悪役令嬢の父親は権力と財力にモノをいわせて魔王復活を阻止してみる
「悪役令嬢の父親」シリーズ二作目です。前作をお読みでなくても大丈夫ですが、よろしければそちらもお読みいただけると、より一層楽しめると思います。
そして前作を読み返してみて、主人公なのに名前も外見も書いてなかったという衝撃……。ごめんよパパン。
「……タルトレット辺境伯領で突如魔獣が増加、か」
気になる見出しを発見し、私は新聞を繰る手を止めた。
新聞を半分に折ってテーブルに置くと、もう片方の手で、髪と同じ金色の髭を撫でつける。
「三日前に謎の地響き、崖の一部が崩落……隠されていた洞窟から魔獣があふれ出したとみられる、か。――ライム」
「はっ」
「タルトレット辺境伯領の地図を」
「すぐにご用意いたします」
従者のライムは短く返答し、下がっていった。
彼はフロマージュ公爵家に仕える者の中でも、とりわけ優秀だ。
私がコーヒーを飲み終える頃には、地図だけでなく各種資料まで揃えて用意してくれることだろう。
「……どうやら、懸念した通りになってしまったようだな。時期的にも一致する」
私はそう呟いて、膝の上で丸まっている、白い子犬の背を撫でた。
「なあ、メレンゲ」
「わふ?」
一年前まではこのフロマージュ公爵邸にいなかった、膝上の子犬の名を呼ぶ。
ちなみに、この子犬にメレンゲと名付けたのは、愛娘のラズベリーだ。
ふわふわもこもこで真っ白だから、とのことだが――奇しくも、前世で読んだ『物語』でヒロインによって名付けられていた名と同じである。
今回の魔獣発生事件といい、やはり、何かしらの強制力のようなものが働いているのだろうか。
「まあ、強制力があったとしても、私がそんなものに屈することなどないがな」
何せ、この私――シャルドネ・ブラン・フロマージュには、絶大な権力と財力があるのだから。
私は悪い笑みを浮かべつつ、緑色の瞳をすうっと細めた。
*
私に前世の記憶が蘇ったのは、三年前の夏――ちょうど今ぐらいの時季だった。
この世界が前世で読んでいた連載小説の世界と酷似していることに気がついた私は、このままでは愛娘が悪役令嬢として断罪されてしまう可能性があることを知り、娘の断罪を回避するために行動を起こした。
物語のヒロインは平民として暮らしていたのだが、とある理由によりエクレール男爵家の養子となって学園に入学し、愛娘ラズベリーの婚約者である王太子オーランと恋に落ちる。
オーランはラズベリーに婚約破棄を言い渡し、ラズベリーはヒロインを虐めた罪で断罪され、修道院送りにされてしまうのだ。
だが、この世界における実際のラズベリーは、オーラン殿下を慕っているし、信頼関係だってそれなりに築けていた。
ぽっと出の男爵家庶子なんぞに婚約を壊されては、たまったものではない。
それにもし本当にそうなれば、今後の王太子ならびに王家への忠誠心も、間違いなく地に落ちる。
貴族の信頼を失った王家は、王国の平安を保つことかなわず失墜。国は混乱に陥り、内乱の時代になっただろう。
国内が分裂するか、頭が挿げ代わるか、最悪他国に併呑されていたかもしれない。
私は公爵としても、断罪される娘の父親としても、何もしないわけにはいかなかった。
最悪の未来を回避する――私の記憶が蘇り、そのように決意をした時には、まだヒロインは市井に暮らしていた。
私はヒロインが引き取られる予定だったエクレール男爵家に手を回し、ヒロインの養子入りを防いだ。
さらにその際に手に入れた優秀な駒を利用して、ラズベリーとオーラン殿下の周囲の害虫を駆除することに成功。
結局、ヒロインは学園に入学することも、ラズベリーやオーラン殿下に接触することもなく、娘たちは婚約関係を維持したまま、この春に無事卒業を迎えたのである。
だが。
前世で読んだ物語は、実は、単なるシンデレラストーリーではなかった。
ヒロインとヒーローが結ばれてハッピーエンド……とは、ならなかったのである。
*
