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【本編完結記念・短編】彼女はいつの日か結婚する【妖精騎士の物語外伝】

掲載日:2026/05/24


そうだ、結婚し忘れた!! そんなお話です。

 彼女は婚約者となる男と対面していた。


『ヴォルト・ド・モラン』。モラン公の五男坊で、近衛連隊の軽騎兵中隊長。そして、リリアルの下僕である。


「それで、婚約、結婚に際し、私から条件を提示させてもらう」


 跡を継ぐ爵位もない五男坊。とはいえ、近衛連隊の中隊長は騎士団長格でもある。男爵並といったところか。戦時には将軍として旅団あるいは師団規模の指揮を執ることもありえる。副元帥と将軍並ではかなりの格差があるような気がするが。あと海軍提督。


 ヴォルド卿の提示した条件は六つ。


「婚姻後、義両親とは同居しない」

「家事は対等に分担する」

「出産前後の世話は自分が関わらないこと」

「王都に邸宅を構えること」

「専用の魔装馬車を一台用意すること」

「支度金は金貨千枚を事前に与えること」


 それを伝えると、ヴォルドは重々しくうなずき「どうだ」とばかりに視線を促す。


 彼女の父である法衣伯は南都で王太子領の総督を務めている。母は、父の南都の館にいるか、姉の領地であるノーブル領の領主館に滞在し孫馬鹿を炸裂させているので同居することはない。そもそも、彼女の家は彼女の功績をもって新たに建てられた貴族家であり、初代当主は彼女なのだ。


 加えて、家事は使用人がこなしてくれるので、これは、雇用する使用人の人件費を折半するという意味なのであろうか。リリアル伯家は彼女が当主であり、全ての使用人の雇用は彼女の権限と責任である。故に、ヴォルト卿に負担させることはない。


「リリアル伯家の王都邸、領都と学院の使用人は、私の責任と権限で雇用しているので、対等に分担することはありません。ご自身が別邸なり私邸を購入するのであれば、そちらはあなたが管理してください」

「……そうか。いや、そうだな」


 ヴォルト君は、部屋住みの五男坊。そして、独身のうちは実家と近衛連隊の駐屯地にある士官宿舎に住んでいるので、使用人云々は良く解っていなかった。


「使用人に関しては、モラン公家から紹介なり、教育なり手配していただけるようにお願いします」

「そ、そうだな。心得た」


 五男坊の実家で彼に従者として仕えている者、あるいは、家宰が後継として育てている使用人を何人か私邸には派遣してもらい、その者があらたな使用人を雇用し教育すればよいだろう。連隊暮らしの従卒は、貴族の子弟であるヴォルトは私費で雇用しているのであれば、宿舎での世話が私邸での世話に変わるだけのことだ。


 出産に関しては男のヴォルトが関わる余地もないし、負担になることもない。母と姉、そして祖母が入れ代わり立ち代わり世話をすることだろう。


「王都の邸宅は、王家から下賜された公爵邸にヴォルト卿の部屋を整えるようにすれば宜しいでしょうか。あるいは、リリアルの王都城塞の客室に専用の部屋を整えることもできますが」

「……」


 リリアル『公爵』邸は、サラセン戦勝と聖騎士団幹部への叙任時に褒賞として与えられた『旧王太子宮』の一部である。元修道騎士団王都本部の城塞都市といえる構築物を二分し、王太子宮周辺をリリアル公爵邸とリリアル中隊王都駐屯所として使用している。因みに、残りの半分は近衛連隊の王都駐屯地であり、ヴォルト君の職場でもある。


 隣の敷地に自分の部屋がもらえた!! 良かったね!!


「王都城塞に部屋を貰えるだろうか。あそこなら、終夜で入場できるからな」


 つまり、夜遊びした後はそっちにこっそり泊まりたいということなのだ。彼女はわかりましたと頷く。


 魔装馬車は軽快である二輪馬車、これは、ヌーベ遠征時に彼女がモラン公に贈ったものと同型であり、不整地でも四輪馬車より素早く移動でき、小さいことから、小規模な魔法袋に収納も可能となる。リリアル基準では魔力中の下程度のヴォルト卿の魔法袋に二輪馬車なら収納できる。自分の乗馬に騎乗するか、同行者がいる場合乗馬に二輪馬車を牽かせ二三人で移動することも選択できるのは悪くはない。二輪馬車は外から乗っている人が見えるので、目立つのもまた良い。ヴォルト君は目立ちたがりなのだ。


