戦いの後
数日後、グレンの言った通り、レイセの町では祝賀会が開かれた。町の中はお祭り状態で、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎだった。主役のケイやミューズの周りには人だかりもできている。いろんな人から讃えられ、ケイは逆に委縮していた。そんな中、ミューズが歌を披露すれば拍手喝采、中には涙を流す者いた。
(やっぱりミューズの歌はきれいだな……)
ケイもその歌声に聞き惚れる。そしてミューズと目が合うと、心臓がドキッとした。
それからは皆と一緒に食べたり飲んだりする。食べ物の中にはケーキもあったが、チョコレートケーキの金額を聞いて驚愕する。
「5000ペン⁉ ホールじゃなくて1切れで⁉」
移動魔法が5000円、魔物討伐が5万円の報酬が妥当な金額かどうかは分からないが、ケーキ1切れが5000円というのは、ケイでも高いと分かった。
「いやいや、この『チョコレート』の実は魔法で作った特殊な環境下でしか栽培されてないからねえ。それにケーキの材料はどれも一級品。鮮度を保つための魔法も完備、このぐらいはするさ」
ケーキを配っていた人はそう言った。
また、祭りらしく楽しく踊る人たちもいる。しかしケイは遠くから見ているだけだった。ダンスなんて踊ったこともなく、何となく恥ずかしかったからだ。それでも火が付いた棒を振り回す踊りや、手から水を出す芸を見るだけで楽しかった。
そんな祝賀会は真夜中になっても続き、町が落ち着きを取り戻したのは明け方だった。
「ケイ、本当にありがとう」
「いやいや。ミューズ達もありがと」
ケイはミューズ一行を宿の入り口まで送る。ゾネスは酔っぱらって爆睡しており、ケイの魔法で浮かせて移動させていた。
「むにゅ……」
メインも子供の姿のためか眠そうにしている。ミューズの裾を引っ張って、早く横になりたいと言いたげだった。
「ミューズ達はさ、これからどうするの?」
「私達はこれからも、世界中を旅します。今回の魔神以外にも、素行の悪い神々はいますし、私の歌を必要としてくれる人がいる限りは。それで、ケイ、その……」
ミューズは、何か言いたそうにする。
「あ、あのさ、オレも……」
ケイの方も照れつつ、言葉を探していた――。
「ミュウ、眠い……」
しかしメインの眠気も限界のようで、ミューズの裾をさらにグイグイと引っ張る。ゾネスも干された布団のような体勢でいびきをかきながら寝ていた。
「は、話の続きは後でにしよっか。ゾネスもずっと浮いてるの、何かシュールだし」
ケイはそう言い、ミューズもうなずいた。
ミューズ達と分かれた後も、ケイはまだ元気が有り余っている。むしろ興奮が収まらず、何かないかなと見回ってみる。グレンの方針からか、路上で寝そべっている人もおらず、お祭り騒ぎの後の割には街中もきれいだ。
そして、町の外につながる道を歩いていたら、荷馬車にワインのような酒瓶を積んでいるシェルを発見する。
「どうしたのそれ?」
ケイはすぐさま駆け寄り、シェルに声をかけた。
「せっかくだから、余った酒を世話になっている鍛冶屋に分けようと思ってな」
「へえ」
ケイはそう言って、荷馬車をジロジロと見る。屋根が付いているタイプで、酒瓶ケースが1つだけ乗せられていた。
「ケイも乗ってみるか?」
「え、いいの⁉」
ケイは喜んで返事をする。今までの移動は徒歩かワープ魔法で、馬車にはまだ乗ってなかったのだ。
「ああ。でも昨日の今日で疲れてたり……しないか」
「もちろん!」
ケイは元気よくうなずく。残りの酒瓶ケースはケイの魔法で移動させ、全て積んだ所でシェルはたずなを引き、ケイは酒瓶と一緒に座る。いざ動いてみると、けっこう揺れていた。酒瓶ケースに入れているため簡単には倒れないはずだが、一応、ケイは魔法で動きを固定させておく。
「シェルのアドバイスのおかげで何とかなったよ」
ケイはニコニコと笑いながら言った。魔神をおびき寄せ、自分が魔神のいる世界に行く作戦、あれはシェルの知恵も借りてのものだった。
「それは良かった」
シェルは前方を見たまま答える。
「ところで、ケイに聞きたいことがあるんだが」
そして、シェルはケイにそう尋ねる。
「何々? なんでも聞いてよ!」
シェルからの質問に、ケイは前のめりになった。自分が尋ねることが多いせいか、逆の立場になって嬉しいのだ。
「ケイの召喚したドラゴン、俺の知っているドラゴンとだいぶ風貌が違うが、なぜなんだ?」
「あー、一応付け足しておくと、オレが出したのは『龍』って呼ばれる存在。色んな国の言葉が混じって、ドラゴンも龍も同じ言い方になったけど、まあ、違うものと言えば違う感じ。ざっくり言えばドラゴンは『せーよー』の生き物で、龍は『ちゅーごく』の生き物かな。まあ、どっちもかっこいいからなー。てかそれよりもさ聞いてよ!」
ケイは口調を強くする。
「せっかく龍を召喚するっていう最高にロマンな必殺技ができたのに、必殺技の名前考えてなかった! あー、くやしい‼」
どうやら戦いに必死すぎて、己のロマンであるかっこいい必殺技詠唱が抜けてしまったことが、心残りのようだ。
