ラスボス
ケイは自身の魔法で、再びモンディーユに戻る。その時丁度、ゾネスとメインが一つ目の魔物を見つけ、メインが炎で黒焦げにしていた。そして大量にあった綿が一瞬にして消える。
「ケイ! 戻ってきたのね!」
ミューズはケイを見つけるとすぐに駆け寄り、嬉しそうな表情をする。
「無事で良かった……」
ケイもミューズ達が大丈夫そうで、安堵のため息をつく。
「おう小僧、よくあのヘンテコリンのせいだって分かったな」
ゾネスも、メインに乗ってこちらにやって来た。
「まあ、勘だよ勘。それより、3人に作戦があるんだけど……」
ケイは3人を呼んで、とあることを話し出した――。
ミューズは再び聖域に立つ。そして歌を歌った。ただ、今までの歌は明るく高い声だったのに対し、今回は暗くてやや低い歌声だった。癒しや強化が目的ではない、特定の相手に届けるための歌だ。すると、空が再び暗くなる。そしてまた、あの悪魔のような外見の魔神が姿を現した。
「自ラ我ヲ呼ブトハ、利口ダナ」
魔神はそう言い、ミューズに向かって右手を伸ばす。
「させるか!」
ケイはそう叫んで、魔神目がけてビームを打つ。ゾネスやメインもミューズを魔神の手から守ろうとした。
「ハッ!」
しかし魔神は左手から無数の槍を出し、ケイ達に仕掛ける。ケイはミューズの所だけバリアを強化し、それ以外は手薄になる。案の定、ミューズにかけたバリア以外は破られてしまう。そしてミューズ以外の3人は、槍の攻撃をモロに食らってしまった。
「他愛モナイ」
その隙に、魔神の右手はミューズを掴む。
「コレデ、我ノ力ハ無限ニ……」
そう言う魔神だが、何故か力は増幅されない。
「ドウイウコトダ……」
魔神はそう言い、ミューズもろとも、暗くなった空の方へ戻っていった。
――魔神が完全に姿を消した頃。
「ゾネス、メイン、大丈夫⁉」
聖域から少し離れた場所に、ミューズが姿を現した。それと同時に、ケイが煙のように消える。
「あ、ああ。アタイは全然……」
「わたし、も……」
ゾネスとメインはゆっくりと起き上がる。そしてミューズが歌えば、すぐ元気になった。
(後はよろしくお願いします、ケイ……)
ミューズは2人の回復が終わると聖域に立つ。そして今度は、今まで以上に透き通った声で歌い出した。
――魔神は自分が元居た場所に戻る。そこは黒い霧に囲まれたような場所だった。
「へえ、いかにもラスボス部屋って感じ」
すると、ミューズが口を開く。しかし、明らかにミューズの声ではない。どちらかと言えば、少年の……、
「マサカ、キサマ……」
「猫が人の姿になれるんだ、変身もできるよなって思ったけど、正解だったよ」
ミューズの姿が一変、ケイの姿になる。そしてケイは一瞬消えたかと思うと、ワープ魔法で魔神の手から逃れていた。
ケイの作戦はこうだ。まずミューズに姿を消す魔法、自分にミューズに変身する魔法をかける。そしてミューズに魔神をおびき出してもらい、変身した自分がわざと掴まり、魔神の本拠地に行く。少なくとも、ミューズが掴まる危険性は減ると、そう踏んだのだ。
「キッサマア……」
魔神は怒りを露わにする。そして、その造形が大きく変わっていった。コウモリのような羽を生やし、トカゲのような見た目、キバも長くなり、先ほどまでの姿が悪魔なら、そう、
「ラスボスがドラゴン、いいね、ロマンあるよ」
ケイの言う通り、「ドラゴン」という言葉がぴったりな姿になっていた。
「ホザケェ‼」
魔神は口から光線を吐く。ケイはそれをバリアで防ぐ。
「フン、キサマ1人デ我ニ勝テルト?」
「そっか、そっちには聞こえてないんだ」
「ハ?」
ケイには、テレパシーのように、ミューズの歌声が聞こえていた。その歌声は、ケイに力を与える。そしてケイは両手に魔力を込める。
「消エロ!」
その隙に、魔神も力を溜める。口には光のエネルギーが充満していった。そして満タンになると、特大のビームを放つ。暗い霧がはれるくらいの勢いだった。
「コレデ奴ハ跡形モナク……」
