわけにはいかないのです。ええ、私は大丈夫です。宰相様という、同じ気持ちを分かち合ったお方が慰めるように私を見つめてくださっているのですから。
私はそれだけで救われるのです。
ぐすん。
「ちっ、しかたない……さっさと試験を終わらせてからにするか」
……と、魔王様は先ほどまでとは違った雰囲気を醸し出す。
それに気づいたのか、先生様も表情を変え少し身構えました。
そう、それでいいのです魔王様! これで滞りなく試験を終了してくだされば私はもちろんこの学園も、安心無事に済むというものです。
ですが、です。
魔王様とあらせられるお方が……そんな思い通りにいくわけなどないのです。
「では行くぞ……お師匠殿。我が特訓の成果をジックリ拝見していてくれ!」
「おう! 期待しているぞ愛弟子よ!」
「――は!? いやいやいや! お二人ともいつの間にそんな関係にまで進ん…………やっ、ちょっ、ままま待ってください! ちがっ、ぎゃああああああっ!!」
ツッコミを入れようとした最中、何故か“こちらへ”走り出した魔王様。もちろん私は顔面蒼白でございます。そして説明なんていらないでしょうが、向こうが走り出したと察知した瞬間、私は考えるよりも先に身体が動きましたとも。
いや、いや、いや。ていうかですよ、その、特訓の成果って……特訓と呼べるような時間は経ってませんよね? 特訓とはアレでしょう? 私が今まで経験を(強制的に)させられた、あの血と涙と汗の行動のことでございますよね? ……え、違う? まさか特訓とは、天才だけが数秒でこなせる必須項目のことを言うのでしょうか。
……んなわけあるか!
「いいいいやぁーっ!! やめてくださいませ魔おっ……お兄様ー!!」
「ふはははははは! よいぞよいぞ! さあさあ逃げ回れ愚かなる我が妹よ!!」
――――結論から、お伝え致しましょう。
この後宰相様まで強制参加となった必死の逃亡劇は、もちろん魔王様が納得するような拷問タイムで終わり、魔王様を呼びに来た城の使いにより正体がバレ、私は不憫な人間のメイドと有名になりました。そして私がその事件により一番心配していた――メーリン様との関係ですが……。ご心配なさらず。会うことは滅多に出来ませんが、週に三回の頻度で文通を交わしております。本当に、メーリン様が心の広いお優しいかたで助かりました。
そんな感じで、私の学園仮入学は幕を閉じる。なんでいつもこうなってしまうんだか……本当に、魔王様といると退屈がありませんね。まあ、今回は魔王様のお陰で文通友達が一人出来たのですから……結果オーライ、なんですけれど。
まったく、明日はいったいなにが待ち受けているのやら……。
アトガキ。
お久し振りです。
ながながお休みしていて申し訳ございません……
仕事が終わったら爆睡、の連鎖で小説が手付かずになってしまいました(汗)
これからも更新は遅めになるかと思いますが、どっかのド鬼畜魔王のメイドのように、どこまでも耐えられるならば、これからもこの物語を是非ともヨロシクお願いします!
即爆睡だけは避けられるように、一日一日ちょこっとずつ書いていきますね(^^)