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筋肉理論ガチ勢ボディビルダー、異世界で無自覚チート化 〜魔力を“超回復”と誤解した結果、とんでもない事になっていた〜  作者: 出雲ゆずる


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第5章「荒野の邂逅 ― 筋肉は種族を超える」

オーク族との出会いは、剛にとって“第二の故郷”のようなもの。

筋肉の価値観が通じる相手たちとの交流は、

異世界における剛の立ち位置を大きく変えます。


筋肉文化の交差を楽しめる章です。

第5章「荒野の邂逅 ― 筋肉は種族を超える」

― 王都転移門の先 ―


眩い光の中を抜け、

剛とリオナの姿は転移門の外へと吐き出された。


「っ……はぁっ……!」

リオナが膝に手をつく。


剛は周囲を見回し、呼吸を整えた。


荒れ果てた大地。

乾いた風。

低い位置を流れる灰色の雲。


「……ここは?」

「王都北方、境界荒野。

 封印派の追跡魔法はここまでは届かないはず……

 だけど、長居はできないわ。」


リオナは振り返る。

転移門は既に閉じ、王都へ戻る道はない。


剛は空気を吸い込み、わずかに眉をひそめた。


「……湿度が低いな。

 喉が乾きやすいタイプの土地だ。」


「それ、今気にするところ!?」

リオナがツッコむが、剛は真剣だった。


(環境分析はトレーニーの基本だろ。

 汗のかき方も変わるし、水分管理も変わる。)


そのとき――


ゴッ……ゴッ……ゴッ……


地面が低く震え、

重たい足音が近づいてくる。


リオナの表情が固まる。


「……まずい。何か来る。」


剛は前に出てリオナを庇った。


「魔獣か?」


「わからない。でもこの足音は……人じゃ――」


ズシンッ!!


目の前の岩陰から現れたのは、

巨大な影。


褐色の肌。

樹木のような太い腕。

岩を砕く肩幅。

鍛え抜かれた腹筋はレンガのように刻まれ、

背中に背負った大斧は鉄塊の塊。


そして――

その瞳には、野性と誇りが宿っていた。


リオナが叫ぶ。


「オーク族……!」

「しかも“上位個体”よ……!」


だが剛だけは――

なぜか一歩前に出た。


リオナ:「剛!? だめ、攻撃され――」


剛は静かに、しかし確信をもって言った。


「いや……あいつ、鍛えてる。」


オークの巨躯が近づき、

剛を上から見下ろす。


沈黙。


風が吹き抜ける。


そして――


“バキッ”


オークが己の胸を拳で叩いた。

筋繊維のうなりが空気を震わせる。


オーク族の見張り頭が、剛を上から下まで見回し、

疑いと好奇の混ざった声で口を開いた。


「おい人間、その体……戦士か?」


剛は少し照れながらも、言葉で説明するより早い方法を選んだ。


「まぁ、見てもらった方が早いかもな。」


そう言うと、正面に立ち、ゆっくりと腕を上げる。


◆フロント・ダブルバイセップス


「まずはこれ。“力の門”。腕の強さを示すポーズだ。」


盛り上がる二頭筋に、オークたちがどよめく。


「岩か!?」「いや、岩が割れて盛り上がったみてぇだ!」


◆サイドチェスト


横を向き、胸を固く締め上げる。


「横から見せる“厚み”。戦士は横からも強いって意味がある。」


「うおお……胸板が盾みてぇだ!」


◆ラットスプレッド


剛が息を吸い込み、背中をぐっと広げる。


「背中は戦士の誇り。“翼”だと思ってくれ。」


影が広がったように見え、オークたちが一歩引いた。


「影を広げたぞ!?」「魔力を使ったのか!?」


◆アブドミナル&サイ


腹と脚を固めながら剛は言う。


「これは鍛錬そのもの。」


「腹が……板金鎧!?」「脚、太すぎるだろ!」


◆モストマスキュラー


最後に全身の筋肉を一気に収縮させ、

まるで肉体そのものが震えるような迫力で締める。


「これが“全て”。」


数秒の静寂の後……


「……我らの砦に、真の戦士が来た!」


次の瞬間。

巨体が地響きを立ててひざまずいた。


「……人間……

 その肉体……ただ者ではない……!」


リオナ:「ひ、ひざまずいた……!?

 オークが、剛に……!?」


オークは名乗った。


「我が名はドルガン。

 荒野の戦士族を束ねる者。」


剛は淡々と返した。


「神谷剛。鍛えてる。」


「鍛えている、だと……

 この俺に、恐れも見せず……

 筋を……通してきた……!」


ドルガンの肩が震えた。


「――気に入ったァ!!」

「お前、強い!! 本当に強い!!」


リオナが絶句する。


(……この二人、何で会話成立してるの……?

 言葉じゃなくて……筋肉で通じ合ってる!?)


ドルガンは続けて言った。


「封印派に追われているのだろう、人間よ。

 この荒野は俺の支配地。

 今の王都の犬どもは入れぬ。

 望むなら、力を貸す!」


剛は迷わず言った。


「頼む。

 仲間を守りながら鍛えるのは難しい。

 お前の力が欲しい。」


ドルガンの胸が震え、涙すらにじませた。


「人間……!

