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歌姫

 太陽が昇るにはまだ早い時間帯だが、ケイは目が覚めてしまった。


(何だ、この歌声……)


 どこからともなく、きれいな歌声が聞こえてきたのだ。しかも、直接脳に響くような感覚で。


(すごく気になる)


 その上、無性にその声の持ち主が気になった。気になりだすと、無視することもできない。


(少しだけ調べて、シェルが起きる前に戻れば大丈夫だろ)


 そしてケイはこっそりと部屋を出た。足音を立てないよう、ソロリソロリと移動する。


(こういう時、姿を消せる魔法とかあったら、便利なんだろうなー。できたりしないかなー)


 ケイはそう思い、試しに自分の魔力を全身に巡らせるイメージをしてみる。その上、姿が消せたらいいなと思いながら。


――「ふあーあ……」


すると突然、向かいの曲がり角から、受付にいた青色ポニーテールの女性が姿を現した。


(げ)


 ケイは何か言われるかと思い、身構える。しかしその女性はケイには目もくれず、その上ケイの隣を素通りしていった。無視というより、完全に気づいていないような雰囲気だった。


(まさか、本当に姿が消えてたり……)


 ふと、自分の腕を見てみると、向こう側の壁まですけて見えた。


(まじで透明になれる魔法できてるじゃん! もしかして……)


 どうしてこんなことができたのか。思い当たる節といえば、ミロワが言っていた「その魔力をより強固なものにする、力を授けよう」という言葉と、不思議な光。


(色々な魔法が使えるようになったのかも! よし、後で試してみよう)


 ケイは興奮を抑えきれないでいたが、とりあえず今は宿を出ることにする。宿から出ても人はおらず、歌の主はここにはいなさそうだ。


(町の外、かな)


 ケイはふとそのように思い、町から出る。なぜそう思ったのか、なぜ、もっと町の中で探してみようと思わなかったのか。ただ、ケイは直感に従って、行動していた。ちなみに透明になる魔法は町の外に出る頃には消えてしまった。まだ、長時間の使用はできないようだった。




 レイセの外の街道は岩が多く見通しが悪い。人やモンスターが隠れていそうな雰囲気もあった。そして何となくではあるが、歌が聞こえる方向へとケイは進んでいく。レイセの町からだいぶ離れたところまできてしまった。すると、


「おい小僧、そこで何してる!」


 岩の上にいた人から、声を掛けられた。その人の風貌は、一言で言うなら「女戦士」だ。ボサボサしたオレンジ色の髪はその荒々しさを表現しているようだった。そして体格も筋肉隆々といった感じで、特に腹筋は6つに割れている。またその鍛え上げられた腹や二の腕、太ももが見えるくらい、露出度の高い服装だった。


「フシャー」


 その上、その女戦士の隣には、ライオンより大きく、体長3mはありそうな巨大な猫がいた。その猫の毛並みは白く輝いていてきれいだが、当の本人の表情は闘争心むき出しだった。

 女戦士と巨大な猫は、一斉に襲い掛かる。そこでケイはドーム型のバリアを張り、相手がバリアに触れた瞬間、電撃を流す。


「グア!」


「ニャア!」


 女戦士と猫は電撃をモロにくらい、その場にひざまずいた。


(何なんだ、この人たち……)


 ケイは急なことで戸惑っていた。


――「待って!」


 すると今度は、女の子の声が聞こえた。


(次は何……⁉)


その声がする方向を見れば、ケイと同年齢くらいの少女がいた。クリクリとした大きな瞳とショートヘアはきれいなターコイズブルーで、簡易なドレスのような白い服も、どこか神秘的であった。


「お姫!」


「ミュウ!」


女戦士と猫は同時に声をかける。


「その人は悪い人じゃないはずよ」


 その少女はケイに近づく。


(かわいい……)