「では、ヴォルト卿の印章を」

「それはこちらで手配しよう」

「承知しました」


 自分の者に自分で名前を書くのは常識だ。


 そして、金貨千枚。これは、ヴォルトの近衛中隊長の年収の二倍に相当する。少ないのか多いのかと言えば、領地持ちの伯爵にとってはそれなりだが、男爵相当のヴォルトにとってはそれなりの大金となる。


「それでは、結婚契約書に署名を」

「心得た」


 こうして、彼女とヴォルトは婚約し、一年後、結婚した。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 結婚式は、モラン公家と彼女の実家、親族であるニース辺境伯家のご隠居夫妻が参列し、リリアルの領都ブレリアの教会で密やかに行われた。とはいえ、領都で領主が結婚したのであるから、領都では三日間、お披露目と酒宴が行われ、お祭りは大いに盛り上がった。


 三日間行ったのは、広く領民に参加してもらう為であり、デルタの民やそれぞれの開拓村の住民を招いて彼女は分け隔てなく会食し、夫となったヴォルトを紹介した。


 それとは別に、ヴォルトの軽騎兵中隊の隊員と、近衛連隊の幹部を招き、王都のリリアル公爵邸(元王太子宮)でお披露目の会を開いた。中隊隊員は中庭で、幹部は晩餐の会場となる大食堂で執り行われた。


 ちなみに、新王太子宮に引っ越す際、家伝の品以外の食器類はすべて残され彼女に譲られたので、食器類は王太子由来の品ばかりであり、「公爵」の格に相応しい物でもあった。感謝である。


「ヴォルト卿、素晴らしき伴侶を得て、卿は幸せ者だな」

「はっ、その通りでございます連隊長閣下」


 近衛連隊長は将軍より上の格。元帥よりは下だが、国によっては「上級将軍」などと呼ばれる立場になる。候爵並といったところか。つまり、彼女と同格。陸海の差はあれども。


「この男は、うっかりヴォルトと呼ばれるほどの粗忽者。どうか、リリアル閣下の手で、ヴォルトを導いてやってもらいたい」

「アリーよ俺を導いてくれ!!」

「……前向きに善処します。連隊長殿」


 職場の目と鼻の先に奥さんのオフィスがあるのだから、常に監視されていると言っても過言ではない。中等孤児院と深くつながりのある彼女であるが、その協力者となる人々に困ることはない。近衛連隊の事務方、下働き、あるいは軍服を作る工房などにも、孤児院出身者は多く採用されている。王国の方針でもあり、目となり耳となるものを配する意味もある。ギルドではなく、王国と王家、そしてなにより彼女に忠節を誓う者たちだからだ。





 モラン公家や近衛連隊の幹部のそれと比べても格上、王家のカトラリーや食器、そして内装に家具。新王太子宮には新しい物をほとんど用意したので、旧王太子宮である公爵邸の内部は、ほぼ王宮と言っても差し支えない。


「落ち着かないからなぁ」


 会食が終わり、上司や同僚、部下を見送った後、ヴォルトはリリアル王都城塞にある自分の居室へと移動していた。彼女は公爵邸の自室で執務ののち就寝するということで、今日も二人は別々に寝ることになる。


 ヴォルトはここから毎日近衛連隊の駐屯地に従卒と共に移動し、仕事が終ればここに戻ってくる。疲れていれば魔装馬車で帰宅するが、朝は単騎で移動し、従卒はその横を小走りに走ってついていくことになる。時間としては十分もかからない通勤時間。駐屯地の宿舎住まいとさほど変わらない。


 彼女は、領都と王都を行き来しつつ、領主としての仕事とリリアル学院の学院長の仕事、魔導船団の管理監督、時に近場への遠征と席が温まる間もなく仕事をしている。


 子供を作る暇もないが、子供ができたからと言って誰かが代わりを務めることのできる立場ではない。


 領主代理代行は家宰を育てている、学院も出身の騎士達が学院長の代理を務めることもできる。魔導船団も同様だが、完全に任せるにはまだまだ時間がかかるだろう。


「結婚したとは言うものの、普通の夫と妻の様にはいかないな」


 近衛連隊の同僚は、王都の社交界に夫人同伴で出席し、顔をつなげ、出世の糸口をつかもうとしている。


 ヴォルトの兄はロマンデ総督や近衛連隊長に就いた経歴を持ち、順当に王国貴族としての出世の階段を上っている。兄嫁たちはそれを支える社交の場で家々と交流を持って進めている。


