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 俺の名はベン。ベン様と気軽に呼んでくれて構わない。リマニア・イーニクスっていうギルドのエースだ。エースだからもちろん強いし、もちろんモテる。街の女はみんな俺にメロメロだ。街の男は、、どいつもこいつも腰抜けだから俺が引っ張ってやってる。イーニクスの雑魚冒険者たちを抱えながらな。

 なんでも今日は新人が入ってくるらしい。ギルド長の爺さんが楽しみにしていた。なにせ、爺さんが直接スカウトしたとびっきり強い戦士らしい。しかし聞くには田舎の弱小ギルドの出だ。認知症も深刻そうだ。

 俺はいつものようにギルドの酒場で女の楽しく飲んで、期待の新人とやらを待った。

 お、みるからに田舎臭い、あのボロボロの恰好がそうか。よし、一つ。からかってやるか。


 「やぁ。お前が爺さんの言ってた新人か? なるほど、随分と腕が立ちそうだ。俺のペットの鶏とどっちが強いかな」

 「いや。どうも。ナレから来ました。ロウリーです。あなたがここのリーダーですか」

 「ああそうとも。いいギルドだろう?」

 「ええ。そうかもしれませんね」

 「新人って感じだな。いいだろう。困ったことがあったら俺に頼れよ」

 

 この新人、寝ぼけてるな。今度は一から百まで丁寧に社会人のマナーってやつを教えなくちゃならなそうだ。せいぜい一カ月ってところか。

 あっちから麗しき受付嬢がやってきた。


 「ロウリー。ようこそ。さっそくだけど、ギルド長に挨拶したら依頼頼まれてくれない?」

 「ええ。もちろ――」

 「やぁ、メイデン。今日もエロい体してるな。よく揺らしちゃってさ。なぁ、この後、俺からの依頼を預かってくれないか? 俺の……ドラゴンの討伐を……」

 「こっち来るんじゃないわよ。気持ち悪い」

 「先輩。依頼なら僕がやりますよ! ドラゴン退治ですね!」

 「お前に頼んじゃいねえよ! 呆けてんのか!」

 「いいえ。ドラゴンは得意なんです。ナレでも何匹か――」

 「ほう? ドラゴン? お前が? つまらなねえ、嘘だな」

 「いえ。ほんとうですよ。赤竜、青竜、それから銀竜も仕留めました」

 「それは随分と立派なこった。じゃあ一つ頼まれくれよ。ちょうど俺のパーティーのメンバーが一人足りなくてな」

 「ドラゴン退治ですか?」

 「違う。羊さ」


 初日から調子に乗っている新人には極上の躾をしなきゃならない。それが俺の流儀――絶対にド田舎に送り返してやる。


 「やめなさいよ。待望の星なのよ!」

 「こいつがか? いいぜ、確かめてやる。お前の股の中も後でじっくりとな……」

 「先輩。僕はその、、遠慮しておきますね」

 「新人は黙ってろ! 俺はホモじゃねえ!」

 「念のためにでしょ?」受付嬢が腹を抱えて笑っている。

 「もういい。とにかくあとで来い! 逃げるんじゃねえぞ!」


 絶対に追放してやる。


 近くの森を抜けて洞窟にやってきた。キャサリン、ワグナーが俺の仲間だ。そして期待の新人は松明と荷物係。俺はそこら辺の重たい丸石をまたこいつに渡すのさ。


 「ほれ、ちゃんと持っておけよ!」

 「ええ。あっ、こっちの石も持っておきますか!」

 「……」こいつ、もう五十個くらい無駄なもの持たせてるのに悠々と運んでやがる。馬鹿なのは頭だけにしとけよ。


 俺たちは洞窟を奥へ奥へ進む。すると苔生した遺跡が見えてくる。崩れた壁から中に入って、さらに先に進む。だんだんとキャサリンとワグナーは笑いを堪えられなくなっていた。


 「おい、クエスト中だ。笑うなよ」

 「何かいいことでもあったのでしょうか?」

 「いい事って? ええ、いい事が今からあるの。ねえ、ワグナー?」キャサリンは下品な女だ。

 「ああ。久々に面白いものが見える。いつもの新人はここまで持たないからねぇ」ワグナーは汚い髭を掻いた。

 「まぁ見てろ。新人。羊がいるんだ。この先にな」

 「今夜はチンギスカンですね」

 「……」

 

 天然の洞窟のせいか。こいつのそれもなんかめんどくさくなってきた。反響してさらにうるさい。俺たちは黙って先に進んだ。

 あったのは大穴に大広間。そこには像以外に何もない。新人は「こんなところに羊がいるんですかね?」ととぼけている。俺たちは親切な先輩だ。だからこういう新人には優しく丁寧に教えてやらなくちゃならない。でも時として鬼のごとく厳しくしなきゃいけない時もある。ともあれ、そろそろ答え合わせといこう。


 「羊はお前だよ」俺は新人を蹴落とした。

 「ちょっとーなにするんですかー!」新人は間抜け面だ。

 「言ってる場合かな?」


 そこにあるだけの像。しかし誰がそれを動かないと言った。羊を見つけた像は狩人のごとく、その手にある槍を振り回し、襲い掛かってくるに決まっているだろう。あれはゴーレムだ。遺跡の番人だ。宝を奪うものは何人たりとも許さない、古代の殺戮兵器だ。誰もあれを倒すことはできず、この遺跡が立ち入り禁止区域になった。これ以上、無駄な犠牲者を出さないためだ。


 「おい、キャサリン! 酒を持ってこい!」

 「俺のも頼みます」ワグナーは椅子を広げた。

 「はいはいー。あっ」

 「どうかしましたか?」

 「荷物、あの子が持ってるわ」

 「馬鹿かお前は!」


 仕方がない。俺は空のコップに水を入れて、あの世間知らずの新人が泣きべそかくのを酒の代わりにすることにした。酒がない分、よく絶望の味を出してほしいものだ。

 そう大広間を見たとき、何かが飛んできた。それが俺のコップの中にちょうど入って、水飛沫が顔を濡らした。


 「なんだ!」と見てみればそれは巨大。ゴーレムのネジだった。「頭に当たらなくてよかった」と落ち着くのも束の間、とんでもない爆発音が響いた。耳が裂けそうだ。

 煙漂う一面が晴れると、そこには手を振る新人と、体が消し飛んだゴーレムが立ち尽くしていた。まさかゴーレムを倒した? あのゴーレムを? この一瞬で。俺は目を疑った。それだけでない。耳も疑うことになる。


 「あのー僕は葡萄酒がいいですー!」

 「お前のその、鞄の中だ」

 「あっ。ほんとうだ。ってこれ、林檎酒じゃないですか!」

 「それよりゴーレムは?」

 「倒しました」

 「え?」

 「だから! 倒した! あっ、鍵落としましたよ!」

 「倒した?」

 「はい?」

 「ゴーレムを?」

 「はい」

 「今までどの冒険者も倒せなかったんだよ?」

 「それより鍵です! あそこの扉でしょうか? うわっ、金貨が沢山ありますよ! やったー!」

 ……。


 「俺のゴオオオオオオオオオオオオオオオオレムウウウウウウウウウウウウウ!!!! うわああああああああああああああああ!!」


――こうしてベン一行は憎きゴーレムを倒し、財宝を手に入れた。これが低迷していたギルドの資金源となり、ロウリー含め四人は昇進した。

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