少し伸びてない?成長期ってこんなもん?早くない?
「ただいま〜」
寮に戻るとマリアが起きていたみたいで、ソファに座って真っ黒のテレビを見つめていた。
「あれ、起きたのか…?なんか?伸びてね?」
少し…ほんの数センチだけだが、マリアの身長が伸びている気がする。
「あいだー?」
「伸びたー」
「あいー!」
「飼い猫がいるってこういう気分か」
興味津々にこちらを覗いてくるマリアをナデナデし、夕食を作る事にした。
「お腹すいた?」
「あうあー?」
「肉?」
「うう!」
収納空間から先程買った豚肉を取り出すと、マリアは口元から涎を流し始めた。
「あーあ、全く、肉にしようか」
優しくマリアの口元を拭き、ソファで待っててと身振り手振りで伝え、クリームシチューを作る事にした。食後、休憩がてら紅茶を淹れつつ、一応ともらった6年分の学校教材の1年生向けをマリアに渡す。
「一緒に話せるように勉強しような。耳は聞こえるようになったから、これから毎日俺が読み上げるね」
「あいー」
食事が足りなかったのか、飾り皿の上に置いてあるクッキーやフルーツをもぐもぐと食べているマリア。
「よし、風呂行くぞ」
「うおー!」
「風呂ー」
「うおー?」
「風呂」
「うろ!」
「いいね!」
召使買ったはずなんだけど、これじゃあ俺が保育士になった気分だ。
翌日早朝、朝食を作り終えた後、マリアにテレビや風呂の使い方を教えて、早速旧図書館に向かう事にした。太く頑丈な鎖でドアは雁字搦めにされており、貰った鍵でロックを解除し、ドアを開けると…
「ごほっ…ごほっ…」
埃すごい…きったねぇなぁオイ。何年放置してるんだここ。うーん我慢ならん。
「清潔魔法」
膨大なマナを惜しみなく使い、旧図書館の内部全体に清潔化の魔法をかける。そんなに広く無かったのか、俺のマナ総量の1/10くらいを消費しただけで済んだようだ。
「さてさて、次は…整頓魔法」
こちらも同じく旧図書館の内部にのみ使用する。すると散らかっていた物は全て綺麗に元の位置に戻り、とても歩きやすくなった。
「所々崩れてる場所もあるなぁ…修繕魔法」
更には上の階に繋がる階段を修繕魔法で直したり、割れた窓ガラスや破れたカーテンなども修繕していく。他にもいろいろな魔法を使い、なんとか昼頃までには図書館としての体裁を取り戻す事に成功した。
「一旦帰って飯にするか」
マリアの事もある。一応食材や飯は用意したけど、不安だから一旦戻ろう。
「あか…あお…あり…あくま…あした…」
部屋に戻ると、テレビを聞きながら、マリアは1年生向けの教本の基礎を学んでいた。魔法の基本についての内容で、本当は昨晩読み聞かせた内容だが、自分で改めて読み上げているようだ。
「嬉しすぎて涙が出そう」
食欲は結構あるみたいだし、魔族だからか肉が好きなようなので、今晩はがっつりステーキを焼く事にした。今決めた。これが我が子が一生懸命勉強するのを見守る両親の気持ちか…
「あ!パパ!」
「ん!?」
その呼び方は予想外だった。
「待て待て!パパは違う!」
「ちあう?」
「ナナシ」
「ああし?」
「ナナシ」
「あーし」
「ナナシ」
「なあし」
「ナナシ」
「ななし」
「そ、俺の名前はナナシ、ナナシね」
「ナナシ!ナナシパパ!」
「違う!!」
要らぬ誤解を避けるために、昼ご飯を温めながらマリアに俺の呼び方とマリアの名前の呼び方を教えた。ちなみに昼ごはんは鶏肉のシチューと先程買ったバゲット2本だ。一生懸命勉強していたようなのでいちごも洗ってマリアに食べさせた。
「うし、じゃあ日が暮れる頃には戻ってくるからな」
「あいー!」
「夜は何食べる?」
「にくー!」
「おっけーい」
「おっいーい?」
「おっけー」
「おっ…お…」
眠たくなってきたようだ。マリアの手を引いて彼女の部屋まで行き、まだまだ軽い彼女を抱き上げてベッドに寝かせる。
「おやすみ、またあとでね」
「おゆすみ…」
にしても、半日ほど勉強しただけでこれほど話せる様になるとは…やっぱり魔族の血というか、特性は凄いな。ただ問題はマリアの角をどうするか…旧図書館に戻りながらナナシは何か方法がないか考えた。根元から折ってしまっても特に問題はないはず…一定の種族の魔族を除いて、角に特別なこだわりは無かったはず。マリアの吸血魔族についても、彼らが大事にしているのは牙であって角ではないから、大きくなったら一回マリアと相談してみるか。
旧図書館に戻った後、まずは自分の仕事場を用意し始めた。建造魔法や建築魔法、仕上魔法などなど様々な生活魔法を駆使して、本棚を見渡せる少し高いスペースの上に自分の読書兼作業用のテーブルや椅子、そして空の大きな本棚を用意した。少し時間が掛かってしまったが、折角だからと思い、旧図書館中の危険な魔法書物、いわゆる禁書や呪われ書物、更には古代魔法の本を魔法で自分のそばの巨大本棚に難易度順に並べ直す。
「本格的に研究を始めるには明日からにするか」
いつの間にか日が暮れていたので、今日は一旦帰る事にした。この世界の情報の収集も必要だし、それも兼ねて今晩もマリアに教本を読み聞かせしよう。




