平原にて
ほら穴を通り抜け、外に出るとそこは平原になっていた。建物の類はなく、木や岩、草木といった自然物のみが広がっている。
(風が気持ちいいなー)
以前は病院の中だけ、現在もずっと木々ばかりの森にいたケイは、遠くまで見渡せるこの光景に胸を高鳴らせた。とりあえずケイとシェルは、光が指し示す方向へ進む。人は通らない場所なのか、草が一面に生え、道となるような所はなかった。
すると前方の方から何かがやってきた。とんがった耳に緑色の体、手足は細いのに腹部は膨らんでいる、いわゆるゴブリンと呼ばれるモンスターだ。ケイは早速、ビームを打とうと狙いを定めた。しかし今度は上空から何かが飛んでくる。ケイはビームを打とうとしたが止め、小さなバリアを張った。バリアは、その飛んできた物体、矢をはじき返す。どうやら木の上には、弓矢を持ったゴブリンがいるようだ。しかも1体だけではない。地上の方にも、ゴブリンがさらに襲ってくる。
「ケイは木の上にいる奴らを頼む。俺は地上のを片づける」
「了解!」
シェルは背中の剣を抜き、ゴブリン達にその腕を振るう。ゴブリンは一撃で倒れてしまう。そのゴブリンの後方からやって来た5体のゴブリンも、まとめて倒してしまった。
ケイの方も、木にいると分かれば狙いが定めやすい。ゴブリンが矢を放つより先に、ビームで胴体を打ち抜く。他の木や岩陰に隠れているゴブリンも見つけ、ビーム一発でやっつける。木の上にいたゴブリンは、地面に落ちて倒れた。
「ゴブリンは倒しても消えないものなの?」
森にいた時、倒したモンスターは全て消えてしまったのに、とケイは尋ねた。
「いや、消えない方が多いが……。消える奴の方が珍しい」
しかしこの世界の住人であるシェルにとっては、倒されたモンスターが残る方が当たり前のようだった。
「ふーん、やっぱりあの森が変だったのか」
ケイはとりあえずそういうことで納得した。
「矢の方は、少し取っていくか」
そしてシェルはそう言って、ゴブリンが落とした矢を数本拾う。
「何に使うの?」
「後で使えると思ってな」
(飛び道具として使うのかな?)
ケイはそう思った。
その後も2人はゴブリンに遭遇することはあるが難なく倒し、道なき道を進んでいく。そして日も暮れてきた頃、2人は川を発見する。中には魚が何匹か泳いでいた。
「今日はここら辺で野宿するか」
「おお!」
ケイは嬉しそうな顔をする。森での過ごし方も野宿といえば野宿なのだが、違う環境で、しかも他の人がいてという状況が新鮮だったのだ。
そしてシェルは、ゴブリンの矢をモリのように使って魚をとる。ケイはその様子に目を光らせ、自分もやりたいと言う。シェルはケイに矢を渡したが、そう上手くはいかないようだった。ケイが魚取りに夢中になっている間に、シェルは川の近くにあったキノコを採取する。赤いキノコと、白いキノコだった。その他にも、よく乾燥した葉っぱや細い枝を集めて、地面に置いている。
「それも食べられるの?」
全然魚が捕れないケイは、魚よりシェルの持っているキノコの方が気になるようだった。
「白いのは食べられるが、赤いのは違う」
「じゃあ、毒キノコ? でも毒キノコ採ってどうするんだって話だよねぇ」
「これはな……」
シェルは集めた赤いキノコを地面に置き、一か所に密集させた。すると、煙が発生する。そこに葉っぱや枝を使うと、火種が大きくなった。最終的には、たき火ができるくらいの大きさになる。
「何そのキノコ⁉ うちの森にあった花もそうだけど、この世界の植物火を出しすぎじゃない?」
火を出す花の次はたくさん重ねると煙の出るキノコ。変な植物だらけで、ケイは興奮していた。
「基本的に、どこにいても火は使えるようになっている。俺の知っている限りじゃ、このキノコが自生しない場所でも火を吐くモンスターはいるし、火の玉が浮遊する地域もある。剣で叩けば火花を出す岩もだ」
「いやー、この世界は面白いねえ!」
「ところで、魚は捕れたか?」
「……」
ケイの動きが止まる。矢を借りてからだいぶ時間は経ったが、1匹も取れていない。
「いやいやこれからあ!」
ケイは勢いよく、川に向けて矢を突っ込む。しかし、その勢いが強すぎたのか、そのまま川に落ちてしまった。
「大丈夫か?」
マントで水しぶきを防いだシェルは、ケイに声をかける。
「うー」
ケイは全身ずぶぬれになって、川から上がってきた。
「飯は俺が準備するから、ケイはたき火に当たってな」
「はーい」
トホホと言いたげな表情で、ケイはそう返事をした。
――それからしばらくして。シェルは捕った魚6匹を木の枝に通し、たき火のそばに立てて焼く。また白いキノコも同じように焼いていた。
「ではでは、いただきます!」
たき火のおかげで服も乾いたケイは、焼きあがった魚を口にする。たき火で焼かれた魚は香ばしく、骨は少し邪魔だったが、それも野性味が感じられて良かった。キノコも普通に食べられた。
(直火の魚、取ってすぐのキノコ、ロマンだなあ……)
キャンプみたいで楽しいと、ケイは思うのだった。
――食事も済ませた後。
「2時間交代で、見張りをするか」
そろそろ床につこうという時、シェルの方がそう言った。
「え、別にオレは寝なくても平気だしずっと見張りをしててもいいけど」
しかしケイの体力はまだ有り余っており、特に眠気も感じていなかった。
「何日かかるか分からない状況だ。体力は温存しておいた方がいい」
それでもそうシェルに諭される。
「じゃあさ、オレがバリア張りながら寝ればいいんじゃない?」
「寝ながらバリア、張れるのか?」
「……やったことない!」
ケイは堂々と答えた。とりあえずケイはバリアを張って、眠りにつく。眠くはないが、意識的に寝ようと思えば寝られた。そしてシェルが見た感じでは、ケイが寝ていてもバリアは維持されていた。
――2時間後。シェルは試しに、剣を抜いてバリアを叩いてみる。最初の数発では破られなかったが、回数を重ねるうちにヒビが入ってくる。そして力を込めて突きをすると、バリアは音を立てて割れてしまった。
「何々⁉」
ケイも寝ぼけまなこを開いて起き上がる。
「さすがに強度は下がるか……。ケイ、体力の方はどうだ。疲れは?」
シェルは剣を鞘に戻し、そう尋ねた。
「んー、別に何とも」
「そうか」
どうやら寝ていてもバリアは張れるが、起きている状態と比べると弱いものしかできない様子。一方長時間魔法を使っていても、ケイへの負担はほとんどないことが分かった。
ケイも起きたことで、見張りを交代することに。シェルは上体を起こし、両膝を抱えるような体勢で、マントを体全体に巻き付けるようにして、目をつむる。
「横にならないの?」
ケイが不思議そうに言うと、
「モンスターに襲われた時、すぐ動けるようにな」
シェルは目を閉じたまま答えた。
(サバイバルっぽい、いいな……)
ケイは何かかっこいいと思った。次の交代で真似してみたが、その体勢では全然眠れなかった。