「うちでは無理なんだよな」


 ヴォルトも独身近衛中隊長時代は、それなりに社交界で浮名を流した男である。法衣貴族の子女、あるいは男子の後継がいない領地貴族からすれば、近衛連隊中隊長でモラン公の「秘蔵子」(恥をかくので隠していることはバレていない……はず)と呼ばれるヴォルトは人気であったのだ。


 ところが、妻となった彼女は社交界にこそ顔を出さないものの、出せば門前市を成すほどの人だかりが生じるのは目に見えている。王太子の側近中の側近で、数多の竜を倒し、あるいは交流し、サラセン討伐での活躍、海都国の首脳陣と太いパイプを持ち、友邦であるサボア大公妃とは親友関係でもある。加えて、王都の王家総代理を長年務めた家柄であり、祖母は国王陛下の尊崇を受けた女傑であり、彼女はその薫陶を受けている。また、父は王太子領の総督として王国南部ににらみを利かせ、姉はノーブル伯であり、ニース辺境伯の三男坊で聖エゼル海軍提督を夫に持つ。


 なにより、彼女が王都の孤児院を支え、中等孤児院とリリアル学園に大いに人材を発掘、育成し王家の藩屏とした功績。王家は彼女の力を十全に理解し、またしかるべき立場と身分を与えてきた。王妃と王太子のお気に入り(いいように利用されているともいう)


 ヴォルトとは格が違う。モラン公家の貴公子と王国の至宝。夜空に輝く一等明るい星であっても、満月の夜にはその輝きも陰るというもの。


 嫉妬や劣等感を持つわけではない。いや、感じないわけではないが、自らの力で今の身分を手に入れた彼女に比べ、ヴォルトは普通の貴族の男なのだ。軍閥モラン公の家柄を背景に、近衛連隊中隊長の籍は、ある意味生前贈与で父から贈られたようなもの。官職には相応の値段がついており、誰に売るかは選べるが、いくらで売るかは変えられない。モラン公家には五男坊にそれを送る程度の資産はあり、それを与えるだけの親子関係をヴォルトはモラン公と築いていたということになる。


 が、それは公爵家として軍閥貴族の子弟として「普通」の範囲なのだ。


 嫉妬ではなく羨望。ヴォルトが感じているのは、そのような感情であった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ヴォルトは中隊長としてそれなりに良く務めていた。時間はかかるだろうが、幾度かの出征を重ね、順番が進めばやがて近衛連隊長になるだろうことは予想できていた。


 次兄がそうであったし、能力と家格を考えれば、ヴォルトにはその資格は十分にある。


 同じ日常の繰り返し、とはいえ、同僚な次々と子をなし、父親となっていた。上に兄が四人もいるモラン公家では、五男坊に子が生まれようかどうかは余り気にされていない。それに、彼女は忙しく、また王国を支える存在でもあることから、急いで子を産む必要もないと暗に思われている。


 魔力量の多い彼女は加齢による変化が遅く、二十代半ばにもなるのに、未だ十五六歳の可憐な少女のように見える。貴族の女性で十代半ばに子を産むことは珍しくはないが、体が成長しきる前の出産はリスクが高いとして、避ける傾向も近年盛んになっている。


 跡継ぎを急いで作る理由もないので、彼女もその周囲もあまり気にしていない。が、ヴォルトは自分も父親になりたいと思っていた。





 その女性は、たまたま知人の貴族に連れられて訪れた社交の場で出会った法衣男爵の娘であった。二十にはならないだろうが、すっかり大人の女性と言った風情で、とても肉感的であった。


 どうやらヴォルトが近衛連隊の制服を着て移動する姿を見たことがあると言っており「凛々しくとても素敵であった」と褒めそやされた。


 そして、しばしば手紙のやり取りをするようになり、王都に現れない彼女の替わりではないが、休みの日や仕事の後、飲食や観劇に付き合う様になった。


 ある日「愛人でもいいのでおそばにおいてください」と言われ、ヴォルトは男爵令嬢を囲うことにした。近衛連隊の給金は従卒の給与と王都城塞に通いで世話をしてもらっている使用人の賃金以外手を付けていない。