魔神の目の前に、ケイの姿はない。魔神は勝利を確信した。
――「上だ、上」
しかし上空から、ケイの声が聞こえる。魔神が見上げると、そこにいたのは蛇のような姿をした存在、
「オレはそっちのドラゴンも大好きだが、こっちのもかなり気に入ってんだ!」
光の龍と、その上に乗るケイがいた。
「これでしまいだ!」
光の龍は魔神目がけで大口を開け、突進する。魔神は再び光線を放つが、それごと龍は飲み込んでいく。そして魔神のすぐ近くまで来ると、その大きな口で、魔神を丸のみした。
「馬鹿……ナ……」
魔神は龍の体内に入ってもしばらくは意識があり、そう呟く。しかしすぐ、消えてなくなってしまった。
――「邪悪な気配が……」
聖域で歌っていたミューズだが、異変に気付き歌うのを止める。すると空がはれ、きれいな青空が見えてきた。さらにそこから、光の龍とそれに乗ったケイが現れる。
「おーい、ミューズ―!」
ケイはミューズ達に手を振る。そして地上に降りてきた。
「これは、一体……?」
ミューズ達は初めて見る存在に驚きを隠せない。
「んー、ドラゴンの一種だと思ってもらえればいいかな」
ケイはそう言って嬉しそうに笑う。そして3人を龍の背に誘導した。
「とりあえず、山から下りようか」
ケイは龍を操って、空を自由に飛ぶ。その姿は、レイセの町にいた人達、それ以外のこの地にいた人達にも目撃されていた。
とりあえずケイはレイセに戻ることにする。町が今どんな状況かも、気になったのだ。そして町の前で龍から降りると、龍はすぐ消えてしまった。
「ちょっとちょっとちょっと何なのよ今のー‼」
すると、町の方から妖精が、ローズが飛んでくる。どうやら龍がレイセの前に降り立ったのが気になったらしい。
「ああ。オレの必殺技。かっこいいでしょ」
ケイは得意げに話す。
「てかそれ以上に、護衛ってあの歌姫のだったの⁉ そういうことはちゃんと言いなさいよ」
「そんなにミューズってすごい人なの?」
「神の遣いって言うか、神の次ぐらいに偉い人ってぐらいよ、アンタ全然分かってないわねえ」
(そもそもこの世界の神様、そんなに偉いものだっけ……?)
そんな風にローズと話していると、グレンを筆頭に、町の人たちも集まってくる。ある人はケイ達に感謝の言葉を述べ、ある人は喜びの声を上げる。
「ケイ、魔神を倒したってことでいいんだよな?」
そんな中、グレンはケイに尋ねる。
「ああ」
ケイはコクっとうなずいた。
「よし、祝賀会開かないとな!」
グレンはそう言い、町の人たちやミューズ、ゾネス、メインは喜んでいた。
「あのさ……」
しかし肝心のケイは、別の何かを気にしているようだった。
「シェル、どこ……」
この集まりの中を見てみても、シェルの姿がないのだ。
「ああ、あいつならケガ人の介抱してる」
しかしグレンはあっさりとそう言った。
「ありがと!」
そしてケイは人込みをジャンプで超えて、町の中へ走る。
グレンの言っていた通り、町の中心部でシェルの姿を見かける。ケイが渡したひょうたんの水を、ケガしている人の傷口にかけたりしていた。その人達は皆気絶しているようだが、傷は塞がり息もしている。丁度水も使い切ったようだった。
「シェル……」
ケイはシェルに声をかける。
「ケイ?」
シェルは振り返って、ケイの方を向く。
「……もう、こういう時はみんなの輪に混ざってこっちに来るもんでしょういやシェルのことだからケガ人の治療の方が大事なの分かるしオレもそうだと思うけどさいやでもさその場のノリに合わせちゃうこととか少しはあってもいいでしょもうさあ……」
ケイは、せきがきれたように話す。
「ケイ」
すると、シェルが声をかける。
「本当に感謝してる」
その言葉に、ケイの目に涙が溜まる。
「泉の水のおかげで、みんな助かっ……」
シェルが言い終わる前に、ケイはシェルに抱き着く。
「もう何も言わせないし何もさせないから!」
「いやだから、今丁度終わったって……」
ケイはボロボロと泣き出し、シェルはただ困惑していた。




