第4話 幻の玉座
### 第四話 九尾王タマモ
高天原城――謁見の間。
三十人の高校生たちは、赤い絨毯の上に並ばされていた。
誰もが緊張した面持ちで、周囲を見渡している。
天井は遥かに高い。
巨大な柱が規則正しく並び、壁には見たことのない紋章や装飾が刻まれていた。
「……すげぇ」
東堂剛士が思わず呟く。
「本当に城じゃん……」
「テーマパークじゃねえよな……」
相沢恒一が冷静に観察するように周囲を見回す。
「構造も素材も、どう見ても本物だ」
その時。
兵士の声が響いた。
「静粛に」
一瞬で空気が張り詰める。
「これより女王陛下との謁見が行われる」
兵士たちは一斉に道を開く。
勇者たちの視線の先。
玉座がある。
だが――
「……あれ?」
誰かが声を漏らした。
玉座の前。
そこには**薄いベールのような膜**が張られていた。
透明に近い。
だが完全には透けていない。
向こう側に、何かの影が見える。
人影のような――
だが。
「見えそうで見えない……」
彩葉が呟く。
「なんか……蜃気楼みたい」
揺らめくような幻。
形はあるのに、はっきりと認識できない。
それはまるで――
存在そのものを曖昧にする膜だった。
恒一が小さく言う。
「……幻術か」
「え?」
「多分、意図的に姿を隠してる」
勇者たちのざわめきが広がる。
その時。
玉座の向こうから、声が響いた。
「よう来た、異界の勇者たちよ」
静かな声。
だが。
不思議と、空間全体に広がるように聞こえる。
「妾はこの国」
幻の向こうの影が、ゆっくりと動く。
「多種族共生国家ヨモツヒラサカを統べる者」
一瞬の間。
「**九尾王タマモ**じゃ」
その名が告げられた瞬間。
兵士たちが一斉に膝をついた。
「「陛下に栄光を」」
響く声。
勇者たちは戸惑いながら立ち尽くす。
だが。
その場の空気が、明らかに変わった。
重い。
目に見えない圧力。
呼吸が浅くなるような感覚。
東堂が思わず言う。
「……なんだよ、これ」
恒一の額に汗が浮かぶ。
「魔力……か?」
見えない。
だが確実に存在する。
圧倒的な何か。
それがベールの向こうにいた。
その時。
神崎剣斗が一歩前に出た。
クラス委員としての責任感だろう。
「……俺たちは」
少しだけ震える声。
「勇者、なんですか?」
ベールの向こうの影が、静かに動いた。
「うむ」
短い返答。
「この世界には今」
空気がさらに張り詰める。
「**新たな魔王**が現れておる」
ざわめきが走る。
「魔王……?」
「マジかよ……」
タマモの声は落ち着いていた。
「その存在は世界を脅かしておる」
「ゆえに」
静かな宣言。
「異界より勇者を招いた」
「それが、そなたらじゃ」
沈黙が落ちた。
誰もすぐには言葉を出せない。
だが。
その時。
「……あれ」
小さな声がした。
永久野唯愛だった。
彼女は、ベールの向こうをじっと見ている。
「どうした?」
剣斗が聞く。
唯愛は首を傾げた。
「なんだろう」
不思議そうな顔。
「見えないはずなのに」
胸に手を当てる。
「懐かしい感じがする」
タマモの心臓が、跳ねた。
――トバネ。
その名が、頭の中で響く。
千年前の少女。
自分の腕の中で息絶えた少女。
そして今。
その魂が、そこにいる。
タマモは一瞬、目を閉じた。
だが。
すぐに女王の仮面を被る。
「……気のせいじゃろう」
静かな声で言った。
「初対面なのじゃからな」
唯愛は少しだけ首を傾げた。
「……そう、ですよね」
それ以上は言わない。
だが。
視線だけは、ずっとベールの向こうに向けられていた。
玉座の影の中。
タマモは、自分の手を見下ろす。
両手の薬指。
そこには――
**二つの指輪**が、静かに光っていた。




