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健康なオレはもはや別人

 とある病室にて。1人の少年がベッドで横たわっていた。少年の全身は冷たくなっており、目は開かず、真っ暗な世界にいる。意識ももうろうとしてきている。


(ケイ)……」


 少年の名前を呼ぶ母親の声は聞こえるが、少年はそれに応えることはできず、その場で最期を迎えた。享年14歳。病に侵され、闘ってきたその体はやせ細り、薬の影響で髪の毛も生えていなかった。








――「ん……」


 その少年、(ケイ)はゆっくりと目を覚ます。その視線の先にあったのは、見慣れた病室の天井ではなく、きれいな青空だった。辺りを見渡せば、生い茂る木々と大きな泉がある。ケイはゆっくりと立ち上がり、泉の方に近づいてみた。自力で歩いたのはいつ以来か、そう思うほどだったのに、今は何の苦もない。

そして泉をのぞき込んで、驚いた。あんなに痩せこけていた頬は普通の人と同じくらいの赤みと膨らみがあり、髪の毛も生えてショートヘアになっている。手足に目を向ければ、骨皮以外にも肉付きが良くなっていて、おまけに楽々動かせた。痛みも全くない。その上衣類も病衣ではなく、ファンタジー世界の村人が着ているような、リネン素材の薄茶色の服になっていた。ご丁寧に、ショート丈のブーツまで履いている。


(あの世か、異世界かな……。まあ、どっちでもいいや)


 この場所が「この世」ではないことはすぐに理解できた。またこの森と泉に、何か既視感を覚える。

 すると、泉の方から白い光が出てきた。ケイはまぶしさに目をつむる。そして再び開けると、そこにはさっきまでいなかったはずの人物、金髪の長い髪と神様が着るような白い服を着た美人――、


(金の斧銀の斧みたいだとは思ってたけどさ)


「女神」という言葉がぴったりな女性が姿を現したのだ。


「えっと、女神様的な?」


ケイが尋ねると、その女性――女神は優しく微笑む。そしてケイの方に手のひらを向け、再びさっきの白い光が手から放たれた。その光はケイを包む。そしてその光が止むと、女神はまた姿を消してしまった。


(何だったんだ、今の……)


 ケイは状況がうまく呑み込めないようだった。


(きっとあれだ、不思議な力ってやつだ)


しかし普通に考えて分かるはずもなく、それにせっかく動くようになったこの体、じっとしているのはもったいないと思い、とりあえず辺りを散策してみることにした。




 泉から少し離れると、1匹のタヌキを発見する。タヌキもこちらに気付いたようで、顔を向けた。ケイは興味本心で近づこうとした。すると突然、タヌキはしっぽを両手で抱えてボール状に丸まり、ケイ目がけて転がってきた。


「うわあ!」


 ケイは反射的に両手を前にかざす。すると、両手の前に薄い壁のようなもの――言うなればバリア――が張られ、タヌキをはじき返す。タヌキをはじき返すとバリアはすぐ消えた。


(何か手が温かい。もしかして……)


 また、手に不思議な感覚が宿り、試しにタヌキの方に右腕を伸ばす。するとビュンという音とともに、ビームが放たれた。そのビームはタヌキに命中し、タヌキは砂のようになって消えてしまった。


「すっげえ! これ魔法⁉」


 ケイのテンションが一気に上がった。


「やっぱりファンタジー世界じゃん。え、これ他にも何かいる? 他にも何かある⁉」


 嬉しさで独り言が止まらない。病気で体が思うように動かず、何もできない時を過ごすことも多かったケイにとって、楽しみと言ったら本を読むことや親のスマホを借りることだった。特にファンタジーに関するものが大好きで、そんな世界観が今、目の前に広がっているのだ。興奮しないわけがない。




 ケイはさらに森を突き進んでいく。今度は角の生えたウサギに遭遇した。さっきのタヌキは見た目は普通の動物だったが、今回のウサギはもっと異世界の生き物らしくて、ケイは嬉しくなっていた。ウサギもビームで倒せば、今度は、赤い花びらを付けた花を見つける。試しに花びらをちぎってみると、花びらは小さな火に変わった。


「あちっ」


 ケイは驚き、手を振るとその火はすぐに消えてしまう。とりあえず火の確保は簡単そうだとケイは考えた。


(一応、水で冷やしておくか)


 また指先も少し火傷したため、一旦泉に戻ろうと考える。だいぶ歩いてきたし、少し遠いかもしれないが……そう考えていた。しかし、


(あれ? もう着いた)


 来た道を少し歩いただけで、泉に戻れてしまう。明らかに行きの道の方が長かったのに。


(女神が出てくる泉だもんな、何かそういう不思議な力があるんだろう)


 しかし、不思議な生き物に不思議な植物と来て、不思議な泉があってもおかしくはない。むしろ早く着くことができて良かったとケイは考えた。まずは、火傷して水ぶくれができた指を泉につける。


「ひんやりしてて気持ちいい……」


 そして泉から指を取り出すと、水ぶくれも、痛みもなくなっていた。


「おお! 回復の泉⁉」


 指が治ったことより、そちらの方が嬉しそうなケイだった。






――この不思議な森に来て10日以上経過した。その中で分かったことがいくつかある。

 まず、丸まり攻撃をしてくるタヌキや角の生えたウサギなど、普通の動物とは違う、「モンスター」とでもいう生き物が生息していること。それらは泉から離れた所に行けばいくほど強いものが出てきて、最近では犬歯があごより長いオオカミまで現れている。その上このモンスター達は倒されるとすぐに消えてしまうため、その肉を食料として確保することはできなかった。だが、この森には食べられる木の実や豆がたくさんあり、食べることには困らなかった。

 そのモンスターを倒す手段として用いられるビームとバリアだが、ビームは打ち放題、バリアは張り放題で、今の所ビームは両手くらいの太さ、バリアは半径20m程度まで範囲を広げることができた。またビームを応用して、手の中に留まらせるようなイメージをすると光の玉になる。これが明かりの役割を果たし、夜でも周りを見渡すことができた。

 ケイが望んでいたものの1つに健康な身体があるわけだが、この体、そう簡単に疲れることがなかった。1日中動き回っても平気で、夜になっても眠くなったりしなかった。さすがに5日間ずっと不眠では眠くなることもあったが、あのだるい感じはなかった。一方で、眠気はなくても目をつぶって「寝よう」と思えば入眠できたため、早く朝になってほしい時も大丈夫そうだった。

 この不思議な森の大きな特徴である泉。ケガを一瞬で治すだけでなく、服にかければ汚れもすり切れてしまった部分ですら、きれいに元通りになる。そして初めてこの森に来た時に出会った女神だが、二度目に会うことはなかった。



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