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宿屋

 グレンからもらった帰り用の魔法で、ケイとシェルはレイセの町に戻る。外は完全に真っ暗だった。2人はひとまず役所の前まで行く。


「そうだろうとは思ってたが……」


 だが既に閉まっている扉を見て、シェルはそう言った。


「仕方ない。報告は明日するとして、今日は宿に泊まるか」


「え、宿⁉」


「こっちだ」


 シェルに連れられ、やって来たのは周りの民家よりもずっと大きな建物だった。中に入るとすぐフロントデスクと受付らしき女性が見られた。また受付の隣には食堂のような場所もある。


「あら。シェルが来るなんて珍しい」


 受付にいた青色のポニーテールの女性はシェルのことを知っているようで、フフッと笑う。


「珍しいついでに、今日は2人で」


「はいはい、じゃあ2人部屋ね。料金は町長からもらっておくから」


 シェルと受付の女性が話している間、ケイは周りをキョロキョロと見渡す。元の世界でも旅館やホテルとは縁遠い生活をしていたが、ファンタジー世界の宿なんて、見ているだけで楽しかった。


「ケイ」


「え、何?」


 シェルに声をかけられ、ようやくケイの意識がこちらに向かう。


「部屋に荷物を置いたら、風呂に入るか」


「え、風呂なんてあるの⁉」


 ケイは驚いた様子でそう尋ねた。


「この宿はね、私の水の魔法と妹の炎の魔法のサービスが売りなのよ」


 受付の人は、得意げにそう言った。




――その後、部屋に荷物を置き、大浴場に入ってきたケイとシェルは、受付近くにあった食堂に移動する。


「いやー、湯舟につかるのっていいなあ」


 ケイはそう言ってホクホクとした表情で席につく。以前は風呂に入るどころかシャワーを浴びることすら困難だったのに。たっぷりのお湯に浸かっても体力があり余っているこの状況が嬉しくもあり、何より気持ちよかった。シェルも、テーブルを挟んでケイの向かい側に座る。


「この宿の名物、たっぷりの水と炎を使ったお風呂、そしてお料理よ!」


 そして、受付の女性とよく似た顔立ち、しかしこちらは赤髪をハーフアップにした女性が、料理を運んでくる。黒いパンと、何かの肉と野菜を煮込んだスープのようなものだった。


(やっぱ、魔法って言ったら戦うだけじゃなくて、生活に活かせるものもいいよなあ)


 提供されるサービスに魔法が使われていることにロマンを感じる、ケイであった。




――食事も済ませた二人は、再び部屋に戻る。とても簡素な造りで、ベッドが2つと小さな丸テーブルと椅子があるくらいだった。


「やっほい!」


 早速ケイはベッドに飛び込む。


「いでぇ」


 しかし想像以上に固く、少し額をすってしまった。


「そう言えばさ、ここの宿代って町長が出してくれるの?」


 ケイは起き上がり、額をさすりながら言う。


「俺の場合は町長からの仕事を受ける代わりに払ってもらっている。普通に泊まるにしても、食事代合わせて1000ペンだ。金がない人でも一旦町長が肩代わりして後で何らかの形で支払うということもできる」


 シェルも自分のベッドの方に腰かけた。


「町長曰く、この町で野宿されるくらいなら、安宿でも提供するから大人しくしてほしいみたいだな」


「へー。……あ、町長で思い出した。あのムチと盾の敵、強かった?」


 ふと、ケイは洞窟での戦いを思い出す。


「そうだな……。ムチも盾も相手の力を奪い取る能力持ちで、ムチはそれを力に、盾は回復に使うことができていたな」


「特殊能力付きの武器⁉ ロマンだなー」


 ケイは部屋の片隅に置かれたムチと盾に目を向ける。


「ケイの方はどうだった?」


「オレの方はガラスがバリバリーって飛んできたりして、あと敵が増えたり跳ね返してきたりしてさ――」


 それからしばらく、ケイの話は止まらなかった。




――「ずいぶん手ごわい奴だったんだな」


 一旦話の区切りが見えてきたところで、シェルはそう言う。


「まあねー。でも正直楽しかった! 強い奴と戦うのワクワクするって、こういうことだったんだなーって!」


「楽しかった……か」


 それを聞いて、シェルはフッと笑う。


「ケイには敵いそうにないな」


「え、そう? シェルよりオレの方強い?」


 そう言われて、ケイはにやつきが止まらなかった。


「仮に俺とケイが戦うとして、まず距離をとられたらビームで一方的に攻撃されるわけだしな。距離を詰めてもバリアをノーモーションで出されたら軽く防がれるだろうし、そのバリアもカウンター能力付きだ。ビームとバリアがなくても、持久戦になったらこっちはジリ貧だ」


「えへへ、そーお? てか剣士ともあろうお方が、簡単にそんなこと言っていいの?」


「客観的に見ての考えだ。事実は受け入れる」


「えっへっへー」


 シェルにそう言われ、ケイはもっと嬉しくなっていた。


「あ、剣士で思い出した。シェルってこの町の兵士とは違う感じだよね。甲冑とかしてないし」


「ああ」


「じゃあ冒険者?」


「雇われの身ではないことは確かだ。町長に頼まれたことをすることは多いが、それ以外は町の外の見回りやモンスター退治、近隣の村に行くこともある」


「へー、フリーの剣士的な?」


「ケイの分かる表現がそれなら、そうかもな」


「なるほどなるほど、そんな感じか」


 ケイは両腕を組んでうんうんとうなずく。


「あとさ、シェルって1人で戦うことが多いの? 他の人と組むこともあるの?」


 さらにケイは質問を続ける。シェルと一緒に戦う時、連携や役割分担もしているから、完全に1人で戦ってきたわけでもないように感じたのだ。


「そうだな。パーティを組むこともある」


「1人で戦うことは?」


「それもあるし、色々だな」


「へー。頼まれても戦うし、頼まれなくても自分から行ったり。単独だったりチーム組んだり。そういうもんなの?」


「まあ、俺の場合はな。戦えるなら戦う。それだけだ」


 シェルはそう言って、フウと息をつく。


「さて、せっかく宿に泊まったんだ。今日は早く床につくか」


 そしてベッドの上で横になった。


「そうだね、おやすみ」


 ケイもうなずき、部屋の明かりを消して、自分もベッドで横たわる。




「……ねえシェル」


 しかし数秒と経たないうちに、また声をかけていた。だがシェルからの反応はない。どうやら本当に寝てしまったようだ。


(そういえば、受付の人シェルが泊まるなんて珍しいって言ってたな。いつも野宿とかなのかな。ベッドで寝られることなんてほとんどないのかな……)


 ケイはそう思い、自分も寝てしまおうと考えたのだった。


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