 俺を“仲間”と呼ぶのか……!!」


リオナ:「ちょっと待って剛……!?

 さっき会ったばっかりのオークよ!?

 大丈夫なの……!?」


剛:「鍛えてるやつに悪い奴はいない。」


リオナ:「その理屈どこで通用するのよ!!」


だがドルガンはすでに剛の肩を掴んでいた。


「行こう、人間剛!!

 我が洞窟の砦で、まずは“肉を食う儀式”だ!!

 筋肉の者が集う宴だ!!」


リオナ:「ちょっと待って、状況が……!」


剛:「リオナ。

 安全確保とタンパク源の確保は最優先だ。」


リオナ:「……あなたの優先順位ほんとにブレないわね!!」


こうして――

剛とリオナは新たな“筋肉の友”ドルガンを得て、

荒野編が幕を開ける。


― ドルガンの砦と“肉の儀式ミート・セレモニー” ―


ドルガンに案内され、剛とリオナは荒野の奥へ進んだ。

地平線の向こうに、石と獣骨で組まれた巨大な砦が姿を現す。


「……ここが、オーク族の拠点?」

リオナが驚愕の声を漏らす。


ドルガンは誇らしげに胸を張った。

「我ら戦士が鍛え、食い、眠る砦――“ガルド・オス”だ!」


砦の門が開くと、数十人のオーク戦士たちが姿を見せた。

どの個体も筋肉が岩のように隆起している。


その視線が剛へ集まる。


ザザザッ……!!


次の瞬間――

オーク全員が剛を見て、驚きの声を上げた。


「なんだあの腕は……!」

「人間の癖に肩幅が……!」

「あの背中、鋼鉄の板か!?」


剛は戸惑うことなく、軽く胸を張った。

その瞬間、砦全体がどよめく。


ドルガンが両腕を広げて宣言した。


「皆の者ァ!!

 今日の客人は――」


大地を揺らす声。


「神谷剛! 筋肉を鍛えし戦士だ!!」


オーク全員:「おおおおおおおお!!!!!」


リオナは震えながら剛に寄った。


「剛……すごい注目よ……どうするの……?」

「リオナ。鍛えてるやつに悪いやつはいない。」


「その理屈まだ言うの!?」


◆ “肉の儀式”が始まる


砦の中央、巨大な焚き火が組まれ、

牛のような魔獣が丸ごと一本ローストされていた。


「これは……!」

リオナの目が丸くなる。


ドルガンは胸を叩き、誇らしげに言う。


「我らが誇る戦士の宴――

 “肉会ミート・セレモニー”だ!

 強き者が来れば、肉で迎える。それがオークの掟!!」


剛は感心していた。


「いい文化じゃないか。」

「文化じゃないのよ剛!! ただの筋肉狂いよここは!!」


オークたちが大歓声をあげる。


「剛、席に着け!」

「今日は特別に“中心の場所”に座らせよう!」


剛は案内され、大鍋の近くに座った。


リオナは横でそわそわしていた。


「剛……食べられるの? こんな豪快な……」

「問題ない。

 トレーニーは、基本なんでも食う。」


「なんでもは違うでしょ!?」


◆ 儀式の第一段階:肉の選定


大斧を担いだ戦士が肉の塊を持ってきた。

赤黒い筋繊維が密に詰まっている。


ドルガン:「剛よ。

 これは“ロックブル”の脚肉だ。

 荒野を跳び回る魔獣で、筋が固い。

 戦士しか噛み切れぬ。」


剛は肉を掴み、持ち上げる。

肉の重量、繊維の締まり、色――

すべてを一瞬で判断する。


「……いい肉だ。」

「いいの!?」


剛はひと口噛んだ。


プツッ。

筋繊維が弾け、濃厚な旨味が広がる。


「固い。でも……噛むほどに美味い。」


オーク全員が歓声をあげた。


「おおおおお!! 噛んだぞ!!」

「人間なのに戦士の肉を噛んだ!!」

「ドルガン、こいつ本物だ!!」


ドルガンは泣きそうになっていた。


「剛……

 お前は、オークの誇りを理解している……!」


リオナ:「どこを理解してるの!? 分からないわよ!!」


◆ 儀式の第二段階:筋の証明


巨大な丸太を持ち上げる儀式。

本来はオークの力を示す伝統だ。


ドルガン:「剛よ。

 強き者は“丸太を肩に担ぐ”。

 我らの掟だ。」


剛は丸太を見上げた。


(……重量は200キロ弱か。

 フォームは……担ぎ上げるだけなら問題ない。)


剛は呼吸を整え、腹圧を入れた。


「ふっ……!」


軽々と丸太が肩に乗る。


オーク全員:「…………っ!!」


次の瞬間。


「ウオオオオオオオオッッ!!!!」

「なんだあの力は!!」

「オークを超えている!!」


ドルガンの目に涙が溢れた。


「剛……!