「わかった」

「嬉しいですわ、ヴォルト様」


 未だに「ヴォルト卿」と彼女に呼ばれるヴォルトからすれば、男爵令嬢の向ける視線、言葉、全てに幸せを感じることができた。守りたい存在であり、守られるべき存在。少なくとも、『竜殺し』をヴォルトが守るよりもずっと現実的なことである。心が満たされたのだ。





 やがて男爵令嬢は身ごもった。他所で作った子ではないことは、囲ったヴォルト自身が良く理解している。正真正銘、自分の子だ。


 法衣とはいえ貴族の娘。そして自分はモラン公の息子。貴族同士の間にできた子供でも、庶子であれば貴族と認められることはない。既に「父になる」と決めていたヴォルトは、彼女にある提案をすることに

していた。


 幸い、結婚式は領都ブレリアの教会で内輪で済ませ、お披露目も近衛連隊の関係者としか行っていない。彼女の立場を考えるなら、婚姻無効として結婚の事実を無くせば問題ない。それに、王家と教皇庁も彼女が結婚していなかったとする方が都合が良いだろう。


 そう考えると、ヴォルトは今現在彼女が滞在していると確認できたリリアル学院へと足を向けるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ヴォルトは彼女に胸の内を吐露した。愛人がいること、男爵令嬢であり生まれる前に婚姻し、生まれてくる子供を貴族の子としてやりたいこと。婚姻無効の働きかけを彼女から進めてもらい、王家と教皇庁に了承を得てもらいたいこと……などである。


「状況は理解しました」

「では」

「白紙ということであれば、全て何もなかった状態に戻すということでよろしいでしょうか?」

「ああ」


 彼女はこれまで婚姻にかかった経費をすべてヴォルトが支払うことがまず必要であると説明する。


 領都教会と領都で行った結婚にかかわる祝祭の費用、近衛連隊のお披露目、王都城塞の宿泊費などである。


「ま、まあ当然だな」

「それと」


―――「専用の魔装馬車を一台用意すること」「支度金は金貨千枚を事前に与えること」


 これの返却である。これが、ヴォルトの瑕疵による取り消しならば倍返しになるのだが、「何もなかった」であれば、返却でおわらせることになる。残念。


「あ、魔装馬車なんだが、買い取る……訳にはいかないだろうか」

「構いません。それは別途売買契約を結びましょう」

「助かる」


 中古の魔装二輪馬車を返却されるより、新品価格で買い取りしてもらうほうが利がある。


「それと、王家、モラン公家、そちらの実家と……白紙の理由の説明を……」

「こちらで済ませておきましょう。どのみち、王家と教皇庁に婚姻の無効・撤回をお願いすることになりますから」

「そうか。助かるよ」


 ヴォルトはほっとする。子を持ちたいという理由だけで、王国の至宝との婚姻を白紙にするのだから、近衛連隊長にはなれないかもしれないが。今のままでも妻と子を養うくらいのことは出来るだろう。


「それでは、ごきげんよう」

「ああ、面倒をかけるがよろしく頼む」


 二人は挨拶を交わし、これで夫婦関係は白紙となる……はずである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「……ねぇ」

