平原を抜けて
朝になり、2人は再びペンダントの光に沿って進んでいく。そして平原を通り抜けると、今度は森の中に入っていった。ケイが最初にいた森と比べ薄暗く、ジメジメしていた。今まで見たことのない植物も多く、昼間でも少し薄暗いくらい……。
「うっわ気持ち悪!」
この薄暗さは生い茂る木々のせいだけではなかった。ゴマ粒サイズの小さな虫が大量に飛んでいたのだ。しかもその虫たちは、こちら目がけて一斉に飛んでくる。ケイはすぐさまドーム状のバリアを張る。虫たちの侵入ははばめたものの、虫もバリアに張り付いたままはなれようとしなかった。
「どうしよう……」
バリアを解除してすぐビームを打ったとしても、この数では全ては倒せそうにない。現時点でもバリアが黒くなったのかと思うくらい、張り付いてきている。
「ケイ、20数えたらバリアを解除してくれないか」
すると、シェルが剣を構えてそう言った。
「何か、秘策でもあるの?」
「そんなところだな」
「オッケー。じゃあ、1、2…」
ケイは言われた通り、数を数える。そしてシェルは何やら剣に力を込めているようだった。
「17、18……」
「風の神よ、汝の息吹で我に力を与えよ」
残りあと少しという所で、シェルはそうつぶやく。
「19、20!」
そしてケイがバリアを解いた瞬間、剣を空へ突き出し、
「ワールウィンド!」
剣先から大きな竜巻が起きた。虫たちはそれに巻き込まれ、一網打尽にされる。
「何今の⁉ てか魔法は使えないって言ってなかったっけ?」
シェルの技に、ケイは興味津々だった。剣から魔法が出てくるなんて、最高にロマンだと思ったのだ。
「本職の魔法使いのようにはいかないがな。詠唱や溜めの時間も必要、剣を用いた技のみ、連続では使えないと、制限が多い」
「逆にそれが必殺技っぽくていいじゃん! いいなー、オレも必殺技ほしいなー」
「そういうものなのか?」
シェルは不思議そうにしつつ、剣を戻す。その時ケイは、シェルの両手に無数の切り傷があることに気付いた。
「何そのケガ⁉」
「さっきの技の反動。これはマシな方だ」
「えっと、水みず……」
マシと言われても、ケイにはそうには見えなかった。自分のひょうたんの水を取り出そうとする。
「そんな大したものじゃない。それに……」
シェルは足元にあったよもぎによく似た植物を摘み、それを傷口にこすりつけた。すると、傷口はすぐにふさがった。
「この森は薬草も多いみたいだ。貴重な水をここで使うのはもったいない」
「おお!」
また新たな不思議植物を目の当たりにして、ケイは楽しそうにしていた。
森に入ってから数日経ち、この日も野営の準備をする2人。シェルがたき火用の枝拾いをしていた時だった。
「うわああああ!」
ケイの叫び声と、ドスドスという足音が聞こえた。そして、ケイを背中に乗せたイノシシがこちらに向かって突進してきた。シェルは枝を捨て剣を抜き、イノシシの眉間を一突きにする。
「グオオオオ」
イノシシはうめき声を上げて倒れ、ケイも地面に叩きつけられる前にイノシシから離れた。
――「あーあ、イノシシに乗れたら、もっと早く移動できると思ったのになー」
ケイは先ほどのイノシシの肉が焼けるのを見ながら、そう言った。
「それでさっき、あんな風になっていたのか」
シェルは剣を拭きながらそう言う。けっこうな大きさのイノシシだったが、シェルの持っている剣を使えばすぐに解体することができた。
「そう言えばさ、こう、動物操ったり、モンスターを使役したりとかってできるものなの?」
「そうだな……。ビーストテイマーなら気性の荒い動物も扱えるな。あと使い魔がいたり、モンスターと契約している者もいるとは聞くが……」
「契約⁉ 何それロマンじゃん!」
ケイは嬉しそうな顔をした。
「あ、モンスターって言うと、もしかして、ドラゴンも……?」
「ドラゴンか。俺は見たことはないが、存在はしている……」
「マジで⁉」
さらにケイは前のめりになって、より目をキラキラとさせる。
「ドラゴンに乗って空を飛ぶ。ハアー! あっこがれるぅー‼」
ケイは14歳。中学二年生ど真ん中でいわゆる「そういうもの」は大好きなのであった。
「ほら、焼けたぞ」
シェルは焼けたイノシシの肉をケイに差し出す。
「ありがと」
ケイは嬉しそうな顔のまま、イノシシ肉にかぶりついた。
「へー、こんな味なんだ」
魚と比べ臭みはあるが、食べ応えはこちらの方が上であった。
「シェルは肉と魚、どっち派? オレは肉の方が好き」
「特にないな」
シェルもそう言って、イノシシ肉を手に取る。
「じゃあさ、好きな食べ物は?」
「好きなもの……」
シェルは少し考えこみ、
「しいて言うなら、ケーキを旨いと思ったことはある」
そう答えた。
「ケーキってこの世界にあるの⁉」
すると再び、ケイは大声をあげた。
「ケーキって、スポンジとクリームの甘いやつだよね。オレの知ってるケーキと同じなの⁉」
「ケイの知ってるケーキが何かは知らないが」
「確かに!」
ケイは少しはにかみながら言う。知っているものの名前が出てきて、何か楽しくなっていたのだった。
それからもケイとシェルは森の中をさまよった。動物型のモンスターだけでなく、木の形をしたモンスターも姿を現した。それをケイはビームで、シェルは剣で倒していく。そして今、2人の目の前には巨大な食人植物がいた。ラフレシアのような花びらに、めしべやおしべにあたる部分には大きな口がある。茎は上の方に伸びていて、花の部分を天高く持ち上げていた。地上付近にも、その花のつるがムチのごとくしなって、襲ってくる。
シェルは襲ってくるムチを剣で薙ぎ払い、ケイは花の方に手を向ける。そして食人植物がこちらに向かって口を大きく開けてやって来た瞬間、手のひらよりも大きなビームを放った。
「ギャアアアア」
ビームは食人植物の口を貫通する。食人植物は悲鳴を上げ倒てる。花の部分が倒されると、ツルの動きも止まった。
「あ、出口⁉」
その大きな食人植物を倒したせいか、一気に視界が開ける。そしてその先には、久しぶりの平原が広がっていた。ケイはペンダントを取り出し、光が向かっている方向を見る。
「しかもあれ、村かな?」
その視線の先に、集落のような場所を見つける。2人がそこまで行ってみると、入り口付近の看板には「キョーヘンビレッジ」という文字と、ワシの印があった。
(この世界の文字は普通に読めるみたいだ。良かった良かった)
どこまで自分がこの世界の常識に沿っているのか分からなかったので、ケイは少し安心した表情を見せる。
「キョーヘン……か」
一方、シェルは困惑した表情を浮かべた。
「知ってる村なの?」
「一応な。地図上で見たことはある」
「シェルのいた所からは遠い?」
「……かなり」
(女神様も、飛ばすならもっと近い所にすればいいのに)
ケイはそう思いつつ、とりあえず2人でその村を訪れることにした。