 お前は……お前は……

 筋肉で我らを超えた……!!」


リオナ:「なんで泣いてるの!?

 ていうか、なんで超えてるの!!?」


剛:「丸太は……悪くない重量だった。」


リオナ:「感想それなの!?」


◆ 儀式の第三段階:筋肉の誓い


焚き火の前に立つ剛。

オーク全員が膝をつく。


ドルガン:「剛よ。

 我らオーク族は、強き肉体を尊ぶ。

 お前ほどの者、他に知らぬ。」


剛はリオナを見る。

リオナは小さく頷いた。


剛は胸に手を置き、短く言った。


「鍛える者同士、敵じゃない。

 仲間だ。」


ドルガンは震え声で叫んだ。


「……仲間……!」

「オーク族一同、神谷剛に忠誠を誓う!!」


オーク全員:「ウオオオオオオオオッ!!」


リオナ:「ちょっと待って!?

 何その流れ!!

 剛がオーク族の長みたいになってるじゃない!!」


剛:「リオナ。筋肉に上下はない。」


リオナ:「ないの!? 筋肉に!?!?」


砦は歓声に包まれ、

“肉と筋肉の宴”は夜更けまで続いた。


こうして剛は――

オーク族から絶対的な信頼と友情を得ることになった。


― 異世界筋トレ文化交流:オーク族 × 神谷剛 ―


肉の儀式が終わった翌朝。

砦は不思議なほど静かだった。


リオナが目を覚ますと、

外から“ドスン……ドスン……”という重い音が響いてくる。


「……何の音?」

寝ぼけ眼で外に出ると――


そこには、信じられない光景が広がっていた。


◆ オーク族全員、朝から筋トレ


広い訓練場では、巨大なオークたちが列をなしていた。


スクワット。

デッドリフト。

ランジ。

ベンチプレス……に似た“巨石プレス”。


その中心には――

剛がいた。


「違う、ドルガン! 背中が丸い!」

「ま、丸い!? どういうことだ剛!!」


「胸を張るんだ。肩甲骨を寄せて、腰は反りすぎない。

 軌道をまっすぐ下げて……そう! そこ!」


ドルガンが吼える。


「おおおおおお!!

 効いてる!! 剛、これは効く!!

 太ももの奥が、……燃えている!!」


剛はうなずいた。


「それがスクワットだ。」


オーク族全員が震えた。


「これが……スクワット……!!」

「なんという理!!」

「脚が……脚が勝手に成長していく……!!」


リオナは思わず叫ぶ。


「な、何これ!?

 なんでオーク族が“人間の筋トレ”で感動してるの!?」


剛は淡々と答えた。


「彼らの筋力はもともと高い。

 でも“正しいフォーム”って概念がなかったんだ。」

「正しいフォーム……?」


「特殊な力じゃなく、

 “自分の身体を最大効率で使う技術”のことだ。」


リオナは唖然とした。


「つまり……筋肉文明が一段階進化してる……!?」


剛:「まあ、そうなるな。」


ドルガンが無邪気な子どものように叫んだ。


「剛!! 次はあれだ!

 昨日お前がやっていた“棒を引く技”!!」


剛:「デッドリフトの事か。」


オークたちがざわつく。


「デッド……?」

「今すぐやりたい!!」

「俺の背中を育てたい!!」


剛は鉄の棒が無いのを確認し、顎をさする。


「棒が無いな。仕方ない……」


剛は近くに転がっていた“倒木”を指さした。


「……これでいいか。」


オークたちは震えた。


「倒木……!?

 人間のトレーニングはそんな危険なものを使うのか!?」


剛:「危険じゃない。

 道具は、筋肉のための手段だ。」


剛は倒木を掴み、腰を落とす。

背中を伸ばし、腹圧を入れ、地面を“踏む”。


ヒョイッと、倒木が持ち上がった。


オーク全員:「おおおおおおおおお!!!!」


剛:「これがデッドリフト。」


ドルガンは震える手で倒木を握る。


「剛ッ……!

 これを上げたら……俺の背中も……強くなるのか……?」


剛:「なる。

 ただし、フォームを守れ。

 腰を丸めたらすぐ言え。」


ドルガン:「神か……お前は神なのか……」


リオナ:「なんでそうなるの!?

 たかが木を持ち上げただけでしょ!?」


剛:「リオナ。たかがじゃない。

 これは“全身の連動”を学ぶ最高のトレーニングだ。」


リオナ:「いや、真面目に説明しないで!」


◆ オーク族、全員でデッドリフト挑戦


ドルガンを皮切りに、

オーク全員がデッドリフトに挑む。


ドォォォンッッ!!!