「離婚じゃなくって婚姻無効・白紙ってところがポイントなのよね」


 伯姪が彼女に熱く語る。どうやら、最近はやりの舞台を見て、彼女のに仮託して創作していたようだ。


「あり得ます!!」

「そ、そうかなー」

「弱ヴォルトは対象外」

「ひでぇなおい」


 リリアルで特訓していたヴォルト卿の、一期生内での評価は最弱枠。身分や肩書はともかく、人間的には対象外らしい。


「これ、王都の舞台だと、離婚で、財産分与からの、領地の半分と財貨の半分を要求されるのよね」

「……貴族同士の話よね」

「ですねー」


 赤毛娘と伯姪の話に、彼女は首をかしげる。


「財産分与の対象は、結婚後に生じた財産の妻の寄与分を離婚時に受け取るか、相続する子供の養育費を確保する意味合いがあるのよね」

「つまり」

「領地相続したもの、あるいは、貴族自身が王家に貢献を認められ与えられるものでしょう。妻の寄与分で領地を請求するなんてありえないわ」


 そう。貴族の相続というのは「血族」でなされるものであり、血のつながらない配偶者への相続は存在しない。


 では、貴族家当主である夫が先に死んだ場合、妻は無一文で追い出されるのか? 相続できないなら何もしないと無一文で追い出されるのだ。その為、婚姻後、夫である貴族は、妻の為に死因贈与の財産を別途用意することになる。これは、現金の場合もあるし、夫の死後妻が死ぬまで、領地の指定された一部の税収を妻の年金に充当し、妻の死後は回収されるとすることになる。


 また、持参金は妻の生活のための財産であり、妻の産んだ子に相続権はあるが、嫁いだ家系には相続権がない。子がいなければ、妻の出身家の財産に戻される。金銭の場合もあれば、領地(とその税収)の場合もある。


「私の架空の夫であるところのヴォルト卿の場合、近衛連隊中隊長として毎年払われる給金は、中隊長としての生活を成り立たせる経費の支給に相当する分で、男爵家の収入相当ではあるのよ。それとは別に退職時、あるいは他の官職を得て手放す際には、相応の対価で譲ることになるわ」


 法衣貴族と同様、近衛連隊中隊長職の場合、年間金貨五百枚が支給され、自らの武器や馬を整え、中隊員を維持する必要がある。傭兵隊長と同じような仕組みであるが、隊員の装備類は王国が支給し、衣食住の大半も王国持ち。採用教育と給金は金貨五百枚から賄うことになる。


 加えて、将軍位に匹敵する中隊長の職位の譲渡価格は金貨数万枚とされる。中隊長の職位を下取りに出し連隊長になるなど、数万枚がそのまま手に入るわけではないが。


「モラン公、末っ子には甘い」


 赤目銀髪の指摘に、伯姪が説明を加える。


「そうとも言えないわ。次兄は連隊長、長兄はロマンデ総督に任ぜられているもの。ロマンデ総督は行政だけでなく軍事権も持っているから、侯爵並みなんじゃない?」


 長兄・次兄は『侯爵』並の身分を得ているので、五男坊が男爵並なのはそれなりということになる。


「そもそも、私が婚姻前に得た財産に配偶者が権利主張するのは、平民でも貴族でもありえないわ」

「そこは、皮算用ってやつじゃない? あなたが仮になくなっても、配偶者が領主になることはないわ。レーヌ公国でも摂政、当主代理代行を大公妃様がなさっていただけで、大公子殿下がいなければ、係累の貴族が大公になっていたはずよ」

「その辺、庶民にはわからんのですよ」

「旦那は尻に敷かれているので当然」


 平民、中でも「家」の感覚がない庶民は個人の力関係で決まると思っている節がある。継ぐべき財産がある商人や工房主などはその辺りが変わってくるだろうが。舞台は庶民の視点寄りということなのだろう。


「先生!! 実際ヴォルト卿はどうなんでしょう」

「……先日、婚約されたと聞いたわね」

「「「あああぁぁぁ」」」


 モラン公と繋がりのある軍閥貴族の家の娘と婚約したと王太子から彼女は聞いている。リリアル生は大いに嘆いているが、今のところ彼女は結婚するつもりも予定もないのであった。


 王弟殿下? ないない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 六年の長きにわたり投稿してきた『妖精騎士の物語』ですが、彼女は結局結婚に至りませんでした。あれ? と思い、最後に短編を投稿して蛇足としたところです。


 元ネタは最近『彩礼』高騰で話題のお近くの国の動画を見て「あれこれ条件を付けても、結局離婚するのでは?」と思い、この短編にしたところです。


 近衛中隊長の階位は某ベルばら国の史実をベースにしています。近衛中隊長は二階級上=連隊長の上の将軍格で給与もそれに応じて高かったとか。黒い〇ンダムの設定を思い出します。確かに将軍が近衛兵に勝手に命令するというのは問題しか生じなさそうです。中隊長でも将軍の命令ガン無視!!



読者の皆様へ

『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える~の続編短編になります。まだお読みでない方は本編もぜひ。下のバナーから移動できます。


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― 新着の感想 ―
遂に現実逃避で口にしていた結婚願望さんが消滅してしまったw
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