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23.お風呂

 お松さんが帰った後、診察室を焼酎で拭き掃除し、お松さんがくれたふかし芋とお茶で休憩した後、再び診察室を水拭きした。

 それから、玄斎さんと未来での病院の様子などを話しながら、今朝ご近所の女性陣から差し入れて貰ったご飯で夕食を摂った。

 治兵衛さんは忙しいようで、日が落ちるまで待ったけれど、戻って来なかった。

 なので。

「風呂、どないしよか……?」

 玄斎さんがそう言って腕を組んだところで、玄関の戸を叩く音がした。

「お松? どないした?」

「そういえば、お風呂のこと話してへんかったな、と思て。男所帯やし、湯屋には行けへんやろ?」

 まるで監視カメラでも見ていたかのようなタイミングと内容に私は有難いと思うよりも「怖っ」と思ってしまった。


「ちょうど今、その話しとったとこや」

 玄斎さんもちょっと引き気味に驚いている。

 が、お松さんは「そら、ちょうどえかったわぁ」と笑顔になった。

「普段はな、お湯で濡らした布で体拭いたったらええ思うけどな、それやったら髪洗われへんし。せやから、あたしの友達の奉公先がお武家様やねん。そこにこっそり入らせて貰ったらどうやろか?」

「見つかったらどないすんねん? 下手したらお松の友達も奉公先失うことになんねんで?」

「せやから見つからんように……」

「あかん。そないな危険を冒してまで必要なことやないやろ」

「先生、女にとって湯に入られへんいうのはな……」

「命の方が大事やろ。そんなん言い訳にならへんで」

 玄斎さんの反対に「せやけど……」とお松さんは俯いた。

 やっぱりお風呂は諦めるしかないのか、と私も項垂れたところで、玄斎さんが軽く溜息を吐いた。

「……しゃあないな。気は進まへんのやけど、お(あや)んとこなら堂々と入れるんちゃうか?」

「お綾っ? あそこは駄目やっ」

 俯いていたお松さんが勢いよく顔を上げ、玄斎さんに掴みかかりそうな勢いで反対した。

「確かに癖のあるお嬢さんやし、どう頼み込むか考えなあかんけど、梅吉としてやなくて女として行けば入らせて貰えるんとちゃうか?」

「先生、お綾はっ」

 言いかけてお松さんはちら、と私を見た。

 それから少しの間、何かを考えるように押し黙り、そして何か閃いたように笑顔になった。

 満面の笑顔だったけれど、私は背筋を氷で撫でられたような気分になった。


「ほな、あたしが頼んでみるわ。お梅ちゃんって紹介してもええね?」

 お松さんの態度の急変に玄斎さんは困惑しつつも「お、おお」と頷いた。

「ほな、早速明日頼んでみるわ。そんで、お梅ちゃん」

 そう言ってお松さんは私に近づき、耳元で「例の、頼むで?」と囁いた。


「は、はいっ」

 私は大きく何度も頷いた。

 お松さんは私の中で何だかよく分からないけど『怖い人』になった。

 すごく世話焼きで優しいのだけど。


 それにしてもお松さんも玄斎さんも『お綾』という人をあまり良く思ってないようだ。

 どんな人なんだろう?


 お松さんが再び去った後、玄斎さんが訝し気に私を見た。

「お松に何言われたんや?」

 再び同じ質問をされた。

「秘密です」

 私も再び同じ答えを返した。


 玄斎さんの寝顔と寝起きの絵。

 描けるかなぁ?

 どんなのがお松さんの好みだろう?

 ん?

 ってことは寝てるところを見に行って、玄斎さんより早く起きなければいけないってことだよね?

 今朝は私が起きた時には既に身支度終えて、一段落ついていた。

 日が昇るよりも早く起きたってこと、だよね?


 今日は早く寝よ。

 そう決意したところで。


「ほな、悪いけど俺は湯屋に行って来るさかい。体拭くんやったら奥の土間でやってな。座敷は畳が濡れたら困るさかい。あと、裏に出る時は一応恰好に気ぃつけてな。お松みたいに誰がどこで見とるか分からへんさかいな」

「分かりました。気をつけます。ところで、あの……」

「なんや?」

「お湯の沸かし方って……?」

「湯も沸かせへんのかいな?」

 玄斎さんが呆れた顔をしながらも手際良く竈に火を点ける。


 お湯も沸かせないなんて……屈辱だ。

 だって、未来じゃ竈なんて使わないもん。

 コンロか電気ケトルで沸かすのが普通だし、そもそも体を洗うのにお湯は沸かさない。

 シャワーまでは望まないけど、火を点けるにもライターもないし、スイッチ一つで火が点く時代を生きてる私には、竈はハードルが高すぎる。


「火の始末はさっき()うた通りにきっちり頼むで。ほな、俺は湯屋へ行って来るさかいな」 

 そう言って玄斎さんは湯屋へと向かい、一人残った私も体を拭く準備を始めた。


 お松さんがお綾って人に頼んでくれたら、私も湯船に浸かれるのかな?

 いつまでこの時代にいるのか分からないけど、すぐ帰れそうにないし、その間ずっと体を拭くだけなんてさすがに嫌だ。

 それにしてもお綾さんってどんな人なんだろ?

 あのお松さんが『駄目』と言い、玄斎さんが『癖がある』と言ってたけど。


 そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にか鍋に湯気が立ち始めていた。


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