砦が揺れた。


「背中が……効いてるぅ……!」

「これが……人間の修行……!」

「強くなれる……俺はもっと強くなれる……!!」


剛はひとりひとりのフォームを直していく。


「膝が前に出すぎ。」

「腰の角度が甘い。」

「肩をすくめるな、下げろ。」


オークたちは感動で涙を流す。


「ご……ご指導いただき……

 ありがたき幸せ……!!」


リオナ:「なんで“剛師匠”みたいになってるの!?」


剛:「フォームは全員違うんだ。

 骨格も柔軟性も千差万別だ。」


リオナ:「そんな解説いらない!!」


◆ 文化が混ざる瞬間


日が沈む頃。

訓練場には汗を滴らせたオークたちが座り込み、

剛を中心に輪ができていた。


ドルガンが深く頭を下げる。


「剛……

 我らオーク族は、今日、新しい“理”を知った。」


他のオークも声を揃える。


「筋肉は……鍛え方で進化する……!」

「それを教えてくれたのは……剛、お前だ……!」

「俺たち、お前についていく!!」


剛は静かに言った。


「こっちも学ぶことは多い。

 筋肉は種族を選ばない。

 互いに鍛えればいいだけだ。」


オーク全員が涙ぐんだ。


リオナは呆れながらも、

ほんの少しだけ嬉しそうな顔をしていた。


(剛って……こういう人なんだ……

 “強さ”を、誰よりも純粋に求めてる……

 だから種族とか関係なく、みんなが惹かれるんだ……)


砦には、夜風と笑い声。

そして――筋肉が喜ぶ音が響いていた。


異世界筋トレ文化の夜が幕を開けた。


― 異世界筋肉修行編:オーク族との合同トレーニング ―


翌朝。

砦の訓練場には、血が沸き立つような熱気が満ちていた。


「剛師匠ッ!!

 今日は何を鍛える!!?」

「あの“丸太スクワット”をもう一度!!」

「背中を広げたい!!」


オーク族が押し寄せる。

まるで人気トレーナーに群がる大型犬の群れ。


リオナは寝起きのまま叫んだ。


「朝からテンション高すぎない!?

 ていうか“師匠”になってる!!」


剛はすでに準備運動を始めていた。


「今日は――背中と脚の日だ。」


オーク族がどよめいた。


「背中ァ!?

 脚ィ!?

 なんという響き!!」


ドルガンは拳を握り、震えた。


「剛……背中と脚……

 それは……戦士の核ではないか……!」


剛:「背中と脚が強い奴は、何をやっても強い。」


オーク族全員:「うおおおおおお!!!!」


リオナ:「あなた、言うこと全部カッコよく聞こえるの何なの……」


◆ 第一段階:異世界デッドリフト


剛はまず倒木を並べた。


「今日は背中の基礎、“デッドリフト”から入る。」


オーク族全員が正座して聞く。

(圧がすごい)


剛は一本の倒木に手をかけ、

ゆっくりと持ち上げた。


「背中は丸めない。

 足で踏ん張れ。

 胸を張って……引く。」


ゴゴッ……。


倒木が軽々と浮き上がる。


オーク族全員:「おおおおおおおおおお!!!!」


ドルガンが震え声で言う。


「剛よ……

 その持ち上げ方……まるで古の巨人の技だ……!」


剛は淡々と言った。


「違う。

 フォームが正しければ、誰でも強くなる。」


オーク族は感動で泣いた。


リオナ:「(これ、異世界文明の進化じゃない……?)」


◆ 第二段階:オーク族式 “石投げ走法”


剛がフォーム指導を終えると、

今度はドルガンが前に出てきた。


「剛。

 次は我らオーク族の技を教えよう。」


ドルガンが大岩を抱えた。


「“岩投げ走”だ!

 岩を投げ、その間に全力で走る!!」


剛:「……面白いな。」


リオナ:「面白いの!? あれ危険でしょ!!」


ドルガンが叫ぶ。


「行くぞォォ!!」


ゴオォン!!


大岩が宙を舞う。

着地する前に、ドルガンが全力疾走。

そしてまた拾って投げる。


剛は目を細めて観察した。


(肩のスナップ、脚の爆発力、

 全身の連動……

 これはほぼ“メディシンボール・スロー+HIIT”だな。)


剛は言った。


「これは……使える。」


リオナ:「使えるの!? 剛、正気……?」


剛:「全身の連動性と瞬発力を鍛えるには理想的だ。」


ドルガンの目に光が宿る。


「ぐおおッ!!

 剛、今の言い方……最高に嬉しいぞ!!」


◆ 第三段階:文化融合トレーニング “巨木スクワット”


剛はオーク族の技を取り入れ、

新たなトレーニングを提案した。


「俺の世界の“スクワット”と、

 お前たちの“全身鍛錬”を合わせる。」


剛は巨大な幹を斜めに立て、

それを肩に担ぎあげた。


ズシ……ッ!!


「脚だけじゃない。

 体幹、背中、腕……全部で支える。」


剛は一回だけ、

深くしゃがんで立ち上がった。


「これが“巨木スクワット”だ。」


オーク族全員が息を呑む。


リオナ:「ちょっと待って……!

 人間があんな太い木を担ぐの!?

 それ、あなたの体重の5倍くらいあるわよ!!」


剛:「筋肉が喜んでる。」


リオナ:「返事になってない!!」


ドルガンは涙ぐみながら剛の足元に跪いた。


「剛……!

