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森に戻って

ケイは村の人に見送られながら、元来た道を通って、森へ帰る。自分自身がビームのように動くのをイメージしたら、すごい速さでかけていくことができた。おまけに寝ないでいられる分、来た時の半分以下の時間で森や平原を抜け、ほら穴まで戻る。そしてほら穴に入るとすぐ出口で、見慣れた森が迎えてくれた。ケイはまっすぐ泉に向かう。そしてペンダントを取り出し、泉の中に落とした。


「女神様、ありがとうございました」


 ケイは両手を握り合わせて、祈るように言う。ペンダントはゆっくりと沈んでいき、そのうち見えなくなった。




――それからケイは、もっと強くなれないかと研鑽を重ねることにした。これまでの戦いで、弱点となる箇所も多く見られたからだ。

 まず、バリアを張りながらもビームが打てるようにする練習。左手はバリアを張るイメージ、右手はビームを打つイメージでしてみたら、どちらも小さいものの、出すことはできた。

 また虫の一件から、バリアを張った状態で何か攻撃できる方法はないか考える。バリアに電流を走らせたり、熱を帯びさせたりするイメージをしてみると、その通りになった。森にいるモンスターに実際ぶつけてみると、まだびびらせる程度だったが、もっと強くできればカウンターとして役立ちそうだとケイは思った。

 ビーム単体の方も、何かできないかと試してみる。力の入れ具合で太さを変えられ、針くらい細いものなら指10本分は出すことができた。また溜めの時間は必要なものの、自分の胴体くらいの太さのビームも出せるようになる。

 自分自身をビームのようにイメージさせて行う高速移動も、木をしならせて飛び跳ねれば空中も自由自在に動けるようになった。

 そうやっていくうちに森のより深い所までいけば、以前はいなかったはずの熊や大蛇型のモンスターに遭遇する。そいつらも時にビームで薙ぎ払い、時に素早い動きで翻弄し、時にバリアで攻撃の全てを防いだりする。確実に、ディアンと戦った時よりもケイは強くなっていた。




しかし何日かけても、どんなに進んでいってもこの森からは抜け出せない。ほら穴のあった方角に進んでいったつもりでも、ほら穴どころかアリの巣すら見つからない。


(何だろ、この感じ……)


 何より、どこか寂しさを覚えていた。前までだったら自由に体を動かせるようになっただけでも嬉しかったのに。その上憧れのファンタジー世界に来られて、ビームやバリアのような魔法が使えて、モンスターと戦ったりしてと、全てが楽しかったのに。どんなに森の奥まで来たと思っても、泉に戻りたいと思って引き返せばすぐに戻れてしまうこの空間。


(賽の河原の石積み、みたいなものなのかな。それを楽しんでた今までが、変だったのかな)


「ハア……」


泉の前に戻ったケイは、ため息が出てしまう。すると、泉からあの白い光が現れた。


「まさか……」


 今回ははっきりと、泉の中から女神が現れるのを目撃する。女神の両手には、スズランのように下向きの釣り鐘型のつぼみ、でも大きさはチューリップに近い花の植木鉢があった。


「何その花?」


 尋ねるケイに対し、女神は何も言わずその植木鉢を渡す。よく見ると、つぼみは5つあり、色も赤橙黄白紫と全て違う色だった。そしてケイに向かってほほ笑むと、すぐに泉の中に戻ってしまった。


「ちょ……。まあ、きっとあれだ、大事に育てて、花が全部咲いたら何か起こるってあれだ。石積みの代わりだよきっと。よし!」


 そこからケイはその植木鉢に適度に水をやり、日光の当たる場所に置いてみる。次の日、赤いつぼみが花を咲かせた。チューリップが下向きになって咲いているようにも見える。


(よし、この調子でやっていこう)


 それからもケイは花の面倒を見た。次の日は雨が降り、雨宿りできそうな木の下に置いた。そうすると、今度は橙色の花が咲く。また次の日、その次の日も、花は1つずつ開いていった。


 植木鉢をもらって5日目。


「そろそろかなー」


 泉の前で、あぐらをかいて座るケイ。目の前にはすでに4つ花を咲かせた植木鉢がある。残るつぼみは、紫色だけだ。そしてこの4日間で分かったことだが、どうやらこの花は同じ時間に咲くようだ。日が一番高く昇る時。ケイの考えが正しければ、もうすぐだった。




――そしてついに、紫色のつぼみが開いた。


「おお!」


 ケイは嬉しさに声を上げる。試しに植木鉢を持ち上げたり様々な方向から眺めたりした。しかし、何も起こらない。


「ハア、咲いたのに、何で……」


つい、ため息が出てしまった。


「……さーいーたー、さーいーたー」


 そして昔聞いたことのある童謡を口ずさむ。


「……これ、何て花?」


――「チャイムフラワー」


「へー、そんな名前なん……⁉」


突然背後から聞こえた声に対し、ケイは慌てて振り返る。そこにいたのは、女神の次にこの世界で出会った人物、シェルだった。以前のような剣は背中に抱えておらず、代わりに腰の方に細身の剣を刺している。そして右手には、紙でできた白い箱があった。その箱には、魔法使いの帽子も描かれている。


「え、何でシェルがいるのどうやって来たのてかこの花チャイムフラワーって言うんだ初めて知ったてか剣新調したのそっちの方が軽そうだねあとその箱何てか今まで何してたのさあのさあのさ……」


