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16.条件

「未来では家電と言って……その、今のような設備ではなくてもっとこう全部自動で……何て言いますか……」

 言葉を探してしどろもどろに答えると、玄斎さんが「でけへんってことやな」ときっぱり結論を出した。


「ええ、まあ……そうですね」

 私も仕方なく頷く。

 事実ではあるけど、女のくせに家事もできないなんて、と言われているようで、なんだか悔しかった。

 未来でもまだ家事は女性の仕事という風潮はある。

 男性も家事をするのが当たり前になったけど、それでもまだどこか女性ならできて当然といった空気が残っている。


 そんな現代でもちょっと肩身が狭いのに、ここは江戸時代だ。

 家事のできない女ってどういう扱いになるのか。


「俺も治兵衛も朝(はよ)うて夜は遅い。せやから、できればあんたに奥向きのことは任せたいんやけど。家に置く以上、何かしらしてもらわんと。うちは医者()うても、銭にはならん医者やけぇ。あんまり余裕がないんや」

 確かに生活するとなるとお金が要る。

 いつまでここにいるか分からない者をずっと養っていく訳にもいかない。

 彼らにも生活がある。

 働かざる者、食うべからず、という言葉もある。

「使い方とか教えて頂ければ、頑張って覚えます」

 と言い終えるや否や。

「ほな、早速やってもらおか」

 治兵衛さんが言いながら腰を浮かす。

 手には食べ終えた食器が。

 まずは皿洗いですか。

 それなら現代でも手動でやってましたよ。


 そう思ったのだけど。


 すっかり日の落ちた暗い中、家の裏庭に出ると少し肌寒かった。

 月はちょうど満月かそれに近くて、月明りのお蔭で真っ暗ではなかった。

 治兵衛さんと二人、各自の食べ終えた食器を手に井戸端に連れて行かれた。


「これ、忘れとるで」

 後から来た玄斎さんがたらいを井戸端に置く。

 盥と言ってもコントで見る金属製の()()ではなくて、木製の重そうな物だ。

「朝やる方が灯りがいらんさかい、ええんやけど、今夜は大きなお月さんが出とるし」

 言いながら治兵衛さんは手慣れた様子で井戸から水を汲み、盥へ水を移す。

 その間に玄斎さんが一度家に戻り、汚い液体の入った椀と布を持って戻って来た。


「これでこうやって……こうするんや」

 治兵衛さんが皿洗いをやって見せてくれたのだけど。

 汚い液体はどうやら洗剤の代用品らしい。

 手で洗って、布で拭き、いつの間にか用意されていた盆の上に置く。

「ほな、全部(あろ)うたら盆は入って左手の棚に適当に置いといて。盥は水をその辺に流して出入口の近くに立て掛けといてんか。それと、夜は戸に鍵掛けるさかい。ま、分かれへんかったら訊いて」

 そう言うと治兵衛さんは家の中に戻って行った。

 玄斎さんはとっくに家に戻っている。


 やり方は分かった。

 そこまで大変そうではない。

 でも、月明りって満月で光量マックスとはいえ、そんなに明るくない。

 水は想像してたよりずっと冷たいし、汚い液体は全然洗剤っぽくない。

 脂っこい料理は食べてないので、そこまで汚れてはないけれど洗った気がしない。

 この汚い液体の正体は何だろう?


 食器の量も少なく、さして汚れてもいなかったので、皿洗いは割とすぐ終わった。

 けど、水の入った盥はとても重くて、水を捨てるのに苦労した。

 大きく肩で息をして、ぷるぷるする腕で盆を持ち、言われた通りに片付ける。

 後は鍵をするだけ。

 鍵って……もしかして、この棒?

 戸を閉めた私は棒を戸の桟と床の間に斜めに立て掛けた。

 この鍵だと外から施錠することはできない。

 今朝の治兵衛さんが鍵はしないと言ったのはこういう構造だからなのか。

 この時代の防犯意識ってどうなの?

 あ、普通は家に奥さんとか誰かが留守番をしてる想定?

 それだと独り身の人は泥棒に入られ放題ってこと?


「なんや? 鍵の掛け方分からへんのか?」

 不意に背後から声を掛けられ、振り返ると「お、ちゃんとできとるやないか」と治兵衛さんが感心した様子で腕を組んだ。


「あの……錠前的な鍵はしないんですか?」

「錠前って大仰な。そないな(もん)は商家やなんかの蔵とかにする物で俺らなんぞの普通の家にはせぇへんで」

「でもこれじゃ、簡単に泥棒に入られるんじゃ……」

「金の無いところに盗みに入る阿呆はおらんわ。それにな、昼間は周りの目があるさかい、鍵なんぞ必要ないんや」

 なるほど。人の目が防犯カメラの役割を果たしている訳か。

 とはいえ、体当たりすれば簡単に壊れそうな戸は頼りなさすぎて不安になる。


「それよりちょっとこっち来てんか?」

 治兵衛さんに促され、居間と思われる部屋に行くと玄斎さんが座っていて、畳の上に着物などが並んでいた。

 行燈(あんどん)が灯されていたけど、薄暗い。


「悪いんやけど、男所帯に年頃の女を置いとくと色々面倒やさかい。それにその姿(なり)江戸時代(ここ)じゃ目立つしな。それでなんやけど、うちに置く条件として男として暮らしてんか?」


 その言葉で私は二人を見た。

 よくよく考えたら……というか、考えるまでもなく、男性二人と同居するってことになるのか。

 江戸時代でも現代でも普通有り得ないよね?

 これって大丈夫かな、私?


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