 俺たちにその技……

 その“理”を教えてくれ!!」


剛は頷いた。


「鍛える気があるなら、誰でも強くなれる。」


オーク族全員:「うおおおおおおお!!!」


◆ その時――剛の体に異変


巨木スクワットを終えた剛の筋肉が、

ふっと淡い光を放った。


(……?

 疲労の抜け方が早い……?

 いや、それどころか――)


剛は自分の腕を見た。


筋繊維が、わずかに脈動している。

普通の“パンプ”とは違う。


オーク族がざわついた。


「剛の体……光ってる?」

「魔力……じゃないよな……?」


リオナは息を呑んだ。


(……これは……

 昨日の魔力結晶の現象と同じ……!)


剛は内心で呟く。


(……超回復が……速すぎる。

 オークたちと動いたことで、

 俺の筋肉が“魔力”のリズムをさらに掴んでる……?)


剛は小さく、しかし確かに笑った。


「……いいな。

 ここは、鍛えがいのある世界だ。」


リオナは震えながらそれを見つめた。


(剛……あなたは本当に……

 “筋肉で世界の理を超えていく気だ”)


オーク族はただひとつの言葉を叫んだ。


「神谷剛――

 真の戦士の証を得たり!!」


砦の空気は、歓声と熱気で震えた。


王都 ― 魔導省封印派本部「絶理楼ぜつりろう


王都の中心、白大理石で築かれた塔――

魔導省封印派の総本部“絶理楼”。


その最深層で、異例の緊急会議が開かれていた。


巨大な円卓を囲むのは、

封印派の上級魔導官たち。


彼らの表情は強張り、沈黙が場を支配している。


一人の老人が杖を突き、立ち上がった。

研究棟に乱入した張本人――封印官長ジャルド。


「……神谷剛。

 異世界から来たこの男は、

 魔力の理を“破壊せずに超える”存在。

 この国にとって最も危険な因子である。」


ざわめきが広がる。


若い魔導士が震える声で言う。


「しかし……報告を読む限り、

 彼は魔力を操ったわけではありません。

 むしろ……魔力を生命活動に転換していたとか……?」


ジャルドは机を叩いた。


「そこが恐ろしいのだ!!」


空気が緊迫する。


「魔力という理は万物の上位概念……

 それを、人間の肉体が“勝手に最適化した”。

 前代未聞だ。

 これは、理の外側に出てしまった証だ。」


別の老人がゆっくり手を上げる。


「では……“古の予言”が、現実になったのですかな?」


ジャルドの目が光る。


「……“理を越える肉体の器”……

 我々封印派はその予言を“虚構”として封じてきた。

 だが……現れたのだ。

 争いを呼ぶ災厄が。」


会議の空気は重く沈んだ。


◆ リオナの扱い ― 「裏切り者としての烙印」


一人の女性官吏が立ち上がる。


「では……リオナ・ヴァルティアはどうしますか?

 彼女は神谷剛と共に逃走。

 研究棟の魔導陣を破壊し、国家機密に触れ……」


ジャルドは冷酷に言った。


「――異端者として処分する。」


その場にいた複数の者が息を呑んだ。


「ま、待ってください司官長……!

 彼女は優秀な研究者で――」


「優秀だからこそ危険なのだ。」

ジャルドが杖で床を叩く。


「“理の外側”の情報を理解できる者は、

 “理を覆す側”に回る可能性がある。

 その芽は、早期に摘まねばならぬ。」


会議室に重く残酷な沈黙が落ちた。


「リオナ・ヴァルティアを――

 異端者として討伐対象に追加する。」


魔導士たちの間で、ざわめきが広がった。


◆ 封印派最大級の戦力 “白理ハクリの討伐隊” 編成


ジャルドは掌をあげ、空中に光の円陣を描く。


その陣から、一つの言葉が浮かびあがった。


《白理討伐隊 編成命令》


円卓の周囲にいた魔導士たちの表情が変わる。


「白理……!? まさか……

 あの“理律戦士”たちを動かすのですか!」


「彼らは魔導軍の最上位……

 一国を滅ぼせると言われる集団……

 神谷剛たった一人のために……!?」


ジャルドは冷然と言う。


「神谷剛は理を揺るがす。

 この国の、王の、文明の根幹すべてをだ。」


そして宣言した。


「白理討伐隊を総動員する。

 目的はただひとつ――

 神谷剛の捕縛、または消去。」


空気が震えた。


◆ 若い魔導士のつぶやき ― 異世界の“筋肉”への畏怖


会議が終わり、席を立とうとした若い魔導士が

隣の同僚に小さく呟いた。


「……本当に、そんなに危険なんだろうか。

 ただ……体を鍛えていただけだと、報告では……」


同僚が恐れるように振り向いた。


「鍛えて……?

 魔力を使わず、理に匹敵する力を出すなど異常だ。

 そんな存在が増えたら、魔導文明は崩壊する。」


若い魔導士は震えた。


(“肉体の力”が……魔力に並ぶ?