「次の機会があるか分からないが、その時まで考えればいいんじゃないのか」
「ほんとそれ! でもミューズの歌があったからできた技なのかな。オレだけの力でも出せるのかな。今度試してみようかなー。てかシェルの詠唱って、自分で考えたやつ……じゃないよね?」
「そうだな。頭の中にその言葉が浮かんでくる感じだ」
「そっかー。でもやっぱりさ、自分オリジナルの欲しいよなー。すっごくかっこいいやつー」
そして結局、ケイは自分の話に持ってきてしまう。
「あ、他にも聞きたいこと、ある?」
とりあえず、軌道修正を試みた。
「じゃあ……」
シェルは軽く息をつく。
「町の外に3体の魔物が現れた時のケイ、様子がおかしかったようだが、何かあったのか?」
「あ……」
ケイは思い出した。あの時、後でちゃんと話すと言ったことを。
「……『トウレ・ピューシ』だっけ?」
そう言うケイの表情はさっきまでと一変、暗くなる。
「町長から聞いたのか、その技のこと」
「一応そうだけどそんなことより、あれ何。あれも魔法なの?」
「いや、魔法じゃない。俺の生まれ故郷に伝わる剣技だ」
「シェルは……それを使った人間が最期、どんな姿になるか知ってるの?」
ケイは、思い出すのも嫌なのに、その光景が忘れられなかった。
「知ってる。『大地の糧となれ』その通りの姿だ」
「……」
ケイは、言葉に詰まる。頭の中で思っていることはたくさんある。シェルにそんな最期を迎えさせるために、自分の魔法を渡したわけではないとか、シェルに死んでほしくなかったとか。しかしそれは自分のワガママで、この世界でその考えは甘いということは分かっていた。何より、シェル本人が、戦いで命を落とすことにためらいがないのに、自分がそれに口出しするのは悪いことなのではないかと思っていた。だからと言って、命を落とすようなことを肯定する物言いは、絶対にしたくなかった。
「シェル、前に言ってたよね。オレには敵いそうにないって。俺は……シェルには勝てないと思ってる」
「ん?」
シェルは反応に困った。そんな話の流れだったかという疑問と、なぜケイが自分には勝てないと思うのかという謎だ。
「意味がよく分からないが……」
「もう! 言っちゃいけないことは言えないし、でも言いたくないことはもっと言えないんだから、そのくらい分かってよ!」
ケイの中で、思っていることかつ伝えても大丈夫そうと判断したのがそれなのだ。
(ちゃんと話すと言った割には、だいぶぼかされている気もするが)
結局ケイは何が言いたかったのか、何があったのか、シェルはよく分からなかった。
「じゃあ話題を変えるか。ケイはこれから、どうするつもりなんだ?」
「どうするつもりって?」
「この地に居続けるか、旅に出るか、森に戻るか、それ以外にも選択肢はあるだろうが、ケイはどうしたいのかと」
「あー、悩むなー」
ケイは腕を組んでうーんと悩む。
「ミューズ達が必要としてくれるなら護衛かなー。でも本物のドラゴンにも会ってみたいな。いろんな所を回る旅ってのも面白そう」
ケイの頭の中には、やりたいことがたくさん出てきている。そしてそれら全てをしてみたかった。
「で、ワープ魔法使えるようになったし、たまにはレイセに戻ってくるんだ。オレがいた世界ではさ、『実家に帰る』って言うのがあるんだよ。あと年に一度、死んだ人たちがこの世に戻ってくる時期もあるし、病気とかで家から離れて療養してた人が、具合が良い時に一時的にでも家に戻れたりとか、そういうのもあってさ。まあ、オレはどれもできなかったし、これからもできないんだろうけどさ」
その中には、転生前にできなかったことも、含まれている。
「でも本当に、やりたいことだらけだよ。まず馬車に乗れたのも嬉しいし、次はどれにしようかなー」
ケイはそう言って、また少し考えてみた。
「せっかくだ、鍛冶屋で短刀でも作ってもらうか?」
すると、シェルがそんな提案をしてきた。
「え、いいの⁉ ドラゴンデザインのやつも作ってもらえるかな⁉」
「それは聞いてみないとな」
「そっかー。やっぱり鍛冶屋の人って職人気質の頑固者って感じなの?」
「そうだな……」
そんな、他愛もない会話をするケイとシェル。
「えへへ」
「どうした?」
「いや、やっぱり、楽しいなって。オレ、この世界に来て良かった。めっちゃ元気な体になれたし、ファンタジーな世界だし。やりたいことができて、やりたいことも山積み」
ケイは幸せそうに笑う。
「でもとりあえず今はさ、話したいことたくさんなんだよ。いい、話しても?」
「鍛冶屋までまだかかるからな」
「じゃあまずさ、あのチョコケーキ5000円……じゃなかった、5000ペンて高くない⁉ それにそんなに鍛冶屋まで遠いのに、よくあの時2時間で帰ってこれたね。あと吸収の魔法にも詠唱あるんだよね、何て言うの? それとあと他にもさ……」
「はいはい、1つずつな」
ケイは楽しそうに話し出す。シェルも、馬車の速度を落としていた。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
また最終話だけ読まれるという方も、ありがとうございます。




