名物おじさんの真実
15分短編です
バイト初日、俺は夜のバイトの時間にシフトを決められてしまった。基本的に大学の合間にと思ってシフトを出していたんだけど、深夜の方が時給が高いのと、夜の方が暇で仕事を教えやすいんだと店長に言われた。
昨今のコンビニは、やることが多くて大変だ。夜は基本的に郵便などの要望は無いけれど、カスハラに該当する人との遭遇率は妙に高い。そしてうちのコンビニのある地域は、名物おじさんが出るらしい。
俺の借りているアパートから、ほど近いコンビニだから、名物おじさんがいると噂は聞いていたけど、大学入学を期に一人暮らしをし始めてから、その存在を確認したことは無い。
どうせ噂だろう、とずっと思っていたら、深夜のコンビニに、そのおじさんは現れた。
バーコード状の髪の毛、眼鏡をかけた小太りの、THE中年と言った風貌のおじさん。上は灰色のスーツに身を包んでいる。初め見た時は、普通の、どこにでもいそうな、アニメとかで“おじさん”と言われれば誰しもが想像するであろう姿のおじさんだと思った。でもよく見ると、ズボン・・・いや、下半身には、赤色のチェック柄の、短いスカートを履いていた。しかもご丁寧に、白いタイツまで履いている・・・。足元は男物のローファー。ちぐはぐすぎて、目を疑ったし、何なら、綺麗すぎるほどの美脚なのがむかついた。
「あ、君あの人見るの初めて?」
店長が俺にこっそりそう言った。
「あ、はい。噂は聞いてましたけど・・・本当にいるんだ」
「そうなんだよ~。この時間になると必ずこのコンビニに来るんだけど、俺、朝にも会ったことあるんだよね。でもその時はちゃんとした服装してたんだよ。だから夜だけスカート履いてるみたい」
さすが店長、と言うべきか、名物おじさんが有名すぎるのかわからないけど、正直どうでもよい情報だった。
「お願いします」
低くて、目を閉じていれば、有名声優と間違えてしまいそうなイケボが、名物おじさんから聞こえてきた。おじさんの前で吹き出さなかった俺を褒めてくれ。
会計を済ませて、震える声で「あざしたー」と声をかけると、いい声で「ありがとう」と言っておじさんは去って行った。
「・・・・・・んぶぅっ」
「こらぁ、お客様を笑うなよぉ」
「店長こそ」
「良い声でしょ~。俺も初めてあの声聞いた時はバックヤードで大笑いしちゃったもん」
店長の方が酷いと思う。
それから数日、毎晩彼はこのコンビニにやってきた。しかも毎日、スカートの色も柄も違う。タイツは相変わらず真っ白だ。彼なりのこだわりなんだろうか。しかしよくもまぁ、あんなに毎日変わるほど色んなスカートを持っているものだ。
相変わらず美脚だし、良い声だしで、だんだん俺はバイトに行くのが楽しみになっていた。
ある日、バイト帰りにバックヤードを出ると、名物おじさんが通り過ぎていった。なんとなく興味が湧いて、そ知らぬふりで、後をつけてみることにした。
結構歩くのが早いけど、追いつけない程度ではない。バレない様に後をついていくとおじさんは、公園のトイレに入って、しばらくすると普通のサラリーマンのような格好になって出てきた。
「え、ココで着替えてたんだ」
見てはいけないものを見たようで、ドキドキとしてしまう。そのまま引くに引けなくなって、またおじさんを尾行した。
おじさんは、一軒のアパートの前で立ち止まると、窓をよじ登り始めた。
「何してんだ・・・?」
様子を見ていると、その家の外に置いてあった洗濯物を干すハンガーにさっきまで履いていたスカートを干し、そっと窓から降りると、何事もなかったようにその家を後にした。
——え、通報案件・・・!?——
真実を知った時、俺は・・・俺は・・・




