2.一八一七
目を覚ますと見知らぬ場所にいた。
変な臭いが鼻を突く。
どこかで嗅いだことがあるような、ないような。
起き上がって周囲を確認する。
古めかしい日本家屋と思しき室内。
狭くて薄暗い。
天井を見上げても照明の類がない。
掛けられてた布団は白くて、なんとなく病院というか保健室っぽい印象を持った。
次いで、そういえば、と思い出す。
私、ビルから落ちなかった?
あれ、夢だったのかな?
それともこっちが夢?
そう思ってると、襖が開いて時代劇っぽい男の人が姿を現した。
ちょんまげに着物って。役者さん?
「おお。目ぇ覚めはったんかいな。どこぞ痛いとこあらへんか?」
問われて、とりあえず首を横に振ってみた。
「お。言葉通じたわいな」
男の人は目を丸くした。
次いでまじまじと私を見つめて。
「その衣と頭、異人さんやと思うたんやけど、ちゃいまんのか?」
私のどこをどう見たら外人に見えるのか。
どこからどう見てもザ・日本人だと思うけど。
中国か韓国の人に見えたのか?
釈然としなかったけれど「日本人ですけど」と答える。
が、男の人は納得いかない様子で「ほうか」と小さく言って、それから振り返って「玄兄ッ」と叫んだ。
すると少しして、別の男の人が現れた。
またもや時代劇っぽい髪型、服装。
なので。
「あのう……ここは時代劇の撮影所か何かですか?」
そう訊いてみた。
すると、小首を傾げながら「ここは私の家で、私は医者やけど」と後から来た男の人が答えた。
医者?
じゃ、やっぱり私はビルから落ちたの?
でもどこも痛くないけど?
もしかして、あの世?
と、馬鹿げたことを考えたところで。
「道端で倒れとったんを俺が拾って来たんやけど、なんであんなところで倒れとったんや? それにそのけったいな姿はなんやねん?」
最初に入って来た男の人が不思議そうに訊いて来た。
「私は……会社で残業してて……ビルの十八階から落ちたと思うんですけど……」
「十八階て。そないな高い建物あるかいな。何言うてるんか分かるか?」
問われた医者と思われる男の人は「いや」と短く答えた。
「俺は治兵衛。絵師の春好や。こっちは医者の玄斎先生や。あんたは?」
「わ、私は……梅宮璃花です」
「武家かどっかのええとこの娘っぽい名前やなぁ」
治兵衛と名乗った男の人が感心したような声を出す。
「で、何があったんや?」
玄斎という人が同じことを問うた。
「ですから……ビルから落ちて、目が覚めたらここにいました」
私も同じ説明をする。
が、やはり二人は顔を見合わせて怪訝な表情になる。
「あの、私、十八階から落ちてどうして無傷なのか分かりませんが、急いで会社に戻らないといけないんですけど。今、何時ですか? タクシー呼んで貰えませんか?」
早口にそう言うと、眉間に皺を寄せながら「亥の刻……いや、もうすぐ子の刻やと思うけど」と治兵衛さんが答えた。
役者さんだからってカメラもない場所で、そんな言い方する?
何かおかしくない?
私はそこで漸く違和感を覚えた。
いや、初めから彼らのちょんまげやら服装やらが時代劇の俳優さんっぽいなと思ってたけど。
それに十八階から落ちて無傷ってあり得ない。
「ここ……何処? 今、何年?」
私の問いに治兵衛さんは。
「ここは瓦町やけど。今は文化……十四年やったっけ?」
そう答えた。




