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 俺にとってロウリーは最悪の新人だった。こいつのせいでうちのギルドは格式高いものになってしまった。街から信頼され、いい依頼もやってきて、近隣は平和になり豊かになった。誰もがロウリーに感謝し、ロウリーを英雄視した。どうやら爺さんの連れてきた新人はとんでもなかったらしい。そのたびにパーティーのリーダーでもある俺の地位も上がった。


 「いや! なんでどいつもこいつも倒しちまうんだよ! クソが!!」俺はふしだらな酒場、、ではなく、高級な料理店、、でもなく、豪邸の一室で飲んだくれていた。どんな無理難題を押し付けても容易く解決するあの狂人に、俺はまんまと振り回されていた。


 「違うんだ。くそ! 違うのにさぁ!」

 「ご主人様。手紙が来ております」地位が上がったからメイドもゲットした。クソが。

 「なんだ? 読め」

 「ごほん。『ベン様。これ以上、私はこれ以上誤魔化せません。これ以上有名になれば、各地から私たちに難関なクエストがやってきて、終いには命を落とします。裕福は良いですが、危険も一緒についてきて怖いです。パーティー抜けます』でした。キャサリン殿からですね」

 「あの馬鹿め。腰抜けめ」

 「もう二通あります」

 「ああ? ワグナーも抜けるんだろ?」

 「はい。じゃあ読まなくてもいいですね」

 「もう一通は誰だ?」

 「ギルド長からです。『わっひゃっひゃふぅー! ギルド長だよ! ぺけッ! 君たちのおかげで儂のギルドは今日も繁盛。人材も上場。そっちの二人がトレード要求したから、滅茶苦茶強い二人を取っちゃったYO! そっちの屋敷の部屋は空いてるよね? じゃあ頼むYO!』だそうですYO」

 「素面でこういうやつが一番怖い」

 「ピンポーン。誰か来たそうです」

 「お前もだぞ。通せ」


 俺は新聞を広げた。クソ後輩とやつれた顔の俺が写った記事がいくつもある。その他に竜王を倒したのにムスッとしている少女と、悪神官を抹殺したのに平然としている女の記事がある。セントラルとベルゴーレか。どっちも異邦だ。

 ほとんど一人で強敵を倒した、超人の二人。その記事さえもクソ後輩一行に劣る。俺たちの価値は今やうなぎ上りで、アイツはたしかに最強だが、俺はどこにでもいる男だ。キャサリンがいうように富は入っても力が実はないから、至る所から無理難題が俺宛に届く。逃げれば負け犬、向かえば死ぬ。何が最悪といえば、それで頼るのはアイツしかいないというところ。俺は一番憎いアイツがいなければもはや生きられない境遇になってしまった。今日の酒は苦い。

 足音が二つ。入ってきた。爺の言っていた奴だろう。


 「セントラルから来ました! 沢山敵を駆逐して、お前らを絶対に除け者にしてやります! どうぞよろしくです!」ふぅ~。

 「ベルゴーレから来ました。あなたたちには負けない。私が魔王を倒す。よろしくお願いします」ふぉ~。

 「ちょっと。席を外しますね」


 扉をポチャン。廊下真っ暗――どうしてだあああああああああああああああああああああああ!

 俺はパーティーの中でも孤立した。俺以外、普通に有能。地団駄した屋敷の床でさえ、今、ふにゃけた。まるで紙で作った城に俺は閉じこめられた。

 もう俺は知らなかった。もはやどうなってもよかった。身に合わない生活、しかしたしかに幸福な生活、しかしどうしても窮屈な毎日、それがどうなっても俺は、俺はアイツを追放する。絶対に追い出す。たとえ殺してでもだ。いや、殺してしまえばいい。このどうしようもない気持ちは、未だ解消されない悪心でしか解消されないと信じた。


 つまり俺はクエストを受けた。難しいクエストではない。山賊に支配された町を奪還するだけだ。俺はなんとか馬鹿な作戦を組み、あの超人女二人を外から町の様子を監視させて、俺とクソ後輩の二人で町に潜入した。町は山賊だけでない、魔物も大量にいた。あと奴隷のごとく働かされている人々も――俺は今から、クソ後輩を殺す。