コーヒーを飲み終えた私が執務室に戻ると、既に従者のライムが資料を手に待機していた。
ライムは軽く頭を下げて、持ってきた資料を机上に広げていく。
私が執務椅子に腰掛けると、相変わらずメレンゲはすぐさま私の膝の上に陣取って、一緒になって資料やら地図やらを眺めはじめた。
理解しているかどうかは不明だが、メレンゲは賢く、決して執務の邪魔はしないので問題はない。
「魔獣が出てきたのは、この辺りで間違いないか。近隣に人里はないのだな」
「はい。この森は『禁じられた森』と呼ばれており、地元の人間は昔から近づかなかったそうです」
「現在の森の様子は? それから、崖の崩落に巻き込まれた者はいたのか?」
「今のところ、魔獣が増えた以外には、特に大きな変化は確認されていません。崩落の被害に遭った者はいないとのことですが、崖上の修道院へ向かう道が寸断され、孤立しているようです」
「修道院……か」
私は思わず顔をしかめた。
タルトレット辺境伯領の修道院――今回崖崩れによって道が閉ざされてしまったその修道院こそが、前世で読んだ物語で、我が愛娘ラズベリーが断罪後に送られる予定だった院である。
物語では、悪役令嬢ラズベリーが乗った馬車が崩落に巻き込まれて崖下に転落。
転落した馬車は崖上から確認できたものの、残念ながら、ラズベリーの遺体は発見することができなかったとされている。
なぜなら、崩落事故を境に現場周辺の森の様子が一変し、森に立ち入ることができなくなってしまったからだ。
だが、そこはウェブ小説の世界。
その時、悪役令嬢ラズベリーに何が起こったのか、画面上にはっきりと描かれていた。
見下していた男爵家の庶子に出し抜かれ、友人だと思っていた者たちに裏切られ、最愛の婚約者に切り捨てられて、王国中に蔑まれたラズベリーは、深い憎しみと恨みに囚われてしまった。
恨みや憎しみを抱えたまま命の終わりを迎えようとしていた悪役令嬢の悲憤は、最悪の形で世界に牙を剥くことになる。
断罪された悪役令嬢の憎しみが、恨みが、悲しみが、封印された魔王と同調。魔王の封印を解いてしまったのだ。
崖下に隠されていた洞窟には、かつて勇者が魔王と死闘を繰り広げた末に魔王を封印した、『封印の祠』が存在していた。
長い年月を経て封印の楔となっていた聖剣が朽ち、祠を守っていた神獣も失われてしまったために、森には封印された魔王から発せられる『瘴気』が広がりつつある……というのが三年前、物語冒頭の状況だったのだが。
「なあ、ライム。ラズベリーは相変わらず殿下と仲が良いし、心根の正しい友人に恵まれているし、誰よりも可愛いし賢いし敬われているよな?」
「は……ええ、もちろんでございます」
「うむ。そうだよな」
ライムは、突然話題がすり替わったことにわずかに眉をひそめたが、そこは長年伊達に私の従者をやっているわけではない。
主人の突飛な思考にも言動にもすっかり慣れているようで、すぐにきちんと返答をした。私は、満足して鷹揚に頷く。
ただ……今回はラズベリーも他の人間も崖下に転落していないのに、何故魔王の封印が解けてしまったのかが分からない。
それに関しては後ほど調査をする必要がありそうだが、ひとまず横に置いておく。
「それで、魔獣討伐の進捗はどうなっている? タルトレット辺境伯の動きは?」
「辺境伯子息の訴えを聞いた王太子殿下が議会に進言したことで、昨年、北の国境警備の予算が増額されました。そのため、辺境騎士団から、国境警備の騎士を人里周辺の魔獣対策に回すことが可能になり、人民の被害は最小限に抑えられているようです」
辺境伯子息は、学園で生徒会に所属し、オーラン殿下の信を得た人物だ。
前世の物語では生徒会メンバーではなかったのだが、私が手駒を送り込んだことで、殿下の周辺も色々と変化したのである。
その結果、魔獣による被害が減ったのならば御の字だ。
ラズベリーを通じて、辺境伯子息を殿下にさりげなく推薦した甲斐があったというものである。
