第2話 九尾王タマモ
### 第二話 九尾王タマモ
多種族共生国家ヨモツヒラサカ。
その中心都市――**高天原**。
巨大な城の最奥、荘厳な玉座の間では、緊張した空気が流れていた。
長い赤い絨毯。
両脇に並ぶ文官と武官。
そして、その最奥。
黄金の玉座。
そこに、一人の女性が座っている。
金色の髪。
白い肌。
そして、背後で静かに揺れる**九本の尾**。
狐人の女王。
この国の支配者。
**九尾王タマモ**。
玉座の前では、一人の男が膝をついていた。
「――以上が、勇者召喚の結果でございます」
男は頭を深く下げたまま続ける。
「召喚された者は三十名ほど。全員が同年代の若者であり、同一の学校に所属する者たちのようです」
タマモは頬杖をつきながら、その報告を静かに聞いていた。
「ふむ」
小さく頷く。
「して、彼らは今どこにおる」
「城内の客間にて休ませております。突然の召喚ゆえ、かなり混乱している様子でして」
「当然じゃろうな」
タマモは小さく笑った。
「昨日まで別世界におったのじゃ。急に異世界に来たとなれば、誰でも驚く」
家臣たちはその言葉に頷いた。
だが――
誰も気づいていない。
その言葉の裏にある、奇妙な含みを。
「しかし女王陛下」
別の大臣が口を開いた。
「今回は成功とはいえ、かなり特殊な結果となりました」
「特殊?」
「はい。本来勇者召喚は数名の英雄を呼び出す儀式。しかし今回は――」
「三十人」
タマモが言葉を引き取った。
「同年代。しかも同一の学校」
金の瞳が、細くなる。
「つまり」
「はい」
大臣は緊張した様子で言った。
「彼らは“クラス単位”で召喚された可能性が高いかと」
玉座の間が静まり返る。
だが。
次の瞬間。
「くく……」
タマモが笑った。
「やはりそうか」
まるで予想していたかのように。
大臣たちは驚いた顔を見合わせる。
「女王陛下……?」
「気にするでない」
タマモは軽く手を振った。
「ただの独り言じゃ」
そう言いながら、彼女は玉座から立ち上がる。
九本の尾が、ゆっくりと揺れた。
「謁見の準備をせよ」
「はっ」
「勇者殿らと会う」
家臣たちは慌てて動き出す。
だが、その背中を見送りながら――
タマモは小さく息を吐いた。
――クラス転移。
その言葉が頭に浮かぶ。
遠い遠い昔。
別の世界で聞いた言葉。
その瞬間。
タマモの口調が、ふっと変わった。
「……まさか本当に来るとはね」
先ほどまでの女王の声ではない。
少年のような、少し気の抜けた声。
「千年経って、やっとか」
彼女――いや、彼は苦笑する。
玉座の間にはもう誰もいない。
だからこそ、素の声が漏れる。
「みんな、元気かな」
懐かしい顔が浮かぶ。
クラスメイトたち。
あの教室。
あの平凡な日常。
――そして。
一人の少女。
長い黒髪。
少し照れたように笑う顔。
「唯愛……」
名前を口にした瞬間。
胸の奥が、わずかに痛んだ。
だが。
タマモはすぐに首を振った。
「いや」
「そんなわけないか」
千年だ。
人間の寿命など、とっくに終わっている。
それでも。
ほんの少しだけ。
期待してしまう自分がいる。
「……もし来てたら」
そこまで言って。
タマモは自嘲するように笑った。
「いやいや」
「そんな奇跡あるわけないだろ」
そう呟きながら、歩き出す。
謁見の間へ。
勇者たちの元へ。
だが。
彼女はまだ知らない。
その勇者の中に。
**千年前、命を落とした少女と同じ魂がいることを。**
そして。
その少女もまた。
女王を見た瞬間――
**強い既視感に襲われることを。**




