第3話 勇者たち
### 第三話 勇者たち
高天原城の一室。
広い客間の中で、三十人ほどの若者たちが固まっていた。
誰もが落ち着かない様子で周囲を見回している。
「……なあ、これマジなのか?」
最初に口を開いたのは、短髪の男子だった。
神崎剣斗。
クラス委員で、誰よりも状況を整理しようとしている。
「映画のドッキリとかじゃないよな?」
「いや……」
相沢恒一が腕を組んだ。
クラスでも指折りの頭脳派で、普段から冷静に物事を分析するタイプだ。
「俺も最初そう思ったけどさ」
窓の外を見る。
そこには見慣れない光景が広がっていた。
巨大な城壁。
空を飛ぶ何か。
そして――
遠くに見える、巨大な塔。
「どう見ても日本じゃない」
「だよな……」
誰かがため息をついた。
部屋のあちこちから、不安そうな声が上がる。
「異世界ってやつ?」
「勇者召喚とか言ってたよな……」
「ゲームじゃんそれ……」
そんな中。
ひときわ大きな体の男子が腕を組んだ。
「ま、落ち着けって」
東堂剛士。
クラスの兄貴分だ。
「騒いでもしょうがねえだろ」
「東堂は落ち着きすぎだろ……」
「まあな」
豪快に笑う。
「どうせ帰れないなら、腹くくるしかねえ」
その言葉に、少しだけ空気が和らいだ。
だが。
「……ねえ」
女子の声が響く。
風間彩葉だった。
「一人足りなくない?」
その一言で、部屋が静まった。
「え?」
「誰?」
彩葉は周囲を見回した。
「無明」
その名前に、何人かが顔を上げた。
「新田、いないよね?」
ざわめきが広がる。
剣斗が人数を数える。
「……本当だ」
眉をひそめた。
「無明がいない」
「え?」
「マジ?」
誰かが言った。
「そういえば……」
恒一が思い出したように呟く。
「召喚の光、途中で無明だけ消えてなかったか?」
「そうだっけ?」
「いや、分かんない……」
記憶が曖昧だ。
混乱の中で、誰もはっきり覚えていない。
その時だった。
「――無明?」
小さな声がした。
永久野唯愛だった。
彼女は俯いたまま、ぎゅっと手を握っている。
「無明、いないの……?」
不安そうな声。
剣斗がすぐに答えた。
「大丈夫だろ」
「え?」
「多分、別の部屋とかじゃないか?」
気遣うように笑う。
「さすがに一人だけ消えるなんてないって」
「……うん」
唯愛は小さく頷いた。
だが。
胸の奥に、妙な違和感が残る。
――懐かしい。
なぜか、そんな感覚がある。
この世界。
この空気。
この場所。
「……なんでだろ」
ぽつりと呟く。
その時。
部屋の扉が開いた。
重い音。
中に入ってきたのは、甲冑を着た兵士たちだった。
「勇者殿方」
一人の男が前に出る。
「女王陛下がお待ちです」
その言葉に、部屋がざわめいた。
「女王?」
「王様じゃなくて?」
「女の人?」
兵士は静かに続ける。
「この国を治める御方」
誇らしげに言った。
「**九尾王タマモ陛下**であらせられます」
◇
高天原城。
謁見の間。
巨大な扉の前に、タマモは立っていた。
玉座の奥。
静かな空間。
家臣たちが整列している。
「勇者殿をお連れしました」
兵士の声。
扉がゆっくりと開く。
――来た。
タマモの胸が、わずかに高鳴る。
三十人。
高校生くらいの若者たち。
懐かしい光景。
そして。
その中に――
タマモの視線が、一人の少女で止まった。
長い黒髪。
不安そうな瞳。
その瞬間。
タマモの心臓が、強く跳ねた。
――魂。
間違いない。
この感覚。
千年前。
何度も感じた魔力。
「……まさか」
タマモの唇が、わずかに震える。
少女の名は。
**永久野唯愛。**
そして。
その魂は――
**トバネ。**
千年前、死んだはずの少女だった。