「ただ、異変の中心地である『禁じられた森』を調査、鎮圧するほどの余裕はないようですね。昨晩から王国騎士団本部が慌ただしくなり始めたとの情報を得ましたので、今頃、急ぎ遠征の準備を整えているのではないでしょうか」
「そうか」
王国騎士団が動き出したということは、今日の議会で承認が得られれば、すぐにでも遠征に向かうことになるだろう。
なお、この世界には魔術が存在する。
三日前の崩落のニュースが遠い辺境の地から既に届いているのは、情報を伝送する魔術があるためだ。
物語でヒロインの味方をしていた天才魔術師は、自分自身およびパーティーメンバーを対象にした転移魔術も扱っていた。
だが、魔力の多い彼以外には到底扱えず、大人数には使用できないとも書かれていたので、騎士団は普通に移動するしかない。目的の森に到着するまで、二週間ぐらいはかかると思われる。
「今日は緊急招集がかかるかもしれんな。例の禁足地に何が眠っているか、王家の者なら知っているはずだ。長々と放置することはしないだろう」
「閣下は、何かご存知なので?」
「……お前は知らぬ方が良いだろう」
――かつて、魔王を追い詰め封印を施した勇者は、戦いののちに、この王国を建国した。
勇者は、結局、魔王を倒すことができなかった。
勇者は北の辺境にある洞窟に魔王を封印するに留まり、洞窟への出入り口のある森を「瘴気が濃いから」と禁足地にした。
初代国王となった勇者は、神獣に「祠のある洞窟に誰も立ち入らせるな」と命じると、民には「魔王は滅びた」と発表。
戦いに疲弊した民の気持ちを落ち着かせるためでもあったし、自らの権威をより強め、治世を安定させるための打算でもあった。
だから、国家ぐるみの――長く長く吐き続けた『嘘』の話など、公爵家の一従者が知っていて良い事柄ではないのである。
「国王陛下は……隠そうとして誤魔化すか、力技で揉み消そうとするか。どちらだろうな」
少なくとも、歴史の真実を明らかにすることは、今の時点では有り得ないだろう。
明らかにするとしたら、よっぽどまずい状況になってからだと私は踏んでいる。
「まあ、彼奴がどちらを選ぼうが、私には関係ないがな。くくく」
私は悪い顔で不敵に笑うと、メレンゲを抱いて立ち上がる。
メレンゲは、物言いたげにじっと私の目を見つめていた。
「さて。ライム、私はちょっと出かけてくる。後は頼むぞ」
「かしこまりました。緊急招集の報が届いた場合は、いかがいたしますか?」
「カベルかソーヴィに代理で出席させろ。ただし、答えはすべて『否』あるいは『しばし様子を見よ』と」
「……仰せのままに」
カベルとソーヴィ――ラズベリーの双子の弟たちのどちらかが、いずれはフロマージュ公爵家の後継となる。
二人はまだ学生の身だが、良い経験となるだろう。
どうせ議題も答えも決まっている議会だ。他者の口撃を躱すだけで、反撃の機を窺う必要もない場なら、さして難しくもない。
私はメレンゲを抱え直して、執務室を後にした。
扉を開けて廊下に出ると、そこにはすでに、ローブ姿の若く秀麗な男が立っていた。
銀髪碧眼、にこりともしない冷たい容貌の男は、魔術師家系であるギモーヴ侯爵家の令息だ。
「北の地は夏でも薄ら寒いぞ。外套を貸そうか?」
「いえ、結構です。魔術師団のローブは薄手に見えますが、耐寒防火性能に優れていますので。それより――」
「ああ、約束の報酬なら既に用意してある。戻ったらすぐに、君の研究室に届けさせよう」
「ほ、本当にあの幻の素材、不死鳥の尾羽を……っ!? 一体どうやって手に入れたのですか!?」
「くくく、私の財力と権力を舐めてもらっては困るな。今後も必要な時に力を貸してくれるならば、その都度報酬を用意しよう」
「公爵閣下、どこまでもお供します!」
「頼むよ、天才魔術師殿」
物語ではヒロインにだけ向けられるはずだった、クールで無愛想な男の屈託のない笑顔。
別に私にそんなものを向けられたところで嬉しくもなんともないが、彼の力は有用だ。ありがたく使わせてもらおう。
「――転移」
ギモーヴ侯爵令息の呪文に応え、足元に魔法陣が出現する。
