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魔神現る

 ――それからもひたすらに魔物と戦い、山を登っていく。そしてついに、山の頂上付近まで近づいてきた。すると、空が暗くなり、嫌な空気の流れを感じる。


「魔神が……」


 ミューズが空を見上げると、そこには巨大な何かが現れていた。上半身のみの姿だが、その外見を一言で言うなら「悪魔」だ。ミューズはそれを「魔神」と呼ぶ。


「コレ以上ハ、行カセヌ……。人ノ子ヨ、死シテナオ我ニ仕エヨ……」


 魔神は片言で話し、手を地上に向けてかざす。するとそこから黒いものがボトボトと落ち、地面に着くと、人の形になった。杖を持っている魔法使い、弓使いや武闘家のような造形をしている。


(ミューズが言ってた、死者を生き返らせて使役する力ってこれか……)


 その生み出された者は輪郭がそれっぽい程度で、どちらかと言えば洞窟で出会ったレインやミロワのような外見だった。


「邪魔すんなら容赦しねえぞ!」


 そしてゾネスは躊躇なく武道家に挑む。


「ミュウ、しっかり掴まって」


「ええ」


 ミューズを乗せたメインは、一刻も早くミューズを聖域に届けようと、敵のことは無視して先に進む。


「あと少しなんだあ!」


 ケイも、メインやミューズが襲われないよう、バリアを筒状にして、2人に攻撃が当たらない道を作った。その間にケイも魔法使いや弓使いの姿をした敵と戦う。ケイのビームの方が敵の魔法や弓より早くて威力も強く、すぐ倒せた。


「アタイだって負けてらんないよ」


ゾネスの方も、武道家に対し殴りを入れる。武道家も同じく拳をぶつけてきた。お互い一歩も引かず、ゾネスは回し蹴りを披露する。武道家はそれをスレスレでかわした。


「やるねえあんた……」


 ゾネスはニヤリと笑いつつ、ひたすら殴る、殴る、殴る。相手は両腕をクロスさせて防ぐが、その勢いに押されつつある。そしてゾネスが渾身の一撃を与えると一気に体制が崩れた。その隙にゾネスは飛び上がり、相手の顔面に蹴りを入れる。すると武道家の顔に穴が空き、そこから穴が広がって、消えてしまった。


「オノレ……」


 魔神は再び手をかざし、今度は無数の槍を降らせた。ケイは自分とゾネスの頭上にもバリアを張る。


「ぐっ……」


 しかし、今までのどの攻撃よりも威力があり、しかも数も多い。バリアを張るケイの表情も苦しそうだ。


「おい小僧、アタイはいいから、お姫とメインのバリアを強くしろ!」


「ごめんゾネス!」


 ケイは自分とゾネスのバリアは解除し、その分ミューズとメインに張ったバリアを強化する。ゾネスはケイがバリアを張るのに集中できるよう、上から来る槍をつかんで振り回して自分たちの身を守れるようにした。そのかいあって、ミューズとメインは、聖域と思われる場所――山の頂上で地面には魔法陣のようなものがある――までたどり着く。メインはミューズを降ろし、ミューズは魔法陣の真ん中に立つ。そして、祈りをささげるような、歌を歌った。


「ヤメロ、ヤメロオオオ‼」


 魔神は頭を抱え、苦しそうにする。


(やった!)


 その様子に、ケイは勝利を確信した。


「コノママデハ、スマサヌゾオ!」


 しかし魔神は叫ぶと、無数の黒いレーザービームを放つ。それはここら一帯に降り注いだ。


「この野郎!」


 ケイは筒状のバリアを解除し、4人それぞれにバリアを張る。レーザーはそれで防げたが、魔神は空に戻ってしまった。


「ハア、倒す、とまではいかないか……」


 レーザーの猛攻が終わると、ケイはバリアを解く。さすがに今回は疲れたようだ。その場にひざまずく。


「ケイ、ゾネス、大丈夫?」


 すると、メインに乗って、ミューズが返ってくる。


「ああ」


「お姫も無事で何より」


 ケイとゾネスも、疲労困憊ながらそう答える。


「一応、これで魔神の悪行は抑えられたのか……」


 そう言うケイだが、空は未だに暗く、嫌な空気も消えない。


「いえ、きっとまだでしょう」


 ミューズも、悔しそうな表情をしていた。


(さて、これからどうすれば……)


