表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年後の勇者召喚で、俺は初恋の少女と再会した。  作者: 暁牡丹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

第7話 勇者たちの立場

### 第七話 勇者たちの立場


 能力測定の結果は、部屋の空気を大きく変えていた。


 先ほどまで「異世界に来てしまった高校生」という雰囲気だった三十人の空気は、今やどこか落ち着かない熱を帯びている。


 勇者。


 その言葉が、現実味を帯び始めていた。


 中央の水晶の前では、神官たちが何やら慌ただしく話し合っている。


「……やはり報告すべきでしょう」


「しかし、この段階で陛下に直接?」


「いえ、まずは宰相閣下に――」


 小声だが、明らかに焦っていた。


 恒一はその様子をじっと観察している。


「……面倒なことになりそうだな」


 ぽつりと呟いた。


「え?」


 剣斗が聞き返す。


「何が?」


「いや」


 恒一は肩をすくめた。


「さっきの永久野の結果」


 ちらりと唯愛を見る。


「普通じゃない」


「まあ、そうだな」


 剣斗も頷いた。


 だがその声は、どこか嬉しそうだった。


「でも、いいことじゃないか?」


「いいこと?」


「強いってことだろ?」


 剣斗は真っ直ぐ言う。


「この世界、魔王がいるんだろ?」


「なら、強い方がいい」


 それは単純な理屈だった。


 だが。


 恒一は小さく首を振る。


「問題はそこじゃない」


「じゃあ何だ?」


「立場」


 短く答えた。


 剣斗は少し考え、ようやく理解したようだった。


「……ああ」


「そういうことか」


 強い力。


 それは同時に、役割を意味する。


 勇者。


 つまり――戦う存在だ。


「俺たち」


 彩葉が不安そうに言う。


「本当に魔王と戦うの?」


 その質問に、誰もすぐには答えなかった。


 異世界に来たばかりの高校生。


 戦争など、現実感がない。


 だが。


「多分」


 恒一が静かに言った。


「そうなる」


 部屋が静まり返る。


「だって」


 彼は淡々と続ける。


「勇者召喚って、そういうもんだろ」


 否定する材料が、誰にもなかった。


 ◇


 しばらくして、神官がこちらに向き直った。


 先ほどよりも、どこか丁寧な態度になっている。


「皆様」


 神官は深く一礼した。


「本日の測定は以上です」


「これから皆様には、勇者としての教育と訓練を受けていただきます」


 ざわめきが広がる。


「やっぱり……」


 彩葉が小さく呟く。


 神官は続けた。


「まずはこの世界の基礎知識」


「魔法」


「戦闘」


「そして魔族について」


 そこまで言って、少し声を落とした。


「魔王についても」


 部屋の空気が、わずかに重くなる。


 だが。


 神官はすぐに柔らかい声に戻った。


「もちろん、いきなり戦わせるようなことはありません」


「陛下もそのように仰っております」


 その言葉に、少しだけ空気が和らいだ。


「今日はもう休んでください」


「皆様の部屋を用意しております」


 兵士たちが扉を開く。


 勇者たちは、ゆっくりと部屋を後にした。


 ◇


 高天原城の廊下は広かった。


 窓からは街が見える。


 多種族共生国家ヨモツヒラサカ。


 人間だけではない。


 耳の長い者。


 小柄な者。


 獣の耳を持つ者。


 様々な種族が街を行き交っている。


「……すごいな」


 剣斗が呟く。


「本当に異世界だ」


「うん」


 彩葉も頷く。


「なんかファンタジーって感じ」


 だが。


 唯愛は、あまり景色を見ていなかった。


 胸の奥が、まだ落ち着かない。


 理由は分かっていた。


 九尾王タマモ。


 あの存在。


 姿はほとんど見えなかった。


 それなのに――


 どうしても気になる。


「……」


 立ち止まる。


「永久野?」


 彩葉が振り向いた。


「どうしたの?」


「ううん」


 唯愛は小さく笑う。


「ちょっと考え事」


「大丈夫?」


「うん」


 だが。


 胸の奥の違和感は消えない。


 声。


 空気。


 魔力。


 全部が、どこか懐かしかった。


 そして。


 なぜか分からないが――


 あの女王が、少しだけ寂しそうに見えた。


 ◇


 その頃。


 城の最奥。


 玉座の間では、タマモが一人窓の外を見ていた。


 街が見える。


 高天原の街。


 千年前、自分が築いた国。


「……勇者、か」


 小さく呟く。


 召喚されたのは三十人。


 そして。


 その中に――


「トバネ」


 名前を口にする。


 千年探していた魂。


 だが。


 状況は、あまりにも皮肉だった。


 勇者。


 つまり。


 魔王と戦う存在。


「やれやれ」


 タマモは苦笑した。


「厄介な巡り合わせじゃ」


 視線を遠くへ向ける。


 魔王。


 そして――


 新魔王ヤスナ。


 あの子もまた、自分の因縁の中にいる存在だった。


「世界は」


 静かに呟く。


「妾を休ませる気がないようじゃの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