私はメレンゲを腕に抱いたまま、ギモーヴ侯爵令息と共に魔法陣の光に吸い込まれていった。
*
野暮用を済ませて再び公爵邸に戻ったときには、もう夕刻になっていた。
封印の祠付近は瘴気が濃すぎて、転移魔術では『禁じられた森』の外周部までしか行けなかったのだ。
たくさん歩いたせいで、足が棒のようである。普段から運動不足とか、そういうことではない。断じてない。
「閣下、お帰りなさいませ。ところで、そちらは?」
「ああ、愛らしいだろう?」
「……またでございますか」
ライムは盛大にため息をつく。
視線の先には、私の足元で機嫌良く尻尾を振っているメレンゲ――ではなく、腕の中で眠る黒猫だ。
「仕方がないだろう。どうしてこうなったか、私にもさっぱり分からんのだ」
「閣下がラズベリーお嬢様の元ご友人だった方からメレンゲを強引に……ごほん。買い取ってこられた時も、心底驚きましたが……分からないとはこれまた如何に」
「どうしてだろうな、メレンゲ?」
「わふぅ?」
メレンゲと揃って首を傾げる私を見て、ライムは諦めたらしい。
犬猫の湯と食事の支度を使用人に命じると、そのまま執務室に向かう私に無言で追従したのだった。
後日。
瘴気に満ち魔獣が闊歩していたはずの、辺境伯領の『禁じられた森』から、一切の瘴気が消え去ったという報せがもたらされた。
森の瘴気が消えると同時に、魔獣も沈静化。理由は依然として調査中だが、奥地にある洞窟には、聖なる力を宿した白くふわふわとした獣の毛と、大きな足跡が残っていたという。
魔法生物を研究している学者の見立てでは、伝説の神獣フェンリルのものではないかとのことだった。
また、洞窟の奥からは、朽ち果てて折れた聖剣――勇者が魔王と戦った際に失われたと言われている聖遺物が発見された。
聖剣の近くには小さな祠があり、濃厚な魔力の残滓が渦巻いてはいたが、聖なる気配も闇なる気配も感じられなかったという。
ただ、洞窟の近くから、修道服だったと思われる襤褸切れを身につけた白骨遺体が多数見つかった。
崖上にある修道院の関係者だと思われるが、遺体の数と状態から見て、ここ数年どころの話ではなく、数十年、あるいは百年以上にわたって打ち捨てられてきたものとみられるそうだ。
おそらく、崖下が禁足地になっているのをいいことに、修道院で亡くなった者たちが、きちんと弔われることなく森に投げ捨てられてきたのだろう。
「……悪役令嬢が不在だったのにお前が復活したのは、祠の近くに打ち捨てられた修道士たちの怨念が、その身に宿っていた生前の魔力を瘴気に変質させて溜まってしまったからかもしれないな」
「にゃおん」
当の本人は、執務机の端に座って、何食わぬ顔でただの黒猫のフリをしている。
ライムやラズベリーをはじめとした公爵家の人間もみな本物の猫だと思っているのだから、彼奴の猫かぶりも大したものだ。
「それにしても、メレンゲとお前が良好な関係だったとは、思いもしなかったぞ。勇者の時代からか?」
「シャーッ」
『あいつの話はしないで!』
勇者の名を出した途端、黒猫は毛を逆立てて怒りだした。
精神感応の術で、無駄に可愛らしい幼女の声が私の頭の中に響く。
『あの勇者とか言うクズ、あたしの大事な相棒を召喚術で呼び出して勝手に連れて行った挙げ句、最終的にあたしに差し向けて、攻撃命令を出したんだからね! こちとら相棒がいなくなったせいで魔力バランスが崩れて、正気を失いかけてたのよ。危うく世界滅ぼすところだったわ!』
「危うくが本当に危ういな。というか、勇者何やってるんだ……」
『そもそもさ、あたしの話もろくに聞かないで、魔獣があたしの意思で人を襲ってると決めつけるとか、有り得なくない? 魔獣はあたしたち魔族から漏れ出した闇属性の余剰魔力、いわゆる瘴気から自然発生してただけで、あたしの意思とは何の関係もないっての!』
「だから相棒である神獣には、逆に瘴気を浄化する力があるのだな。それで余剰魔力を調整し、魔力のバランスを取っていたと」
