依頼
――妖精に連れられ、町の役所に着く2人。そのまま中に入り、事務所らしき場所まで来た。そこには東洋人のような外見、年齢は30代くらいの男性が1人、机に肘をついた体勢で待っていた。
「グレンー、シェル連れてきたよー。あとシェルの言ってた魔物を倒した子も一緒に。ほんとびっくりだよねー、こんな子がさー、意外ってかなんてーか」
妖精のおしゃべりが再び始まる。
「ねえシェル。この男の人が『グレン』って人?」
その間に、ケイはシェルに耳打ちした。
「ああ。ちなみに妖精の方はローズな」
「じゃあこのローズって、グレンって人の使い魔とかそういう感じなの……」
「ちょっと妖精を使い魔呼ばわりしないで!」
すると、ローズが口を挟んできた。おしゃべりに夢中になっているようで、他の人の会話も聞こえているようだ。
「まあ、言わんとすることは分かるわよ。契約を結んだ関係とか、使役とかさ。でもアタシとグレンは違うの。どちらかってと、分身みたいなものよ」
「分身……」
ケイは成人男性であるグレンと、女の子の妖精であるローズを見比べる。
「全然似てないけど」
「細かいことは気にしないの! それよりグレンから話があるんだから黙って大人しく静かに聞きなさいよ!」
そしてようやく、この町の町長ことグレンが口を開いた。
「シェルは知っていると思うが、周辺地域のモンスターの数が増え、正体不明の魔物の存在も多く見られている」
「そういえば、モンスターと魔物って何が違うの?」
するとケイは、ふとした疑問を口にする。
「モンスターってのは、動物に本来生えていないはずの角があったり巨大だったり狂暴だったり、元となる生き物が分かる存在よ。で、魔物はイマイチよく分からない存在の総称ね。あのガイコツとか魔物の方よ。あとモンスターは倒されたらそのまま姿が残るけど、魔物はきれいさっぱり消えちゃうのも特徴ね。てかさっき黙って大人しく静かに聞けって言ったでしょもう!」
それの説明を、ローズが早口で行った。
(町長の話をぶった切ってるのはそっちも同じじゃ……)
ケイはそう思ったが、これ以上会話が進まなくなるのも面倒なので口には出さなかった。そして再び、グレンが口を開く。
「で、そんな魔物のことなのだが、西の洞窟にまた新しいのが現れたらしい。妖精情報によれば、その魔物は宝も持っているようでな。それの調査だ」
「妖精情報⁉」
ケイは驚き半分、嬉しさ半分の表情をする。
「ここじゃありとあらゆる情報、ちょっとしたうわさ話でも妖精が聞いていると思った方がいいぞ。で、えーっと」
「ケイって名前です」
「そうか。じゃあケイも一緒に行けるか?」
「もちろん!」
ケイは嬉しそうに答えた。
「俺も分かった。ただ、剣は鍛冶屋に取りに行く必要があるし、ケイの装備も新調させたい。それの後でもいいか?」
シェルはグレンにそう尋ねる。
「いいぞ。じゃあ2人とも2時間後にまたここに来ること。行きと帰りのワープ魔法は用意しておくから」
「助かる。じゃあローズ、ケイにいい装備がないか、一緒に見に行ってくれないか。その間に俺は剣を取りに行く。あと魔法の方も」
「えー、別にいいけどさー」
ローズは不満そうにしつつも、うなずいた。
「ちょっとシェル……」
むしろケイの方が戸惑っていた。
「さっき、自分の格好が魔法使いっぽくないって言ってただろ。丁度いい機会だ。金のことは、町長に任せればいい。初対面で依頼を頼んでいるんだ、そのくらい出してくれるだろう」
「それもそうだけどさー」
ケイは何か言いたげだが、その前にシェルは出て行ってしまう。
「ほら、さっさと行くよ!」
ケイはローズに連れられ、部屋を後にした。