 俺はクソ後輩に指示した。


 「おい、お前ならここにいる親玉を倒せるよな?」

 「ええ。恐らく。しかし」

 「ああそうだ。周りにいる山賊は、山賊はカスだが、魔物は違う。上等な魔物だ。一人じゃキツイ」

 「そうです。だから一対一にしてくれると」

 「どういうことだ?」

 「二人の増援が必要です」

 「それはできない。外から魔物が来るかもしれない。もっと強いのだ。ここにいるよりもさらに強いやつがだ」

 「そんなわけが――」

 「ある!」そうとでも言っておかないとあの二人は聞かなかった。脳筋馬鹿で助かった。

 「だからいいか。お前は一目散にボスを倒しに行け。魔物はリーダーを失えば逃げる。実はそういう習性がある」嘘。こいつを一人、戦場に置いて俺は逃げる算段。

 「いえ。そんなこと聞いたことがありま――」

 「実はあるんだよ! あるっていったらあるんだ!」

 「そうだったのか。知らなかった……」

 「わかったか?」

 「ええ。僕がボスを――危ない!!」


 クソ後輩はたちまち茂みから飛び出た。そしてそこにいた竜人を殴り飛ばした。何をやっているんだと、見回せば、俺も頭から茂みに出てしまっていたわけで、クソ後輩は奴隷の幼女を魔物の暴力から庇ったようだった。

 ともかく、俺たちは敵に見つかった。鐘が鳴り響いた。敵が一斉に俺たちのほうへ近づいてくる。


 「おい、馬鹿なのかお前は!」

 「子供に拷問なんて馬鹿を通り越して畜生ですよ」

 「お前に言ってんだ馬鹿!」

 「いいですか。僕たちは冒険者です。魔物から人を守るのが仕事です。目の前で魔物に殺されそうな人がいたら助けない訳が無いでしょう!」

 「もういい! わかった! それよりもどうするんだ、これを!」

 「何を言っているんですか」

 「え?」

 「ボスは僕が倒します」


 そう言うとロウリーは俺を置いて塔へ走っていってしまった。目の前、ではないが後ろに殺されそうな先輩がいたら助けるのが冒険者の仕事だろ! と叫ぶ元気もないほどに俺は魔物に睨まれていた。魔物共は俺たちがベン一行だと気づいたらしく、人質を取って言ってきた。


 「いくら英雄でも見捨てられねえよなぁ」

 「ああ、もちろん? もちろん? いや、そんなことは――」俺のズボンを掴んで離さない幼女、、には申し訳ないが、俺はアイツのような善人ではない。平気で幼女を見捨ててやる!

 「なんか、べちゃべちゃしてる?」幼女は手を離した。

 「漏らしてねえよ! いいぜ、かかってこい! ぶっ殺してやる!」ビビれ! お願い、ビビってくれぇ!


 と困っていると塔の窓からロウリーが顔を出した。するとこう叫んだのだ。


 「雑魚相手に人質なんていらないでしょう! こんなやつでも怖いんですか! 魔物って臆病だな!!」


 アイツ何言ってるの?

 と驚く隙まなく、挑発されたらしい、魔物共は「たしかに。こんなカス、人質もいらねえな!」と武器を掲げて襲い掛かってきた。許すまじ。

 俺はとにかく逃げ回った。頑張って逃げ回った。そうだ、逃げきれればアイツは一人になる。そうすれば俺の勝ちだ――しかし現実は非情だった。俺は簡単に捕まり、棒に縛り付けられた。


 「わかった。交渉しよう。俺を助けろ。ここにいるやつの命はやる」

 「お前、それでも人間か?」魔物だろ、お前。


 そう俺が弱音、、時間稼ぎをしているうちに塔から豚頭が落っこちてきた。どうやらクソ後輩がボスを討伐したらしい。それを見て、魔物どもは一斉に逃げ出した。俺の嘘もたまにはあてになるようだ。して俺は転んだ魔物を蹴って遊んだ。しかし外に逃げていった魔物も、俺の有能な作戦がはまって、少女と美女に抹殺されたのでした。

 なにはともあれ、俺たちはまたクエストを完了した。インタビューをされて、俺は高らかに笑った――町一つを山賊から、いや、魔王から奪還したのだ!――と。この後、この発言を悔いるとも知らず。

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