『そういうこと! 公爵は勇者と全然違っていい奴だね! 相棒を信じて、ついて来て良かった。ね、フェン……じゃなかった、メレンゲ』
「わふっ、わふっ」
黒猫に変化した魔王の言葉に同意するように、メレンゲが尻尾を振って元気に飛び跳ねる。
それを見て黒猫魔王は満足そうに喉を鳴らしたのだった。
前世の物語では、メレンゲと名付けられた白い子犬は、かなり衰弱した状態で学園の敷地内、目立たぬ所に捨てられていた所をヒロインによって発見された。
元はといえば、悪役令嬢の取り巻きをしていたある令嬢が飼っていたのだが、彼女には困った癖があった。
むしゃくしゃした時に、そのイライラを弱いものにぶつけてしまうのだ。
そんな心根だからこそ、悪役令嬢の意を汲んでヒロインを傷つけ虐めることに躊躇いがなかったのだろう。
ヒロインは傷つき震える子犬を見て自分を重ね、メレンゲという名前を与えて献身的な看病をするが、子犬の命は助からなかった。
献身の礼として、メレンゲはその身に宿す聖なる力を、今際の際に全てヒロインに託してこの世を去る。
ヒロインは聖なる浄化の力に目覚め、物語のヒーローである王太子にその力を認められて、悪役令嬢と王太子の溝はますます深まっていくのだ。
そして、悪役令嬢が断罪されて修道院送りになり、魔王が復活した際には、ヒロインは王太子たちと共に、瘴気の浄化と魔王退治の旅に出ることになる。
そう。
前世の物語は、実のところ、恋愛ものと見せかけた冒険譚だったのだ。
「とはいえ……彼奴の話を聞いた限りだと、ヒロインと王太子を魔王の前に出したのは間違いだっただろうな」
何があったのかは不明だが、勇者の命令で一度は戻ってきたものの、再び森からいなくなってしまった相棒。
消えた相棒が持っていたはずの力を受け継いでいる、謎の人間。
その人間の横に並び立つ、かつて自分と相棒を追い詰めた勇者によく似た男——。
「物語の魔王は、ヒロインと王太子を簒奪者だと思っただろう。人間側には魔王は悪という刷り込みもあったし、すぐさま戦いになってもおかしくはない」
だが、現実では、メレンゲが捨てられ衰弱しきってしまう前に、私自ら迎えに行くことができた。
きっかけは、愛娘が悪役令嬢にならないように、念には念を入れてヒロインを徹底的に排除するため。
それなりの金子を支払えば、取り巻き令嬢は喜んでメレンゲを譲ってくれたし、メレンゲは死に瀕することもなくすぐに元気になった。
ただ、魔王が復活する可能性も、もちろん頭の隅に置いていた。
魔王が復活すれば魔獣が活発化し、辺境伯領に被害が出ることも。
それでもメレンゲを森に帰さず邸で飼っていたのは、この白い子犬を溺愛する愛娘や妻を寂しがらせたくなかったからという、ただのエゴだ。
とはいえ、全盛期の力を取り戻したメレンゲの圧倒的なオーラを目の当たりにすれば、ヒロインが不在でも魔王をどうにかできる算段もあった。
所詮ヒロインの力はフェンリルからの借り物であり、本人の素質ではなかったのだから。
それに、復活直後なら魔王の力もまだ万全ではないと踏んで、念のため、転移魔術を使用可能な天才魔術師――ギモーヴ侯爵令息を買収しておいたのも大正解だったといえよう。
「ともあれ、一件落着……なのか?」
「わふ?」
膝の上に乗っかっているメレンゲと顔を見合わせて、揃って首を傾げる。
新たにうちの飼い猫となった黒猫魔王は、窓のそばで堂々とお昼寝中だ。
こうして見ると、本当にただの猫である。名前はまだない。そのうち娘か妻がいい感じに名付けるだろう。
「この先どうなるか分からんが――」
前世で読んだ物語は、未完の連載小説だった。
そのため、今回のように私が知らない情報も、これから先出てくるだろう。
だが。
私は口端を上げて、とびきり悪い笑みを浮かべる。
「――まあ、何とでもなるだろう」
何せ私は、シャルドネ・ブラン・フロマージュ。
絶大な権力と財力を誇る、公爵家の当主なのだから――。
お読みくださりありがとうございました♪