ケイとローズは、装備品が揃っているという店に入る。中には様々な服、装飾品、武器があった。
「アンタ、一応魔法使いなんだって? ならやっぱりローブとか、あの大きな帽子とか……」
「でもオレ、動きやすい服の方がいい」
「……。装備品なら、杖とか水晶とか魔導書とか……」
「何も必要ないけど」
「……」
ローズの額に血管が浮き出てくる。
「じゃあもうそのままの格好で行け!」
そして大声で怒鳴った。
「それはカッコ悪いから嫌!」
ケイも負けじと声を張る。
「それは確かに!」
「言うなあ!」
1人と1匹はギャアギャア騒ぎつつ、店内を回る。
「これは……」
すると、ケイはあるものを見つけた。
――2時間後、シェルは背中に剣を背負い、役所の前に戻る。
「おーい、シェルー」
ケイも戻ってきた。靴はロングブーツになっており、着ていた服も白と黒を基調とした長袖のものになっている。材質もさっきまでのと比べて上質そうだった。また、腰にはポーチをつけているのだが、これが黒いドラゴンの刺繍が施されていたのだ。
「見てみて! 何か良さげのあったからこれにしてみた!」
ケイは腰からポーチを外して、シェルに見せびらかす。近くで見ると、その主張の強さがよく分かった。
「そう……か」
シェルも、一応そう返事をした。それを聞いてケイは嬉しそうにする。
「動きづらい服は嫌だって言うから、とりあえず手足は守れそうなものにしといたわよ。そ・れ・と! あのポーチはアタシのセンスじゃぜっっっったいにないからね、勘違いしたら許さないから!」
そして浮かれ気味のケイに聞かれないよう、こっそり、ローズがシェルに耳打ちした。
「大丈夫、ケイの趣味だ。知ってる」
「『カテーカのドラゴン欲しかったんだ』って大はしゃぎしてたし、意味分かんない……」
相変わらず魔法使いっぽさはないケイの服装だが、本人は満足そうだった。
「一応ブーツは丈夫なものにしたし、あのポーチも亜空間魔法が施されているから、見た目より入るはずよ」
ローズの方も、頼まれたことはちゃんとしていた様子。
「助かるよ」
「まあいいわよ、服選びは嫌いじゃないし……」
「よし、じゃあ行こう!」
今度はローズが話している途中で、ケイが割り込んでくる。そしてシェルの手を引いて建物の中に入った。
グレンのいる所まで行き、2人は2本の瓶をもらう。深い緑色の光が入った瓶と、シェルが森に来た時と同じ色だが、サイズが小さめの瓶だ。
「そっちの深緑が行き、薄いのが帰りだ」
グレンから説明を受け、ふとケイは疑問が浮かぶ。
「同じワープ魔法なのに、何で分けるの? それに色も違うの?」
シェルが来た時は行き帰り合わせても1本で済んだのに、なぜ2本用いるのか。また色の濃さの違いに意味があるのかとケイは尋ねた。
「薄緑の方は、使用者が行ったことがある場所限定だ。深緑の方は、使用者が行ったことがない場所でも、正確な位置情報が分かれば行ける魔法だ。もちろん、後者の方が高いからな。安く済ませられるものはそうする」
「なるほど」
ケイはその説明で納得したようだ。
「じゃあシェルが初めてあの森に来たのも、こっちの濃い緑色の魔法?」
「いや……」
シェルが何か話そうとした時、
「アンタ達余計なことしゃべってないで早く行きなさいよ、日が暮れるわよ。まあすぐ帰ってこられるか分からないけどさ」
ローズにそう言われ、会話が中断される。
「じゃ、いってきまーす」
ケイはそう言って、深緑色の光が入った瓶を開ける。ケイとシェルはその光に包まれ、その場から姿を消した。
家庭科のドラゴンは2026年で25周年を迎えるそうです。おめでとうございます。