 そんな世界が本当に来るのか……?

 もしそうなら……

 それは恐ろしいことなのか……

 それとも……希望なのか?)


その問いに答える者は誰もいなかった。


◆ 絶理楼の屋上にて ― 封印派の精鋭が動き出す


夜。

絶理楼の屋上。


白い外套をまとった6名の影が立つ。


「白理討伐隊、第一小隊。

 対象:神谷剛、リオナ・ヴァルティア。

 推定位置:北方荒野、オーク砦。」


リーダー格の男が静かに呟く。


「異世界の肉体……

 どれほどのものか、興味はあるが……」


風が吹き抜け、外套が揺れる。


「我らの敵に回るなら、存在を許すわけにはいかぬ。

 “理に逆らう者”は、一人残らず消す。」


月光が隊員たちを照らす。


そして彼らは跳び上がり、

王都の夜空へ消えて行った。


討伐隊が動き始めた。

剛とリオナの運命は、次の段階へ突入する――


― オーク族の戦士試練:トライバル・トライアル ―


夕暮れ。

砦の中心にある石円せきえんに、

オーク族全員が集まっていた。


巨大な焚き火が炎を上げ、

その火を囲むように戦士たちが立ち並ぶ。


リオナは剛の横に立ち、不安そうに囁いた。


「剛……

 “戦士試練”って、どういう儀式なの……?」


剛は淡々と答える。


「聞く限り、

 オーク族の男が“生涯戦士”として認められる儀式だ。」


リオナが青ざめる。


「……あ、あなたオーク族の男じゃないけど!?

 というか人間でしょ!?」


剛:「鍛えてるやつは男だ。」


リオナ:「そんな文化無い!!」


そこへドルガンが歩み寄ってきた。

背中に夕日が差し込み、巨大な影が伸びる。


「剛よ……

 今日、我らは“正式に”お前を試す。」


声は厳しいが、どこか嬉しそうでもある。


剛:「ああ、受ける。」


リオナ:「受けるの!? 一切迷わないの!?」


ドルガンは剛の肩に大きな手を置いた。


「剛……これは“力自慢”ではない。

 誇り、根性、そして筋肉と向き合う覚悟を問う儀式だ。

 戦士の心が無ければ耐えられぬ。」


剛は一歩前に進んだ。


「筋肉と向き合う覚悟なら、俺はずっと持ってる。」


その言葉に、オーク全員が唸った。


「……本物だ」

「剛は……本物の戦士だ……」


リオナ:「なんで毎回こんな流れになるの!? おかしいでしょ!!」


◆ 試練①:石槍のいしやりのみち


ドルガンが宣言する。


「一つ目の試練――

 “石槍の道”を突破せよ!!」


リオナ:「な、何それ!?」


剛が目を細めた。

戦士たちが左右に並び、

石で作られた槍を構えている。


ドルガン:「戦士たちが次々に槍を突く。

 その間を、走り抜けよ。」


リオナ:「いやいやいや!!

 刺されたら死ぬでしょ!!?」


剛は深呼吸し、

地面に手をついた。


「……なるほど。

 これは“敏捷性とリズム”の試練だな。」


ドルガン:「剛……恐怖は無いのか?」


剛:「あるさ。

 だが――

 恐怖より筋肉の方が強いんだ。」


ドルガン:「……ッ!!」


剛が走り出した。


オーク族が一斉に槍を突く。


シッッ! シッッ!


剛の身体が風に溶けたように、

槍の合間をすり抜けていく。


その動きは、

まるで舞い、跳び、流れるようだった。


オーク戦士が叫ぶ。


「見ろ!

 無駄が無い……!」

「動きがしなやかで……速い!!」

「戦士の動きだ!!」


リオナは見惚れていた。


(剛……あなた、こんなにも……

 戦士みたいな動きができるの……?)


最後の槍を抜け、剛が着地。


ドルガン:「石槍の道――突破!!」


砦に歓声が響く。


◆ 試練②:巨獣押し(きょじゅうおし)


次の試練が運ばれてきた。


縄で縛られた、巨大な四足魔獣。

肩の高さは剛の二倍。

鼻息だけで地面が揺れる。


リオナ:「ちょっと待って!?

 これ、完全にボス級の魔獣じゃないの!?」


ドルガン:「二つ目の試練――

 “巨獣押し”!

 この魔獣を、半歩でも後ろに下がらせれば合格だ!!」


剛は魔獣を見上げた。

そして、口元が僅かに笑う。


「……良い負荷だ。」


リオナ:「負荷って!?

 トレーニングと同列に考えないで!!」


剛はゆっくり魔獣と向き合い、

深く深呼吸した。


(脚を踏ん張れ。

 体幹を固めろ。

 押すんじゃない――

 全身で“前へ進む”つもりで動け。)


剛が魔獣の胸に手を当てた。


次の瞬間――


ぐんッッ!!!


魔獣がわずかに後退した。


砦が震えた。


オーク戦士全員が絶叫した。


「後退した!!」

「押した!!