 それに対し、ケイは警戒するどころか、見とれていた。


「ごめんなさい、ゾネスとメインが」


「ゾネス? メイン?」


「あ、ゾネスは女の人で、メインは猫です」


 その少女は、女戦士と猫に目をやる。2人は少ししびれているくらいで、命に別状はなさそうだった。


「で、お姫。この小僧が悪い奴じゃないってどういうことだ?」


 女戦士、ゾネスはゆっくりと立ち上がる。


「あなた、私の歌を聞いてここに来たのよね?」


「私の歌? もしかしてずっと聞こえてた歌声って、君の……?」


「ええ。さっきの歌は、力になってくれる人を探すため歌なの。そんな人の心に響く歌……」


 少女はもう一度、さっきまで歌っていた歌を歌う。近くで聞くと、その美しさがより際立った。その上、ゾネスとメインのしびれもとれていくようだった。


「え、えっと、力になってくれるって……」


 ケイは困惑の表情を浮かべる。目の前の女の子はかわいいし、しかも不思議なことを言うしで、どうしたらいいのかよく分からないのだ。


「それは……」


 少女が何か言いかけた時だった。急に複数個所から、フードを被った何かが現れた。それが顔を見せれば、ゾンビのように腐ってただれていた。


「また魔物か! やっかいだねえ」


 ゾネスはそのゾンビのような魔物を殴って蹴ってちぎって倒していく。巨大な猫のメインも、火を吐いて応戦した。


「オレも!」


 ケイもビームで魔物の頭を打っていく。魔物は20体は出てきたが、ケイが四方八方にビームを飛ばせば、すぐに決着がついた。


「すごい……」


 ケイの戦い方に、少女は目を丸くした。




 ――魔物を無事に倒したあと、4人は腰をすえて話をする。


「では改めて、先ほどはゾネスとメインが失礼しました。私はミューズ」


「オレはケイ……です。よろしく」


 ケイは頭をポリポリとかきながら答える。


「私たちは今、魔神の暴走を止める手助けをしてくれる人を探しているのです」


「魔神?」


 何か悪くて強そうな単語に、ケイは反応する。


「ええ。神にも様々います。その土地を守る守護神や、魔法をつかさどる神が。その中には、悪い神も……」


「悪い神と言うと、自分を信じればどんな病気でも治せるとか言って大金せしめて、もし治らなければ信仰心が足りないだけだって言ってくるのとか?」


 ケイは前のめりになってそう言う。


「そんな神がいるんか?」


 つい、ゾネスはつっこんでしまう。


「いないかもしれないから余計にタチが悪い」


「は?」


 ゾネスは少し顔が引きつっていた。


「それよりお姫、話を続けて」


「ええ。その悪い神こと魔神というのは、モンスターを操ったり、自分が生み出した存在を操ったり、死人を生き返らせて使役したりしているのです」


「え、その死人を生き返らせる力って、魔神しか使えない力なの?」


 自分自身、死んだと思ったらこの世界にいたケイは、その話に思う所があった。


「いいえ。同じ力を有している神は存在しますし、その力を戦いに使うわけではありません。中には、別の世界の浮かばれない魂を、この世界で救済する神もいます」


(むしろそっちだな、オレの場合……)


 ケイは少しホッとした。


「また中には、その創造の力を用いて、自分だけの世界、ドールハウスのようなものを作って楽しんでいる神もいるようです」


(そっちはそっちで嫌だな)


 だが、安心したのもつかの間、少し嫌な感じがする。あの泉があった森、この異世界の中でも特に異質な場所で、しかもそこには泉から現れる女神もいる。もしかしたら、あの女神はそういうタイプの神なのではないかと考えたのだ。


(まあ、まさに神のみぞ知るって話だけど)


 ただ、今考えた所で分かるわけもないので、とりあえずミューズの話に耳を傾ける。


「それぞれの土地に、『神に最も近づける場所』と呼ばれる、言わば聖域があります。そこで私の歌を捧げれば、魔神の力を抑えることができるのです」


 そう言ってミューズは東の方向を向く。そこには他の何よりも高い、灰色の山があった。


「あの山は『モンディーユ』と言います。あの山の頂上が聖域なのです」


「へえー。ずいぶん遠そう……」


「ええ。それに、モンスターや魔物の数もどんどん増えてきていて、新たに力になってくれる人を探していたのです」


 ミューズは、ケイの方に近づく。


「あなたは遠くにいても私の歌声が聞こえる人、その上ゾネスとメインを圧倒した強さを持っている」


 ミューズは、そのきれいな瞳で訴えかけた。


「お願いです。私達の力に……」

「もちろん! 護衛みたいなやつでしょ。やったことはないけど、いくらでも協力する‼」


 ミューズが言い終わるより先に、ケイはそう返事をした。


「困ってる人は放っておけないし、聖域とかまさにロマンじゃん! そこにドラゴンとかいたりする?」


「多分、ドラゴンはいないかと……」


「ありゃ」


 ケイはガクッと肩を落とす。


「フフッ、ケイって面白いですね」


 その様子を見て、ミューズはほほ笑む。その笑顔に、ケイは心臓を矢で射抜かれたような感覚に陥った。


「ととととりあえずいつ出発する? 今すぐ?」


 ケイは顔を赤くする。


「いえ、聖域までは遠いですし、近くの町や村で支度を整えてからにしたいと」


「それもそうか、近くの村や……町……」


 ここでケイは思い出した。勝手に宿を抜け出たこと。そして出発時は夜明け前だったが、今や完全に日が昇っていること。


「……近くの町まで案内するよ。あと、敬語使わなくていいよ、同い年くらいだろうし」


 とりあえずケイは、3人と一緒にレイセに戻ることにしたのだった。



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