 ケイがそんなことを考えていた、その時、




――『こちらへ』


 突然、女の人の声が、ケイの頭の中に響いてきた。


「誰かしら……?」


 その声はミューズにも聞こえている様子。一方で、ゾネスとメインには聞こえないようだった。すると、壁の方に小さなほら穴を発見する。


「ここからかな……少し見てくる」


 ケイはそう言って中に入る。


「私も」


 ミューズもケイの後を追った。


「お姫! くそ、アタイにゃ小さいな。メインは……」


「あの姿、戦えない。嫌」


 ほら穴に入れないゾネスとメインは、その場に残ることにした。






ケイとミューズがほら穴を抜けると、そこはケイにとっては懐かしい場所、あの泉がある森だった。


「まさか、さっきの声って……」


 ケイは走って泉に近づき、中を覗いてみた。すると白い光を放ち、あの女神が姿を現した。


「ねえ、話というか、テレパシー、使えたの?」


 ケイは女神に話しかける。


『あなたの魔力が以前より増したため、会話できるようになりました』


 女神は口を動かさず、直接脳内に語り掛けるようにする。


「この森の女神様……?」


 後からついてきたミューズにも、女神の声が届いているようだ。少し驚いているようだが、フウと息をつけば気持ちを落ち着かせられていた。


「この森は、女神様の領地なのですか?」


 そしてケイの隣に立って、そう尋ねた。


『ここは、私の箱庭です』


「箱庭? どういうこと?」


 ケイは首をかしげる。


『ここは私の好きなように生き物を生み出し、時に異世界のさまよえる魂を連れてきたりしています。また清潔にしておきたいので、死がいはすぐ片づけているのです』


「だからモンスターを倒すとすぐ消えたんだ。あと他にも疑問なんだけどさ。何でオレ達、山にいたのにここにこれたの? 入口はあの平原じゃないの?」


『ええ。ここは私の箱庭ですから、入口が1つなんて制限はありません。そのうちの1つがモンディーユにあっただけです』


「じゃあ何でオレとシェルが出た場所は、レイセからめちゃくちゃ遠い場所だったのさ。モンディーユって山の方がまだ見える場所にあるじゃん」


『レイセには確かにモンディーユの方が近いですが、その道のりが危険なのも、承知でしょう? それに、せっかくなら巨大ワシのディアンも何とかできるんじゃないかと思って、そこに飛ばしたのです』


「えー、それが理由?」


ケイとしては、納得したような、してないような気持ちになる。


『ええ。ちなみに、この森の出入り口を設けないこともできます』


(そういえば、森から出られない時があったなあ……)


 ケイは、どんなに森を進んでもほら穴が見つけられなかったことを思い出していた。


「女神様、どうして私達をここに呼んだのですか?」


 すると今度は、ミューズが女神に声をかける。


『態勢を立て直した方がいいと思って』


「態勢を立て直す?」


ミューズは困った表情になる。


「……あ、ミューズ、ちょっと待ってて」


するとケイは一旦その場を離れた。そして数分と経たないうちに、ひょうたんを5つ持ってくる。


「この泉の水さ、どんなケガでも治せちゃうんだ。だからこれがあれば、戦いも少しは楽になるってことじゃない?」


そう言ってケイはひょうたんに水を汲む。そして5本目をくみ終わった時、


「何?」


女神がケイの額に人差し指を当てる。


『いえ』


そしてケイはひょうたんをポーチにしまった。


「じゃ、女神様」


 ケイはそう言って、ミューズと一緒にその場を後にする。


『……』


 女神はただその後ろ姿を眺めていた。





ケイとミューズが山に戻ると、ゾネスとメインが待っていた。


「魔神もいなくなっちゃったし、まずは1回、この山下りない?」


 ケイがそう言うと、他の3人もうなずく。その時だった。突然、辺りから綿のようなものが発生する。しかもその量は地面を一瞬で真っ白にし、何なら壁にすらなるほどだ。


「何だこれ⁉」


 ケイはそう言い、ビームを放つ。しかし貫通したかと思えばすぐ塞がってしまった。ゾネスが殴っても手ごたえはないし、メインの炎でも燃えない。


「3人とも待って!」


 すると、ミューズがそう言った。そして3人の動きが止まると、綿の方も増えたりこちらに近づいてきたりしない。


「本当に何、これ……」


 ケイはこの謎の綿に戸惑いを隠せない。その上、ミューズは何か違和感を覚えているようだった。


「ミューズ、どうしたの?」


「遠くから、大きな力が……」


「大きな力? 魔神か⁉」


「分からない、でも……」


 そう言われてしまっては、ケイは余計焦りを感じる。しかしケイのビーム連射より綿の発生の方が早く、バリアで押そうと思っても、同程度の綿が襲ってくるだけだ。


(でもこの綿、オレ達を積極的に攻撃するわけじゃないんだよな……)


 ケイはそう思いながら、どこか突破口はないか辺りを見渡す。すると、ほんの一瞬だが、綿の中に小さな影を見つけた。


「待て!」


その影は素早く移動し、ケイはそれを追う。さらにそこ目がけて細いビームを放った。すると一瞬だが、綿のようにフワフワした体の一つ目の魔物が見えた。ケイはそれが原因と思い、必死に追いかけ、ビームを打つ。


「ギャア!」


 そしてようやく、その魔物に当たった。魔物は一発で倒れ、姿を消してしまう。すると、あんなに大量にあった綿も、一瞬で消えてしまった。


「でも、こんな魔物いなかったよな……?」


 ケイはこの魔物の存在に疑問を抱く。すると、ミューズがハッとした表情になった。


「大きな力が、消えた気が……」


 どうやら、さっきまで感じ取れていたものが消えてしまったらしい。


「それって、どこからか分かった?」


「レイセの町の方……」


「レイセ……」


 ケイもよく知っている場所。それならワープ魔法も使えると思い、ケイは他の3人も近くに呼び寄せる。そしてレイセの町を頭に思い浮かべ、そこに行きたいと念じると、4人は一瞬でその場からいなくなってしまった。


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