 人間が巨獣を押し返した!!」

「伝説か!? 伝説が今、目の前に!!」


ドルガンは膝をついた。


「剛……

 その力……本当に人のものか……?」


剛はゆっくり手を離し、息を吐いた。


「ただの基礎だ。

 スクワットとデッドリフトの土台があれば、いける。」


リオナ:「その基礎を軽々と言わないで!!」


◆ 試練③:誓火の握手せいかのあくしゅ


最後の試練。


焚き火の前に、

黒光りする“焼けた鉄球”が置かれた。


リオナ:「え……待って……あれ、赤くない?

 まさか剛、あれを――!」


ドルガン:「三つ目の試練――

 “誓火の握手”

 燃える鉄を握り、

 “戦士の誓い”を示す。」


リオナ:「無理よ剛!! 絶対火傷する!!」


剛は鉄球の前に立ち、目を閉じた。


(この世界の鉄は……

 魔力を帯びている。

 炎の熱量も……普通じゃない。)


だが剛は微笑んだ。


「問題ない。」


リオナ:「どう考えてもあるでしょ!!」


剛は手を伸ばし――


ジュッ……


鉄球を握った。


普通なら悲鳴が上がる。

皮膚がただれ、手は焼け落ちる。


だが剛は――


微動だにしなかった。


「……熱いな。」


ドルガンが絶叫。


「熱いだけで済むのかァ!?!?」


剛は鉄球を握ったまま、淡々と続ける。


「痛みは……無い。

 この世界の魔力は……

 超回復の燃料になる。

 損傷より、再生が速い。」


リオナは息を呑む。


(剛……

 あなたの体は……

 もう“魔力と肉体”が融合し始めてる……)


剛は鉄球を地面に置き、

ドルガンの腕を掴む。


ガシィッ!!


「ドルガン。

 これで分かっただろ?」


ドルガンの目に涙が溜まる。


「剛……!!

 お前こそ……

 真なる戦士!!

 種族を超えた戦士!!」


オーク族全員が膝をつき、

剛へ敬意を捧げた。


砦が歓声で揺れた。


リオナは震えながら呟いた。


(剛……

 あなた、本当にこの世界の“理”になろうとしてる……)