 ケイは口が止まらなかった。


「ケイ、落ち着け」


 シェルにそう言われてようやく一息つく。


「前の礼を言いに、ここに来た。前のとは違うタイプのものだが、また魔法で来た。剣は以前のものを鍛冶屋に預けてて、この剣はその代わりだ。この箱は、前に話した……」


 ケイに尋ねられたことを、一つずつ答えていくシェル。そして白い箱を開けてみせた。


「ケイの知ってる『ケーキ』と同じものか?」


「同じ同じ、しかもチョコケーキだ!」


 ココア生地でできたスポンジ、チョコレートを混ぜ込んだ生クリームで構成され、上部には苺と丸いガナッシュが乗っている、チョコレートショートケーキが2つ、中に入っていた。


「うわあ……」


 生き生きとしていたケイが、さらに目を輝かせる。


「他の話はこれを食べてからにするか」


 シェルもそう言い、ケイは大きくうなずいた。




――「レント」


 シェルが白い箱に印刷されている魔法使いの帽子の部分に触れ、呪文を言うと白い皿とステンレスのフォークが2つずつ出てきた。ケーキをその皿に移し、フォークも添えてケイに渡す。


「何今の魔法あれシェルって剣を使った魔法以外は使えないんじゃなかったっけうわあうまそうありがとう!」


 少しは落ち着いたかと思いきや、突然現れた食器にケイは再び興奮する。


「このケーキを買った時のサービスだそうだ。この店は魔法使いが営んでいて、さっきの魔法もあくまで店の方が提供している魔法だ。契約を結んだ上で呪文とこの印があれば誰でもできる」


 シェルもそう説明し、自分の分のケーキを取る。落ち着きのないケイに対して、余計に刺激しないよう淡々と話しているようだった。


「ではでは、いただきます!」


 ケイはさっそく、ケーキを一口食べてみる。


(うんまあ……)


 ふんわり柔らかいスポンジ、濃厚で甘い生クリーム、甘さと苦さのバランスが良いチョコレートが口の中いっぱいに広がる。上の苺を食べれば口の中がさっぱりとし、反対にガナッシュはチョコレートの美味しさが脳にガツンと響いた。


「……」


 さっきまでしゃべってばっかりだったのが嘘のように何も話さないが、その表情を見れば、どれだけ美味しいのかが分かる。


――残りあと一口。しかも苺もガナッシュも残っていない。ケイはフォークの先端をなめ、名残惜しそうにする。


「俺の分もいるか?」


 するとシェルは一口も手を付けていない自分のケーキを、ケイに差し出した。


「ええええええええ⁉ だってこれシェルが好きなやつなんでしょいやいやさすがにそれは悪いって」


「言っただろ。礼だって」


「いや、でもさすがに……」


「それじゃあ」


 シェルはフォークでケーキを半分に、いや少し苺とガナッシュが乗っている方を大きくし、その大きめの方をケイの皿に移した。


「このくらいならいいだろ?」


 そう言って、自分の皿に残ったケーキを食べる。


「シェル……。雪見大福2個のうち、1個あげられるタイプなんだな。いや食ったことないけどさ」


「……」


 ケイの言っていることはよく分からなかったシェルだが、ケイが嬉しそうにしていたのでそれ以上深堀りはしなかった。




――「リターン」


 ケーキを食べ終え、シェルは再び呪文を唱える。フォークと皿は消えてしまった。


「ところでさ」


 そしてここから、ケイは再びシェルに話しかける。


「この花ってよくある花なの?」


 ケイは植木鉢を持ち上げ、シェルによく見えるようにする。


「ああ。毎日特定の時間になるとつぼみが開く花。子供にあと何日後にイベントがあると教える時とかに使う」


「え、じゃあ特別大切に育てなくても大丈夫なの?」


「むしろどんな環境下でも花を咲かせて時刻を知らせるのが特徴」


「マジか……」


ケイは泉の方を睨みつけたが、特に何も起こらなかった。


「あとさあとさ、ここには魔法で来たんでしょ? 前と同じ魔法?」


「いや、前のとは少し違うが……」


 シェルは緑色の光が封じ込められている瓶を見せた。


「魔法が使える状態なら光るの?」


「そう。この光が魔法が使える部分で、これがなくなれば使えない」


「なるほど魔法瓶……」


「そうなるかな」


(ボケたつもりだったけど、やっぱこの世界にあの魔法瓶はないか)


 文化の違いを感じるケイだった。


「その魔法ってさ、帰りの分だよね?」


 ケイは話を戻す。


「ああ」


「それってさ、1人分なの? どっかのワシと同じで」


「いや、少数パーティでの脱出用の魔法だから、5人くらいなら同時に移動できる」


「じゃあじゃあ!」


 ケイは前のめりになる。


「オレも一緒に連れてって‼」


 そして興奮した状態で、そう言った。


「オレさ、前よりもずっと強くなったし、モンスター退治とかそういうのの力にはなれると思うし、あと正直他の場所も見てみたいし、あと、えーと……」


 ケイは同行させてほしい理由を必死に探した。


「……」


 シェルは少し考えこむ。


「本当に、モンスター退治に協力してもらうことは多いと思うが、それでもいいか?」


 そして、そう言った。


「もちろんもちろん! むしろ本望!」


 ケイはこれ以上ないくらい嬉しそうにする。


「じゃあ、行くか」


 そしてケイはシェルの方に近づき、シェルは瓶の蓋を開ける。


(ワクワクするなー)


緑色の光が瓶の口から漏れ出し、2人を包む。次の瞬間、2人は森から姿を消した。


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