― リオナ、本音を吐く ―


戦士試練の熱狂は夜更けまで続き、

オークたちは満足げに眠りについた。


砦の隅。

火の残り香が漂う石壁の陰で、

リオナはひとり座り込んでいた。


剛が歩み寄る。


「リオナ、どうした。

 こんなところに一人で。」


リオナは驚いたように顔を上げた。

だが、すぐに視線を逸らす。


「……別に。

 空気がうるさくて眠れなかっただけよ。」


剛は横に座り、焚き火の残り火を見つめた。


「言いたいことがあるなら言え。

 黙ってると、余計に苦しくなる。」


リオナはしばらく沈黙し、

やがて、小さく息を吐いた。


「……剛。

 私、怖いの。」


剛は驚いたように視線を向ける。


リオナは、自嘲するように笑った。


「あなたは強いわ。

 誰よりも、真っ直ぐ。

 オーク族にも、私にも……

 恐れずに踏み込んでいく。」


手が震えている。


「でも私は……

 封印派に“裏切り者”と断じられて、

 研究者としての人生も、家族も、同僚も全部失って……

 こうしてあなたと一緒に逃げるしかなくて……」


声がかすれる。


「誇りなんて言ったけど……

 本当は怖い。

 これから何が起きるかも分からない。

 あなたがどこまで強くなるのかも……

 どこまで“理の外側”へ行くのかも……

 私は全部に置いていかれる気がするの。」


剛はしばらく黙って聞いていた。


リオナは続けた。


「あなたが戦えば戦うほど……

 “人間”じゃなくなっていくみたいで……

 その横にいる自分が、

 どんどん小さく、弱く感じてしまうの……」


リオナは初めて、

弱さを剥き出しにした。


涙が頬に落ちた。


焚き火の光がリオナの影を揺らす。


剛はゆっくりとリオナの方を向き、

穏やかに言った。


「リオナ。

 俺は強くなんかなってねぇよ。」


リオナが顔を上げる。


「俺にあるのは、

 ただの“積み重ね”だ。

 昨日より今日、今日より明日。

 それだけだ。」


剛は拳を握った。


「俺がもし“理の外側”に行きそうなら――

 それは、筋肉が頑張ったってだけの話だ。

 でもな。」


剛はリオナの手にそっと触れた。


「この世界を理解できたのは、お前のおかげだ。

 俺が暴走せずにいられるのは、

 横に立ってくれたお前がいるからだ。」


リオナの目が大きく揺れる。


剛は言葉を続けた。


「俺は鍛え続けたい。

 でも、ひとりで戦いたいわけじゃない。

 筋肉はひとりで作るものだけど……

 生き方は、仲間がいないと作れねぇ。」


リオナの呼吸が止まる。


「お前が弱いなら、強くなるまで待つ。

 怖いなら、怖くなくなるまで一緒にいる。

 置いて行かれそうって思うなら――」


剛は優しく微笑んだ。


「置いて行かねぇよ。

 筋肉は裏切らないし、

 仲間も裏切らない。」


リオナの胸の奥が熱く膨らんだ。


涙がまたこぼれる。


「……剛、あなたって……

 本当に……

 なんでそんなに真っ直ぐなのよ……」


剛は肩をすくめた。


「筋肉は嘘をつかねぇからな。」


リオナは泣き笑いを浮かべた。


その夜、

リオナは初めて剛に寄りかかった。

ゆっくりと、迷うように。


剛は静かに支えた。


二人の影が、焚き火の明かりと共に揺れた。


― 白理討伐隊、砦へ迫る前哨戦 ―


夜明け前。

荒野に、不吉なほど静かな“白い霧”が漂っていた。


風向きとも流れが逆だ。

まるで霧のほうが“意志を持って進んでいる”かのように。


見張りのオークが震え声で叫ぶ。


「……来るッ!!

 あの白い影……“白理”だ!!」


砦全体が騒然となる。


ドルガンが壁に駆け上がり、

遠くに見える白い人影を睨みつけた。


「間違いねぇ……

 白理討伐隊がこちらに向かっている!!」


リオナは走りながら、

剛の腕を掴んで強く引いた。


「剛……落ち着いて聞いて。

 白理討伐隊は――」


彼女は息を荒げながら、

しかししっかりと剛の目を見て言った。


「“世界の理そのものを純白に正す者たち”――

  それが白理はくり

  異端を“消して世界を整える”ための部隊よ。」


剛は眉をひそめる。


「世界を……整える?」


リオナは震える声で続けた。


「正義じゃない……

 “理に合わない存在を削除する”って意味よ。

 彼らは魔導軍の精鋭……

 理の純粋性を何より重んじる、冷徹な集団なの。」


剛の背後のオーク族が息を呑む。


「白理……そんな奴らが……俺たちの砦に……」


リオナは剛の袖を強く握りしめた。


「剛、お願い……

 あいつらは“本気で”あなたを消しに来る。

 だってあなたは――

 “理より肉体が強くなる可能性を示した存在”だから……!」


剛は深呼吸し、

地平線に近づいてくる白い影を見据えた。


(……逃げるだけじゃダメだ。

 ここでラインを引く。)


◆ 白理討伐隊、姿を現す


白い霧が砦の目前でふっと消え、

蒼い魔力を纏った6人の戦士が現れる。


白い外套。

硬質の無表情。

足元の地面さえ理に従って静止しているかのようだ。


隊長が杖を突き、

まるで裁判官のように告げた。


「異界の者、神谷剛。

 世界の理を乱す存在として――

 我らは、お前を是正しに来た。」


剛は問う。


「“是正”って……つまり排除か。」


隊長の声は冷たい氷より静かだった。


「理に従えぬものは存在理由が無い。

 従うなら保護する。

 従わぬなら消す。

 それだけのことだ。」


リオナが剛に寄り添い、囁く。


「剛……あの言葉、本気よ。

 “白理”は迷わない。

 感情や事情は存在しない。

 ただ理の設計図通りに、世界を最適化するだけ……!」


ドルガンが武器を構え、吠える。


「ふざけるな……!

 戦士を“存在理由”で切り捨てるだと!?

 この砦を通すつもりはねぇ!!」


だが白理討伐隊は、

オークたちを“存在していないもの”のように無視した。


隊長は指を一本、砦へと向ける。


「まずは――

 世界のノイズを静めよう。」


魔力が集まった。


空気が震え、

地面が“音もなく”割れた。


◆ 第一撃:理層崩し(りそうくずし)


白理討伐隊の隊長が静かに宣告した。


「――理層崩し。」


その瞬間、

砦の外壁が“解けて消えた”。


砕けたのではない。

爆散したのでもない。


ルールから外したのだ。


存在しないものとして扱い、

砦の一部が“世界から削除”された。


オーク族が悲鳴を上げる。


「な、なんだ今のは……!」

「触れてもいねぇのに、壁が……消えた!?」

「これが……白理の力……!」


リオナが青ざめて叫んだ。


「剛!!

 あれは魔法じゃない!

 “世界の理の書き換え”よ!

 触れなくても、存在を消せる!!」


剛は拳を握りしめた。


(これは……

 逃げて勝てる相手じゃない。)


隊長は淡々と杖を構えた。


「異界の者、神谷剛。

 選べ。

 従属か――消去か。」


剛は息を吸い込み、

胸の奥から言葉を投げつけた。


「俺は……

 “鍛えた仲間”を裏切らない。」


白理討伐隊の隊員たちが目を細める。


隊長は静かに頷いた。


「ならば――異端として断ずる。」


荒野の風が止まった。


砦の空気が張りつめる。


ここから、本当の戦いが始まる。

オーク族との訓練、儀式、戦士試練を通して、

剛は魔力と筋肉の“融合”に一歩踏み込みました。


その変化は、世界の理側から見れば脅威そのもの。


次章では、ついに“世界が本気で剛を監視しに来る”瞬間が訪れます。


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